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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)
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第三章 本当の敵


「みんな、こっちよ」
 時は遡ってリフル襲撃直後の校舎内。ミルザムを護衛する生徒たちは、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)を先頭に緊急避難用の部屋を目指している……のだが、実質的にはミルザムをゲストに迎えての質疑応答タイムになっていた。
 最初にきっかけを作ったのはセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)だった。
「ときにミルザム。おぬし、クイーン・ヴァンガードに一部で悪評が立っていることには気がついているかえ?」
「え? それは……」
 突然、それも子供からこんな話題が出て、ミルザムは言葉に詰まる。
「まあ、明言はしなくても構わぬ。だが周囲からのイメージは問題じゃ。他校にいる私の友達も、クイーン・ヴァンガードは私兵になり下がっているとして敵対体勢をとっておるし……そろそろ何か考えないと、露骨な嫌がらせや妨害を受けてしまうぞえ」
 セシリアの言葉に、パートナーのミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)が続く。
「そうだよ。リフルの件にしたって情報が足りないのに決め付けるし、他の任務でも曖昧な情報を元に強硬手段を取ろうとしたりして……。隊員の中にも不満をもってる人はいるし、このままじゃ下手すると内部崩壊になりかねないよ?」
「まず、情報処理能力があまりにも低すぎる。これは由々しき問題じゃ」
「私が所属する『クイーン・ヴァンガード広報部』は、そういう問題を解消しようと動いてる。ヴァンガードの活躍や正当性をアピールしたり、組織外の情報を収集、分析したりするのが仕事なんだけど……そういう団対も必要だと思うの。だから広報部を正式に認めてくれないかな? そうすれば、もっと積極的に活動ができるから」
 ようやくミルザムの話す番が回ってくる。
「申し訳ありませんが、私が個人的に軽率な行動をとることはできません。しかし、クイーン・ヴァンガードのことを思って行動してくださるのには感謝いたします」
「……ふむ、そうか。あとはミルザム、おぬしという人間そのものについてじゃ。女王になった後、シャンバラをどういう国に導きたいのか。そのために何をするつもりなのか。そういったことを正式に皆の前で宣言してくれぬことには、支持しようとする人も増えぬと思うぞえ。どんな人間か分からぬ者に、自分の国を任せられるはずがないからの」
「仰るとおりです。ですから私も今日のような機会を設けたのですが……」
「当然のように邪魔が入った、というわけやな」
 ミルザムの後を七枷 陣(ななかせ・じん)が受ける。
「ならどうだ? 代わりに、ここでアンタの考えを聞かせてもらうっちゅうんは。大観衆とはいかないが、結構な人数がいる。アンタの見解をオレたちが他人に伝えることも可能や」
「……分かりました」
「では改めて、オレから質問させてもらうで」
 ミルザムが陣の提案に了承すると、彼は流れるように言った。
「初めまして女王候補ミルザムさん。お会いできて恐悦至極。さて、アンタに聞きたいことがある。言っておくが、アンタはコレに答える義務がある。朱雀鉞のあった遺跡で最後まで一緒にいた五条 武さん、覚えとるやろ。彼は失望しとる。皆で苦労して手に入れた朱雀鉞を、断りもなく道具として使われてな。何で勝手に私物化した? 納得のいく説明をしてほしいんや。それに、ティセラと狼の村で一度相対したけど、確かにアレは女王に相応しくない。でもアンタも大概やぞ乳女A。ヴィジョンを見せないまま今までグダグダ。こんなんじゃ支持のしようがないわ」
 陣はあくまで経緯と真相を知りたいだけでミルザムに敵対する気はないのだが、この勢いである。ミルザムは気圧されないよう、毅然とした態度で答えた。
「朱雀鉞を見つけたのはあくまでも私であり、協力してくださった方々には報酬を支払っています。私が女王になった際には、6首長家でバラバラに治めているシャンバラを統一し、誰もが平和に暮らせる国を作りたいと思っています」
「なるほどねー。次、俺いいかな?」
 ミルザムが言い終わると、休む間もなく甲斐 英虎(かい・ひでとら)が手を挙げる。
