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リアクション
第四章 ――遺跡内部 第三層――
・図書館 一階
「なんとかここまで来れましたね。古代シャンバラ王国があったという地でのこのような遺跡です。何やら上階には兵器らしきものの情報があったようですし、このフロアにも何らかの情報、特に俺が求めているものがあると良いんですが……」
樹月 刀真(きづき・とうま)は淡々と呟きながらパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を見遣る。
「……上よりも本がたくさんある」
彼女は目を輝かせながら本棚を見渡している。二階、三階も決して少なかったわけではないが、この階のものが最も多く見えたのである。
「そうですね。下に来るにつれて次第に増えてるように感じますね。あまり上の本は確認出来ませんでしたが……ここが学校や図書館でも無い限り揃えてある古文書には偏りがあるはずです、魔法の研究所なら魔法の本が多くそろえてあるようにね」
まだ彼らはこのフロアの本の傾向は掴んでいない。二人は手分けして探す事にした。
「周囲の人も特に変わりありませんし、荒事になる可能性は低いと思いますが警戒はしておきましょう」
「……本のことなら、任せて」
役割としては、刀真が周囲の様子を見ながら、月夜が古文書を読んでいくということのようだ。
(上に兵器関連の書物があったようですし、実験記録とか残っていたら分かりやすいんですけどね。おや、あれは……)
彼の目は同じフロアにいる顔見知りの姿を発見した。アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)である。
「アリア」
その呼びかけに彼女は応じる。
「あら、あなたもここを調べてたの?」
「ええ。厳密に言えばこれから、ですが。何か分かりましたか?」
自分より先にいたのだから何か掴んでいるかもしれない、と刀真は考えていた。
「まだ私もそんなに長くいるわけではないから……でもここはほんとに図書館なのかしら?」
アリアは首を傾げた。
「何冊かほんとに微妙になんだけど、読める本があったのよ。意図したように読めなくなってるのが多いんだけどね。でも、普通の人が読む本にしては物騒な単語が多いのよ」
彼女が見た単語は、兵器の使い方に関わるもののようだった。何かの技術についてではあるらしいが、普通の図書館にそこまで専門的な書物があるのか、疑問だったのだ。
「それに、図書館ならカウンターか司書室のような場所がフロアのどこかにあるでしょ? それが見当たらないのよ」
もし、ここが古代に一般に開放されていた図書館であるなら、必ず借りるカウンターがあるはずだ。それが無人で何らかの技術を使っているにしても、有人で司書が扱っていたとしても。
「それは妙ですね。ということは、これだけの規模にも関わらず公の施設では無かった、という可能性も出てきますね」
「うーん、もう少し何か出てくればいいんだけど……」
なかなか手掛かりというのは見つからないらしい。
「月夜、どうですか?」
「……」
呼びかけるものの、反応はない。よく見ると、読むのに集中し過ぎて何も聞こえていないようだった。しばらくして視線に気づく。
「……大丈夫、ちゃんと調べてるから」
と、一言だけ告げ、また視線を書物に落とす。刀真はその様子に慣れているせいか、それほど気にかけてはいない。すぐに目線をアリアに戻した。
「俺はもう少し調べてみます。何かありましたら、また」
「ええ、情報は多い方がいいからね」
二人は各々の調査に戻る事にした。
その近くの本棚では魔道書を探そうとしている者がいた。
「古代の魔術が記された本……ここまでに見てきた魔法陣からして、きっとここにはそれがあるはずです」
ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)である。フロアを歩きながら本棚の中にある書物を物色していく。
「姉さん、無茶しちゃダメですよ。ミーレスもうろうろしないでちゃんとついて来るんだよ」
その様子を心配そうにしているのは、パートナーのシャロット・マリス(しゃろっと・まりす)である。
「大丈夫よ、この辺りは分かりやすいから迷わないもん」
もう一人のパートナーのミーレス・カッツェン(みーれす・かっつぇん)もまた一緒に探索を進めている。女性二人は楽しげな様子だ。
「うふふ、この棚は怪しいですね……っと。ほら」
ランツェレットは一冊の本を見つけた。その表紙には遺跡の中で何度かみた模様が描かれている。
「上にある本は博識をもってしても完全に解読することが出来ませんでしたからね。これならいかにもって感じですし、なんとか読めるかもしれません」
「博識をもっても読めないってだけで他の本も怪しいとは思いますよ。あと、開いた瞬間に魔法が発動するような魔道書だってあるんだから、気をつけて下さい」
