イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

隠れ里の神子

リアクション公開中!

隠れ里の神子

リアクション



「地球にいない動物の毛皮を得て、神子まで手に入れられる。これほど儲かる仕事もないな。……案内してもらおう、さもなければ“潰す”!」
 人質である隠れ里出身のピグミーマーモセットの獣人プットに向かって、元密猟者の鏖殺寺院幹部のレティーフはプットを握り締めたまま言った。
 レティーフの周りを密猟用に訓練したゴブリンたちが取り囲んでおり、少し離れたところに補佐として同行しているメイコ・雷動(めいこ・らいどう)と彼女のパートナーであるマコト・闇音(まこと・やみね)がいた。
「大人しくしていろよ。そうすれば、痛めつけることはしないから。なぁ」
 レティーフの言葉にプットはむくれたまま、そっぽを向いた。
 そう言われてしまっては、下手な行動は起こせない。少しでも変な動きを見せれば、いつ殺されるかわからないのだ。それくらいのことは、プットにもわかっていた。
――自分が生かされているのは、隠れ里を知っているからという理由だけ……。もし、隠れ里に着いてしまったら……。
 そう思うとぞっとした。このレティーフという人間が獣人の毛を密猟しようとしていることはプットも知っていた。隠れ里に着いたら、獣人たちが皆殺しにされるかもしれない。それを避ける為にも何か手を打たなければと思うのだが、プットの頭ではなかなか良い対策を思いつくことは出来なかった。思い悩んだ挙句、プットは1つの名案を閃いた。
――隠れ里に遠回りをしながら、レティーフたちを案内すればいいんだ!
 プットは深呼吸をすると、隠れ里とは違う方向をわざと指さし、レティーフたちを誘導し始めた。
「そうそう。テキパキ働いてくれよ」
 レティーフは口元にイヤらしい笑いを浮かべると、愛用の大口径ライフルを肩にかけ直した。
「ちょっと、レティーフ! ずっと握ってると死んじゃうよ!」
 さっきまで少し離れてたところにいたメイコは気が付くと、ゴブリンたちを掻き分けレティーフの隣に来ていた。
「ピグミーちゃんはあたしが持つから。ね? いいでしょう?」
「ちっ、仕方ねぇなぁ……。逃がすんじゃねーぞ!」
「大丈夫よ。あたしがそんなヘマするように見える?」
「ふん。いけすかない女だな」
 毒づいたもののレティーフはメイコにプットを預けた。
「怖かったでしょう? もう大丈夫だからね」
「メイコはいつも自由なのだな」
 ぽつりと呟いたマコトの言葉が聞こえなかったようで「何?」とメイコは訊き返したが、マコトは首を静かに横に振るだけだった。
 『候補』よりも重要性の高い神子を探せという方針転換と「ジャタの森」友の会であり、ジャタの森に多少詳しいことから、嫌々レティーフの補佐として同行させられていたメイコとマコトは、レティーフの密猟には反対だった。なぜなら、密猟などという指示は鏖殺寺院からは全く出ていなかったからだ。
「ねぇ、まこち。私が神子になればいいのよね……」
「どうして?」
 不思議そうに問うマコトに、しかしメイコは答えなかった。
 メイコは、5000年も封印を解かずに守ってきた神子を殺すのは罰当たりだと考えていた。彼女は抹殺を阻止する為には寺院の人間が神子になることで解決出来るのではないか、とも。そうすれば、封印を解くという心配は排除される。全てが丸く収まるのだ。だが、メイコは神子が一体どういった存在なのかをよくは知らなかった。
「えっ? 今度はこっち?」
 プットが指した方向にメイコは小首を傾げた。
――そっちはさっき通った道だと思うけど……。
 メイコは疑問を敢えて口には出さずに、プットの指示に従って、左に折れた。



――しょうがねーな、探しに行くか。
 と実は珠樹の意味不明な置手紙を見て、ジャタの森に1人やって来ていた。偶然にも実のすぐ前を鞠乃たち一団が歩いている。 
――お、ぞろぞろと蒼空学園のやつが歩いてるじゃないか、一緒に探してもらえねぇかな。鞠乃の姉ちゃんは、神子になりてぇとか言ってたし……。うちのタマもなんだか似たような事を言ってたな。きっと目的地は同じだよなぁ?
「あのー、すみません……」
 取り敢えず、ダメでもともとと思い、実は鞠乃たちに声をかけた。
 声のした方――つまり、実の方を鞠乃は振り返る。
「なぁに? あなた誰?」
「新田実です。あの……神子を探してるんですよね?」
「そうだけど」
「うちのタマもどうやら1人で隠れ里を探しに行ったみたいで、ミーは今そのタマを探しているんだけど、1人でこのジャタの森を歩いて探すのは不安で……。もし良かったら、一緒に探してもらえねぇかな?」
 様子を窺うように実は鞠乃を見た。
「それは大変ね。いいわよ、一緒に来ても。だけど、私たちの目的はあくまで隠れ里わ探すことであって、あなたのタマを見つけることではないから、力になれるかどうかはわからないけれど」
「あぁ、勿論だ。恩にきるぜ」
 実はそう言って、そっと胸を撫で下ろした。
――密猟を企む奴らも隠れ里に向かってるって話だし、さすがに1対大勢じゃあ、戦うにしても辛いもんなぁ。これだけの人数がいれば、やられることはないだろう。
 そうして、鞠乃たち一行は1人人数を増やして、ジャタの森の奥深くに存在するという隠れ里へと急いだのだった。