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空に轟く声なき悲鳴

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空に轟く声なき悲鳴

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13:20 お犬様騒動



 四条 輪廻(しじょう・りんね)は適当な場所に腰掛け、サンドウィッチをほおばっていた。その横で彼に習うようにしてアリス・ミゼル(ありす・みぜる)もサンドウィッチを口に運んだ。ちらり、とパートナーの顔を見ると、飲み込んでからようやく疑問を口にした。

「あの〜……四条さん、幽霊列車の事件を探るのに、なんでここなのですか?ここは犬さんたちがわんわんうるさい事件の場所じゃあ……」
「わかってないんだから、おとなしく黙って手伝えばいいんだ」

 四条 輪廻はメモを覗き込みながら、何度も書き込み、破り捨てていた。

「いまどき幽霊なんてナンセンスだ。幽霊列車の中にいたのが本当に幽霊だって言うなら、中に乗っていた少女達は何を意味するのか」
「幽霊列車だから、幽霊なんじゃないんですか〜?」
「あるいは、攫われた女の子だったりしてね」

 高村 朗(たかむら・あきら)はそのよこにちょこん、と腰掛けてアンパンをかじる。四条 輪廻は眼鏡をキランと光らせて、「何を根拠に話しているんだ?」と問いかける。

「一週間前から、機晶姫たちの夢遊病が流行っていたらしい。そして昨日の晩、行方をくらました機晶姫たちがいる」
「なるほど、攫った機晶姫たちを乗せるために走っている、というのか」
「ま、確証はないけどね」

 四条 輪廻が口元を歪めてメモ帳をパタン、と閉じると立ち上がった。

「やはり、ここは無関係ではなさそうだな!」
「だからなんでここにいるのですか〜!」

 アリス・ミゼルの叫び声は、にぎわっている町の喧騒にかき消されていった。
 ちょうど彼らが腰掛けていたベンチの裏にある家で、藤原 和人(ふじわら・かずと)は、調査のために犬を一匹借り受けられないか相談した。

「散歩してくれるなら」

 ということを条件に、たった今裏口から大型犬を連れて出て行ったところだった。

「まてって! タマ! は、早いって!!」

 タマという名前の真っ黒なラブラドールレトリバーは人見知りをしないようで、すぐに飛びつく癖があった。その上、凄く足が早いので散歩するにもほぼ引きずられている感じがする。ようやく止まったかと思うと、身体を震えさせて踏ん張り始めたのだ。

「ああもう、こんな往来のど真ん中で……」

 手馴れた様子で藤原 和人はフンの世話をして手早く片付けるとタマはまた元気よく駆け出してった。その先には、巨大なペンギンの後姿があった。勢いよく飛び上がり、そのペンギンを背中から押し倒した。ペンギンは見事に顔を打ち付けそうだったのだが、運よく目の前にいた助手を巻き添えにして倒れることによって怪我する事はなかったようだ。桐生 円は短い手足をばたばたさせながら身をよじらせる。

「は〜な〜れ〜ろ〜!!」
「円さん大丈夫ですか?」
「むしろエレンが大丈夫であるか?」

 プロクル・プロペは心配そうに神倶槌 エレンの身体を起こそうとする。ただ、その上にいるペンギン姿の桐生 円のさらに上にいる黒いレトリバーが避けない限り難しそうだった。

「タマ! めっ!」

 大きな声を出して藤原 和人がタマを叱ると、タマはしゅん、と耳を一層伏せてしょんぼりしたようにお座りの姿勢で藤原 和人を見上げる。

「ほら、謝りなさい」
「くぅ〜ん」

 ごめんなさい、と言いたげにタマは桐生 円に頭を垂れる。桐生 円はすくっと立ち上がって鼻を鳴らす。

「ふん、その姿勢に免じて許してあげるよ」
「ま、偉そうに胸を張る円さんもかわいらしいですわ〜」

 神倶槌 エレンはくすっと笑ってペンギンの頭をまた愛しげに撫でた。

「胸の話はするなあああ!!」
「それよりも、今のところそんな様子はないのだが……やはり、夜まで待たないとダメなのであろうか?」
「その間に事情を聞く、という手もあるだろう」
「バフバフ!」