シャロットは警戒を緩めない。
「ミーレス、これ大丈夫そうですか?」
「大丈夫だよ、姉ちゃん。何も感じないから」
もしそれが罠であるなら、彼女が気付くはずである。また、何か不穏な気配があれば嫌でも警戒する事だろう。
「それでは……あれ、開きませんね。これといって魔力で封印されているような感じはしませんが……」
彼女の手にした本は、他のフロアでも数冊発見されている開かない本であった。
「これで三冊目ですか。一体この本は何なのでしょう。もしかすると、同じ古代の魔法でなければ読む事すら敵わない秘術の記されたものなのでしょうか」
本それ自体が魔力を発していないという事は、外部からの何らかの力でなら読めるようになるかもしれないと考えたのだ。
「仕方ありません。これも回収して、まずは読める本を探しましょう」
「上から順に見てきたけど、ここもすごい人ね。早くしないと貴重な本が無くなっちゃうわ」
「でもまだ古文書はたくさんあるみたいだぜ? こりゃ一冊でも多く持ち帰らないとな」
フロアの中央付近、上階では吹き抜けに当たる場所で周囲を見渡しているのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とパートナーのドラゴニュート、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だ。
「それだけきゃない。こんなに綺麗な遺跡だ。絶対に何か秘密があるに違いない」
「だけど、なんでこんなところがずっと見つからずに埋もれてたのかな? 突然現れたのは偶然、それとも何か“時期がきた”のかしら?」
五千年もの間隠されていたには不自然過ぎる遺跡。そこに彼女も疑問を感じているようだった。
「ダリル、どう思う?」
もう一人のパートナー、男の剣の花嫁であるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に問いかける。
「これだけの施設がほぼ昔のまま残ってるのには違和感しかないな。砂漠の中、地下深くとはいえまるで朽ちているような気配はない。まあ、この時代で言えば傷んでるとは言えるのだろうが」
手に取った書物を開きながら彼は答える。
「それにだからこそ逸るのも分かる。未知の魔道書や古代遺跡に浪漫があるのは、否定しない。俺だって古代文明が作り出した生物兵器種族だしな」
「上には兵器に関する書物もあるみたいだったぜ? もしかしたら、剣の花嫁の事も何か分かるのかもな」
真剣にダリルに対して言うカルキノス。
「そんな真面目な顔をするとはな、カルキ」
ルカルカの三人目のパートナー、夏侯 淵(かこう・えん)は意外そうだという様子でカルキノスを見た。
「こう見えて俺も長く生きてるからな。こういうもんには思いを馳せたくなるもんだ。ま、美味しい物にも勿論目がないけどなあ」
「あ、ルカルカのチョコバーが」
ルカルカが持ってる食べ物を掴み取る。
「なんだ、結局はいつも通りか」
安心したような、呆れたような風に淵は呟く。
「ま、とにかく調べましょ。なんだかすっごいのがある予感がするからね」
彼女達はそれぞれのやり方で探索を開始する。
「よし、せっかくだし情報交換しながらいこうかな」
ルカルカは近くの人達と協力するようだ。
「何か読めそうなもの、あった?」
同じように本を探しているアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)に声を掛けた。
「全然よ。古代シャンバラの本であることに間違いはないと思うけどね。誰か分かる人がいればいいんだけど……」
二人とも、古代シャンバラ語を解読する事は出来ないようだ。
「読めなくても、地図みたいに絵とか書いてあるものなら中身を推測出来るんだけどね。そういえば、この建物自体の地図とかってのはないのかな?」
ふと疑問に思ったことをルカルカは口にする。
「多分ここにはないと思いますよ。同じ施設の本棚に入れておく必要はきっとないと思いますから」
彼女の質問を偶然に耳にした赤羽 美央(あかばね・みお)が自分の思っている事を伝える。
「ここが書庫なら別ですが……この様子だと、書庫には変わらないでしょうが少し大雑把過ぎるようにも思えます。あ、古代シャンバラ語でしたらジョセフが解読出来るかと」
美央はパートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)を見遣る。
「お任せ下サイ。ミーの博識でなら解読出来るはずデス」
彼は得意げに応える。
「今、何冊か持ってるけど、いいかしら?」
アルメリアが数冊あるうちの一冊を手渡す。ジョセフはそれに目を通し始める。
「今の話だと、この遺跡に関する本もどこかにはあるって考えるみたいだね? 検討はついてる?」
