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リアクション
16:00 救いの手
「………………………」
「………………………」
「………………………」
数人の機晶姫が、黙り込んでしまった。目の色はまるで光を失われていて、アイリス・零式は声を張り上げて歌ったが、効果が薄かった。後について燦式鎮護機 ザイエンデやラグナ アインも歌声を重ねる。だが、何度繰り返し歌っても、機晶姫たちの目の光は戻らなかった。燦式鎮護機 ザイエンデは空腹のためうまく歌えないせいだと判断した。
「く、こんなものを背負って歌っているからエネルギー消費が歌唱に回らないのですっ!」
そういうが早いか、背中に背負っている六連ミサイルを水平に構えると、壁に向かってはなった。
ドゴゴゴーーーーーーーー
「うむ」
「いや、うむではないでありますっ!?」
轟音を伴って開いてしまった穴に負けないくらいの大きな口を開けてアイリス・零式がびっくりしていると、その騒音のせいか機晶姫たちの目の色に光が戻った。何度も瞬きをしているものたちを尻目に、全く違う声が洞窟内に響き渡った。
「皆、助けに来た!!」
燦式鎮護機 ザイエンデがミサイルで貫いた穴の先……そこにいたのは、赤い髪、赤い瞳を持った褐色の肌をした大人びた容姿の機晶姫、ルーノ・アレエだった。微笑を湛え、両腕を広げている姿に見知ったメンバーは安堵の息を漏らした。扉の近くにいた二人に、彼女は声をかけた。
「アイリス・零式、ラグナ アイン、早くここを出よう」
その言葉を聞いて、ラグナ アインは顔をしかめた。にっこりと微笑む親友の姿に、何か違和感を感じた。彼女の胸元を見た。初めて出逢ったときに、勝利のためのお守りにと贈った、自分とおそろいの黄色いガーネットのペンダントが……なかった。自分の胸元にあるペンダントを握り締めると、こわごわ口を開いた。
「ルーノさん?」
「どうしたんですか? ラグナ アイン」
「……以前お逢いしたとき……私のことは、アインと呼んでくださいと……いいました、よね?」
恐る恐る聞くと、ルーノ・アレエの表情は不気味な笑みへと変わり、その姿は見る見るうちに黒いスライムへと変化して溶けていった。
『フン、完全体のくせにプログラム以外のことをやるとは……だから教育係をやつに任せたのは失敗だったのだ』
どこからか、しゃがれた男性の声がする。それが目の前のスライムから発せられているのだとは思えないような響きがした。その場にいたものたちはすぐさま武器を構えた。スライムは影からどんどん生まれてくるようで、すぐに足元を埋め尽くしていった。ディオロス・アルカウスは武器を足元のスライムに打ち付けた。スライムはすぐに影に解けていく。
「く、あわててはいけない! 量は多いが弱いですよ!」
「スライムだけなら突破できるはずだ!」
ロートラウト・エッカートが走行が薄そうな仲間の盾になりながら、アイン・ブラウが先陣を切って出口へと駆け出す。その後をユニコルノ・ディセッテも追い、道を広げていく。ネノノ・ケルキックが星のメイスでできる限りスライムを叩き潰していくなか、しんがりを勤めたのはラグナ アインだ。ハンドガンしかなく、先陣を切れるほどの装備を持っていないためだった。
「皆さん、はやく!」
御薗井 響子が可能な限り見て回ったあたりを案内するが、あまりにも入り組んでいる鉱山の中は出口がわかりづらかった。何とかたどり着いた先は、どこまで続いているかわからない大地の裂け目がある場所だった。レールこそしかれているものの、ほとんど身体が重い機晶姫の集まりでは、そのレールが落ちないとも限らない。
「万事休す……か」
『見つけた!』
燦式鎮護機 ザイエンデのペンダントから、また声が聞こえた。声の主は、神野 永太だった。
「いや、携帯電話で通じ合ってると思うんだが」
如月 裕也はこっそり突っ込んだんだが、本人には聞き取れないらしい。一式 隼たちが先陣を切っている後ろに、パートナーを探しに来た一団が駆け込んできた。レールの向こうがわで立ち止まると、おのおのパートナーの名前を叫び始めた。