「どうぞ」
「いま女王が求められる意味って、解かってない人が多いんじゃないかな? 俺も、エリュシオンがシャンバラを攻めてくることに対してイマイチ危機感を感じてないしねー」
 何人かの生徒が同意する。
「もしこのまま手をこまねいていて、ミルザムさんが女王に即位する前、つまりシャンバラ王国が復興する前にエリュシオンがシャンバラを征服したら……地球も同じことになるのかな?」
「今のところエリュシオンが攻めてくる可能性は高くないと思っていますが、そうならないためにもシャンバラ建国は必要。建国が一向に進まない以上、女王の血を引く私が起つしかないと思ったのです。万が一シャンバラが滅びた場合は……5000年前の悲劇が繰り返されるかもしれません」
「うーん……」
 英虎が何やら考え込むような顔をする。そんな彼の袖を、後ろにぴったりとくっついたパートナーの甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)がくいくいと引っ張った。
「ん? どうした、ユキノ」
「あそこ。トラが言ってた人」
 ユキノは窓の外、リフルから少し離れたところで対立する生徒たちを指さしている。
「あれは……武ヶ原? ここからだとよく見えないけど、なーんかまた派手にやってそうだなー」
「行く?」
 ユキノが英虎に尋ねる。彼女は、武ヶ原が無茶なことをしないよう気をつけてあげてほしいと英虎から言われていたのだ。
「あいつにも何だか事情がありそうだから、力になってやりたい気持ちはあるんだよねー……リニカの為にも。まあミルザムさんの護衛をほっぽり出すのもアレだし、本当に危ないことをしでかしそうだったらまた教えてよ」
「分かった」
 ユキノは短くそう言うと、英虎の袖を掴んだまま彼についていく。
 英虎の質問が終わったのを確認して、今度は水上 光(みなかみ・ひかる)が口を開いた。
「ミルザム様、ボクもよろしいでしょうか」
「なんでしょう」
「クイーン・ヴァンガードを襲撃し、今回もあなたを狙っているリフルさん……彼女を助けたいと思って動いている人もいるようです。ミルザム様はどのようにお考えですか」
 ミルザムがどういった答えを出すにせよ、それが彼女の自分に危害を加えるものに対する考えだと認識しよう。光はそう考えていた。
「そうですね……リフルさんは洗脳されているのではないかという噂を聞きました。それが本当であるならば、私は本来のリフルさんの考えを聞いてみたいです。できれば直接。多くの人に慕われるには、それなりの理由があるのでしょうし」
 光はなるほどと頷いて続ける。
「では失礼を承知でお聞きします。あなたは国をどのようにしたいのでしょうか。『誰もが平和に暮らせる国を作りたい』というのは先ほど伺いましたが、それは力をもって征する覇道の道によってか、はたまた、民と手を取り合う共存の道によってなのか」
「勿論後者です。女王と民とは勿論、私はシャンバラ人と地球人も手に手を取って平和を築いていけるような国を目指したいと思っています」
「……分かりました。それならボク、いえ私はあなたの目指す国を守る剣となりましょう。全てはパラミタの平和のために」
 どちらの返事が返ってきても、それが彼女の下した決断であるならば尊重しよう。これも初めから決めていたことだ。光は明確な意思をもって言い切る。
「ありがとうございます。頼もしいですわ」

「ミルザム様、大変ね……」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が後ろを振り向いてそう漏らす。
「みんな聞きたいことが溜まってるだろうからなあ」
「私も余裕があれば直接ミルザム様の口から聞きたいことがあったのですが、この様子では遠慮したほうがよさそうですね」
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)が苦笑いをして答え、パートナーのハティ・ライト(はてぃ・らいと)が言う。
 誠治のもう一人のパートナーヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)は、
「聞きたいことのいくつかは他の人が尋ねてくれたけど、古代シャンバラ王国や剣の花嫁、アムリアナ女王についての情報も教えてほしかったわ。あとでその時間があるかしら」
 と口にした。彼女はミルザムにリフルの話をしたり、新シャンバラ王国が人の絆によってよりよい国になることを願っていると伝えたりもしたかった。
