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聖ワレンティヌスを捕まえろ!

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聖ワレンティヌスを捕まえろ!

リアクション

■□■3■□■「まーとりあえず、人が大事にしている物を取るのはよくないよねー」

 そのころ、1人で逃げていたワレンティヌスを止める者がいた。
 メルティナ・伊達(めるてぃな・だて)と、
 パートナーの吸血鬼屍枕 椿姫(しまくら・つばき)であった。
 「君の気持ちはボクなんかじゃ汲み取り切れないかもしれないけど……。
  一緒にバレンタインを過ごせないかな?」
 笑顔で話しかけるメルティナだが、いろいろあったりなんだりで、
 ワレンティヌスは強硬な態度に出る。
 「うるせー! てめーもテロルチョコ食わせる気かっ!」
 ワレンティヌスの拳を、メルティナは黙って受ける。
 「……ッ!? なんで避けねーんだよ!?」
 「所詮、ボクはモブキャラだもの……。
  話を動かせるような大きなことは考えてなんていないよ。
  でも、人々のフラストレーションが凝り固まったのなら
  誰かが受け止めてあげないとかわいそう過ぎる……せめてボクだけでも味方になってあげたい!
  そう思ってるんだよ」
 「メルティナ!
  べ……別に……ワレンティヌス様が可愛い方だから
  説得しているうちに私のメルティナと
  何らかの恋愛関係になったりするんじゃないかと邪推しているではないですよ」
 「自分の力で貧しい子どもを助けたい、そのためにお金持ちになる」と言っておきながら、
  いつも情に流されて失敗しているパートナーの保護者役としてやってきた椿姫だが、
  メルティナに手で制され、沈黙する。
 「おまえ……。
  自分のこと、モブキャラなんて言うなよ。
  おまえだって、誰かの大切な存在なんだよ。
  バレンタインデーは、そんな誰かに感謝の気持ちを伝えるための……あれ?」
  ワレンティヌスは、頭を手で押さえて、自分で自分の言葉に首をかしげる。

 そこへ、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)と、
 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)
 湯島 茜(ゆしま・あかね)
 茜のパートナーのナゾベームの獣人エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がワレンティヌスを探して現れた。
 「黒髪ロングの少女とな!
  ふむ、聖ワレンティヌスもおっさんから少女になるとは中々乙なものじゃのう。
  言動も中々に可愛らしいじゃないか。
  これは、愛でに行くしかあるまいて。
  【ロリのオーソリティー】としては黙っていられないからな。
  っていうか、みんな可愛らしい少女相手にそんなにムキにならなくても
  またチョコレート作ればいいじゃないか」
 ファタがチョコレート持参でやってくる。
 「うーん、折角のバレンタインなのになんだか騒々しいことになっちゃってますね……。
  こんな日くらい喧嘩しないで仲良くチョコ食べればいいのに……。
  という事で、ワレンティヌス様達にチョコを渡しに行きましょうっ。
  感謝を籠めてチョコをプレゼントしたらきっと落ち着いてくれるはずっ。
  ……あーでも、商魂に燃えるカンナ様や
  ライバル心めらめらのエリザベート様は止まらないかなぁ……。
  ……そ、それでも頑張りましょうっ。
  目指せ仲直り、ですっ」
 翡翠は、男性なのでクッキーを渡す洋式のプレゼントとして、
 大量のチョコクッキーを袋に詰めて、季節はずれのサンタのごとくやってきたのだった。
 ワレンティヌスがいるところに、
 環菜やエリザベート達も現れるだろうというのが、翡翠の考えであった。
 「たぶんヴァレンタインは自分がチョコがもらえなくてスネてるだけだよ。
  というわけでチョコをプレゼントすれば機嫌が直るんじゃないかな」
  ワレティヌスという名前が覚えられず、「ヴァレンタイン」と呼びつつ、茜が言う。
  パートナーのエミリーは、空鍋で作ったチョコを手に、
 ワレンティヌスにチョコを渡すのを楽しみにしていた。
 「夜なべしてチョコを作ったであります。
  これで聖ワレンティヌス君を喜ばせて、ワレティヌス君からお返しのチョコをもらうであります」
 エミリーにチョコを渡されて、ワレンティヌスが困惑する。
 「俺に?」
 「そのとおりであります。それがし、【妖精パティシエール】であります!」
 「蒼空学園入り口の皇彼方(はなぶさ・かなた)テティス・レジャ
  ヴァレンタイン、手紙出してたでしょ?
  やぶれかぶれっていうかさ……。
  非モテの人の必死さがにじみ出てたっていうか……。
  なぜかエミリーが興味持っちゃったんだよね」
 「バレンタインキャンペーンのイラストにも名前書いたであります!」
 「……マジで?」
 茜とエミリーの顔を、ワレンティヌスが交互に見る。
 「あ・り・が・と、ワンティンヌス♪
  あなたのしてくれた〜
  結・婚・式。
  いつでもおぼえてる、
  あなたのあいは〜、
  みんな、みんなね♪」
 ヴァーナーがショルダーキーボードを使って、ワレンティヌスを讃える歌を歌う。
 「ワレンティヌスおねえちゃん、
  どうもありがとうです!
  ボクは、アーデルハイトちゃんのプニプニおなかがお気に入りなので、
  チョコを返してほしいんです!」
 ポンポンダリアの花束と、「ありがとう」と書かれたチョコケーキを渡して、
 ヴァーナーが笑顔を向ける。
 「ピンクの丸いダリア……」
 ワレンティヌスが沈黙する。
 「花言葉は『感謝』ね」
 自らも花の名を持つ、椿姫が言う。
 ワレンティヌスは、皆に説得されて、態度を軟化させていたが、
 ふと、自分の格好に視線を落とす。

