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マジケット死守命令

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マジケット死守命令

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2019年12月29日 国際展示場駅・早朝

 空京国際展示場駅行きの始発列車が静かにホームに到着する。
 ドアが開く。
 その瞬間、
 どどどどどどど―――――――――――っと人の洪水がうねりを上げて改札を目指す。それはもはや人の集団ではない。
 ひとつの意思を持った生命体のようだ。
 プラットホームを駆け抜けた怒濤のような人の群は殺気を帯びて我が先にと突進してゆく。
 パメラ・サカザキ(ぱめら・さかざき)は、割りの良いバイトだと気軽に会場警備を引き受けたのだが、当日の朝になってはじめてアイアンゴーレム襲撃の件を聞かされ、ゲンナリしていた。
 そんなヤバい話聞いてないし、でも仕事だからゴーレムも整列させなきゃいけないのかなぁと、大きなプラカードにもたれかかってぼやいていた。
 ふと、地鳴りがした。
 何かが迫ってくる。
 ―――あれが“敵”?
 それはゴーレムではなかった。
 強烈な邪念に支配された人の群だった。
 何百人ではない、数千はいるだろうか。
 それがパメラ目指して突進してくるのだ。
「どうする……どうすればいい……おちつけ、まず落ち着くんだ」
 群衆は目前まで迫っていた。
 怒濤のような地鳴りが迫ってくる。
 パメラはプラカードを見つめる。
「本当に効くのか? こんな“モノ”が」
 だが彼女が持っていたのはそのプラカードとブロードソードしかないのだ。
 パメラは目をつぶってプラカードをかざした。
「おねがいっ! 効いてっ!」
 どどどどどどどどどどどどどど……
 大群衆の足音は続く。
 パメラが恐る恐る目を開けると、人の濁流はパメラの目の前で直角に曲がり、右に流れて行っている。
「すごい。効いてる……」
 看板には『一般参加者はコチラ』と、矢印マークと共に書かれていた。

 マジケットの行列は朝の7時頃には落ち着き、それぞれ地面にしゃがみ込む。
 そこで開場時刻10時までの3時間を待つのだ。
 年末の朝は厚着をしても体が凍るほど寒い。
 パメラもようやくまばらになり始めた一般参加者にほっとしていた。
 が、そんなとき。
 パメラの上空を越えて魔女たちがほうきに乗って駆け抜けていく。
 4機編隊でみっつ、12機だ。
 それに続けて国際展示場駅の裏から、ねずみ色をしたゴーレムたちが思い足音を響かせてゆっくりと国際展示場へと向かってゆく。一般入場者たちからどよめきがあがる。
 パメラは無線機を取り出して、
「もしもし、パメラです。いま、その……例のゴーレムが出てきてます。へ? 戻ってこい? ゴーレムとのバトルは任務外ですよ。じゃあゴーレムを整列させろ? 解りましたよハイハイ」
 パメラは看板をぽいと捨ててマジケット会場を目指した。

2019年12月29日 国際展示場・7階司令部

 パメラの第一報を受けて司令部の無線交信が急激に増加した。アキュラとクリスティーナ&アカリの無線交信もそうだが、警備室の弧月とのやり取り、その他準備会や、それそれのパートナーとの交信で司令部は情報でパンクしそうだった。
 そんな情報を逐一、もうちょっと表に出て活躍するはずだったマジケット防衛委員会委員長の茜が、ホワイトボードに書き込んでいった。
「たった今を持って、マジケット準備会は我々マジケット防衛委員会の管轄下に入りました。これからが本番です」
 戦部は司令部全員に対し、重々しく告げた。
「東部戦線のアカリより報告っ。ハツネの『空軍』が例のビラをばらまいているとの事!」
 アキュラが戦部に告げる。
「パメラより続報ですっ。敵アイアンゴーレムは7体、随伴魔女2名。うち1体は一回り大きく、赤く塗られ、ハツネ本人が肩に乗っているそうですっ!」
「やぐら橋要塞航空隊、終夏、ニコラ、シシル、出ますっ」
 オペレーターのリースも次々と情報を上げてくる。
「10体ですか。社とクロセルが言ってきた数と合いませぬな」
 ゲルデラー博士がいぶかる。
「様子見か、世間体か、舐められているのか……」
 戦部が頬杖をつく。
「ですが良い機会です。あのゴーレムがどこまで頑丈か知りませんが、これだけハンディをもらって勝てなければそもそも勝てる見通しがないのです。逆に言えば千載一遇のチャンスでもありますな。もっとも、罠でなければ、ですが」
 ゲルデラー博士は口角を少しだけ上げて笑んだ。

2019年12月29日 国際展示場・地下1階警備室

 暗く音もない狭い部屋に、弧月と九印はいた。
 外界と遮断された中で、唯一の情報源は何十もある監視カメラのモニターだけだ。
 そして7階司令室からは逐次最新の情報が流れてくる。
「こちら司令部。遊撃隊に出撃準備の要請をお願いします」
 戦部の指令が降りてくる。
「警備室了解っ」
 弧月は携帯電話を取りだし、鬼崎 朔のパートナー、ブラッドクロスに電話をかける。だが、なかなかつながらない。そうか……花火とかオリンピックとか、大型イベントだと携帯発信が集中するから通話しづらいんだった。今でこの状態だから会場後はもっとヒドいことになるかもな……。
 やっとブラッドクロスにつながったかと思うと、既に戦闘配備は終わっていたらしい。
 なんだか自分のしていることに無力感を感じる。
「そのようなことはない」
 と、弧月のすぐ横に立てかけられた2メートルの大剣型の機晶姫、九印は弧月に声をかける。
「え?」
「そのようなことはないと言っている。弧月の仕事は極めて重大なポジションにある。そうであろう?」
「……うん」
「弧月はたしかPHSも持っていたな?」
「もってるよ」
「PHSはこういう環境では携帯より強い。向こうにも誰かひとりくらいはいるはずだ。今のうちに番号を教えあっておくといい」 
「そうだね」
「それでいい」
 弧月は携帯電話をとると、再び電話をかけた。

2019年12月29日 午前9:00

 マジケット準備会は緊急一斉放送を流した。
 重苦しく不安な、空襲警報のようなサイレンの音があたり一面に響き渡った。