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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション


3.穏やかな昼
 
「グラマーなのもいいけど、リフルさんみたいにスレンダーなのもぐっとくるよなあ」
「お前結構マニアックなのな」
 3時間目は体育。今日の授業は体育館でのバレーボールだ。休憩中の男子たちは女子の試合を観戦している。
 裏椿 理王(うらつばき・りおう)は、常に持ち歩いているパソコンのキーボードを叩いていた。
「名前は『リフル』、髪の色は銀で肌は色白。生年月日及び血液型は不明、と。そしてさっき盗み見た靴のサイズから推測される身長、体重は……」
 分かっている範囲の情報からリフルの過去につながるものや交流関係などを検索してみるが、何も出てこない。
「だめだ、情報が少なすぎる。彼女の持ち物のブランド、眼鏡のメーカーなども後で調べる必要があるな」
 理王は真剣な眼差しでリフルを見つめる。
「ちょっと何あれ。さっきからずっとリフルさんのことじろじろ見てるわよ」
「嫌だ……」
 そんな理王を女子たちは白い目で見る。だが彼は一向に気にしない。
「とはいえ、やはり一番重要なのは体重のデータだ。なんとか彼女をお姫様抱っこする方法はないものだろうか……そうすれば正確な体重が判明するのに……」
 そう、理王の特技の一つである。彼は女性をお姫様抱っこすることによって、その女性の正確な体重を知ることができるのだ。
「危ない!」
 女子生徒の甲高い声で、理王は考えを中断させられる。見ると、隣のコートから飛んできたボールがリフルに迫っていた。
「おお、これはなんという漫画的ご都合主義な展開! この機会を逃すわけにはいかない。今助けるぜ!」
 理王は躊躇なくリフルに向かって飛び出す。だがリフルはひらりと身をかわし――
「ぐべぼっ!」
 代わりに理王が顔面でボールを受け止めた。
「大丈夫!?」
「リフルさんすごーい」
 床に転がる理王を尻目に、生徒たちはリフルの周りに集まる。
「あの、オレの心配は……? くそう……しかし重要なデータが一つ判明したぜ。彼女は見かけによらず運動神経がいい……!」
 ばたり。