 風森 望(かぜもり・のぞみ)に無理やり着せられた巫女装束であった。
 なお、鳥羽 寛太(とば・かんた)が着せたスク水は、
 着替えさせる段階で望が脱がせてしまっている。

 「なあ、おまえ、【ロリのオーソリティー】っつってたよな……」
 ワレンティヌスが、ファタにぼそぼそ耳打ちする。
 「いかにも。わしは全ての少女の味方じゃ」
 「ダメ元で聞くが……パンツ持ってねえ?」
 「おお、おぬしにぴったりの物があるぞ!」
 ファタが取り出したのは、白と青の横ストライプのパンツだった。
 「聖職者らしく、清純な白もよいが、
  一人称『俺』な少女には縞パンも捨てがたいのう」
 「悪いな……。
  あ、しかも新品だ……」
 ワレンティヌスは茂みに入って縞パンを着用する。
 「お金持ちの人はこれが普通なのかな?」
 「違うと思いますよ……」
 「なんで持ってるんでしょう……」
 「ていうか、前はいてたパンツの色推理してた?」
 メルティナと椿姫が漫才し、
 翡翠と茜が呆然とする。
 「……?」
 「……ワレンティヌスおねえちゃん、ぱんつはいてなかったです?」
 エミリーとヴァーナーがきょとんとしている。
  
 そこへ、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)
 パートナーの白熊型ゆる族雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がやってきた。
 「やっとみつけました、ワレンティヌスさん!」
 「また森の中で迷子になりかけたんだよな、ご主人……」
 ソアが、ラッピングされた箱を、ワレンティヌスに差し出す。
 (ワレンティヌスさん、チョコを隠しちゃうのは良くないと思いますけど……。
 せっかくの記念日に誰からも感謝してもらえないのは、確かに可哀想ですよね。
 そもそも、バレンタインデーは恋人達のためだけの日じゃないと思います。
 感謝の気持ちをチョコと一緒に人に伝えることができる、素敵な日だと思いますっ!
 だから私は、そんな素敵な日を作ってくれた感謝の気持ちを込めて、
 ワレンティヌスさんをお祝いしてあげようと思います!)
 そんな純粋な気持ちから、ソアはケーキを焼いたのであった。
 「イルミンスールのカフェテリア『宿り樹に果実』で厨房をお借りして、
  チョコレートケーキを作りました。
  さすがに私1人で作るのは難しそうだったので、
  ミリア・フォレストさんに手伝っていただきました!」
 ケーキには、ホワイトチョコのプレートが添えられ、
 チョコペンでメッセージが書かれていた。
 

