イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

女空賊に憧れる少女を救出せよ!

リアクション公開中!

女空賊に憧れる少女を救出せよ!

リアクション



●10:そして、少女の行先は

 蜜楽酒家に戻ってきた冒険者たちは、思い思いに依頼の疲れを癒しながら、それぞれの時間を過ごしていた。
 ここでもフリューネの人気は目を見張るものがあり、彼女の座るテーブルには冒険者の影が絶えなかった。

「受け取って貰えると嬉しいわ。邪魔にはならないし、何かの時には力になれるかもしれない」
 宇都宮 祥子が自らの連絡先を書いたメモをフリューネに渡す。その背後では、祥子に仕方ないとはいえフルボッコにされたウィルネスト・アーカイブスがボロボロの姿でテーブルに伏せっていた。
「ありがとう。……そろそろちゃんとしたの作った方がいいのかしらね……」
 受け取ったフリューネの呟きは、ヴィンターリオに情弱と言われたことに影響しているのかもしれなかった。

「フリューネさん、最後にコメントお願いします!」
「では最後に、時の人物であるフリューネ・ロスヴァイセに話を伺ってみたいと思います。フリューネさん、心境をお聞かせください」
 羽入 勇と六本木 優希からカメラを向けられ、フリューネは驚きの表情を見せるが、直ぐに神妙な面持ちになって、思案の後口を開く。
「気にしてくれていることは嬉しいけど……行動に移す前にもう一度良く考えてほしいわ。どうして空賊という存在があるのか、それを考えてみるだけでも、大分違うと思うから。あと、これだけは言わせてほしい。……皆、軽い気持ちで空賊なんてやってないの。憧れだとかカッコいいとか、そんな理由で来られても、誰も歓迎しないし、困るだけだと思う」
「ありがとうございます! よーし、早速記事にまとめるぞー!」
「ありがとうございました。……以上、現場から六本木 優希がお届けいたしました」

「また会ったな。相も変わらぬ様子で何よりだ」
 手を差し伸べた武神 牙竜の求めに応じて、フリューネがその手を握り返す。瞬間、牙竜の頬に赤みが刺した。
「? どうした?」
「ああ、いや……悪い、どうやら飲み過ぎたようだ、少し風に当たってこよう」
 首を傾げるフリューネに詫びを入れて立ち去る牙竜の脳裏には、偶然覗き見たフリューネの裸体が――実際はバスタオルを巻いていたが――浮かんでいた。
「あーーーっ!! ちょっと牙竜、あたしを差し置いてフリューネさんと何話してたの!? あたしも行ってこよーっと、フリューネサーン!」
 危うく18禁ゾーンに突入しかけた脳内映像は、リリィのツッコミという名の規制により遮断されることとなった。ついでに牙竜の意識も遮断されることとなったのだが。

「ここで一つ皆さんに聞いてみたいと思います。フリューネさんのあの恰好をどう思いますか?」
「ヘソ出しに見せパン……なんてはしたない! 女の子はあまり肌を見せるもんじゃない!」
「そうね、見せ過ぎだと思うわ」
「……いや、俺はいいと思うぞ……!!」
 日野 晶の問いに、エヴァルト・マルトリッツと伏見 明子が怪訝な表情を浮かべ、百々目鬼 迅がうっかりフリューネに視線を向けたがために、その『はしたない』恰好を目の当たりにして鼻から鮮血をほとばしらせる。
「だっはっはっは! アレごときで鼻血なんて、迅もお子ちゃまだねぇ〜」
 慌てて鼻を押さえる迅は、シータ・ゼフィランサスにからかわれて言葉を無くしていた。
「……少しは気にした方がいいのかしら」
 離れたところでその話を聞いていたフリューネが、真剣な表情でとんでもないことを口にする。……いやマジで勘弁してください。ここで衣装変更とかなったら、パラミタ1億5千万人の『フリューネたんスキスキ同好会』にフルボッコにされますから。
「あんたが……ロスヴァイセか」
 そこへ、依頼を終えて戻ってきた虎鶫 涼が興味本位でフリューネに声をかける。
「……ああ、もう誰彼構わず名前で呼ばれるから、そう呼ばれることに違和感すら覚えたわ。新顔かしら? よろしくね」
 差し出された手を握り返して、涼が口を開く。
「随分と慕われているようだな」
「私としてはよく分からないんだけどね。何が好きでこんな荒っぽい所に身を投じてるんだか」
「それは、あんたも同じじゃないのか?」
 涼の物言いに、ムッとしたフリューネが反論しかけて、しかし思い止まる。事情がどうあれ、自分が空賊をしていることには変わりない。そしてこれからも、それは変わらないだろう。それは確かに、自分が好き好んでいると捉えられても何らおかしいことではないように思えたからであった。
「……そうね。キミが私のことをどう思うとも、私は私を偽るような真似はしないわ。私は私の持っている誇りのために空賊をしている。それについて色々言われたって、承知の上だわ」
 杯を空けたフリューネの表情は、いつにも増して活き活きとしているように思われた。

