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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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4.虚実
 
 
「ちょっと、これって、もし下に女王像の欠片とか、誰か人がいたら……」
 姿を隠してついてきているはずの南 鮪(みなみ・まぐろ)が、もし間違えて先に中に入っていて潰れちゃったらどうしようかとマリーア・プフィルズィヒが少しあわてた。
「運が悪いってことだよな」
 しれっとマサラ・アッサムが答える。もとより、ゴチメイ隊にとっては、女王像の欠片が砕けてしまったとしても、それはそれ、これはこれである。
「後は思い思いに散って、自分たちの目的の物を探してください。できれば、アルディミアク・ミトゥナを発見したら、御連絡を」
 そう一同に告げると、ペコ・フラワリーはできたばかりの大穴の中に飛び降りていった。瓦礫の頂上に無傷で立つココ・カンパーニュの横に、ストンと片膝をついて着地する。
「やっと、役にたてそうじゃのう。予定では、いったん中央の広間にむかうことになっておる。行こうぞ」
 ウォーデン・オーディルーロキが、ココ・カンパーニュを誘った。
「どうする?」
 少し胡散臭いなと、マサラ・アッサムが言った。
「別に、私は一人で行くわけじゃない」
 二人の顔を一瞥すると、ココ・カンパーニュはウォーデン・オーディルーロキの後を追った。
「いきますよ」
 マサラ・アッサムと視線を交わすと、ペコ・フラワリーはリーダーの後に従った。
 
    ★    ★    ★
 
「まずい、なんてことしやがるんだあいつらは」
 突然大穴を開けられるというのは、さすがにシニストラ・ラウルスとしても予想外であった。
「いったん戻ろう、シニストラ。ここにいたって、あんな大穴塞ぎきれないよ」
 一気に活気づいて巨大な入り口に殺到する学生たちを見て、デクステラ・サリクスがシニストラ・ラウルスをうながした。
「おおっと、お前たちを簡単にいかせちゃ、炎系人型モンスターの異名をとる俺としては名折れなんだよな。燃え上がれ、紅蓮の炎!!」(V)
 ウィルネスト・アーカイヴスが、行く手に炎の壁を作って二人を阻んだ。
「こしゃくなまねを……」
 いったんシニストラ・ラウルスがひるむところへ、炎の壁が消えると同時にその後ろからラルク・クローディスが飛び出した。
「まだ決着はついていないぜ」
「しつこい奴だ!」
 シニストラ・ラウルスが、しかたなく拳を交える。
「いつまでそんな雑魚に……!」
 駆けつけようとしたデクステラ・サリクスが、眼前をクロセル・ラインツァートの駿馬に遮られて急停止した。
 すぐさままた飛び出そうとしたとき、馬の影から樹月刀真が現れた。黒剣が水平に大気を薙いでデクステラ・サリクスに迫る。ほとんど野生の動きで、デクステラ・サリクスがのけぞって剣の下すれすれをかいくぐった。その勢いのまま転げるようにして、デクステラ・サリクスが体を入れ替えて振り返る。切り抜けた樹月刀真が切っ先を返すところへ、ケープを投げつけて間合いを取り直した。
「二人がかりとは、卑怯だよ」
 デクステラ・サリクスが、少し前の自分たちの台詞を忘れて叫んだ。
「いい褒め言葉です。ヒーローたるもの、共闘は基本中の基本。ここから先へは進ませません。これで幕引きとしましょう」(V)
 馬上から、クロセル・ラインツァートが言い返した。
 
    ★    ★    ★
 
「派手な襲撃だぜ。ぶうううるう、血がたぎる!!」
 いきなり天井が抜けて大混乱に陥ったアジトの中で、吉永竜司が武者震いした。
 幸い、ココ・カンパーニュが大穴を開けたのが遺跡の端の方であったので、遺跡全体が崩壊することはまぬがれていた。
「おう、そこにいるのは真イエローじゃねえか。首尾はどうだ、あん?」
 ナガン・ウェルロッドが、偶然出会った同じカリン党の吉永竜司に、拳で語りかけてきた。
「それが、さっぱりでなあ、ブルーよ」
 吉永竜司が、拳でもって答える。
「なっさけないじゃないか。ピンクはどーしたい」
 等割地獄!!
「うぼっ。ピンクは行方不明だ」
 ヒロイックアサルト!
「待て、どんなヒロイックアサルトか説明しやがれ」
「細けーことはいーんだよ」
 ぽかぽかぽか……。
 すでに、なんで戦っているのか分からなくなっている二人であった。
 
    ★    ★    ★
 
「どうやって中に入ろうかと思っておったが、こんなにでかい入り口があったとはラッキーであったな」
 混乱に乗じて、ココ・カンパーニュの開けた穴から海賊のアジトに入り込んだリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が、ほくほく顔で言った。
「それで、肝心の女王像の右腕の形状は調べがついたのであろうな」
「もちろんだぜ」
 ララ サーズデイ(らら・さーずでい)が、銃型ハンドヘルドコンピュータで、立体画像を投影して自慢した。
「これを元に、レプリカもちゃんと用意してある」
「はーい、持ってるでごじゃるよ」
 やる気のない声で、ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)が、用意してきたレプリカの右手をひらひらさせた。
「貴様ら、いつの間に女王像を、追え、追え!!」
 それを目撃した海賊たちが色めきたった。大声をあげて、追いかけてくる。
「ほら、本物そっくりでごじゃろう」
 あっけなく欺された海賊たちを指して、ララ・サーズデイが自慢げに言った。
「今は、そういう場合ではないだろうが」
 なんとかしろと、リリ・スノーウォーカーが叫んだ。
「じゃ、隠れるでな」
 逃げるのをめんどくさがったロゼが、隠れ身でレプリカごと姿を隠した。
「女王像を持った奴がいないぞ。奴から捜せ、急げ!」
 目的を見失った海賊たちが、混乱する。その間に、リリ・スノーウォーカーたちは、追っ手を逃れた。
 
