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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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「エレンシラ ルメン オメンティエルボ(Elen sila lumenn omentielvo)ですわ」
 ココ・カンパーニュとチャイ・セイロンが歩くところに小走りで近づいてきた九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )のフードの中から、マネット・エェル( ・ )が顔を出して挨拶をした。
「あらあらあら、御丁寧に。我らの相出会うとき、一つ星の輝く、ですわねえ」
 なんのことかときょとんとするココ・カンパーニュを尻目に、チャイ・セイロンだけがそう答えて軽く頭を下げる。
「ごめんね、相変わらずマネットはマイペースで」
「みんなそうよ」
 だから、面白いけれど困ると、ココ・カンパーニュが苦笑いした。
「一つ聞いてもいいかなあ」
「みんな、質問が好きだなあ」
 またかと、ココ・カンパーニュが軽く溜め息をついた。
「だって、分からないことだらけなんだもん。星の力を追う者として、星の名を冠した十二星華も、星剣も気になるわよ。あんたの光条兵器は、なんとなくあたしのに似ているし。あれって、元は、双星拳スター・ブレーカーという名前だって聞いたんだけど」
「ああ、シェリル――私のパートナーの剣の花嫁だけれど、彼女は星を砕く拳だと言っていたなあ。本当に星が砕けるとは思えないけどね。しょせん、ただの名前だよ」
「あら、でも、名前は、ただの名前であって、でも、そのものの名前でもありますからねえ」
 興味を持ったチャイ・セイロンが、間に入ってきた。
「たまに、チャイは意味不明のことを言いだすからなあ」
 頭が痛いと、ココ・カンパーニュがわざと顰めっ面をして見せた。
「メモります?」
 どうしましょうかと、フードの中の九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が、九弓・フゥ・リュィソーの耳にささやいた。
「一応」
 小声で、九弓・フゥ・リュィソーが答える。
「一つの光条兵器が、二つに分かれるなどということがあるのかなあ」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、素朴な疑問を口にした。剣の花嫁のことは、謎が多すぎて今ひとつよく分からない。
「さて、どう突き崩すか。一つだけ言えるのは、もし二つの星剣が元々一つの物なのだとしたら、その持ち主たちもまた、一つの絆を共有している可能性があるということだな」(V)
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、それがポイントだと言いたげだ。
「それが、アルディミアクのお姉さん? それとも、ココの妹さん?」
「さあ、どちらにしても、話はかみ合わぬ。二人が同一人物だとしても、矛盾だらけじゃ。だいたい、本人すら、よく分かってはいないのではないのか?」
 悠久ノカナタは、チラリとココ・カンパーニュの方を見た。
「そうさ。私は馬鹿だから、ちーっとも分かんない。でも……」
 耳ざとく悠久ノカナタの言葉を聞きつけたココ・カンパーニュが言う。
「だから、確かめに行くんだ」
 それしかないと、力を込めてココ・カンパーニュは言った。
「道は、それしか無しか。覚悟を決めるのだな」(V)
 悠久ノカナタは、ほっと深く息を一つ吐き出した。
 
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「カレーやだー!」
 ココ・カンパーニュたちの許へ、リン・ダージが走り込んできた。
「早く、目的地に行こうよ」
 リン・ダージが、マサラ・アッサムとココ・カンパーニュの手を引っぱって走りだす。よほど、辛い物が嫌いらしい。
「はーい、こちらにおいでませー!」
 行く手に、両手を大きく開いた朝野 未沙(あさの・みさ)が待ち構えるようにして現れた。
「はーい、そこまでー」
 すっと横合いから現れた、マサラ・アッサムがエペの切っ先をむけながら朝野未沙を牽制した。
「ああん、なにするんだもん」
「あんたは、油断できないからなあ」
 きっぱりとマサラ・アッサムが言った。さすがに、マサラ・アッサムの同性好きに強力なブレーキをかけた朝野未沙は、しっかりと行動がマークされている。
「別に、だきつこうとか、あれなことやこれなことをしようなんて思ってなかったんだもん……多分……」
 朝野未沙が必死にごまかそうとする。
「よ、よかったですわ……」
 その様子を見ていた佐倉 留美(さくら・るみ)は、わきわきしかけていた手を後ろに回して、ちょっとひきつり笑いを浮かべた。あやうく、朝野未沙の二の舞になるところであった。
「どうかしたのかい?」
 佐倉留美の様子を変に思ったココ・カンパーニュが、そう訊ねた。
「いいえ、なんでもありませんわ。女の子は、エレガントにと言うことです。せっかくの素敵な衣装なのですもの」
 そう言って、佐倉留美はマイクロミニのスカートの両端を軽くつまんで、ココ・カンパーニュに優雅にお辞儀をした。
「そういうの苦手なんだよなあ」
 困ったように、ココ・カンパーニュが言った。
 彼女の場合、意外なことにこの格好の方が動きやすいということもあって気に入っているのだが。それでいて、ふわりとした感じがかわいくて好みなのだ。そういうところはまさに女の子なのだが、戦いのとき意外は繊細という言葉とは無縁なので、どうにも衣装その物が持つ古風なエレガントさとは無縁ではある。
「そういえば、地上に残してきたという妹さん、シェリルさんだったっけ? 姉妹と言うからには、ココさんにそっくりなのかなあ」
 ココ・カンパーニュがだめなら、よく似た妹の方が美味しいかしらと、朝野未沙は興味津々で言った。
「そっくりかなあ。まあ、そう言われたことも、前にはあったけどねえ」
 わずかに昔のことを思い出して、ココ・カンパーニュは答えた。
「剣の花嫁は、パートナーの大切な人に似るって言われているけれど、そのシェリルさんって、本当に双子みたいだったのね。もしかしたら、もう一人のココさんって言ってもいいのかもねっ」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、無邪気に言う。
「じゃあ……」
 朝野未沙が、なおもいろいろ訊ねようとしたとき、彼女たちの頭上を黒い影が通りすぎた。
「遅かったな。待ちくたびれて、周りをいろいろと調べてしまったぞ。目的の廃墟は、この先だ」
 風を巻き起こして反転着地したジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が、ココ・カンパーニュたちに言った。
 