「つつつ……ったく、乱暴もいいところだぜ。……ま、こうして生きてるだけでも儲け物なのかもしれないな」
 全身傷だらけ、包帯だらけといった風貌のヴィンターリオ・シュヴァルツが、自嘲の笑みを浮かべながら蜜楽酒家を後にしようとした時、木の影に身をもたげていた閃崎 静麻(せんざき・しずま)が声をかける。
「これからどうするつもりだ?」
「あぁ? ……とりあえず身を隠すしかねーだろ。その後はま、適当にするだけだ。俺は全部を失っちまったしな。あーあ、あの端末、結構したのにな――」
 呟くヴィンターリオの前に、静麻が紙切れを差し出す。そこには、静麻が運営する軍事会社の連絡先が記されていた。
「気が向いたら連絡してくれればいい」
「……ホント、お前たち何考えてんだ? 俺を助けるとか言い出したり、俺に一体何を期待していやがる?」
 ヴィンターリオの問いに、静麻はややあって答える。
「おたくが戦闘狂だったり金儲けに執着したり悪徳連中とつるむタイプなら、キッチリ潰すつもりだったんだが。結局おたくは誰も殺しちゃいない。それにある程度の仁義は通す性質に思えたんでな」
 ヴィンターリオが交渉を持ちかけられた時に、安易に自らの持つ情報を売らなかったことを、静麻は人伝に聞いていた。
「……へっ、そう言うってことは、俺は結局空賊失格ってことじゃねぇか。そんなこと言われて素直にはいお世話になりますなんて言えるかよ」
 吐き捨てて、ヴィンターリオがその場を後にする。ヴィンターリオが紙切れを捨てず、懐にしまったのを見遣って、静麻が木から身を離して蜜楽酒家に足を向けた。

「フリューネさぁん……」
 蜜楽酒家では、フリューネに会えることを期待していたレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が、一杯の酒ですっかり酔いを回してテーブルに伏せていた。
「あらあら、相変わらずお酒には弱いのですね。……あら、魅音? フリューネ・ロスヴァイセはどちらへ?」
「ん〜? そういえば、どこ行っちゃったんだろうね?」
 レイナの介抱をするクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が、冒険者空賊お構いなしにお酌をする閃崎 魅音(せんざき・みおん)にフリューネの行方を聞くも、魅音は首を傾げるばかりだった。

