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リアクション
クリスマスパーティへようこそ
「あれ、キミ、百合園の人?」
後ろから声をかけられ、白雪 魔姫(しらゆき・まき)は優雅な仕草でくるっと振り返った。
流れるような青いロングウェーブの髪がふわりと舞い、その姿は百合園のお嬢様そのもので、しかも制服も百合園の制服であったから、声をかけた相手が間違えるのも無理はなかった。
「でも、学校内で見たことないけど……あ、ごめんなさい、先輩かな?」
七瀬 瑠菜(ななせ・るな)のくりくりっとした可愛らしい瞳に見つめられ、魔姫はくすっと笑みを浮かべた。
「元・百合園生ね。アナタは現役の百合園の子かしら?」
「うん、今日はわりと百合園の人たくさんいるよ!」
瑠菜はそう言って、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)たち白百合団組みとメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちケーキ作り組みを指さした。
「アナタは何をしているのかしら?」
「あたしはお料理! 七面鳥焼いたんだよ。良かったらどうかな?」
「そうね、頂こうかしら?」
魔姫はそう呟きながら、パートナーの方を少し心配そうに見た。
(せっかくだからエリスにクリスマスパーティを楽しませてあげたい)
そう思って魔姫はエリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)を連れてきたのだが、人見知りと言うこともあり、知らない人と話して大丈夫かと気にかけていた。
だが、エルスフィアは初対面の人ということで多少の緊張はしていたが、相手が年も身長も近い女の子ということもあり、予想していたよりも落ち着いていた。
「ケーキはお好きでしょうか? 良かったらいかがですか?」
「さっきね、真菜と一緒にブッシュ・ド・ノエルを作ったんだよ。ボクも手伝ったんだ。ね、食べよう、食べよう!」
リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)とフィーニ・レウィシア(ふぃーに・れうぃしあ)に勧められ、エリスフィアは小さく頷く。
「わあい、それじゃ行こう行こう」
フィーニがエリスフィアを見上げ、楽しげに手を引く。
手を取られて、最初は驚いたエリスフィアだったが、小さなフィーニの手に少し安心してついていった。
「良かったわ。アナタたちみたいな方がいて」
「あたしたちみたいな?」
「そう。エリスってば男の人が苦手で。でも、それじゃ困るんだけどね。パラ実なんてヒャッハー言ってるのの集まりだし」
「ヒャッハァー! 眼裏射苦離巣魔数!」
「そうそう、そんな感じで……えっ」
魔姫が想像したまますぎる声がして、思わず声の方を向く。
すると、そこにはハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)を従えたサンタクロース姿の南 鮪(みなみ・まぐろ)の姿があった。
「パラ実サンタ参上! さあ、お前ら、種モミ袋は用意してあるか!」
「種モミ……?」
フィーニがきょとんとすると、鮪がフィーニの手の上に種もみ袋を置いた。
「靴下なんかじゃもらえるものも、もらえねえよ! ちゃんと今夜は種もみ袋を枕元に下げるんだぜ!」
「あ、ありがとう」
手渡された種もみ袋を受け取り、フィーニがお礼を言うと、ザ・苦離巣魔数仕様、斗那怪モードのハーリーが機嫌よさげに音楽を奏で出した。
ドルドルドルン(ジングルベル)
ドルドルドルン(ジングルベル)
ドドドルドドルン(鈴が鳴る)
最近新しくしたエンジンで音楽表現をする……が、かなりうるさい。
しかし、その音を心地良さそうに聞き、鮪はパーティの参加者に種もみ袋を配った。
「覚えておけ、正しい苦離巣魔数は性なる夜に、普段奪う種モミを馬小屋で性帝陛下に捧げる儀式だァー!」
性帝陛下とは砕音先生のことだが……そのあたりは建国の絆参照で。
「馬小屋なんぞ、今時ないのではないか?」
ゴシック服を着たドロシー・プライムリー(どろしー・ぷらいむりー)が冷静につっこむと、鮪がそちらの方を向いた。
「ほう、なんだお前。鋼鉄のサンタってところか?」