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「ようこそ、シャンバラ大荒野、パラ実の故郷へ。わたくし、カリン党ブルー、決してイエローではございません。ブルーのナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)――ちっ、また口がすべっちまったぜい――と申します。今回の廃墟荒らし、略奪、破壊、我がカリン党としては、全面的にバックアップさせていただくぜえい。さあ、パーティー始めようぜ!」
 廃墟近くでゴチメイたちを待ち構えていた一団が、ココ・カンパーニュたちの姿を見つけて駆けよってきた。今回は、忘れずにプロレスマスクを被っているが、はたして、これにもう意味があるのかは不明である。
「きゃあ、やっと来たんだもん!」
 超感覚全開にしてネコミミを立てていた秋月 葵(あきづき・あおい)が、色紙を持って走ってきた。黒いクラシカルなメイド服のスカートの裾を靡かせて、ナガンを押し分けて前に出る。
「きゃー、サインください」
 お願いしますとばかりに、深々とお辞儀をして色紙をココ・カンパーニュにさしだす。
 その色紙をひょいと取りあげると、ナガン・ウェルロッドがビリビリと容赦なく破り捨てた。
「あー!!」
 あまりのことに、秋月葵が呆然と立ちすくむ。
「サインくだしゃい」
 そんなことにはお構いなく、ナガン・ウェルロッドが自分の色紙をいけしゃあしゃあと取り出して頭を下げた。
「しかたないですね」
 それを取りあげたペコ・フラワリーが、「因果応報」と書いてサインする。
「ありがとうございましたぁ!! ささ、この先に落ち着ける場所がありんす。そこで、たっぷりと略奪の御相談を」
 あたしのサインはーって叫ぶ秋月葵を無視して、ナガン・ウェルロッドは一行を、他の者たちが待つ場所へと案内していった。
「いやあ、これはおそろいですな。いかがです、ビデオ出演の件は」
「ビデオ……!」
 出迎えた、アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)の言葉に、ココ・カンパーニュがピクリとこめかみの血管をふくらませた。最近、無性にビデオカメラを踏み壊したい衝動に駆られている。
「まあ、それはゆっくりとお考えいただくとしまして……。今回、わしらカリン党としましては、すでに吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)を敵方に潜入させておりましてな。今、調査中ですので、いずれ御報告を。ああ、ビデオの件は、またいずれ詳しくお話しさせていただきます」
 慇懃無礼に報告すると、とりあえずの用はすんだとばかりにアイン・ペンブロークは下がっていった。
「うちのメイコも、潜入してるんだけど、間違えてぶっ飛ばさないでくれるかな。お願いする」
 マコト・闇音(まこと・やみね)が、飛び出していってしまったメイコ・雷動(めいこ・らいどう)のことを心配して、ココ・カンパーニュに頼んだ。
「そういうの見分けるのって、面倒なんだよねー」
「世界樹のエントランスにいた方ですね。とりあえず、善処はしましょう」
 自信なさげなココ・カンパーニュに代わって、ペコ・フラワリーが一応約束してくれた。
 
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「あら、二人とも、なんでここにいるのよ」
 伏見明子は、パートナーの九條 静佳(くじょう・しずか)鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)の姿をそこに見つけて、怪訝そうに訊ねた。事前の役割分担では、彼女たちは噂の出所を確認するために、ザンスカールで聞き込みをする段取りだったはずだ。
「それが、酒場で女王像の噂をしていた二人組を追いかけてきたら、ここへ来ちゃったんだよ」
「どうやら、廃墟にいる者たちが噂を流していたのは事実のようです」
 九條静佳の言葉を、六韜が補足した。
「まあ、予想の範囲内と言ったら、そうだったわけだけどな。そいつらは、堂々と廃墟の中に入っていったから」
「やはり、女王像の話は、ブラフだったのかな。たとえそうだったとしても、首謀者は捕まえて、今後繰り返させないようにしないと」
 ただでさえ偽情報に振り回されるクイーン・ヴァンガードとしては、ここで噂の出所を一つ確実に潰しておきたいところだ。
「とりあえず、ココに教えておきたいところなんだけど、姿が見えないのよねえ」
 周囲を見回しながら、伏見明子はちょっと困ったように言った。