「……やれやれ、賑やかなことね。……さて、と」
 その頃フリューネは、こっそりと蜜楽酒家を抜け出し、とある場所へと足を向けていた。フリューネが向かおうとしている先には、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)、そして加能 シズルの姿があった。
「あの、ごめんなさい、付き合ってもらって」
「いいってことよ。こういうのってやっぱ、本人に遭ってケリつけないと、気持ちワリィんだよな。……フリューネな、顔は好みでいい感じなんだが、どうにも苦手なんだよな」
 フリューネにシズルの件で話があると持ちかけたトライブが、少々嫌そうに顔をしかめて呟く。
「どうしてなのじゃ? 似た者同士じゃから気が合いそうなのに」
「ま、本人にしか分からねぇ違いってもんがあるんだよ……っと、来たぜ。んじゃ、俺たちはとりあえず引っ込んどくわ」
 フリューネの姿を認めて、トライブとベルナデットが姿をくらます。次いで現れたフリューネ、シズルに取っては憧れの存在に、シズルが言いたいことが一杯ありながら何も言えずにいると、フリューネの方から口を開く。
「単刀直入に言うよ。……キミは、このまま空賊を続けるの? それとも止めるの?」
「……わ、私は……」
 フリューネさんのために、と続けようとしたシズルの言葉は、フリューネの次の言葉に遮られる。
「今日のことで、空賊というのがどういうものなのか、大体分かったと思う。それでも続けるっていうなら、私は止めない。……私のためじゃなくて、キミのために決めて。……言いたいのは、それだけ」
「……………………」
 振り返るフリューネの背中を、何も言えずにシズルが見送る。何も持たない彼女には、言葉を継げるだけの資格はない。それはシズル自身が一番分かっていることだった。

「なあ、それ見せパンって、ほんと?」
「……キミは、わざわざ会って言いに来たことがそれなのかーーー!!」
 2回目のフルスイングをもろにくらって、トライブは夜空にまたたく星の一つとなった――。

 その後、冒険者たちの残した記録によって、ツァンダでは空賊を目指そうなどという安易な考えは収束していった。フリューネを信奉していた少女たちも、フリューネ個人を崇めはするものの、空賊に対しては憧れの対象とすることはなくなっていった。
 それは、空賊に身を投じた者たちにも色々あること、決して軽い気持ちでやっていないことが、安易な気持ちを抱いてはいけないと市民にも少しづつではあるが認知されてきたことの表れでもあった。
 
 そして、加能シズルは蒼空学園から姿を消した。
「彼女? ああ、私のところに退学届を出しに来たわよ。簡単に辞めさせるわけにもいかないし、だからといってパラ実送りにするのも気に入らないし、課外授業扱いにしておいたわ。……まったく、チャーターした船は落とされるし、シズルの件で根回ししたり、散々よもう……」
 環菜が溜息をつきながらそう告げる。おそらくシズルは、フリューネのためにではなく、自分の為に、自分で考えて空賊に身を投じることを決めたのであろう。一度こうと決めたら曲げない、その強靭な意思を感じ取ったからこそ――実際は、曲げるのが面倒だったという憶測もあるが――環菜も寛大な措置を講じたのかもしれない。
「あ、だからって続こうとする生徒は、容赦なくパラ実送りにするわよ」
 凄む環菜の迫力に、シズルに続こうと思い至る生徒は皆無であった。

 加能シズル、今度彼女が姿を現すのは、この澄んだ大空の中だろうか――。

END

担当マスターより

▼担当マスター

桜木巧

▼マスターコメント

こんにちは、そして、はじめまして。桜木巧(さくらぎたくみ)です。

沢山の方に応募頂き有難うございます。嬉しかったのですが、諸事情ありまして、半ばで断念せざるを得なくなりました。
楽しみにお待ちいただいた方々には本当に申し訳ありません。

またの機会がありましたら、よろしくお願いします。



え〜、代筆を務めさせていただきました、猫宮・烈です。
まずは、リアクション公開が絶大に遅れましたこと、心からお詫び申し上げます。ごめんなさい。

代筆に当たり、可能な限り今回のシナリオに関係してくるリアクション等を調べ上げ、設定やキャラクター同士の関係など反映させてみましたが、何分至らない点ばかりで、申し訳なく思います。
また、代筆という慣れない事態の中、いただいたアクションを十分に噛み砕けず、不自然なリアクションになってしまったことも、重ね重ねではありますがお詫び申し上げます。

そんな中でも少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。