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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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「アルディミアクちゃん、報告、報告ー」
 やれやれと一息ついていたアルディミアク・ミトゥナに、葛葉 明(くずのは・めい)がばたばたと近づいてきた。
「あたし、この前イルミンスールで、ココの情報いろいろとつかんだんだよね」
 そう言うと、葛葉明は、イルミンスールで聞いたココ・カンパーニュのもう一人のパートナーのことをアルディミアク・ミトゥナに告げた。
「星拳エレメント・ブレーカーはそのパートナーからもらったって言うから、きっとその子も十二星華だと思うんだけど」
「見えすいた嘘を言ったものだ。双子座の星拳の片方を盗んだというのに」
 憎々しげに、アルディミアク・ミトゥナはつぶやいた。
「それから、これが大事なんだけど、ココは意外と胸が大きかったです。アルディミアクちゃんとくらべるとどうかなあ……」
 そう言うと、葛葉明はむんずと両手でアルディミアク・ミトゥナの胸をつかんだ。
「うーん、オッパイセンサーの結果だと、ぴったりの同じでっかさだわ」
「な……な、何をするぅ!!」
 我に返ったアルディミアク・ミトゥナが、素早い足払いで葛葉明のバランスを崩すと、掌底を胸に当てて彼女を吹っ飛ばした。
「きゅう」
 気絶した葛葉明から、ヴァンガードエンブレムが転げ落ちる。
「こいつもか。さっさと連れていけ」
 いったい何人潜り込んでいるのかと、アルディミアク・ミトゥナは頭をかかえた。
「それにしても、なんでそこまでココのことをつけ狙うんです」
 あらためて、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)がアルディミアク・ミトゥナに訊ねた。ぱっと見は髪を結い上げた眼鏡っ娘に見えるが、それは変装の結果である。
「話を聞いたことはないのか? 奴は、私の姉の仇だ」
 あらためて、アルディミアク・ミトゥナは繰り返した。
「そのことなんだけど……」
 どうにも腑に落ちないことがあると七尾 蒼也(ななお・そうや)が口をはさんだ。
「星剣を手に入れるには、元の持ち主を殺さなければならない。だから、ココは君の姉さんを殺して星剣を奪ったって言うことなんだろうけれど、ココは地球人だろう。剣の花嫁じゃない。だから、本来は彼女だけじゃ星剣を使えないはずなんだ。そう考えると、彼女のパートナーである剣の花嫁がいるはず。もしかして、それが君のお姉さんである可能性っていうのはないのかなあ」
 それは、七尾蒼也がジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)からいろいろと話を聞いたときから、ずっといだき続けてきた疑問だった。
「何を馬鹿なことを」
 七尾蒼也の言葉を、アルディミアク・ミトゥナは一笑にふした。
「なら、一つだけ教えてほしいんだけれど。君のお姉さんって、誰?」
「私の姉が誰だと……」
 唐突にも思える七尾蒼也の疑問に、アルディミアク・ミトゥナはすぐには答えられなかった。
 おかしいと、七尾蒼也は疑惑を深めた。アルディミアク・ミトゥナの言っていることは、ココ・カンパーニュの主張と矛盾している以前に、どうにもまとまりがない。まるで、後から適当に考えられた記憶のように。
 噂では、洗脳されてティセラの手下にされていた者がいるという。もしかして、アルディミアク・ミトゥナもそうなのではないだろうか……。
「……シェリル……シェリル・アルカヤ。そう、私の姉の名はシェリル・アルカヤだわ」
 アルディミアク・ミトゥナは、そうつぶやいた。
 
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「アルディミアク様のことですか?」
「はい、そうですわ」
 白乃 自由帳(しろの・じゆうちょう)ことエルは、飛空挺に荷物を運ぶのに忙しい元社長の新米海賊を捕まえて訊ねた。
「今、忙しいんだが……」
「そこをなんとかお願いしますわ」
 エルが頼み込む。翡翠に頼まれて、アルディミアク・ミトゥナの人となりを調べてほしいと言われたのだが、なかなかはかどっていない。
「べっぴんさんだよね。気が強くて怖いところもあるが、デクステラ様たちと話しているときは、それは楽しそうでかわいいんだが……、ああこんなことをしてはいられない。私は忙しいんですよ」
 そう言うと、新米海賊は逃げだすようにして走り去っていった。
 
