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リアクション
第7章 邪悪なる実験
「ずいぶんとやる気があるようだけど・・・?」
先頭を歩く鈴木 周(すずき・しゅう)に、レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)は二心がないか彼の顔を覗き込んで問う。
「なんていうか・・・あんな生物兵器、外に出るの見過ごせるわけねーだろうが。まっ、かっこいいとこ見せたらケレスも俺にホレちまうかもしんねぇし?」
「(はぁー・・・やっぱり本命はそれなのね・・・)」
目を輝かせて“彼女のハートをゲットしてやるぜ!”とガッツポーズをとる周に対してレミは、気が抜けるように深いため息をつく。
「(一応目当てはケレスだけど、他の女の子も大勢いるしな・・・。ここはやっぱ口説いとかないとレディーたちに失礼だよな♪)」
周は幸の方へ振り返り、紳士に微笑みかける。
「よかったらこの後、朝日を見ながら俺とモーニングティーでも飲まないか?」
「えっ・・・」
突然誘われた彼女は目を丸くした。
「あれっ、男・・・の人・・・?」
「私が男?・・・そんなに解剖されたかっただなんて知りませんでしたよ」
幸は容姿を男と勘違いされたことに笑顔のまま怒り、妖刀村雨丸を握り締めて周に詰め寄る。
「い・・・いやその・・・とても綺麗な女の人だなーって・・・。あは・・・あははっ」
切り刻まれてはたまらないと、ぶつけたセリフとはまったく違う言葉を無理やり訂正した。
「フフフッ残念ですが私には他に大切な人がいるので、お気持ちだけありがたく受け取っておきます」
メガネをかけ直し照れながら言う幸に、周はほっと安堵する。
緊張感のまったくない会話に、近くで見ていたアスクレピオスは眉を潜めた。
「ここが実験動物飼育場がある階ですか・・・?何だかイヤな雰囲気ですぅ・・・」
シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は怯えながら、渋井 誠治(しぶい・せいじ)の腕にしがみつく。
「あっ、ごめんなさい誠治!怖くてつい・・・」
「いやいいよ別に・・・」
慌てて離れるシャーロットの可愛らしい態度に、誠治は思わず顔を赤らめる。
「これが普通の病院で行われている実験なかしら?たしかにラットやモルモットとかを使った実験はあるけどこれは・・・」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はガラスに片手を当て、小さな檻に閉じ込められている小動物の姿を睨むように見つめた。
「実際に薬の人体実験を行っているところもあるみたいだけどさ」
ギャンギャンと騒ぎ立てる動物を見ながら巽が呟くように言う。
「へぇ・・・そうなんだ」
実際に行われている人体実験という言葉に、ティアは不快そうな顔をする。
「薬を飲んだ人が死んだりすることはないようですが、体重がもの凄く増えたりするんですって」
幸がつけ加えるように説明する。
「風邪を治したりするために、新しい薬を作らなきゃいけないのは分かるけど・・・なんだかなぁ・・・」
医学の発展のために必要なことだと、頭で理解しながらも少女は沈んだ表情をした。
「おっと・・・お喋りはそこまでのようだ。こそこそしてねぇで正面から来なぁあっ!」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)はバスタードソードの柄を握り、後をつけてきている人影へ目掛けて振り下ろそうとする。
「はぁはぁ・・・やっと見つけ・・・って、遙遠ですってば!ゴーストじゃないですよ!?」
両手で刃を受け止めた遙遠は間一髪、身体の両断を免れた。
ほんのわずかでも反応が遅れていたら、彼の身体は左右に割れてしまいサヨナラしてしまっていた。
「あっ、悪い」
にへっと笑うカガチに遙遠はため息をつき、キャッチしている手を剣の刃から放す。
「カガチたち何やっているんですかー、追いていっちゃいますよー!」
柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が数メートル先から呼びかける。
他の生徒たちはすでに先へ行ってしまっていた。
「へ!?俺たちを置いていかないでーっ」
「また置いてかれたらたまりませんよ!」
カガチと遙遠は声を上げながら、彼らの方へ猛ダッシュする。
-AM0:00-
「あれ・・・もう目が覚めたかな」
フードを被った怪しげな人物が床へ横たわっているアリアを見下ろす。
声が聞こえた方へ視線を向けると、そこには見知った顔があった。
「ねえ、犯人・・・貴方じゃないよね?」
ボイスチェンジャーで声音を変えている相手を見上げたまま問いかける。
「だったらどうどする?」