「アイン!!」
「アインっ!」
「朱里!」
「裕也さん! ……あれ? 同じ名前なんですね〜」
ラグナ アインはいまさらながらそんなことをアイン・ブラウに言い出すと、お互いになんだか照れくさそうに握手を交わして「よろしくお願いします」なんて話し始めていた。
「いまはそんなことをしている場合じゃないだろうが!!」
「ロートラウト!!」
如月 裕也のツッコミをすり抜けてエヴァルト・マルトリッツはその名を呼んだ。怖気づくことなくレールの上を駆け出していき到着すると、ロートラウト・エッカートをその勢いのまま抱きしめた。普段なかなか見られないパートナーの行動に、ロートラウト・エッカートは目を丸くした。
「え、え?」
「おとなしく留守番をしていろと言っておいただろうが……」
「あ、の……ごめんなさい」
素直にそう返事をすると、暖かなエヴァルト・マルトリッツの腕にしっかりとしがみついた。ディオロス・アルカウスに同じように抱きついたのはパートナーのエルシュ・グランツ……ではなく、クマラ・カールッティケーヤだった。
「ふええぇぇぇっ……ロス〜……またいなくなっちゃうのかと思ったよぉ〜」
「はい、すみません……」
『感動の再会か。いやぁ、いいものだね』
洞窟内に、不気味な笑いが響き渡った。数人の老人の声が合唱するかのように、幾重にも重なる笑い声が聞こえた。老人の声だけが響き渡ると、洞窟の奥からゴロゴロとカートの音が響いてきた。その方向を見ると、フードを目深に被った女性と、数人の従者らしきものたちが現れた。従者達は四角い青色に光る装置をカートに載せて運んでいた。
「アンナ・ネモですね!!」
影野 陽太は武器を改めて構えなおして問いかける。女性は不思議そうに小首を傾げると、従者の一人が「以前使った偽名じゃないですか?」と囁いているのが聞こえた。
「ああ、確か、ディフィアではそう名乗った気もするわ」
「またルーノ・アレエを狙ってきたのか」
如月 佑也が武器を構えると、アンナ・ネモと以前名乗っていた女はクス、と小さく笑った。
「偶然の結果、だけれどね」
「その装置を動かすと、超音波が発生し、犬や蝙蝠たちを混乱させ……」
「その波長が何故かいく人かの機晶姫を夢遊病状態にし、その音があるここへおびき寄せる結果となった」
「運よく大量の機晶姫を手に入れ、今は使われていない列車を利用して運び込んだはいいが、その中にほしい機晶姫はいなかった」
「「おおかた、そんなところでしょう」」
高村 朗と四条 輪廻はまた別の通路から姿を現した。その推理を後ろで聞いていたアリス・ミゼルはああ、とようやく納得したように手を叩いた。
「なるほど。だから幽霊列車を調べるって行ってたのにワンコのところに」
「クス、探偵の真似事、というわけかしら?」
「真似事なんかじゃない! コレは立派な……探偵ごっこなのだ!」
洞窟内に響き渡る声でそう言い放ったのは、桐生 円だった。神倶槌 エレンとプロクル・プロペら助手を連れてフードの女の背後を取った。
「その壮大な悪の計画を、打ち滅ぼしに来た! ま、ボクに比べればかわいいものだけれどね」
「……勘違いしているようだから言うけれど、コレは計画でもなんでもないわ。ただの偶然」
「じゃあ教えてください! 何故その音色がルーノさんの歌と同じなのでありますか?」
アイリス・零式がそう問いかけると、その場にいたものたちは皆頭に疑問符を浮かべた。
「え、え? 皆さん、何が聞こえていたんでありますか?」
「……ふふ、あなたにはちゃんと歌に聞こえていたのね」
フードの女はくすくすと声を上げて笑うと、四角い箱の中から穴の開いた紙を引っ張りあげた。全て引き抜いてから、さかさまにそれをまた箱の中に入れる。
そうすると、流れてきたのは先ほどアイリス・零式たちが歌っていた歌だった。
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