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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

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 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は救護所のテントから出ると、光条兵器である刃渡り2メートルの大剣を出した。
 見上げてポカンと口を開いたのは、ウィザードのクラーク 波音(くらーく・はのん)である。自分の、また美羽の身長よりも大きな光条兵器を持つ美羽にも驚かされていた。
「これを…… 彼女と一緒に?」
「うん! ベアも私と同じような大きさと形の光条兵器なんだけど、それを2人それぞれに見せながら歩いてたの」
「それなのに、彼女だけが水晶化したんだ」
 美羽のパートナーであるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はボランティアの生徒に「ヒール」をかけてもらっていた。彼女が水晶化したのは左の二の腕部分である。
「ちょっと試してみても良い?」
「良いけど、どうするの?」
 美羽に断りを入れた波音は、ベアトリーチェを、そしてパートナーで魔女のアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)とアリスのララ・シュピリ(らら・しゅぴり)を呼び寄せた。
 不思議そうにしている美羽を横目に、ララがベアの左腕を掴み支えると、波音は左腕の水晶化した部分を指で撫でた。
「水晶化した部分に触れても、大丈夫なんだね。 …… アンナ!!」
「了解です」
 アンナはピョンピョンと後退すると、目つきを変えて、ベアトリーチェの左腕の一点をめがけて「雷術」を放った。
「きゃっ」
「ちょっと! 何するの!!」
「いいから! 見てて!!」
 波音は同じように左腕を撫でてから、アンナに声をかけた。
 アンナは続けて「火術」を放ち、その後には「氷術」を放った。
 どれもベアトリーチェの左腕の一点を狙ってはいたが、そのどれにも彼女は悲鳴をあげていた。
「波音おねえちゃん! これ以上はベアちゃんが可哀相だよっ!」
「大丈夫ですよ、ララさん、ありがとうございます」
「でもっ」
「波音さん、いかかですか?」
 波音はベアトリーチェの左腕を何度も撫でてから、瞳を吊り上げている美羽に向き言った。
「水晶化している、といっても感覚はある、というよりダメージだけはあるみたいね。こうやって触られてるのは分からないんでしょう?」
「えぇ、分からないです」
「雷、火、氷の攻撃を受けても形状に変化は無い。水晶の強度を持っている、でもダメージを感じる信号だけは備わっているという事。アンナ、あんたは全力でやったのよね?」
「えぇ……ベアちゃんには悪いと思ったけど…… 全力でやってしまいました」
「ベアが耐えられてるって事は、やっぱり水晶なんだ」
「そう、生身で受けるよりは和らいでいるのよ」
「ねぇ、ベアに「ヒール」をかけても良い?」
「いいわよ。それが終わったら今度は打撃に対する反応を見たいんだけど……」
「ベア、大丈夫?」
「えぇ、平気です。ですから美羽、そんな顔しないで」
「暴れるなら! 校舎の外でやりなさい!!」
 美羽の背後を通り過ぎながら、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が叫び過ぎた。その後を走り追うエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)が立ち止まり、頭を下げた。
「あの、スミマセン、その……」
「攻撃魔法や実戦を行うなら校舎から出る事、ここは狭い、ここは安静にさせる所、情報収集は発症者とパートナーの精神状態を考えて行うこと。以上」
 エラノールが言い終える前に言葉を被せたフィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)は、さっと言い終えてからエラノールの背を押しながら、テクテクと駆けて行った。
 怒られてしまった5人組み。ベアトリーチェを休ませましょう、と頬を緩めてテントへと入っていった。