 明らかに大型犬の鳴き声がタマがいる方向とは別のところから聞こえたかと思うと、桐生 円はまたも犬にプレスされてしまった。
 今度は白いセントバーナードだ。

「バフバフ、のしかかっちゃダメ」

 幼いアリスのクレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)は、セントバーナードのバフバフと呼ばれた犬の上にちょこんと乗っかって言い放つと、バフバフはしょんぼりしながら桐生 円の上からどける。

「バフバフ、ごめんなさい」
「バフゥ〜」

 合図どおり、申し訳なさそうに頭を下げる。桐生 円は繰り返し頭を下げられたからか、ぷいっとそっぽを向いて「もういいよ」と言い放つと、助手たちを連れて調査に戻っていった。

「へぇ、タマとおんなじでおりこうさんだな?」

 藤原 和人はしゃがんでバフバフと視線の高さを合わせる。するとバフバフのほうから擦り寄ってきた。

「お。撫でてもいいのか? ありがとうなぁ〜」
「バフバフ、におい、あるの?」

 撫でてもらってすっかりいい気持ちになっていたバフバフは、はっと思い出したように身体をこわばらせると、首を振った。首の辺りをぺしぺしと叩いて、バフバフを歩かせる。
撫でてくれたお礼なのか、クレシダ・ビトツェフは飴玉を藤原 和人に差し出すと、颯爽とその場から立ち去った。

「いいなぁ、小さい子はおっきいワンコに乗れて」
「かわいいよねぇ……ワンコって」

 小さくため息をつくと、タマはくぅん? と鳴き声をあげて藤原 和人の手を舐めていた。その愛らしい顔立ちを激写したのは、絹屋 シロ(きぬや・しろ)だった。携帯電話のカメラを使って撮影すると、隣にいたディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)に気がついた。愛らしい角が生えたうさぎの獣人である彼をタマの上におもむろに乗せると、その横に座り込んだ絹屋 シロは一緒に撮れる様に携帯を掲げると「はい、チーズ」と口にする。ディオネア・マスキプラは思わずよそ行きの笑顔を浮かべる。

「ワトソンくん、何してるの? 早速調査開始だよっ」

 霧島 春美(きりしま・はるみ)は英国の名探偵ルックでおもちゃのパイプを咥えながらどこかを指差した。タマからちょこん、と降りたジャッカロープの獣人ディオネア・マスキプラは小さくため息をついて「一応、その格好は公式じゃないんだよ〜……」と小さく呟いていた。

「あんた達も調査組かい?」
「うん、そうだよ」

 絹屋 シロの言葉に、霧島 春美は満面の笑みで返す。何枚かのメモを彼女が取り出して差し出してきた。

「今のところ分かてる情報が、犬だけじゃなくって蝙蝠も猫も、って所ね。何で蝙蝠が多いのかって言うのは、この町、魔法使いが多くって使い魔にしていたんですって。後、吸血鬼も結構すんでるらしいの」
「へぇ、炭鉱の町とは思えないですね」
「でしょ?実は、この町、いろんなところが魔法装置で動いてるんだ」
「その共鳴のせいで、変な音が出てるとか、ですか?」
「それはないです」

 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)がきっぱりといった。その後ろにいたアリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)は、ピンク色の流れる髪をきゅ、と掴みながら、もう一度辺りを見回す。浅葱 翡翠が彼女の顔をのぞきこんでいるのに対して、わずかに首を振る。

「先ほど、超感覚を持たれた方々にも聴いて回りましたが、やはり現状、音はしていないようです」
「そうなのですか……そうなると、コレはもう時間になるまで待つしかないんですね」

 絹屋 シロはアシャンテ・グルームエッジ宛に写メと調査状況のメールを打ち始めた。

「現状、騒音被害は動きなし。列車はやはり炭鉱の所有物の可能性あり。ただ、機晶姫の行方は知れず……と」

 メールを口に出しながら入力し終え時計に目をやると、そこには14:55と表示されていた。騒音被害が起こっているというのは、大体18時ごろからだという話だった。







「この炭鉱、ずいぶんと入り組んで作られていますのね」

 牛乳瓶底めがねをかけた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、イレヴン・オーヴィルが元町長から借り受けることに成功した探鉱の地図と、銃型HCを使いながら、あたりを見回した。石炭を運ぶためのトロッコがいろんな方向に伸びている。地図に載っている新ボタルガの町から入ってすぐの休憩所までの道のりを、難なく進んでいた。
 それも、あたりは掘られた洞窟なのだが、照明は魔法の力でいまだに灯りを湛えていたのだ。