『HAPPY BIRTHDAY! ワレンティヌスさんへ』



 「……」
 ワレンティヌスが沈黙する。

 「……あれ? 今日って、ワレンティヌスさんの誕生日じゃなかったんですか?」
 「ご主人、今日はワレンティヌスの誕生日じゃなくて、死んだ日みたいだぜ。
  見事に真逆だ……!」
 「か、勘違いしてましたーっ!」
 「ソアちゃん、元気出すです!」
 頭を抱えるソアを、ヴァーナーがハグしてナデナデしてなぐさめる。
 「志方ない、
  もとい、仕方ない、ここは俺様が文字を修正してやろう」
 ベアが、ケチャップで、ケーキの上におどろおどろしい血文字を書く。


『YOU ARE DEAD! ワレンティヌスさんへ』



 「……って、なんてことするんですかー!」
 ソアが、ベアを杖でバシバシ叩く。
 「す、すまねぇご主人、つい勢いで……!」
 「い、一生懸命作ったのに……ぐすっ」
 「……げっ」
 ベアが慌てる。
 「お、おいワレンティヌス!
  マジ泣きしてるご主人のためにも、このケチャップチョコケーキを食ってくれよ!
  聖人だろおまえ!?」
 「な、なんだとこのヤロー、他人事だと思いやがって……!?
  い、いや、なんでもねーぞ、よくわかったな!!
  俺はケチャップ大好きだったんだよ!!」
 ワレンティヌスは、ソアの作ったケーキを食べはじめた。
 「……本当ですか?」
 「本当だよ本当!
  この白熊ヤローはなぜか俺の好みを熟知していたんだよ!!」
 ソアに見つめられ、ワレンティヌスがケーキを頬張りながら言う。
 「……そうだったんですね!
  えへへ、食べてくださってありがとうございます!!」
 「おう……」
 「ソアちゃんも、ワレンティヌスおねえちゃんも、みんな笑顔でよかったです!」
 ヴァーナーも笑顔でソアとワレンティヌスにハグする。
 「素直な子達もツンデレもいいのう」
 ファタが解説する。
 「じゃあ、私達もお茶にしましょう!」
 翡翠が提案する。
 「あっ、楽しそうな雰囲気になってるわね」
 「イルミンにまたロリっ子が一人……世界樹イルミンスールはロリコンなんでしょうか?
  だとすれば、この学校にいる限り私は充足される訳ですね」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)と、
 パートナーの機晶姫フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)がやってきた。
 (デコ校長に捕まったりしたら確実に見世物よねぇ。
  いっその事うちの学校にスカウトしちゃいましょうか)
 そう考えた唯乃は、ワレンティヌスに花束を渡す。
 「わが母国の風習に習って花を贈るわ。
  まぁ恋人でもない上に性別とか色々アレだけど……」
 唯乃はドイツ生まれのハーフである。
 「ロリっ子は守らなければいけません。
  デコい校長に捕まってしまえば人々の好奇の目に晒され……
  それはそれで見てみたい気がします。
  が、やはり少女は自然体が一番ですよね。
  バレンタインで満たされないと言う事は愛が足りていない証拠です。
  そう言う時は、そっと抱きしめてあげればいいんですよ。
  ……下心などありませんよ?」
 フィアがワレンティヌスを抱きしめるが、
 「見た目はあまり変わらないのに、
  なぜかヴァーナー様のハグとちょっと方向性が違う気が……」
 翡翠が苦笑しつつこっそりつぶやいていた。
 「……イルミンの子どもは優しいな」
 ワレンティヌスが言う。
 「ねえ、ちょっと気になるんだけど……。
  私もお菓子強奪対象なの?」
 「いや、おまえ10歳くらいだろ?」
 唯乃はショックを受ける。
 「そうよね……。わかってた質問よね……。ふふふふふ」
 「唯乃、ロリっ子であることは誇るべきことであって、
  なんら悲しむべきことではないのですよ?」