「その通りです、鮪様。お噂はかねがね……『機人三原則』のマスター楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)です」
フロンティーガーはそう挨拶し、持ってきた100人前ほどのフライドチキンを会場の皆に振舞った。
「クリスマスといえばチキンでございます。こちらは『機人三原則』特製のチキンでございます。クリスマス後も当店で食べられますので、お気に召しましたらご来店を」
宣伝も兼ねて、フロンティーガーがチキンを配る。
なお、フロンティーガーのお店は、波羅蜜多実業高等学校掲示板に実際にあり、どの学校の生徒でも気軽に入ることが出来るのでご活用を。
「あれー、こんなにサンタがいるなんて予想外ダネ!」
そう言って鮪サンタと鋼鉄サンタのところに舞い込んできたのは可愛らしいミニスカサンタレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)だった。
「一緒に来る予定だった五条は来れなかったけど、気にせずクリスマスを楽しもう!」
ということで、パラ実の健全なお色気担当であるレベッカは、セクシーなミニスカサンタ姿で、クリスマス会場に登場したのだ。
「……パラ実の方って、わりと優しい方が多いのでしょうか?」
リチェルがそう口にしたくなるほどに、パラ実サンタがずらっと揃っていた。
鮪、フロンティーガー、レベッカ、それに……
「ナガンも忘れるなよ!」
ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)も混じり、四者四様のパラ実サンタが勢ぞろいした。
「自分たちが楽しむことより、人を楽しませようなんて。パラ実はいい方が多いんですねえ」
「パラ実がイイヤツとか言うのは禁句だ!」
真菜の言葉に、ナガンがそう言い返す。
しかし、ここまでパラ実生みんながサンタをやるところを見ると、総意としか思えない。
「さて、それじゃ、こんなにサンタが揃ったし。みんなでプレゼント配りしようカー」
レベッカがそう提案すると、その前に1つの人影が飛び出してきた。
「待って! サンタの先頭に立つのは私だよ!」
サンタ集団の前に躍り出てきたのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。
超ミニのサンタ服を着込んだ美羽は、レベッカと張り合うように見事な脚線美を見せ、袋の中からあるものを取り出した。
「クリスマスといえば、やっぱりケーキだよね!」
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が作ったケーキを見せ、美羽はピッと指を立てる。
「やっぱり一番の華を最初に配らないと! ケーキ渡して、プレゼント渡して、チキン渡して、種もみね!」
「種もみが最後だとぉ!」
鮪が不満の声を上げたが、美羽は涼しい顔で取り仕切る。
「さあ、それじゃ、いっくよー!」
意気揚々と歩き出す美羽の後ろにくっつき、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は他のサンタに謝って回った。
「すみません! 美羽さんがご迷惑をおかけしてしまって……」
「いえいえ、大丈夫ですわ。お気になさらずに」
レベッカのパートナーであるアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)が柔らかい笑顔で、ベアトリーチェの心労を和らげた。
アリシアはこっそり会場の様子を見に来たときに、ベアトリーチェが一生懸命、ケーキ作りをしているのを見ていたのだ。
「チョコレートでお菓子のおうちを作ったり、マジパンでサンタクロースを作ったり、いろいろがんばってらっしゃいましたものね。ケーキ、皆さんが喜んでくださるといいですわね」
「は、はい……!」
アリシアに褒められて、ベアトリーチェは恥ずかしそうに顔を伏せた。
眼鏡の剣の花嫁は、恥ずかしがり屋さんなのだ。
「はーい、それじゃケーキ配るよー!」
「あ、紅茶も用意しますので……」
美羽とベアトリーチェが配りだす。
「さ、ワタシたちも行くヨー!」
「は、はい……」
アリシアはミニスカサンタ服を恥ずかしそうに引っ張って、レベッカについていった。
時折、トナカイの角がついたカチューシャを直そうとすると、ミニスカートから手が離れ、太ももが出るのが恥ずかしかった。