「私たちはミルザム様の護衛に集中するとしましょう。この状況、リフルさんだけに警戒するのは危険よね……。彼女の相手は他の仲間がしてくれていると思うし、姿を視認することもできる。でも、リフルさんが本当に洗脳されているのだとしたら、黒幕がいるかもしれない。それに、直接は関係がなくても、どさくさに紛れてミルザム様を襲撃する人が出てくる可能性もあるわ」
 アリアは殺気看破のスキルを使用しながら周囲を警戒する。
「それは俺も考えていたところだ」
「リフルを囮にして本命がミルザムを狙いに来る。それが恐いわよね」
 アリアと誠治の会話に伏見 明子(ふしみ・めいこ)が加わった。メイコ・雷動(めいこ・らいどう)も近づいてきて、自分の考えを述べる。
「多分、ティセラが来るよ。リフルにあんなことをするなんて許せない! うおおおおおお!」
「ティセラか……確かにその可能性は十分にある」
 誠治の言葉に、辺りの空気が重くなる。天秤座(リーブラ)のティセラ。その実力はリフルを更に上回るものだろう。もしも彼女が攻めてきたら、自分たちにミルザムを守りきることができるだろうか。
「ま、実際どうなるかは分からないけどな」
 自分が作ってしまった雰囲気を変えようとするかのように、誠治が切り出す。
「リフルがこっちまでやって来る可能性もあるし、念を入れるに越したことはないだろう。いざというときの対応を相談しておこうぜ。俺は自分とミルザムに禁猟区をかけてある。場合によっちゃ弾幕援護を使うから頭にいれておいてくれ。ハティ――この守護天使な――も禁猟区を使用している」
「後方に重点をおいて用心します。戦闘のときは回復役に回りますね」
 ハティは護衛の中に敵が紛れているという事態も想定し、光学迷彩や隠れ身の使用を視野に入れて、おかしな行動をする者がいないか注意深く観察している。が、口に出しては意味がないので、無論そのことは黙っていた。
「んで、こっちのヒルデ姉さんは、銃型の光条兵器を使って俺のフォローをしてくれる予定だ」
「誠治の取りこぼした敵を攻撃するわ」
「キミはどうする?」
 誠治がアリアに尋ねる。
「ミルザム様の防衛線が安定するまで攻撃は破邪の刃で牽制する程度にとどめ、庇護者のスキルや要人護衛の心得を活かして守りに専念しようと思っているわ。ミルザム様の護衛が強固になったら、反撃に転じる」
「そっちは?」
「私は、敵が出てくるまではディテクトエビルで警戒に当たるわね。襲撃後は三人のパートナーと連携するわ。私のパートナーは一人がこの子、あとはあそこにいる二人。あっちの大きい子が弾幕援護を行ったら、ファイアストームを使ってミルザム様が逃げる時間を稼ぐつもり」
 明子は九條 静佳(くじょう・しずか)に顔を向けた後、振り返って列からやや離れたところを指さした。そこにはフラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)がいる。
 燃えるような赤髪に褐色の肌、そして女性型とは思えないほど長身の機晶姫であるフラムベルクは、遠くからでもよく目立つ。一方、獣人のサーシャはフラムベルクとは対照的にかなり小柄な体格をしていた。
「本当ならマスターの近くにいたいのであるが……」
 心配性で主人に忠実なフラムベルクは、明子のことを気にする。彼女は、敵を惑わすためにメモリープロジェクターで虚像を投影していた。ミルザムや明子から若干離れた位置で行動しているのは、プロジェクターの発信源から位置を特定されても危害が及ばぬようにするためだ。
「しかし、こんなダミーを使ったところで効果あるのかねー。僕は、キミの立派なボディの方がよっぽど敵の目を引くと思うんだけど」
 サーシャがからかうように言う。彼女の狙いは、フラムベルクの弾幕と明子の魔法をかわして接近する相手に、隠れ身からのブラインドナイブズで逆に打撃を与えることだ。
「失礼ではないか!」
「いやいや、褒めているのさあ」
 フラムベルクとサーシャがじゃれ合う。それはいつもの光景だった。
「この前のようにはいかない。今度は一撃でも当ててやる……いや、一撃で決めてやろうじゃん!」
 誠治たちの方では、メイコが熱くなっている。
(拳に雷術をまとってバーストダッシュ、そして先の先で攻撃。当然それを弾こうとするはずだから、瞬時に非近接攻撃の遠当てに切り替える。……これだ!)
 メイコが意気込むのには訳があった。先日、石化したホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)を巡って相対した際、ティセラに完敗したのだ。だが、そのときは雷術をまとった拳で正面から突っ込んだだけ。今回は策がある。