「イーディのやつ、頑張ってるみたいだな」
 パートナーが積極的にリフルにアプローチする姿を見て、翔は優しげな顔をする。昼休みには相変わらず生徒たちがリフルに構っていた。
「ふーん、あれがリフルちゃんか」
「うわっ!」
 突然隣から聞こえた声に、翔は驚いて体をビクつかせる。
「なんだ、円か。びびらせるなよ……」
「やあ」
 桐生 円(きりゅう・まどか)はしゅっと手を立てる。彼女はパートナーのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)をサンタのトナカイに乗せ、校舎の外に浮いていた。
「いつからいたんだ?」
「結構前から。リフルちゃんを観察してたんだよ。あの子外を見たり本読んだりしてばかりだね。……よっと」
 円たちは窓から教室の中へと入ってくる。オリヴィアは笑みを浮かべながら翔を見て言った。
「はろはろー。あなたが葛葉ね。円から話は聞いてるわぁ〜。パートナーに随分と熱い視線を送ってたじゃなぁい〜」
「へ、変な言い方するなって。ったく、せっかく情報を教えてやったっていうのに、なんなんだこの仕打ちは……」
「まあまあ、感謝はしているよ。ところでマスター、あの転校生は何を見たり考えたりしているのだと思いますか?」
 円がオリヴィアに尋ねる。
「んー、そうねぇ〜。あの遠くを見つめるような目。オリヴィアの見たところだと、彼女には心をつかんで放さない王子様でもいるんじゃないかしらぁ〜」
「なるほど……恋煩いですか。あるかもしれませんね」
「はい! はい!」
 頷く円の横で、ミネルバが手を挙げながら飛び跳ねる。
「なんだい、ミネルバ?」
「全力を出し合って戦える強敵(とも)が現れないか待ってるんだと、ミネルバちゃんは思うのだ!」
「多分それはキミだけだよ」
「えー、そんなことないもん。あ、でももしかしたら、どこかにおいしい食べ物が落ちてないか探してるのかもしれないね!」
「それも多分キミだけ。まあ、本人に聞いてみるのが一番早いか」
 円はリフルの方に歩いていく。
「こんにちは。キミってあんまりしゃべらないみたいだけど、いつも何考えてるの?」
「……」
「悩みでもあるのかい。前の学校で何かあったとか、思い人がいるとか」
 リフルが席を立とうとする。その進路を円が遮った。
「おっと。じゃあこれだけ教えてよ。古代シャンバラ史を専攻してるらしいけど、一番関心があることは何だい?」
「……女王のこと」
 何か言わないと引き下がる相手ではないと考えたのか、リフルはそれだけ言って円の横を通り過ぎる。
「あ、待ってリフルさん」
 源 紗那(みなもと・しゃな)がパートナーのプリムラ・ヘリオトロープ(ぷりむら・へりおとろーぷ)を連れてその後を追った。
「なあにぃ〜、あの子。無愛想ねぇ。ああいうのを見ると、お姉さん調教したくなってきちゃうわぁ〜」
 オリヴィアが色っぽい声で言う。
「ミネルバちゃんは別にどうでもいいやー。だってあのひょろメガネ、全然強くなさそうなんだもん。どんなやつか楽しみにしてたのに、つまんないのー」
「まあ、今日は一言聞けただけでもよしとしよう。なにも焦る必要はないんだよ。さて、せっかくだから蒼学の授業でも受けて帰ろうかな。どうせ暇だし」
「おいおい、本気かよ……」
 円の言葉を聞いて、翔はうんざりとした顔を見せた。
「リフルちゃんゲーット!」
 逃げるようにして教室から出てきたリフルを、一人の少女が捕まえる。
「ワタシ、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)。リアって呼んで。リフルちゃんいつも引っ張りだこで、なかなか話す機会がないんだもん。ねえねえ、ワタシが学校案内してあげる!」
「遠慮しとくわ」
「でも色々知っておかないと不便よー。職員室に音楽室、視聴覚室に食堂、それから――」
「食堂……」
「ん? 食堂の場所知りたい?」
 リフルが首を縦に振る。
「オッケー。それじゃ案内するわね」
「あの、私たちもご一緒していいでしょうか?」
 紗那が尋ねると、アルメリアは快く承諾した。
「いいわよ。一緒に行きましょう」

「はい、これがワタシのお勧めA定食!」
 アルメリアがリフルの前にトレイを置く。リフルは早速食事に手をつけ始めた。
「リフルさんて左利きなんだぁ。それにしても、細いのによく食べるんだねぇ」
 リフルの食べっぷりを見て、プリムラが感心したように言う。
「あはは、プリムラちゃんはリフルちゃんと印象似てるけど、のんびり口調だからしゃべるとイメージが変わるねー」
 それを見てアルメリアが笑った。
 黙々と食べ続けるリフル。しかし不意に体をぴくりとさせたかと思うと、手を止めて食堂の入り口の方を振り向く。
「ごめーん、赫夜(かぐや)、待ったあ?」
「私も今来たところだ。さあ、行こうか」
 食堂の入り口には、リフルと対照的にグラマラスな体型をした長い黒髪の少女が立っていた。なぜか蒼空学園の制服ではなく、黒のセーラー服にミニスカート、赤のタイという格好をしている。
「リフルさん、どうかしたのですか?」
「別に」
 紗那が不思議そうに尋ねると、リフルは何事もなかったかのように食事を再開した。
「そうですか。それにしても、そんなに食べて大丈夫です? 後で歓迎会があるんですよ」
「何々? 歓迎会って」
「クラスの何人かと一緒に、放課後ラーメン屋でリフルさんの歓迎会を行うんです」
「えー、ずるい! 聞いてないよ。ワタシも行くからね!」
 思わず立ち上がるアルメリアに、食堂中の注目が集まった。