「さっき貰った情報だと、この町魔法使いさんや吸血鬼さんが多いみたいだから、そのおかげか魔法装置が充実してるんじゃないかって」
「……だめ、やっぱり何にも聞こえない」
「誰もいないってことですか?」

 金色の巻き髪を揺らしながら、アナスタシア・グランシェリ(あなすたしあ・ぐらんしぇり)はユキヒョウの姿になったルーシー・ホワイトに聞き返す。彼女は首を横に振ると、炭鉱内を明るく照らしている照明器具を顎で差した。

「多分、光の精霊の類を使ってるんだと思うの。だから、ここら辺の気配とか、小さな音がはっきりとわからないわ」
「中は広い。それに、旧ボタルガのほうまで行けばまた違うかもしれない」

 アナスタシア・グランシェリに寄り添うように歩いているヴィンセント・シルバーバーグ(う゛ぃんせんと・しるばーばーぐ)はコピーされた地図を見ながらそうつぶやいた。一式 隼は歩みを止めると、足元のレールを調べ始めた。

「どうしたの?」
「……いや、トロッコのためにしては大きいなと思いまして」
「それは、この洞窟の中にボタルガ炭鉱の鉱物を運んだ列車があるからです」

 影野 陽太(かげの・ようた)は、地図を小脇に抱えてメモ帳を取り出した。そこには、イレヴン・オーヴィルから貰った情報も記載されていた。

「列車?」
「ええ、ここから他の町へ鉱物を運ぶために……いまどき珍しく、石炭を燃料としていたそうですよ」
「……聞こえるわ」

 ルーシー・ホワイトの耳がわずかに動いた。入り組んだ通路のうちの一本を選び、彼女は駆け出した。リシル・フォレスターはなにも言わずに駆け出したユキヒョウに声を荒げた。

「ちょっと、まってって!」
「歌が聞こえたわ!」
「歌ぁ?」
「隼が言った女かもしれないでしょ!」

 その場にいたメンバーは、互いに顔を見合わせてルーシー・ホワイトの後を追いかけた。曲がり角を道なりに折れると、そこに影からぬるりとした黒いスライムのようなものが沸いて出てきた。一式 隼と影野 陽太には見覚えのあるモンスターだ。一式 隼は薙刀を構え、影野 陽太はスナイパーライフルを構え弾を装填した。

「どうやら、ビンゴのようですね」
「やはり、アイツか」
「あ、あの! お二人だけ納得されていませんか?」
「理由は問わぬし、知る暇もない。行く手を阻むなら、斬る」

 ヴィンセント・シルバーバーグも己の光条兵器である大型の斧を取り出して、戦列に加わった。六本木 優希は驚いた様子だったが、後方でハルバードを構え援護に回ることにした。リシル・フォレスターやルーシー・ホワイトの周りもいつの間にか囲まれており、アナスタシア・グランシェリは騎士の盾と槍を持って二人の前に立った。

「後ろも戻れないようです。突破口を作ってください!」
「わかった」
「二度目なら、後れは取りませんよっ!」

 一式 隼と影野 陽太の言葉が切り込みの合図となった。







「………」

 神野 永太は首から提げているハートの機晶石ペンダントを見つめた。エル・ウィンドは不思議そうに小首をかしげていた。今彼らは飛空挺を使って移動している最中だった。地図を眺めている如月 佑也が、ラグナ ツヴァイに向かって口を開く。

「この先で間違いないのか?」
「はい、ボクの姉上センサーは今日も感度良好なのですっ」

 その言葉を聞いて、エルシュ・ラグランツは胸をなでおろした。エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は弟の銀髪を、優しくなでてやりながら、道中もただいどうするのでは芸がないと、行方不明になった機晶姫のリストを作って、それに目を通していた。

「それにしても、夢遊病にかかった機晶姫があんなにいたとはね」
「……夢遊病、本当にその通りです。ディオロスも、休んでいたはずなのに、急に起き上がってどこかへ行こうとする。そんなことが数回あったと思ったら、この事件ですからね」
「作為的な誘拐だったら、何か手がかりがありそうなのに、何で何にもないんだよぅ………ロス〜〜〜」

