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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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5.assault02‐月明かりの夜に‐

「ああは言いましたけど、やっぱりアレクさんを放って帰るなんてできません」
 優希は姿が確認できる程度の距離をとり、アレクセイの後を追いかけていた。ラーメン屋を後にしてからしばらく経ってすっかり日は落ちていたが、今晩はうっすらと月が出ている。
「このまま何もなければいいのですが……きゃっ」
 物陰からアレクセイを見守る優希の頭上を、突如突風が吹いた。
「何ですか今の風は……え!?」
 視線を正面に戻した優希は息をのむ。アレクセイの背後に人影が迫っていたのだ。アレクセイはそのことに気がつく様子がない。
「アレクさん、後ろ!」
「ユーキ? ――!」
 優希の声で振り返ったアレクセイは、間一髪敵の襲撃をかわす。
「……出やがったなゲイルスリッター。助かったぜユーキ」
「私もお手伝いします」
 優希がアレクセイの元に駆けつける。
「こうなっちゃ仕方ねえな。いいか、敵の様子を見たい。まずは防御を優先するぞ。……さあ来る、気をつけろ!」
「はい!」
 優希はディフェンスシフトを使用して攻撃に備えた。
「うおっ」
 ゲイルスリッターの一閃をアレクセイがラウンドシールドで受け止める。だが、予想外に重い一撃に盾ごと吹き飛ばされた。
「アレクさん!」
 体勢を崩したアレクセイに、追撃の手が伸びる。
 だが次の瞬間、ゲイルスリッターは真後ろに向かって武器を振り上げる。背後から何者かが狙撃してきたのだ。
「なんてやつだ、弾丸をはたき落としがった! あの武器は……鎌か?」
 そう呟いたのはエヴァルト・マルトリッツだ。
 月明かりに照らされて刃が鈍く光る。ゲイルスリッターは身の丈ほどもある巨大な鎌を左手に携えていた。
「悪いな。お前さんたちが襲撃されるのを待って狙撃させてもらったぜ。一筋縄でいく相手じゃなさそうだったんでね。ま、失敗しちまったが」
「さあエヴァルトくん、見つかっちゃったことだしあいつを捕まえよう!」
 ロートラウト・エッカートがはりきって言う。
「そうだな。よし、いくぞ」
「機晶石エンジン、フルドライブ! 出力全開! って同じ意味だぁー!」
 エヴァルトとロートラウトがゲイルスリッターに向かっていく。しかし、相手は二人など眼中にないといったようにアレクセイに再び狙いを定めた。
「無視するなぁ!」
 ロートラウトがカタールで斬りかかる。ゲイルスリッターは軽く薙いでこれを返り討ちにした。ロートラウトのボディに亀裂が入る。
「げ」
「あのあからさまに鋼鉄なボディを傷つけるとは……ええい、食らえ!」
 今度はエヴァルトがスプレーショットをお見舞いする。ゲイルスリッターは鎌を高速回転させて弾丸の嵐を跳ね返した。
「おいおい、そんなんありかよ!」
 自らの放った弾丸からエヴァルトが必死に逃げ惑う。
 目の前で戦う二人と隣で不安げな顔をする優希を見て、アレクセイは思う。
(なんとかしねえと全員やられちまう。敵の狙いはあくまで俺様のようだ。それなら……)
 そして、ゲイルスリッターの前に一気に飛び出した。
「俺様が相手だああ!」
 アレクセイが火術を放つ。ゲイルスリッターはこのチャンスを見逃さなかった。炎ごとアレクセイを斬り伏せる。
 こうして四人の中で唯一のクイーン・ヴァンガードを倒すと、ゲイルスリッターは他の三人には目もくれずにその場を去っていった。

「……さん! アレクさん!」
「ぐ……」
「無事のようだな。大丈夫か、お前さん?」
「まさかあれほどまでの強さとは……」
 アレクセイは自らにヒールをかけながら言う。
「く……それにしてもあの目、全く感情が宿っていなかった……」