「まったく、何を騒いでいるんだか。女王像の右手ならここにあるのに。おっと、他にもまだ持ってこないといけないものが……」
 飛空挺の貨物室に収められた変哲もない小箱をチラリと見てから、新米海賊の社長は地道にお宝を飛空挺に集める作業を続けていった。
 
    ★    ★    ★
 
「んーと、はい、これあげるでごおじゃる」
 逃げるのに疲れたロゼは、適当に目についた男にレプリカを押しつけた。海賊か学生かは分からないけれど、これで、今度はこの男が鬼ごっこの鬼というわけだ。
「うおおおおお、弁天様じゃ、弁天様が光臨して、俺に女王様の右手をお授けくださったぜ!」
 突然現れて、レプリカの右手を押しつけると同時に、すぐまた隠れ身で姿を消したロゼの姿に、南 鮪(みなみ・まぐろ)は歓喜の声をあげた。
 肩と背中の大きく開いた、ゆったりとした和服姿のロゼを見て、南鮪が勘違いしたのも、パラ実脳としては妥当なところだったかもしれない。
「エロい、エロい右手だぜい」
 レプリカの右手にすりすりと頬ずりしながら、南鮪が悦に入って叫んだ。
「ガイアスさん、見つけました。女王像の欠片です。早く、早く」
 変態チックな南鮪の姿を発見したジーナ・ユキノシタが、急いでガイアス・ミスファーンを呼んだ。
「なんだ、これは俺のもんだぜ。誰にも触らせねえ」
 ジーナ・ユキノシタに気づいた南鮪が、レプリカをだきかかえるようにして叫んだ。
「それは、女王候補であるミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)様のものだ。おとなしくクイーン・ヴァンガードに渡してもらおう」
 やってきたガイアス・ミスファーンが、毅然とした態度で南鮪に言った。
「誰がそれに従うかってんだよ」
 言うなり、南鮪が逃げだした。前方を歩く者を、容赦なく払いのける。
「きゃあ。痛っ、やったな〜」(V)
 出会い頭に南鮪に弾き飛ばされて、カレン・クレスティアが尻餅をついた。
「あれを見るのである。女王像の右手なのだ!」
 ジュレール・リーヴェンディが、逃げていく南鮪を見て叫んだ。
「本当だ。追いかけよう!」
 急いで立ちあがると、カレン・クレスティアは南鮪を追いかけた。
 
    ★    ★    ★
 
「俺としたことが、この混乱でアルディミアクを見失うとは……」
 レン・オズワルドは、アルディミアク・ミトゥナの姿を捜していた。思いもかけない形で侵入を許してしまったために、海賊たちは作戦も何もない状態に追い込まれている。
「誰か来るよ」
 ノア・セイブレムが、助けを求めながらこちらへ欠けてくる新米海賊をさして叫んだ。
「た、助けてくださーい」
「待てー、なんか知らないけれど、そのお宝っぽい物の中身見せなさいよー」
 新米海賊の後ろからは、日堂真宵と土方歳三が追いかけてくる。
「止まれ。もしそれが盗品であるのならば、持ち主に返すんだ」
 見慣れないマークのついた箱を指さしながら、土方歳三が叫んだ。
「世話の焼ける。全力で走れ!」
 新米海賊にむかって叫ぶと、レン・オズワルドが弾幕援護で周囲の壁や天井を乱射した。
 飛び散る壁の破片などが煙幕代わりとなり、日堂真宵たちの足が鈍る。
「こっちだ」
 新米海賊を追いたてるようにして、レン・オズワルドたちが走りだした。
「逃がすものですか」
 しつこく追いかけようとした日堂真宵が思い切り足をすべらせて転んだ。後ろの土方歳三を巻き込む形でもんどり打って倒れる。
「いたたた……、なんだって言うのよ。もう、べたべたぁ」
「これを踏んですべったようだな」
 土方歳三は、ノア・セイブレムがばらまいていった大量のミカンを指さして言った。
 
    ★    ★    ★
 
「ロゼはどこか消えてしまうし、本物はいったいどこにあるんだ?」
 ララ・サーズデイが困ったように言った。
「わらわなら、ここにおるのじゃが?」
 ふいに姿を現して、ロゼが言った。
「ようし、これでまた揃ったのだな。頑張って、女王像の欠片を手に入れて、あちこちに恩を売ってのし上がるんだよ」
 リリ・スノーウォーカーの言葉に、おうとパートナーたちが応える。
「それにしても、何か変な臭いがするのだが」
 ロゼが、鼻をクンクンさせた。
 周囲を見ると、扉が開け放しになっている部屋の中からその香りは漂ってくる。
「中に何かあるのだろうか?」
 ロゼが、大胆にも部屋の中に入っていった。
「どうであるかな、ロゼ?」
 様子をリリ・スノーウォーカーが訊ねるが、返事がない。
「ロゼ?」
 そっと中をのぞいてみると、部屋の中央にロゼがひっくり返って倒れている。
「まさか、毒ガスか!?」
 鼻と口を押さえると、ララ・サーズデイとリリ・スノーウォーカーは、ロゼの身体を部屋の外に引きずり出した。
「大丈夫。単に寝ているだけのようだ」
 様子を見たララ・サーズデイが言った。
「心配させるものだ。そうすると、催眠ガスでも充満していたと言うのか。とにかく、他の場所にロゼを連れていこう」
 力のあるララ・サーズデイにロゼを背負わせると、リリ・スノーウォーカーはそこから離れていった。