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謎の古代遺跡と封印されしもの(第1回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第1回/全3回)

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第二章 ――遺跡内部 第三層――

・図書館 三階

 図書館らしきスペースは三階建てになっていた。中央は吹き抜けになっており、三階、二階からは一階を見渡せるようになっている。学生達がそれぞれ灯をともしていることから、このフロアの構造を掴むのは比較的容易だった事だろう。
『こちらは藤原 すいかです。仲間の調べによると、入口のある階層のさらに上があるようです。他、隠し通路や罠といったものは現在発見されていません』
 トランシーバーからはそのような内容の報告が流れてきた。
「ふーん、なるほどねぇ。この遺跡も一筋縄じゃいかなそうだ」
 三階で書物調査をしている東條 カガチ(とうじょう・かがち)は声を漏らした。その手にはトランシーバーが握られている。
「他の場所も大変そうですね。オレ達はうまく気配を隠して早くここまで来れたからいいようなものですが……それでも、なかなかはかどりませんね。ほとんどまともに読める古文書がありませんし」
 カガチの声を受けて答えたのはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)である。彼らはスキルやブラックコートに身を包み、早い段階でここまで来れたのだ。
「これなかった人のためにもー……ひっそりこっそりーっと、おもち帰りだよぅ? って思ったんだけど、みんな結構目ざといんだねぇ。下の階にはあんなに人がいるよぉ」
 佐々良 縁(ささら・よすが)もまた答える。ちょうど吹き抜け部分から、こっそりと下の階の様子を窺っている。
「もしかして、下の方が重要そうな本があるって事でしょうか? この三階部分はオレ達以外にあまり人がいませんよ」
「よし、だったら早く行かないとねぇ」
 吹き抜けに駆けだしていこうとする縁。
「あねさん、んなことしたら怪我どころじゃ済みゃあしませんぜ」
 慌てて彼女のパートナーの蚕養 縹(こがい・はなだ)が止めに入る。
「ははは、冗談だよぅ」
 その時、カガチが口を開く。
「どうだろうなぁ、リュース君、縁ちゃん。遺跡は下に行くほど重要って先入観はあるだろうよ。でも、元々地上にあったんなら、上の方に重要なものがあるんじゃないかねぇ? おっと、おねえちゃん、何か分かったかい……っと読書中だったか」
 彼はパートナーの一人、エヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)を見遣る。彼女は足元に本を積み上げ、一冊ずつ内容を確かめているようだった。持っているものを読み終えたタイミングで、カガチに答える。
「ダメです。読めるには読めるんですが肝心な部分が消えてしまっていて……これ全部ですよ」
 彼女は困惑するような素振りを見せる。文字そのものは読めるのに、意味を完全に理解出来ない事が悔しいのだ。
「ここまでくると、わざと読ませないようにしている気がしてきますね。シーナ、そっちはどうですか?」
 リュースはパートナーのシーナ・アマング(しーな・あまんぐ)に目を遣る。
「漠然とした内容のメモならここにあります。本棚の写真も何枚か撮りました。でもなぜか全部ボケてしまうんですよ」
「全部、ですか。だとするとやはり……」
 深く考えるような素振りを見せつつも、それらの方を懐へ忍ばせる。
「分からないようなら持ち帰っちゃってあとで解読だよぅ……あれ、皐月、どこ行った〜?」
 縁は近くにいたはずのパートナー、佐々良 皐月(ささら・さつき)がいなくなっている事に気づいた。
「しまった私(わっち)がさっき目を離しちまったせいで」
 ほんのわずかだが皐月から視線を逸らしてしまっていたことを思い出す。
「あれ、なぎさんは何処だ……ってああ良かったいたいた」
 カガチのもう一人のパートナーである柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)もその場から動こうとしていたが、彼はそうなる前に見つける事が出来た。
「そろそろ本読むの飽きたー、だからちょっと他の場所も見てきますー」
「まあ、ある程度横りょ……いやいや、調査のために拝借出来たことだし、少し移動するかねぇ」
 おそらく小一時間以上はそこで書物を調べていた事だろう。それでも、三階にあると思われるもののごく一部なのだ。
「おや、あれは……」
 吹き抜け部分を挟んだ反対側、薄暗いながらも小柄な人影をリュースは発見した。シルエットからして、縁のパートナーの皐月のようである。
「あれ〜、あんなところまで行っちゃったんだなぁ。よし、追いかけるとするかねぇ」
 彼女達は持てるだけの本を抱え、吹き抜けの反対側へ駆けて行った。