 「赤鼻発光ホ樽」が光っている部屋。
「邪魔するぜ」
 ソルジャーのレン・オズワルド(れん・おずわるど)が部屋に入ったとき、室内にはミンストレルのジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)と、ドラゴニュートのガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)がベッドの横に立っていた。ベッドに横たわる生徒に、ジーナは「ヒール」を唱えていた。
「何だ、先客が居たのか。ややこしいホタルだぜ」
「ホタル? 何のことです?」
「何だ? ノームに同行してるんじゃないのか?」
「我らは2人で発症者の部屋を回っているのだ。お主は?」
「俺はレン・オズワルド(れん・おずわるど)、ソルジャーだ。情報収集の為にノームについているのさ」
 レンは横たわっている生徒を覗き込んだ。瞳を閉じている、眠っているようだ。
「どこが水晶化したんだ?」
「首の後ろです。範囲は広くありませんが」
「首の後ろ…… 完全な死角だな」
「今まで診てきた娘たちは、みな、体の後部、死角となる箇所ばかりであった」
「他の奴らは、どこが水晶化していた?」
「左足の踵、右太もも、右の肩甲骨付近、そして彼女の首になります」
「そんなに…… 全員治療してきたのか」
「はい」
「意外とタフだな」
「私にはコレがありますから。食べますか?」
「俺はけっこうだ。その娘が起きたら、やればいい」
 ジーナは籠に入った「妖精スイーツ」を1つ、パクッと自分の口に放った。
「でも、どうしてみんな発症する部位が異なるのでしょう」
「あぁ、免疫や筋肉なんかが弱い部位から発症する、ってのも考えたが、踵や首の後ろなんて皆条件は似ているだろうからな」
「発症する部位に意味があると考えるか、または犯人の意図か、」
「気まぐれか、だな」
 レンとガイアスが視線を交えた。互いの考えが近いことを感じたのであろう、それ以上の言葉は交わさなかった。
「邪魔したな」
「お気をつけて」
 背中越しに手を上げて応えたレンは、部屋を出ると、ノーム教諭に詰め寄った。
「水晶化の現象は、何者かの攻撃にしか思えない。アンタ、そういった魔法を知ってるんじゃないのか?」
「魔術の術式とかね」
 レンの背後から、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が声を加えた。その横にはナナ・ノルデン(なな・のるでん)も顔を見せている。
「私が知らない魔法なんて、あると思うのかい? 最も、エリザベートやアーデルハイトなんかは古代術式の幾つかを隠しているかもしれないけどねぇ」
「水晶化する魔法なんて無いって事?」
「知っているなら、とっくに解決してるよ」
 教諭と視線を合わせたナナが、教諭に問いた。
「では、「水晶化の街」の呪いとの関係については、どう思われますか?」
「ヒニラプカの呪いかい? 興味深いけど、呪いは専門外だからねぇ」
「黒幕が鏖殺寺院だとしたら、有り得ると思いますが」
「それなら俺は女王器が怪しいと思ったんだけどな」
「いや、女王器を保管しているのは教諭なのだから、女王器が原因なら教諭が一番に気付くはずであろう」
 廊下の先から歩んできた和原 樹(なぎはら・いつき)が教諭に問いたが、パートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が追撃で迎撃した。
「教諭、女王器に何か変化はありませんでしたか?」
「ないよ、しっかりと愛して保管してあるからねぇ、変化もないよ」
「でも他に、普段見ないような生き物を見たとかって話も聞かないしな……」
 言った樹の視界に、口を一文字にしたエル・ウィンド(える・うぃんど)の姿が入ってきた。
「エルさんは、どう思います?」
「ボクの、というかチームの考えは…… 事件の原因は、やはり女王器にあると、それも女王器を狙う者が仕掛けた事であろうと考えている。だから教諭とアリシアさんの安否も鍵になるとも考えているんだ」
「大胆な推理ですね」
「キミだって、そう考えているんだろう?」
 エルの笑顔に、ナナも笑みで返した。
「さぁさぁ、休憩はお終いだよ、まだまだ部屋はあるんだ、働きたまえ」
 廊下の先まで見れば、光りのついた扉はたくさんに見えた。助けを必要としている生徒が、それだけに居るという事なのだ。