ニヤリと口元を笑わせる相手にアリアは、怒りに任せて傷だらけの身体を無理やり起き上がらせる。
諸葛弩の弦を引き、数十本の矢を同時に放つ。
「こぉおっ、よくも罪のない人たちをー!!」
残りのSPを使い矢じりに雷術の気を込め、倒すべき主犯者へ矢を射ち続ける。
「あなたごときじゃあ倒せないよ♪」
体力が残されていない少女の攻撃では当たらず、犯人に軽々と避けられてしまう。
「―・・・服が切れたようだね」
袖を切られた相手はムッとした口調で言う。
「それくらい何だっていうのよ・・・」
「口答えする気・・・?だったら・・・こうしてあげようかっ!」
矢筒から矢を取り出そうとするアリアの片手を掴んでねじ曲げた。
ゴキィンッ。
「あぁあぁぁああ゛ー!!」
骨が折れる鈍い音が聞こえ、少女の悲痛な声が病棟内に響く。
彼女の悲鳴を聞いた生徒たちが、実験動物飼育場に駆けつける。
容赦ない犯人の行動に、傍で眺めているティムはニヤついてた。
「その子を離せ・・・」
高周波ブレードを構えダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は相手との間合いを詰めていく。
「だったら取りにくれば?もっとも・・・近づけるならだけど!」
壁のレバーを下ろすと、ビーッビーッと音がけたたましく鳴り響く。
「ここで使うつもりはなかったけど、あなたたちで試してやろうっと」
何かを隠していた緑色のシートを犯人が剥ぎ取ると、そこから体長8mのムカデのようなゴーストクリーチャーが現れ、レバーの操作によって化け物を拘束していた鎖が離れた。
「研究に研究を重ねてやっとゴーストクリーチャー化させることに成功したのがこの百目魔君!」
「これが生物兵器か・・・」
ソウガ・エイル(そうが・えいる)はゴースト兵器となり果てたそれにを哀れむように見上げた。
兵器の材料にされた百目魔君は、創造主の言うことしかきかない化け物と化している。
「―・・・酷い・・・生きる望みをかけて病棟に来た人たちをこんなことに使うなんて」
残酷な光景に赤色の瞳を潤ませ、直視できなくなったアリア・エイル(ありあ・えいる)は顔を俯かせた。
「あなた・・・廃校舎にいた3人の内の誰かですよね・・・」
「察しのいい子なら分かると思ったけど、誰か分からないのかな?」
「少なくともルフナとジューレじゃないな」
彼らを連れて来た政敏が口を挟む。
「ぁあっ!家庭科室の廊下のところにいたヤツ、アイツですよ幸姐さん!」
歌菜が相手を指差して言う。
「喋り方からしてラビアンのかしら。しかもあなたその名前、偽名よね?」
逃がさないように犯人を見据え、美羽はゆっくりと近づいていく。
「やーっと分かったのね」
「あなたの本当の名前は・・・姚天君でしょ」
「当たりぃ♪」
美羽の問いかけに答え、顔を隠していたフードを剥ぎ取り、ボイスチェンジャーを床へ投げ捨てる。
「私は十天君の1人、姚天君よ!」
ラビアン・クイーンを名乗っていた女は、生徒たちに顔を見せてついに正体を明かした。
「いっとくけど、その2人も偽名よ?私の仲間かもしれないのに、何で一緒にいるのかしら」
「―・・・勘?ていうか・・・人を助けるのに偽名だからって疑うってわけでもないしな」
「ふぅん・・・善人めいたこと言うヤツって好きじゃないのよね」
「こっちこそあんたなんかに好かれなくて光栄だよ」
憎まれ口を吐く姚天君に、政敏がさらりと言い返す。
「うぉおっ、よく見ると可愛い顔してるじゃんか!」
「こらぁああっ周くん!相手は敵なのよ!」
姚天君の容姿に見とれる周に、レミが叱りつける。
「ごっめんねぇー。かっこぃいけど、ちょっと私のタイプじゃないのよねぇ。ジューレみたいな子がいいの♪」
彼女はジューレに向かってウィンクしてみせるが、“不快だ”という顔をされそっぽを向かれる。
「ヘルドさん・・・恋人を生き返らせるために、あなたに協力させられていたと思うんですが・・・どこにいるんですか?」
幸は妖刀の柄を握り締め、相手を睨みつけながら言う。
「そうそう、隠してもろくな目に遭わねぇぜ!」
ハーフムーンロッドを上下に振り、威嚇するようにアスクレピオスが姚天君へ杖を向ける。
「んー・・・私が作ったゴーストたちに探させたけど、その後どうなったか分からないわね〜♪」
「な・・・何ですって!?」
笑いながら言う彼女に、きっと彼が生きていると願っていた幸は顔を蒼白させる。
「協力してくれないならいらないしぃー」
「―・・・う・・・嘘・・・嘘でしょ?そんな・・・」
トンネルのところで闇世界に残ったヘルドがどうなってしまったのか知ってしまった美羽はショックのあまり泣き出してしまう。
「廃品利用してるだけなのに、何をそんな気にするのか・・・まーったく分からなぁーい」