 ディオロス・アルカウスと特に親しかった少年の養子をしている魔女クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)にいたっては、まだ落ち着きがない様子だったが、一緒にいたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は軽くぽんぽんと頭を叩いてやる。エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は沈み込んでいるほかのメンバーをみながら、口を開いた。

「それにしても、何故夢遊病なんてものにかかったのでしょうか」
「兵器である機晶姫が、夢遊病にかかることなんてありえない」

 メシエ・ヒューヴェリアルは冷たく一蹴した。その言葉に、数人の顔がしかめられた。

「機晶姫たちは何らかの外的コマンドを入れられ、集められているのだろう。これから向かったところで、向こうの手の内にいないとは限らない」
「………可能性としては否定できない。集めた理由が、あいつらを兵器として扱う目的が大きいだろうしな」

 エヴァルト・マルトリッツは冷淡な表情で言い放った。だが、その瞳には怒りが含まれているのを他の誰もが見逃さなかった。

「ルーノちゃんが呼び出されたところをみると、人質兼、実験体なのは明らかだしな……まぁ、そんな簡単に人を洗脳できたりはしないだろう」
「機械仕掛けの人形だ。そんなに難しいとは思えないがな」

 その言葉に、如月 裕也が、神野 永太が、エル・ウィンドが、蓮見 朱里が、伏見 明子が勢いよく立ち上がった。

「アインは! 私の大事なこ、恋人です! 機械仕掛けの人形なんかじゃ、兵器なんかじゃありません!」
「ホワイトが作る料理は絶品だ! あんなにおいしい料理を作れるのが、人形だなんて失礼なことを言わないでほしい!」
「……言葉が過ぎたようだ。喧嘩をしたかったわけではない」

 メシエ・ヒューヴェリアルは肩をすくませてそういうと、船尾へと一人向かっていった。エース・ラグランツは代わりに頭を下げた。

「すまない。あれでも、心配はしてくれているんだ。ただ、プライドが高いからあんな物言いになってしまって」
「いや、いいんだ。本当に怒るべき相手は、多分これから逢うことになるからな」

 神野 永太はもう一度ペンダントを握り締めた。ペンダントに向かって、小さく呟いた。

「ザイン、聞こえたら、連絡をくれ」














「永太……?」

 燦式鎮護機 ザイエンデは、おもむろに目を覚ました。どこからか、神野 永太の声が聞こえた気がして、おそろいのペンダントを握り締めた。ホワイト・カラーが、その手を握り締め、ようやくここが知っている場所ではないと気がついた。

「あ、あ……本当におきましたっ」
「この歌が、皆さんを目覚めさせる手段になるのでありますか……」
「試してみましょう」

 御薗井 響子に促され、アイリス・零式は言われるがままにもう一度歌う。その後ろで、燦式鎮護機 ザイエンデはその歌を聴いて、不思議な旋律に自らも口ずさんで覚えようとしていた。

「うみゅう、なんだか悲しげな歌ですねぇ……」

 目を覚ましたのは、うさぎのぬいぐるみを抱きしめたパジャマ姿のラグナ アイン、ネノノ・ケルキックだった。彼女達もアイリス・零式のそばにいたというところから考え、歌を真似て3人で手分けして歌を聞かせて回った。

 ユニコルノ・ディセッテは頭を押さえながら、あたりを見回した。この状況がまだわからないらしく、顔をしかめている。フラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)に続いてアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)と、次々に目を覚ましていく。ロートラウト・エッカートが最後だったのか、その大きな身体を起こして、大あくびをする。

「ふぅああああああぁぁぁぁ。あれ? 皆なんでうちにいるの?」

 素っ頓狂な声を上げたロートラウト・エッカートの言葉で、その場の空気は一気に和んだ。本人はあれ? といいながら、辺りを見回してようやくここが自分の部屋ではないことを知った。

「……みんな、自分がどうしてここにいるのか分かるものはいるか?」

 長く眠っていたはずなのに、やけに重たくなっている頭を抱えながら、ディオロス・アルカウスは全員に問いかけた。その問いかけに答えられるものはおらず、口々に、「気がついたらここにいた」とだけしか言わなかった。
 ラグナ アインも身体のだるさが抜けないのか、大きなため息をついて座り込むと、うさぎのぬいぐるみが妙な感触なのに気がついた。背中のファスナーを開くと、その中にはハンドガンが入っていた。送り主のことを考えると、護身用のつもりだったのだろうか。装甲もなく、パジャマだけといういまの自分の格好ではありがたいプレゼントだった。フラムベルク・伏見も辺りを見回し、鍵のかかっていない扉を開こうとしたが、御薗井 響子に止められた。