ルカルカが美央に尋ねる。
「もしかしたらどこかに地下室があるかもしれません。本棚の下に隠されているか、あるいは壁に隠し扉があるか……」
「なるほど、それは有り得るわね。古文書と一緒にそれも探してみようかな」
彼女達は本棚や壁なども細かく調べていく。
「こういうのはルカルカ向きだね」
ローグであるルカルカには、隠し通路や貴重なものを探すのはおあつらえ向けだった。少し経つと、表紙に魔法陣が書かれたいかにもな分厚い本が発見された。
「魔道書っぽいね。開かないのは、魔法によるロックがかかってるからかしら?」
ただ、彼女のスキルをもってもこの点は解決出来なかった。
「きっとそうでしょう。それに、本そのものに魔力はないみたいですね。ジョセフ、解読はどうですか?」
美央はジョセフに聞く。アルメリアの本を受けとってずっと解読に集中していたのだ。
「うーん、どうにもダメですネ。これは書物というより、何かの実験のレポートのようデスガ……それがどういうものかまではまるで分かりマセン」
悔しそうにするジョセフ。
「そう……でも実験という事は、何かを作っていたのかしら? もしかしてここって研究所?」
「研究所にしては本を保管するスペースが広過ぎる気がします。もしかしたらカムフラージュかもしれませんが……かえって謎が深まりますね」
考えれば考えるほどに分からなくなってしまうようである。
「ん、あれは何かしら?」
天井を見上げたルカルカが声を発する。
「天井に何か模様があるみたいだけど、暗くてよく見えないんだよね」
いくら目が慣れてきていても、三階上にあたる天井を目視する事は出来ないようだ。
「誰か光術を使えるか、光精の指輪を持ってる人がいれば……カルキ、どう?」
その場に条件を満たす者がいるか、ルカルカは確認する。パートナーのカルキノスは光術を使えるようだ。
「ダメだぜ。さすがに天井は遠過ぎて照らせやしない」
光術の射程範囲では無理であった。
仕方なくここは諦め、彼女達は探索に戻った。
***
「これ、本の残骸かしら?」
図書館一階の南側、ちょうど一番広い通路との境に関谷 未憂(せきや・みゆう)とパートナーのリン・リーファ(りん・りーふぁ)はいた。
「この階にはかなりの蔵書が残ってるみたいね。どんな本があるんだろう……読める本があるといいな」
呟きながら近くの本棚から探し始める。
「落ちてる古文書全部集めてまとめたら、一冊の本になったりしないかな。ほら、こういう紙片自体、パズルみたいじゃない?」
リンが言う。
「もしかしたらそうかもしれないわ。でも、一つ一つ見るよりもまずは全体的にどんな本があるか探すのが先よ」
一応メモくらいは取るものの、あまり詳細には調べはしなかった。
「じゃあ、タイトルだけでもざーっとチェックしてみるよ」
リンは箒に乗って隅々まで見て回るようである。
(誰かが何か知ってればいいんだけど……高崎先輩も来てるみたいだし。近くにいないのかな?)
だが、その高崎 悠司が遺跡の中にまだ足を踏み入れてない事を彼女は知らない。
ちょうどその時、同じように本を調べている人と出くわした。ランツェレットである。本について何か知っているかもしれないため、お互いに話すことにした。
「じゃあ、その本はなぜか開かない、ってことなの?」
「そう、魔道書だとは思いますけどね。全般的には武器とか兵器に関するものが多いみたいですよ」
「うーん、蔵書記録がどこかにあればある程度どんな本が集まってるか分かるのに……」
本当の図書館なら蔵書記録くらいありそうだが、この遺跡ではそれは見つかっていない。それどころか、彼女達はまだ気付いていないが司書室やカウンターすらないのだ。
「みゆう、ダメだよー。タイトル見てきたけど読めないのばっかり」
「困ったわねー。あれ、リン何持ってきたの?」
リンは紙片を手に持っていた。落ちていた本の一部らしい。
「あら、これなら読めます。日記……いや、記録の一部みたいですね」
ランツェレットが解読していく。
「えーっと、『……は失敗。これで……例目である。この実験における……は危険……封印する』。全部は読めませんがこれは……実験のレポートです。それも失敗した」
驚きの色に染まる表情。その場の者達が深刻な表情になる。
「これがこの遺跡の事だったら、ここはただの図書館ではないってことになるわね……」
未憂は様々な可能性を推測し始めた。
「もしここが研究所や実験場のような場所なら警戒を強めた方が良さそうですね。しかもこういう魔道書のようなものもあります。魔力を使った非合法な実験が行われていたかもしれませんね」
ランツェレットは紙片を読み終え、ますます険しい顔をする。
「なんだかほんとに秘密基地みたいだね。これは悪い事してた場所かも」
リンは口調こそ子供っぽいが、その目は真剣であった。
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