「人を廃品呼ばわりすだと?人はお前の玩具じゃないんだぞ・・・」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)は怒りにわなわなと身を震わせ、今にも掴みかかりそうだった。
「今流行っているリサイクルってやつ?私ってばエコロジー♪あっはははー!」
死者を冒涜する言葉に生徒たちの怒りは爆発しそうになっていた。
「あの男もバカよねー、私の言うことを効いていれば愛しい人も甦ったかもしれないのにさ」
「どうせできもしないことを餌にしたんでしょう?」
幸は煽るように小バカにした口調で姚天君に言い放つ。
「さぁどうかしらね。あぁそうそう・・・ここまで来れたご褒美に、いいコト教えてあ・げ・る♪」
「いいことだと?フンッ、どうせろくでもないことだろう」
呆れた垂がため息をつく。
「この病棟にいた看護師の霊の身体・・・どうしたと思う?」
「どうしたって・・・」
「フフフ・・・」
「―・・・まさかお前!」
「私に逆らった罰に使ってやったのよ。この子の心臓も使ってやろうかしら?それともこのまま火術で炭にしてもいいわね」
百目魔君の背に飛び乗り、わざと生徒たちに見せつけるように、アリアの折れている腕を持ち上げてみせる。
「まずはあの生徒をどうやって救出するからだな」
「へたに刺激するとやばいわよね・・・」
捕らわれているアリアをどうやって救おうか、ダリルとルカルカが小声で相談し合った。
-AM0:40-
「それはそうと、キミたちはどうしてまたここに来たんだ・・・」
国頭 武尊(くにがみ・たける)が呆れ顔で、ゴーストからルフナたちへ視線を移す。
「武尊はんたちがゴーストを倒す勇姿を見ておこうと思うたんどす」
「おいおい、まさかそれだけのためにか?」
「んー・・・家で絵ばっか描いとるから、外に連れていったらもっといい絵の構造が思い浮かぶと思うたんや」
「だからってここじゃなくてもいいだろう」
「あぁ・・・それもそうやね!」
なるほどとのんびりした口調で言うルフナに武尊は脱力してしまう。
「どうやジューレはん、絵の題材になるえぇインスピレーションが浮かんだんとちゃう?」
「オレに地獄絵図でも描けというのか・・・」
「危ねぇからキミたちは向こういってろ!」
凶悪なゴーストから引き離そうと、彼らを通路へ追いやる。
「さてと・・・それを葬らせてやるか」
「可愛くない子・・・百目魔君、あいつから始末しちゃって!」
創造主の姚天君に命じられるがままに、数十本の手が武尊を捕らえようと襲いかかる。
「へっ!簡単に捕まるかよぉお」
ゴーストを囲うように、炎の嵐ファイアストームを放つ。
「真奈!兄貴!真くん!詠唱終わるまで時間稼ぎ宜しくっ!」
七枷 陣(ななかせ・じん)は光輝の書を媒介に紙ドラゴンを召喚しようと、仲間の生徒たちに時間稼ぎを頼む。
「くそっ、随分硬てぇ皮膚みたいだな」
時間稼ぎしようとカガチがバスタードソードで斬りかかるが、ゴーストクリーチャーの皮膚が硬すぎて剣がまったく通らない。
「盟約に従い・・・その姿を現せ・・・!来い、紙ドラ!」
主人の言葉に応じるように小さな紙のドラゴンが現れた。
「邪魔ね・・・燃え散りなさい!」
姚天君は火の平に揺らめく炎を発生させ、ドラゴンを焼き払おうとする。
「きゅぃいいっ!」
隠れるようにドラゴンは陣の後ろへ逃げ込んだ。
「おぉよしよし、よく頑張った・・・」
優しく撫でてやるとドラゴンは姿を消した。
「あの装甲車みたいな皮膚・・・なんとかしないとなぁ」
「車ですか・・・手入れをサボって錆つくと大変ですよね・・・」
「それや!」
傍らで呟く小尾田 真奈(おびた・まな)に、何やら陣が閃いた顔をする。
「何かいいアイデアでも浮かんだのか!?」
「火術で燃やせない上に武器で貫けないなら、酸で溶かせばいいんや!」
「酸・・・そうかっ」
陣の案に周がなるほど、と声を上げる。
「そんじゃあその装甲、ドロドロに溶かしてやるか!」
武尊は口の中で術を唱え、ゴーストの周囲を囲うように白い酸の霧を発生させた。
ジュァア、ジュゥウウッ。
強酸によって百目魔君の皮膚が蕩けていく。
「よくも私が作った兵器をっ!」
「へっ。ご自慢の兵器の装甲、剥がしてやったぜ?」
「こうなったら・・・」
「次はキミが相手するのか」
「帰るのよ♪」
姚天君は陣の頭を踏み台にして逃げていった。
「見えた・・・ピンクの紐・・・・・・」
「ご主人様ー!」
ビタァンッバシィッ。
最後まで言い終わる前に、真奈に強烈なビンタをくらった。
「えっとオレ・・・」
「早く眼の前の生物兵器を倒してください!」
「あぁ、そうだったな。よし・・・これでやっと術をくらわせられるんやな!」
彼女のビンタによって、それを見てしまった記憶だけが飛び、陣は再びゴーストクリーチャーの方へ向き直った。
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