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「シニストラには内緒だよ」
「もちろん。酒を持ってきたのはわしであるからな」
 そう言うと、織田 信長(おだ・のぶなが)はデクステラ・サリクスのさしだしたお猪口に、徳利からとくとくと日本酒を注いだ。
「で、女王像の欠片とは、いったいどんな効能を持っているのかな」
「ああ、あれ。あれは単なる飾りよ。女王像だけじゃ何の意味もないもの。五獣の女王器を収めてこその女王像よ」
「ほほう」
「女王器の中でも、もっとも女王に近しいと言われている五獣の女王器、まあ、ほんとかどうかは知らないけどさあ、やっぱりアムリアナ・シュヴァーラ女王様ゆかりの品っていうだけでもの凄いステイタスじゃない。全パラミタのあこがれの的よ」
 酒のせいか、いつもより饒舌にデクステラ・サリクスが語った。
「五獣の女王器をすべて身に纏えば、それだけでもう女王その物よね。誰だって、女王と認めちゃうわよ。このあたしが着れば、獣人はみんなほいほいとついてきちゃうわ。もっとも、あたしじゃ、使いこなせないんでしょうけどもね」
「それが、新しいシャンバラの女王というわけであるな。近頃のパラミタは政情乱れた群雄割拠、賊を名乗れども、国を盗る野心の一つも持ったとしても、おかしくはなかろうよ」
「そうね。あのお嬢ちゃんなら、女王になれるわ。いいえ、あたしたちが……。おっと、また怒られちゃうわね……」
 そう言いかけたまま、デクステラ・サリクスはスースーと小さな寝息をたて始めてしまった。
 
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「さて、これで準備は整いましたね」
 廃墟の屋上に立って、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は満足気に周囲を見回した。彼女の下にある建物が、地下への出入り口の一つとなっている。メインの出入り口は海賊たちがガッチリ固めているので、いくつかある小さな出入り口を敵は狙ってくるだろう。その一つに、彼女は罠をしかけたのだった。
「囮の地雷はしかけ終わったぜ」
 宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が、ぶきみな笑顔を浮かべながら戻ってきた。建物の周囲に、地雷らしい物をしかけてきたのだ。もちろん、爆発などしない。だが、それを見た敵は必ずや地雷を避けるだろう。そうすれば、自ずと建物に入ってくるルートは限られる。藤原優梨子は、そこにナラカの蜘蛛糸を張り巡らしたのである。迂闊に入ってくれば、切断糸となったトラップに引っかかって、あっけなく身体が切断されてしまうという恐ろしい罠だ。これが、どの程度役にたつ罠なのか確かめるのが、海賊に手を貸した真の目的であった。
「さあ、いつでもいらっしゃい」
 藤原優梨子は、まだ見ぬ敵にむかってつぶやいた。
 