「皐月お嬢〜!」
「あー、はなちゃん!」
 なんとか皐月に追い付く一行。走った事もあり、まずは近くの本棚から本を取り、腰を下ろす事にする。
「よかった、この広さじゃはぐれたら見つからなくても不思議じゃないもんねぇ」
「走ったとはいえ、ここまで結構な距離ありましたよ。途中、道が途切れてなかったのが救いです」
 リュースが息を切らしながら声を発する。吹き抜けの外側はそのまま一周出来るようになっているらしい。また、室内には下の階への階段が二カ所ある事が分かった。吹き抜けの両端の螺旋階段がそれだった。
「見つかって良かったですねえ……って皐月お嬢、だからよぅそっち行かねぇでくれよう」
 一息つこうとしたものの、皐月はまたふらふらとどっかへ行ってしまいそうになっていた。
「あっちの隙間がなんか怪しんだよー」
 使い魔のネズミを使役し、本棚や壁の細い隙間を彼女は調べているようだった。
「まぁ、ちょっと休んだら調べようかねぇ。おや、あれは何だろな?」
 縁は壁を見た。皐月の光術で映し出されているそれを見る。
「魔法陣、かねぇ。そういえば、かがっちゃんが貸して貰ってるそのトランシーバーからもそんな事言ってる声聞こえてきてたっけ。よし、写真、写真と」
 縁は携帯電話を取り出し、カメラモードにして撮影をし出す。
「この模様、ここに来るまでにも所々で見かけましたね。ただの飾りだとは思えませんが……シーナ、どこ行くんですか?」
 その場を離れようとするパートナーをリュースは止める。
「あそこに一冊だけ収まってる本が気になりまして」
 見ると、壁沿いの本棚の中段にぽつんと収まってる本が目に留まった。カガチのパートナーのなぎこがすたすたとそこへ歩いて行く。
「あれ、この本背表紙に何も書いてありませんねー。あれ、ひっぱり出せないですねー」
「なぎさん、引っ張ってもダメなものは無理に引っ張らないでくれよぉ」
 カガチが彼女を制止する。
「わかりましたー、引いてダメなら押してみろですー、えいっ!」
「って何やってんだなぎさああああん!! しかも普通押してもダメなら引いてみろだろおおおおお!!!」
 カガチの叫びも空しく、がこんと音を立てて、本は奥へと押し込まれた。
「これ、絶対何か起こるよぉ。今なんか音したって」
 カガチはわずかに動揺している。
「かがっちゃん、落ちついて落ちついて。こういうときは……それ」
 今度は縁が、先刻なぎこが押した本を引っ張る。
「いやもう遅いだろおおおおおお!」
 しかし、これといって何も起こる気配はない。
「……何も起きませんね」
 リュースが口を開く。
「ほんとねぇ。やっぱり引っ張ったおかげで解除出来たのかなぁ」
「縁さん、多分違いますよ」
 見ると、彼女の手には引っ張った本が握られていた。
「うわ、あの本出せたよぉ。なんで?」
「押して引っ張ったら棚から出せるって仕組みだったんじゃないですか?」
 よくは分からないが、収穫はあった。それまでの古文書よりは状態がいい。
「まずは読んでみるとしましょう」
 落ち着いた様子で、リュースはそれを開くよう縁に促した。
(トラップか仕掛けが発動すると思ったんだが……ダミーだったみたいだねぇ。いやあ、びっくりした)
 カガチは何事もないと知ると、ほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、この時の仕掛けは異なる場所で確かに発動していたのだ。