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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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 俯いたままに発せられた、その声は、女王候補ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)のものであった。
 晴れている、凛として。輝きを取り戻したミルザムの瞳が、ウィングへと向けられた。
「青龍鱗を強奪した者たちの追跡は、お二人に任せます。ただし、奪回が目的ではありません、無謀な事はしない事、よろしいですね」
「え、えぇ」
「パッフェルを追うには数名が必要でしょう。意欲のある方はいらっしゃいますか?」
 これにナナ・ノルデン(なな・のるでん)鬼崎 朔(きざき・さく)がパートナーたちと共に声をあげた。
「5名ですね… 良いでしょう。あなた方も、決して無理をせず、戦闘は出来るだけ避けて応援を待つこと、良いですね」
「はい」
「了解した」
 ミルザムの張りのある声が続いて響いた。
「トカール村の生徒たちにも応援を要請しましょう、誰か向かえる方はいませんか?」
 これにリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)カレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)が手を挙げて、一歩を歩んだ。
「はい! 僕たちがやるよ、川を下れば、すぐだろうし」
「あぁそうだ、川を少し調べても良いか? …… いや、良いですか?」
「構いませんが。目的は忘れないこと、良いですね、情報の伝達と共有が最優先です」
「はい」
「ヴァルキリーたち含め、動けない者を搬送する役目は1割の方でやりましょう。他の方は全員で蠍を止めます! 村には一匹たりとも入れてはなりません!!食い止めますよ!!」
 覇気が一気に志気を沸かせた。
 ミルザムの言葉は、どれも覇気に満ちていて、どの指示にも彼女の意志と期待が込められているを感じる事ができた。
 ただ、同時に戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)には不安も生じさせていた。
「ミルザム様、戦力を分散させるのは得策ではないようにも思えるのですが」
「大丈夫です、クイーン・ヴァンガードの、あなたたちの力を持ってすれば、如何なる状況にも対処できると信じています」
 ミルザムは一同の顔を改めて見渡して、
「ヴァルキリーたちを、人々の幸せを、護りますよ!」
 ミルザムの声に、一同は笑みを得て、それぞれの持ち場へと散っていった。
 楽観的だ、と言われれば… その通りかも知れない。しかし、あれだけ揺れのない瞳で見つめられては、自分たちへの信頼と期待の度合いが無手に伝わってくる。『信じている』その想いが胸を熱くたぎらせ、抱いていた不安を深く眠らせたようだ。
 人々を導く存在。顔を上げたミルザムの決意と決断は、まさに生徒たち一人一人が取るべき行動を指し示し、その背中を力強く叩いたのであった。
「見事だ」
 思わず笑んでしまっていたイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は、その笑みを殺してからミルザムに問いた。
「冷静さを取り戻した、というなら聞きたい事がある」
「はい。何ですか」
 イーオンのこの言葉に、ミルザムは何の気なしに応えたが、神野 永太(じんの・えいた)は眉間を寄せていた。そんな事には気づかないまま、イーオンは続け、ミルザムは聞いた。
「前回は剣の花嫁、今回はヴァルキリー。前回は出来て今回は出来なかった水晶化の解除については、どう考える?」
「原因… ですか」
「パッフェルが、毒の種類や比率などを変えたり、以前よりも強力な毒を獲得し射撃したとも推測できるのだが」
「しかし、」
 と続いたフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)は、ミルザムにではなく、パートナーであるイーオンと2人で語っているように言葉を紡いだ。
「しかし、初期にも水晶化を解除できない者もいたぞ。毒を新たに取り込んだのだとすれば、その効果は、まばらという事になる。これはどういうことだろう」
「まばらと言うよりは、何らかの意図があって撃ち分けているのだろう。毒に関して、と言うより、奴に関しての情報が少な過ぎる」
「武器の特性が判明しない事には、結論を出すのは性急、という訳か」
「ミルザム、どういった手触りで解毒していたのかはわからないが、何か違いはなかったか? 些細な事でも−−−」
「それ以上、口を開くな」
 問いたイーオンの喉元に、バスタードソードの切っ先が突き付けられた
神野 永太(じんの・えいた)が鬼の形相で剣を向けていた。
「何のつもりだ?」
「それはこちらのセリフです。その口調、一体どういうつもりです」
「口調?」
「ミルザム様を呼び捨てにするなど…… そのような無礼を許すわけにはいきません」
「そっちの機晶姫も、同じ理由か?」
 フィーネに向けて、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が六連ミサイルポッドを向けていた。
「ザインも同じ意志です」
「セル、止めろ」
「しかし」
 イーオンのパートナーである が永太に向けてライトブレードを構えていた。今にも斬りかかりそうなセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)に、イーオンは強く制止をかけた。
「セル」
「… はい」
「あなたも、剣を収めて下さい」
「そうだ、止めろ、お前も! そっちもだ!!」
 ミルザムに続いて、戦部が割って入り、剣を押さえ下ろそうとしたが、これに永太は抗った。
「『私を護る事で示して下さい、あなたの正義を』とミルザム様は俺に、永太に、そう仰った。だから永太はミルザム様の意志も名誉も尊厳さえも護る、それが永太の正義だ! 止めるな!」
「確かに言葉遣いに無礼な点はあったが、今は剣を退け!! そんな事をしている場合ではないだろう」
 ミルザムが真っ直ぐに、そして微笑みかけていたのに気付いて、永太は、ようやく剣を下ろした。拳を震わせたまま、ザイエンデと共にミルザムの元へと歩み出した。
 ため息をつくイーオンに、戦部は視線を向けた。
「貴殿の信条は知りませんが、組織の一員であるという意識は強く持つべきだとは思いますが」
「教導団らしい考え方だ。この場では、受け取っておこう」
 顔を伏せたまま歩み寄った永太は、ミルザムを前にひざまづいた。
「持っていてください。この剣には、女王の加護が宿っているそうです。きっとミルザム様を守ってくれます。そして、」
 剣に、武器の聖化を行い、気を込めた。
「私の正義も、この剣と共に」
 と誓うと、女王の短剣を差し出した。
「ありがとうございます。あなたにも女王の加護がありますように」
 短剣を受け取ったミルザムに、鬼崎 朔(きざき・さく)が報告をした。
「自分たちはパッフェルを追う… 三槍蠍には… 電雷属性の魔法が有効だった…」
「了解しました。皆に伝えましょう」
「鬼崎さん、行きましょう」
「あぁ」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)と共に鬼崎とパートナーたちも小型飛空艇にて空へと飛び立った。
 これを皮切りに、皆一斉に各々の態勢を整え終いた。
 迎え撃つ準備も整った。
 一行が、迫り来る三槍蠍の大群と、今、相い対するのだった。