「今が好機かわからない。もう少し……調査をしてみないと」
「この先に、何があるのかみてきたのか?」

 一つ頷くと、先に起きていたアイリス・零式と御薗井 響子は知りえた情報を周りと共有するために話し始めた。燦式鎮護機 ザイエンデの横でホワイト・カラーが一通り説明すると、ハートの機晶石ペンダントを見つめた。それに気がついて、今度はホワイト・カラーに聞き返した。

「……これが、どうかしましたか?」
「あ、いえ、あの……それ、大事そうに握っていたから」
「永太と、おそろいです」

 恥ずかしげもなくそう言った燦式鎮護機 ザイエンデを、ホワイト・カラーは眩しそうに見つめた。無意識に、自分のペンダントを握り締める。

「いいですね。パートナーと、そういう強い絆を持っていられるなんて」
「……これは、形に過ぎません。ただの石です。本当の絆は、」
「ここにありますよ」

 ラグナ アインがその話に割って入ってきた。青い髪の機晶姫は、胸に手を当てた。にっこりと笑うその笑顔にホワイト・カラーはつられてしまった。ペンダントをもう一度握り締めた。
 
「助けに……来てくれるかな。一番大事な人じゃなくっても、助けに、きて……」
「大事じゃない人と、パートナーになれるわけがない」
 
 ユニコルノ・ディセッテはホワイト・カラーの肩に手を乗せた。和やかなその雰囲気を遠巻きに眺めていたアイン・ブラウははっとして、携帯電話を取り出した。パートナーであるなら、できることがあったのをいまさらながらに思い出したのだ。

「……朱里? 聞こえるか?」
『アイン?』

 電話の向こうからは、愛しい少女の声が聞こえる。安堵したように男性型の機晶姫は一息ついた。







「ザイン!? ザイン!?」
「どうしたんだ?」

 エル・ウィンドがペンダントに向かって声をかけている神野 永太の不振な様子に驚いて声をかけるが、本人は必死に首から提げているペンダントに呼びかけている。明らかに、胸ポケットに入っている携帯電話から声が聞こえた気がしたのは、自分の胸のうちにしまっておこうとエル・ウィンドは思った。

「ザインの声が聞こえたんだ! 想いが……通じた、のかな……」
「想い、か……」
「アイン? アイン、無事なのね! よかったぁ……」
「ディオロス!」
「姉上!」
「ツヴァイ! 俺の携帯を奪うなっ!」

 機晶姫をパートナーとするメンバーは次々に入ってくるパートナーからの連絡に喜びの声を上げていた。それを遠巻きにみていたのはゲー・オルコット(げー・おるこっと)ドロシー・レッドフード(どろしー・れっどふーど)だった。

「この分だと、仲間は増えなさそうですね」
「まだまだ、希望は捨てちゃいけないぜ。どこかのはぐれ機晶姫が、主をなくして困っているかもしれない。そこで「パートナーにならないか?」と聞くわけだ」
「可能なら美少年型でお願いします。美少女は間に合ってるので」

 ドロシー・レッドフードの言葉に、ゲー・オルコットはすこし呆れたようにため息をついた。

「そう、あんたは周りを手伝いなさい。逃げられそうなら、とにかく外を出ること。いいわね? ……ちょっと、聞こえてるの?」

 伏見 明子の問いかけに、フラムベルク・伏見は応答しなかった。サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)はいぶかしがって、伏見 明子から携帯電話を借り受ける。

「あー、ゴホン、喧嘩相手がいないと張り合いがないから、さっさと自力で出てきてくれるとうれしいんだけどね?」

 そういう嫌味にも反応がなかった。だが、今度はサーシャ・ブランカが固まってしまった。伏見 明子はは不思議そうにその顔をのぞきこんだ。耳がぴくぴ動いたかと思うと、急にうずくまって苦しみ始めたのだ。

「サーシャ!? どうしたの!」
「……聞こえるな」

 メシエ・ヒューヴェリアルは小さく呟いた。