彼女たちの後ろをフロンティーガーが付いていく。
「……こんなにサンタが多かったら、妾はいらなかったかのう」
ドロシーがボソッとそう呟くと、フロンティーガーは急いで首を振った。
「いいえ、そんなことありません。ドロシー様のコスチューム姿も麗しゅうございます……!!」
「え?」
「あ、これはこれは……」
思わず大きな声を出してしまい、フロンティーガーが口を閉じる。
しかし、他の女性陣の色気や脚線美よりも、フロンティーガーはドロシーのサンタ姿に惹かれていたのだ。
「ふ、ふむ……まあ、褒められたのだから喜んでおくとしよう」
ちょっと頬を染めながら、ドロシーは歩き出し、カップルっぽい2人には「もうチューはしたのか?」とツッコミながらチキンを配った。
そんな様子を見て、魔姫は複雑そうな顔をした。
「……なんていうか、パラ実も思ったより色々なのね……」
「う、うん……」
魔姫の後ろに隠れながら、エリスフィアがこくこく頷く。
「ま、そんなことよりもお料理食べましょうか……って、あら?」
魔姫が横を向くと、あったはずの七面鳥がない。
「あ……」
視線が合い、小林 翔太(こばやし・しょうた)が曖昧な笑みを浮かべる。
「えと……七面鳥、ちゃんと骨まで食べたから」
「……は?」
「その、白馬馬刺しにしちゃいけないって言われて、トナカイも食べちゃいけないって言われたから、おなかすいちゃって」
「白馬の馬刺し? トナカイ……?」
薔薇学の小さな少年の言葉に、魔姫は怯む。
しかし、翔太の様子を見て、瑠菜が新たな皿を持ってきた。
「あ、豚の丸焼きもありますよー」
「わあい! ……あ」
翔太は本来の目的を思い出し、ピタッと動きを止めて、佐々木 小次郎(ささき・こじろう)に勧めた。
「小次郎良かったらこれを……あれ?」
振り返るといたはずの小次郎がいない。
心配した翔太が探しに行こうとすると、そこに豪快なおっさんの声が聞こえてきた。
「がははは、そうか、小次郎。お前迷子か」
「……小次郎!」
「お、小次郎のパートナーか。よう、宮本 武蔵(みやもと・むさし)だ。よろしくな!」
武蔵は翔太に挨拶すると、小次郎の背中をポンと押した。
「いや〜おでこ校長の人使いの荒さを愚痴ってがんがん食ってたら、小次郎を見つけてさ。ほら、小次郎。おまえそれ渡すんじゃないのか?」
「あ、はい……」
小次郎は翔太にイチゴショートのホールケーキを差し出した。
「翔太さんきっと楽しみにしてると思って」
「……小次郎」
食べたくても、今日は小次郎のために来たのだからと我慢していたケーキ。
それに気づいて、小次郎はケーキを探しに行ってあげて……迷子になったのだ。
翔太はうれしそうにそのケーキを受け取って食べた。
「いやあ、パートナー同士気遣う。いい話だねえ。あ、大将こっちこっち!」
武蔵が手を振り、パートナーの九条 風天(くじょう・ふうてん)が小さな苦笑交じりにやってくる。
風天の隣にいる坂崎 今宵(さかざき・こよい)は苦笑どころか明らかに不満そうだ。
武蔵が風天から勝手に離れてしまい、探す羽目になったからだ。
「殿に迷惑はかけないようにね、武蔵さん」
「おうおう」
「返事ばっかりいいんだから」
今宵はじろっと武蔵を睨みながら、弁慶の泣き所を蹴った。
「あたっ。おいおい、弁慶が痛いところは俺だって痛いんだぜ」
「知らないわよ。ほら、お料理取るとき崩さないで」
パーティの前準備を手伝った今宵は武蔵が綺麗に並んだお菓子や料理を適当に取って崩してしまうのを気にしていた。
風天はそんな様子を見ながら、誰か話せる人はいないかなと探すのだった。
「なんだかいろいろな人がいてビックリだったわ」
風のように過ぎた時間を振り返りながら魔姫は言う。
「そうだね。本当にすごかった」
瑠菜が同意すると、魔姫は小さく笑った。
「でも、うれしかったわ。今日は。エリスもフィーニたちのおかげで楽しめたし。はい、これ、せめてものお礼」
「え?」
瑠菜の手に置かれたのは魔姫手作りのストラップだった。
「フィーニにも、それからリチェルにも」
それぞれに手渡していくと、リチェルが小さな笑みを見せた。
「ありがとうございます。それではお礼に一杯シャンパンでも」
リチェルがシャンパンとワインとリキュールを見せ、魔姫が微笑む。
「頂くわ」
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