 
3.突入
 
 
「誰かやってきたか!?」
 廃墟の屋上でスナイパーライフルを構えていた浅葱翡翠は、スコープをのぞいてその人影を確認しようとした。
 なぜか、鏖殺寺院の制服を着て駿馬に乗っている。
「そのような人物の来訪は予定されていないとのことですわ」
「分かった」
 エルに確認した浅葱翡翠は、ためらわずスナイパーライフルの引き金を引いた。
 馬上の人物がはためかせている鏖殺寺院の制服の裾を、放たれた弾丸が貫通する。
「ふっ、見つけましたか。いいでしょう、私の名はクロセル・ラインツァート、アジトは狙われている!!」
 そう叫ぶと、クロセル・ラインツァートは鏖殺寺院の制服を脱ぎ捨て、馬上にすっくと立ちあがった。素早く着替えたイルミンスールの制服が、マントのように風にはためく。
「さあ、かかってきなさい!」
「じゃ、お先に〜」
 見得を切るクロセル・ラインツァートの横を、空飛ぶ箒に乗ったウィルネスト・アーカイヴスが追い越していった。
「ひさしぶりに、全開で行くぜ! 必殺、俺の必殺技パートワン!」(V)
 ワルプルギスの書をかかえ持ったウィルネスト・アーカイヴスが、五芒星を内に持つ魔法陣を指先の炎で頭上に描きだした。
「焼き尽くせ、炎盤のダウンバーストよ!!」
 前方を指さすウィルネスト・アーカイヴスの動きに合わせて、炎の魔法陣が飛んでゆく。廃墟の手前で止まると、魔法陣の炎が崩れた。次の瞬間、溢れ出すような炎の渦が、地上にむかって吹きつけた。火柱となり地上に叩きつけられた炎は、逆巻いて周囲へと広がっていく。
 直撃はしなかったものの、迫りくるファイヤーストームに、たまらず浅葱翡翠が避難した。
「派手にやってくれる。散開して挟み込め」
 炎が消えるのを待って現れたシニストラ・ラウルスが、ビーストマスターに率いられた狼たちを左右に分けて前進させた。
「出てきたな。この前の雪辱戦だ、俺と勝負しろ! オラァ! かかってこいやあ!!」(V)
 駿馬に乗ったラルク・クローディスが、クロセル・ラインツァートを追い越してシニストラ・ラウルスにむかっていった。
「なぜです。なぜ、みなさん私を追い越していくんです」
 解せないとばかりに、クロセル・ラインツァートが叫んだ。
「それは、馬の上に立って乗ってたりするからあたりまえなんだもん」
 秋月葵が、的確なツッコミをクロセル・ラインツァートに入れた。
 
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「回り込もうとしても無駄だ。さあ、さっさとアルディミアクを出してもらおうか」
 狼の群れを威圧しながら、白砂司が叫んだ。
「こちら側の敵は、俺に任せてもらおう」
 漆髪月夜から受け取った黒剣を振るいながら、樹月刀真がもう一方の狼の群れを文字通り切り裂きながら進んでいった。
 
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「では、こちらもそろそろ参りましょうかあ」
 のんびりと最後尾から歩いてきたチャイ・セイロンが、すっと蛋白石のリングを填めた右手を掲げた。ドンという音ともに、地中から巨大な氷柱が現れる。
「危ないですよお。倒れま〜す」
 チャイ・セイロンがそう言って右手を前に出すと、氷柱が白砂司の手前で躊躇していた狼の群れの上に倒れ込んでいった。地響きとともに氷柱が何匹かの狼を下敷きにして大地に激突する。砕け散った氷の破片が、周囲の狼たちに容赦なく襲いかかった。
「じゃあ、あたしも……うっきゃあ!」
 ハンドガンをホルスターから抜こうとしたリン・ダージが、突然悲鳴をあげた。
「縮む、縮む、あたしの背が縮んじゃう!」
 叫びながら、リン・ダージがのたうち回る。
「ふふふ、どうだね、悪夢のお味は」
 光学迷彩で死角に回り込んだ桐生円が、してやったとほくそ笑んだ。
「やったのだ、これでどっちが大人対決は我の勝ちなのだ」
「はうぅ〜。今はそういう状況じゃないでしょ」(V)
 場を考えずに勝ち誇るジュレール・リーヴェンディを、カレン・クレスティアが軽く叱った。
「任せてくだサーイ。こういうときこそ、カレーのでばーんデース」
 そう叫ぶなり、アーサー・レイスが、激辛カレー飴をリン・ダージの口に放り込んだ。
「あわわわわ、からーーーい!!」
 別の意味で、リン・ダージがのたうつ。
「はあはあ、よくもやったわね」
 ぺっと飴を吐き出してから、リン・ダージが怒りとともに復活した。
「むこう!」
 桐生円の殺気を看破したカレン・クレスティアが、彼女が身を隠している方向を指さした。
「蜂の巣になっちゃいなさい!」
 リン・ダージがハンドガンを乱射する。
「見つかったか」
 それ以上の攻撃を諦めて、桐生円はミネルバ・ヴァーリイたちの待つ後方まで後退していった。