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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

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 「赤鼻発光ホ樽」が光っている部屋。
 蒼空学園のフェルブレイドであるウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、ノックをしてから扉を開けた瞬間、エペの切っ先がウィングの喉元に突き付けられた。
「っつっ、随分な歓迎ですね」
「黙れ。問診には教諭が来ると聞いていたが?」
 エペを突き付けたララ サーズデイ(らら・さーずでい)の瞳は今にも喉元を突く勢いでウィングを睨みつけていた。
「発症者が多いので、手伝える者が手伝う事になったのです、本当です」
「君を信用する要素は何一つ無い、だから君を入れるわけには、」
「私は! 水晶化は、何かの『呪い』だと考えています」
「…………」
「物理的なもの、または人為的なもの。幾つか考えられるますが、早急に原因を解明する必要があります」
「私も『剣の花嫁』なの、発症はしてないけど、でも、だから話を聞きたいの」
 ウィングのパートナーでプリーストのファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)がウィングの半歩後ろから言うのを聞いてからウィングは続けた。
「『呪い』の目的が『剣の花嫁』を水晶化する事だとしたら、水晶化した花嫁を再び狙うような事はしないと思いますが」
「ララ、通して良いよ」
「でも」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)の言葉に、ララはエペを降ろしてウィングとファティを部屋に通した。
 部屋には横たわっているユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)、そしてその傍らにウィザードのリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が立っていた。
「はじめまして、といっても少年の事を完全に信用したわけでは無いのだけれど」
「構いませんよ、彼女ですか」
「今朝、いえ、正確には昨日の夜から朝方までのどこかです」
「着替えた時に気付いたのね?」
「えぇ、左の鎖骨周辺が水晶化している。今は眠っているが、リリとララは「ヒール」が使えない。頼んでも良いか」
「もちろん、その為に来たのですから。ファティ」
「了解」
 ファティが眠っているユリに「ヒール」を唱え始めた時、ウィングは目を見開いた。「殺気看破」により何かを感じた、しかしそれが『物』『魔法』『気』なのかは全くに分からなかった、悪寒に近いとも感じたのだが。
「少女、その首……」
「えっ?」
「ファティ!!」
 !! リリが指さすファティの首のうなじ辺りまでが水晶化していたのだ!!
「どういう事です、何か、いやファティ、何か感じましたか?」
「ううん、何も。本当に何も感じなかった……」
 そんな馬鹿な。部屋にいた二人は何ともなく、またファティと同時に入った私にも何もない。やはり対象は『剣の花嫁』…… 呪いはこの部屋に? いえ、被害を考えると学校全体の可能性も…… それほどに強力な呪いという事に…… しかし先程の感じは……。
 ファティの突然の水晶化が、目の前で、謎を深めたようだ。
 

 閉じていてください、と言われた瞳の上に凍冷さを感じてラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)は飛び上がった。
「熱は無いって言ったじゃん!」
「熱を下げる為ではありません、瞳を冷やす為です」
 未だ発症してはいないが、『剣の花嫁』であるラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)はフェルブレイドの譲葉 大和(ゆずりは・やまと)に再びに枕にポフンと。瞳の上にタオルを乗せられていた。
「………… 気持ちいい…………」
 笑みを浮かべながら戻ってきた大和は、ティーカップをラキシスに手渡した。
「どうぞ」
「あぁ〜! また生姜だねっ」
「ジンジャーです。体が温まりますから、飲んでください」
「はぃはぃ、わかってますよぅ」
 カップを唇に触れさせた所で、ラキシスはカップを下ろして視線を落とした。
「どうしました? 熱かったですか?」
 揺れる水面に映る自分の顔。見慣れたはずの自分の顔がそこには映っていて。
「小さい頃は飲めなかったのに…… 今はもう、ボクも飲める」
「ジンジャーは体に良いですから。ラキが好きになってくれて、安心しています」
「今だって好きってわけじゃないんだよ…… でも、今は飲める」
「しつこくチャレンジして正解でしたね」
「ほんと、しつこかった、しつこかったよね、大和」
 見上げるように。視線を並べるように腰を下ろして。
「気付いたら、もう10年以上になるんだよね、大和と出会って」
「そうですね、早いような気もしますが…… もうそんなになりますか」
「しつこい所は変わってないけど♪」
 優しく交わる2つの視線。受けあうのは届けあう想い。月日と共に重ねてきたは2人の絆であった。
「暗ぁ〜い!!」
 突然、窓が開いて大声と共に日下部 社(くさかべ・やしろ)が入ってきた。
「暗い、暗いねん2人とも、通夜に来たのかと思ったで」
「君は、一体どこから入って来るのです」
「何や、今入ってきた所やのに見逃したんか? しゃーないなー、もいっぺんやったるさかい、見ときや」
「やらなくて良いんだよ社〜、というか…… 引っ張って欲しいかも」
「寺美ちゃんまで」
 ゆる族の望月 寺美(もちづき・てらみ)は苦笑いを浮かべながら社に引き上げてもらい、部屋へと入った。
「はぅ〜、ラキちゃん、調子はどうですかぁ? どこか痛い所は無いですかぁ〜?」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」
「俺が来たからには、もう安心やで。俺最近プリーストの勉強も始めたんや、いや〜「ヒール」を習得したときは思わずニヒルに笑うてもうたんや、嬉しくてな、ニヒ〜ルに笑うてもうたんやぁ」
「あっ、そうだっ、ボク、『妖精スイーツ』を持ってきたんですよぉ〜、一緒に食べましょ〜」
「レモンティーです、どうぞ」
「わぁ〜、さすが大和さんですぅ〜」
「えぇ〜、ボクもレモンティーが良いよ」
「ラキはジンジャーを飲んでからです」
「じゃあ飲むもん」
「おぉ〜、ラキちゃん頑張れですぅ〜。社〜、ラキちゃんが頑張れるように面白い事言うですぅ〜」
「よっしゃ任せとき! っっっって!! 今、オモロイ事言ったばかりやん!! なんや? さっきのは却下言う事かぃ!」
 笑いが起こった、その瞬間、ラキシスの左肩が光を放ち、そして光が収まると、水晶化していたのだ。
「外や!!」
「くっ」
 社の声に一同が窓に瞳を向けたが、刹那の先に大和は氷術を放ち、窓全体を凍りつけていた。
「大和さん! やり過ぎや! 外が見えんやん!!」
「安全が第一です!!」
「ちっ」
 社は部屋の外へと飛び出し駆けた。向かうは階段の踊り場、そこの窓。
 開いて外を見渡した。しかし、木々の森が見えるばかりで、怪しい影の欠片も見つけられなかった。
「くそっ」
 微かに見えた、僅かな光の断片が一つ、爪の先の如くに小さな光。その断片とラキシスの左肩が直線で繋がっているように見えた。そしてその2つが繋がっているなら、それは窓の外に延びていたのだが。
 得体の知れない何かの正体を掴むには、情報が少な過ぎた。