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雪下の幻影少女 

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雪下の幻影少女 

リアクション

【6・予想外の衝突】

 先程の声を放った主は赤羽 美央(あかばね・みお)だった。
 彼女は小型飛空艇で旋回し、雪の巨人の周りにいる生徒達へと続けて声をかけ続ける。
「迷える雪の旅人よ、こんにちわ。【雪だるま王国】の女王、赤羽美央です。今ここに【雪だるま王国】建設を宣言します」
 え? 雪だるま王国ってなに!? という言葉がそこかしこから漏れる。
「さて、雪の巨人迎撃にきた人たちに提案します。雪の巨人を我らが愛する雪だるまにしたいので、胴体と頭への攻撃は控えて欲しいのです」
 ざわざわという声は収まるどころか広がっていく。
「とは言え、このまま雪の巨人を放置すると蒼空学園と衝突し、雪の巨……蒼空学園に被害を与えてしまうでしょう」
 今明らかに、雪の巨人の方を心配したよなぁ!? と思う一同。
「且つ、この巨人は手足が生えている。これは、雪だるまとしては由々しき事態です。蒼空学園の被害よりも大切な事です」
 本音出した! あっさり本音出したよこの人! と憤る一同。
「……なので、手足のみの攻撃を許可します。移動力さえなくせば蒼学は無事でしょうから文句ないでしょう。作戦に協力してくれた人には私特製の雪だるまを進呈します。ただし、それ以外の部分に攻撃をするような輩を確認した場合……我が雪だるま王国民達によって制裁を受けていただきます」
 そして、美央が指で示す先には彼女に協力しているらしき十数人の生徒の姿があった。
 これはもう提案じゃなく脅迫めいてる! と呆れる一同。
「そもそも、雪の巨人に悪気はない。ただ歩いているだけなのです。それを殺す事こそ、野蛮な行為であると言えませんか?」
 今更のように平和的な主張されてもねぇ……と困る一同。
「それでは、皆に雪だるまの加護があらんことを」
 提案が終わるや、美央はそのまま巨人の頭上まで飛んでいき、いつの間にか作っておいたらしい雪の椅子に座るのだった。その姿はまさに女王のごとくで、側にはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が控えていた。
 彼女ら以外のほとんど全員が呆気にとられながらも、なんだか奇妙な熱意が美央にあるのを感じていた。
 だが作戦遂行中の十七人にとっては、せっかく立てた計画がおじゃんにされるのに納得がいかないのも事実だった。
「冗談じゃないわよ! せっかく遺憾なく燃やせる相手が目の前にいるのに、これ以上おあずけされるなんてまっぴらだわ!」
 特に、巨人を殲滅したいジルは明らかに不満の声を上げていた。
「まあまあ、そう邪険にしないで」
 そこへ別の小型飛空挺が近づいてきた。乗っているのは音井 博季(おとい・ひろき)と、そのパートナーの西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)
「考えてみて下さい! 巨大な雪だるまなんてその後の話題にもなると思いませんか?」
「いいわよ、博季。頑張って〜」
 目をギラギラさせての熱弁に、思わずたじろぐジル他生徒達。
「なにより全員参加して作る巨大雪だるまなんて面白そうじゃないか! こんな経験滅多にできないのは間違いないのは明白! それに、えーと、それに……」
 と、言葉に詰まりかける博季に、サッ、と幽綺子から何か紙切れが手渡された。明らかにカンペとわかるそれを博季は、
「そう! こんな巨大雪だるまを作れたなら、きっと学園の人気者になれますから!」
 躊躇無くそのまま読んで熱弁を続ける。
 が、そのときせっかくの氷術での足止めされた右足がギシギシと氷を砕いて動こうとしていた。巨人と蒼空学園までの距離ももう500メートルをきっており。ぐずぐずしている場合でないのは明白だった。
 現に、小型飛行艇で既にパートナーと共に上空より接近済みの和輝は、
「シルフィー、私はこのまま予定通り後方につけて攻撃を始めます」
 そう切り出していた。
「いいんですか? なんだかややこしいことになってきてるみたいですわよ?」
「途中でやめるわけにもいきませんし、そこまで利害が分かれてるわけでもないでしょう。なるようにはなる筈です」
「……わかりましたわ」
 そして和輝は光条兵器である『アマツヒカリヤエハ』という全長2mで柄が40cmもある両刃剣を抜き放ち、しかもそれを片手で振りかぶり。そのまま飛空挺の勢いを利用し、両肩から巨人の後方に雪の塊を落とす感じで叩き割る様に攻撃を行っていく。
 だがその直後、
「貴様ら、攻撃を中止しろ!さもなくば……斬る!」
 いきなり鬼崎 朔(きざき・さく)から声がかけられた。どうやら、肩の近辺も腕以外の胴体部分とみなされたらしい。