 前日の武神 牙竜に続き、今宵も平和を愛するヒーロー(だと妄想している人物)が調査を行っていた。【パラミタ刑事シャンバラン】こと神代 正義(かみしろ・まさよし)だ。
「クイーン・ヴァンガード襲撃事件で一番得をするのは……ハッ!? 鏖殺寺院か!? つまりこの事件の犯人は鏖殺寺院! もしくはそれに関わる奴! ようし、速くも敵の目星がついてきた。フィル、それでは作戦通り頼んだぞ!」
 正義はブラックコートで気配を、光学迷彩で姿を消すとパートナーのフィルテシア・フレズベルク(ふぃるてしあ・ふれずべるく)の後をついて歩く。
「一度コスプレってやつをしてみたかったのよねぇ〜♪」
 ヴァンガードエンブレムとヴァンガード強化スーツを装着して囮捜査をしているフィルテシアは、過去に襲撃事件があった現場をご機嫌で歩き回る。
 そのフィルテシアに上空から目をつける二人組がいた。国頭 武尊(くにがみ・たける)猫井 又吉(ねこい・またきち)だ。
「トレジャーセンスにヴァンガードエンブレムの反応ありだ」
「周囲に他の反応はないぜ、武尊」
「ようし、いっちょやるか。又吉、降ろしてくれ」
「あいよ」
 又吉はサンタのトナカイで武尊をフィルテシアの近くに運ぶと、再び上昇する。武尊は隠れ身と光学迷彩を用いてフィルテシアに奇襲をかけた。
「!」
 あらかじめ女王の加護を使用していたフィルテシアは武尊の襲撃に気がつき、回避行動をとる。
「出たか! ……どこだ?」
 正義がフィルテシアの元に駆け寄る。だが、敵の姿が見えない。
「ええい、外道照身霊波光線〜♪」
 フィルテシアが光精の指輪で妖精を呼び出し、辺りを照らす。突然の発光に目がくらんだ武尊は思わず声を上げた。
「うお!?」
「そこか!」
 正義が声のした場所目がけてライトブレードで斬りつける。武尊は直撃こそ免れたものの、光学迷彩用の布が破れて姿が露わになってしまった。
「とうとう姿を現したな! 貴様がこの事件の犯人か!」
「ち、面倒なことになったな。だがいただくもんはいただいてくぜ。又吉!」
「おう!」
 又吉が上空から煙幕ファンデーションを使用する。正義は煙に包まれた。
「く!」
「さあ嬢ちゃん、大人しくハンドヘルドコンピューターを渡しな!」
 武尊は鬼眼で怯ませ、フィルテシアに襲いかかる。
「きゃー、どこ触ってるのよぉ!」
「フィル!? 大丈夫か!」
 武尊はフィルテシアの持ち物を探っていく。だが、すぐ異変に気がついた。
「なんだ? こいつエンブレムとスーツだけで、ハンドヘルドコンピューターもってねえぞ!」
「そりゃそうよ。コスプレだも〜ん♪」
「んだとお! ちいっ、こいつにもう用はない。又吉、他のやつらが来る前にとっととずらかるぞ!」
「ああ、長居は無用だな」
 又吉が武尊を回収して再び上昇しようとする。そこにフィルテシアが飛びついた。
「よくもやったなぁー!」
「こらてめえ、放しやがれ! この! この!」
 又吉は必死で暴れ回り、なんとかフィルテシアを振り切る。
「とんだ無駄足を踏んじまったぜ。せっかくハンドヘルドコンピューターが手に入ると思ったのによお!」
「全くだ。俺なんかさっき服の一部を破られちまったぜ」
 武尊と又吉は文句を言いながら夜の空へと消えていく。それを見て正義は高らかに言う。
「みたか! 正義は勝つ!」
 敵を追いかけるのを忘れるのは、最早お約束だ。
「ねえ、正義ちゃんこれ」
 フィルテシアが手にした布を見せる。それは破れた又吉の衣装の一部だった。
「これは? 何々……『鬼魔狗野獣会総長・猫井 又吉』? ハッ! なんと襲撃の犯人は不良グループだったのか!」
 正義のこの勘違いがどんな騒動を起こすかは、また別のお話。