 「そうじゃ。誇るべきことであって、なんら悲しむべきことじゃないぞ」
 フィアが言い、ファタも同意する。
 そこに、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)と、
 パートナーのヴァルキリークレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)も、お茶とお菓子を手にやってきた。
 「私もプリーストですし、
  バレンタインが結婚を司る女神ユノや豊穣の神パーンを崇拝する祭りが起源である事や、
  聖ワレンティヌスの功績、結婚禁止令に反対し結婚の祝福を与えたことも知っています」
 手作りの「ザッハ・トルテ」を差し出し涼介が言う。
 スポンジの間にアプリコットジャムが挟まれている。
 “Thanks To Valentinus” と書かれたカードも添えられている。
 ワレンティヌスの愚痴を聞いてあげるというのが涼介の目的であった。
 「そうだぞ。だいたいな、商業主義に踊らされすぎなんだよ!」
 「確かにこの時期限定でイチャラブするカップルはどうかと思いますし、
  あなたの言い分も理解できます。
  しかし中には結婚を考えている者や、
  真剣に恋を模索している者もいるんですからその人たちは祝福しませんか」
  聞き役に徹しつつも、恋人達は祝福しようと提案する涼介に、
 ワレンティヌスは考え込む。
 「やっと見つけたざんす!」
 「ざんすか、引きずらないでほしいじゃた……」
 ざんすかが、じゃたを連れて走ってくる。
 じゃたはいろいろあっておとなしくなっているらしい。
 「あ、ざんすか殿、じゃた殿!
  おにいちゃんとワレンティヌス殿は、
  今、お話してるから、じゃましちゃだめだよ。
  私たちと一緒にお茶しよ、ね?」
 手作りチョコを手に、クレアが提案する。
 「私のチョコクッキーも食べてください」
 翡翠が言い、仲直り作戦を実行する。
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)が、お菓子を食べはじめたじゃたにこっそり耳打ちする。
 「ねえねえ、ワレンティヌスを連れて行けば環菜って人がお礼に山ほど食べさせてくれるよー」
 (私はあくまでエリザベート校長側だけどね。
  こう言っておけばじゃた達は
  もし手伝ってくれた時にきっとすごい量のチョコを環菜さんに請求すると思うんだよねー。
  環菜さん、損するかもなってさ。
  成功したらある意味、これも環菜さんに勝ったって事じゃないかなー)
 イタズラ好きで、空気を読んだり読まなかったりする終夏は、
 イルミン側が環菜に平和的に勝つ方法をこっそり考えていたのであった。
 「もぐもぐ、環菜、チョコくれるのかじゃた?」
 「うん、くれるはずだよー。
  それに、バレンタインデーの翌日には売れ残りのチョコも余るだろうしねー」
 お菓子を食べておとなしくなったじゃたが、終夏の作戦を聞く。
 「環菜とかどうでもいいざんす!
  問題はアーデルハイトざんす!」
 「アーデルハイト様ー?
  チョコ食べたら太って困るーでも食べたいーっていう状況になってるのを
  楽しめばいいんじゃないのー?」
 「そんなの別にどうでもいいざんす!」
 ざんすかも終夏が言いくるめようとするが、ざんすかは単純すぎてかえって難しい。
 「まーとりあえず、人が大事にしている物を取るのはよくないよねー」
 終夏の言葉に、ざんすかが眉間にしわをよせたままお菓子を食べ始める。

 そこに、エリザベートとアーデルハイトもやってくる。
 「やっと見つけたぞ、ワレンティヌス!
  私がエリザベートに用意したチョコレートも返すのじゃ!」
 「え? 大ババ様、もしかしてそれで怒ってたんですかぁ?」
 アーデルハイトの言葉にエリザベートが驚く。
 「そうか……。
  じゃあ、悪いことしたな」
 皆に説得されたワレンティヌスが言う。