 光条兵器を維持中のクレアは不安げに和輝に視線を向けるが、和輝の方とてやり始めた以上は簡単に止めるわけにもいかず、肩、背中とどんどん雪を割り続ける。
「赤羽さんの……可愛い子の夢を邪魔する奴はツブすぞ!」
 止めるつもりのない和輝に、朔は物騒なセリフを放つや奈落の鉄鎖を使った。
「うわっ!」「きゃ……!」
 必然的にふたりはバランスを崩されて、
「スカサハも加勢するでありますよ〜!」
 更にはパートナーの機晶姫、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が容赦なく放ったミサイルによる爆発を受け、ふたりはそのまま墜落してしまった。地面の雪で怪我こそしなかったものの、攻撃のせいで気を失っているようだった。
「おやおやかわいそうに……」
 そしてふたりは、尼崎 里也(あまがさき・りや)の手により介抱……ではなく、雪だるまへと装飾されていく。
「ふふっ。やはり、雪だるまにすれば、大体の者は可愛く見えますな……どれ、なでなでしてやろう。なでなでー」
 気を失った雪だるま状態のふたりをなでなでとしているその様子は、なんともシュールな光景にも思えた。
 それらを見つめるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)の心中は穏やかではなかった。
(……ああ、なんてこと。なんで、こんな、学校にケンカ売るようなことに参加してるの朔ッチ。それに、スカ吉に里也も何かノリノリだし……てか、学校側になんて言い訳すればいいの? もう分からないよ。何でこんなことに……ハッ……もしかして、おみくじか?あの大凶のせいなのか!?)
 そんな別件の悪夢を妄想して錯乱したカリンは、
「……うわぁぁぁん〜〜〜! もういや! ボク帰る!!! 帰ってこたつで丸くなるの!!!」
 泣き叫びながら逃げ出そうとしていく始末だった。
 だが本当にそのまま逃げ帰ればことは早く済んだのだが、
「ああ、もう。やっぱり放火で殲滅しちゃおうかな……え?」
 うずうず中のジルの前を通ろうとして、
「って、邪魔よどきなさいよ!」
「はぁ?」
「どけっていってのが分かんないのか、このアンポンタン!!!」
「なんですってぇ!? もう怒った! あんたから先に燃やしてやるわよ!」
 そして暴動へと発展していくジルとカリン。
「お、おいなにやってるんだよジル!? そっちのあんたもやめろって!」
 レクスが仲裁に入ろうとするも、完全にたがが外れたふたりは止まらない。
 椎堂 紗月(しどう・さつき)はそんな暴動の余波が巨人に向けられるのを恐れて、自身も止めようと割って入る。
「子供の夢壊す奴らは、雪だるま王国の暴れん坊将軍、椎堂紗月が相手になるぜー」
「うるさいっ! あんたも燃やされたいのっ!?」
 すっかり暴れ馬なジルはトミーガンを紗月に向けようとするが、
「おっと、そうはさせないぜ」
 隠れ身で隠れていた椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)が、リターニングダガーで銃を弾き飛ばした。
「子供の説得にも耳を貸さない……か。こんな大人にはなりたくないな」
「余計なお世話よっ!」「おいジルいい加減にやめろ!」「わ、いたっ! やったな!」
 それでもまだなお暴れ続けるジルは、紗月とアヤメと殴る蹴るの攻防をしはじめてしまう。カリンも相変わらず錯乱中で。
「……紗月! 大丈夫か! くそっ……処刑だ! 貴様ら全員、雪だるま王国の礎になれ!!」
 そこへ紗月を心配した朔まで突入してきて、騒動が騒動を呼び込んでしまっていた。
 そうした暴動をよそに、すっかりほっとかれていた雪の巨人はとうとう氷術での足止めを完全に砕いて歩くのを再開してしまっていた。
「ああ、もう。なにやってるんだよレクス達は……」
 テオに操縦を任せた小型飛空艇で上空から下を眺めているアルフレートは、予想外の事態に頭を痛めていた。
「人は争うことよりもっと素晴らしいことが出来るはずだというのに、やれやれ」
「テオ、とにかく私達は腕への攻撃をしていくぞ。腕なら妨害はされない筈だ」
 アルフレートの言葉に頷き、操縦しながら体をしっかりと支えておくテオ。
 それを確認後、飛空挺の滑空を利用しつつドラゴンアーツを使って右の肩口にぶつかるアルフレート。更にそのままドラゴンアーツを数回発って崩していく。
 途端、数々の攻撃を受けていた肩部分についに亀裂が走った。
「よし、いける!」
 一瞬下の皆を巻き込まないよう視線を向けてから、一気にソニックブレードで攻撃を加えた。すると、ズズ……と右腕部分が徐々に胴体からズレていき、

ズウゥゥゥン……!

 後は腕の質量が逆に巨人の仇となり、ついに右腕が陥落した。
 騒ぎに騒いでいた下の一同もさすがにこの事態には静止し、すぐに歓声をあげていく。
「よおし、このまま左腕も……といきたいところだけど……」
「さすがに無理は禁物だ。後は他の生徒に任せよう」