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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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第二章 光と影

「ねぇねぇ、匿名さん、まだ着かないのかなぁ」
「もう少しさ、なぁ、康之」
「おぉ、そうだぜ、オレについて来い!!」
 ついて来るも何も、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)の軍用バイクには、パートナーである匿名 某(とくな・なにがし)が共に乗っており、更に無理矢理に取り付けたサイドカーに八神 誠一(やがみ・せいいち)オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が乗っているのだから、誰一人として離れる事など出来ないというのが現状である訳なのだが。
 蒼空学園からガラクの村へ。森を抜けて行かねばならぬと聞いた瞬間から、康之は自分のバイクに皆を乗せる事を決定事項とした。無論、みんなでワイワイ一体感を楽しむ為である。
「さぁさぁ、もうすぐ間もなく見えてきますぜぇ〜」
「康之… 俺たちの目的、忘れてないだろうな…」
「もちらんだ! 内緒で出掛けたダチに会いに行くんだろぅ?」
「ん、まぁ、間違ってはいないが……」
「自分たちだけで楽しもうなんて、ズルイよなぁ!」
「あぁ、そうだな」
 俺たちに内緒で。言わなかったのか、それとも言えなかったのか。
 親友である日比谷 皐月(ひびや・さつき)が、最近、よく姿を消す事に、一同は不安を覚えていた。八神匿名に至っては不信感すら覚えている。俺たちの知らない所で何をしているのだと。今回だって、ガラクの村に日比谷が向かったと言う事を事後に聞いて、共に感じた嫌な予感を頼りに彼らを追って来たのだった。
「あっ! あれ!!」
 不意にオフィーリアが空を指さした。2人で乗っている空飛ぶ箒の後方に、日比谷の姿が見て取れた。
「日比谷!!」
「あいつ…… って、どこ行く気だ?!」
「康之! 前っ!」
「えっ? うおっ!!」
 急ブレーキと共にハンドルを大きくきった。正面から向かい来ていた馬も、何とか目の前で止まる事に成功した為に、衝突だけは避けられた。
 駿馬に跨るウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、上空を行く日比谷へと視線を向けたのに気付いた八神は、素っ気なく訊ねた。
「奴らは裏切り者であり強奪者です。今も青龍鱗を持って逃走しているのです」
 悪い予感が当たってしまった。青龍鱗を強奪したという事は、所有者であるミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)を襲ったという事であろう、その事実だけで十二分に重罪である。加えて村の状況を聞いた所で匿名康之に耳打ちをした。
「康之、お前はこのまま村へと向かえ」
「えっ? それはどういう−−−」
「ミルザムに協力して、とにかくヴァルキリーたちを助けるんだ。但し、連絡は細めに入れてくれ、そっちの状況も知りたいからな」
「…… 某は、どうするの…… ?」
「俺は…… 日比谷を追う」
 匿名八神と共に、彼らの追跡に同行させてくれないか、とウィングに訊ねた。
「しばらくは奴らを泳がせます。見つからないように気を付けて下さい」
 了承の返事を受けた3人は、ウィングたちの後に付いて追跡を開始した。
 友の意図と目的を知る為に、何より友に近づく為に。目的は異なるが、空を行く者たちを見上げて追った。
 そして追われる者たちは。
「あの煙は…… 避けようかしらね」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)にも聞こえるように言ったのだろう。前方に見える煙を見て、メニエス・レイン(めにえす・れいん)は進行方向を北へと向けた。
 トカールの村には近づかぬように、強奪者たちは森の奥深くへと進路を取るのだった。


 舌を垂らしながら、または、まるで獲物を口に含んだ瞬間を重い描いているかの様に口元を上げている。
「かなり多いですね…」
 対岸に集まるは群れる炎毛狼。巨大甲虫の背に乗りて、村の上空から見つめたアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は、冷静に雫していた。
 トカール村に沿流する川の対岸に集まった炎毛狼は、煮立った香生草の香りに誘われて集まっていた。香生草のを原料とした塗り薬は、毒に苦しむヴァルキリーたちの痛みを和らげるのに有効であったが、煙に見える程に濃い湯気と人間には無香である香りが、狼たちを刺激してしまったようだ。
「避難させるにしろ、治療を続けるにしろ、とにかく時間を稼ぐ必要がありますね」
 3m程の体高を考えれば、狭まる川幅が10mを切れば、炎毛狼は川を跳び越えて来るだろう。ゆっくりと、しかし確実に狭まり続ける川幅を、奴らは期待と共に見つめているようだった。
 甲虫に高度を下げさせ、アシャンテアリシア・ルード(ありしあ・るーど)に報告をした。上空から見渡した炎毛狼の群れは、水平に対岸から見た狼の姿よりもずっと多く狂したものだったと。
「そうですか。やはり、いえ、とにかく避難します。みなさん! ここを離れますよ!」
「待って下さい! まだ、この方の治療がまだ…」
 全身を痙攣させている。メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の腕の中で涙を流すヴァルキリーは、その身を小刻みに痙攣させていた。
「症状が… 先程までとは違うのですぅ」
「見せてみろ!」
 狐の毛皮を被ったラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)は、彼女の全身を見て、胸元にキュアポイゾンを唱えた。
 ヴァルキリーたちを苦しめている原因が『毒』に分類できる事は、先の治療と検証で
分かっている。症状の鎮静にキュアポイゾンが有効な事も、生地たちが治療する中で発見した事であったのだが。
「痙攣の症状は、初めてだ」
「治せるですか?」
「あぁ、もちろんだ」
 ラズは胸元から喉へ向けて、キュアポイゾンを唱える手を移動させていった。不安が表れているメイベルの声色に、ラズは真摯に答えたのだが、『キュアポイゾンで治る』という保証も確信も、どこにも無かった。それは恐らく、この場に居る者の誰もが同じで、薬剤師であるアリシア・ルード(ありしあ・るーど)でさえも、未だ毒の成分を解明できないでいた。
「治療しながらで構いません! 乗せて下さい」
 軍用バイクに跨りながら、因幡 白兎(いなば・はくと)が2人に声をかけた。治療も必要である、しかし避難することもまた必要である。どちらを取るのではなく、出来るならば同時にするべきだと白兎は結論付けての行動だった。
 避難先は、まずはトカールへ。村中にも毒に苦しむヴァルキリーたちが数多く居るからである。
「村で治療を続ける方々と合流し、新たな症例と現状を報告し合いましょう。散々に動け
ば危険です」
 白兎が軍用バイクの走りを開始させた頃、村中では神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)を中心に、ヴァルキリーたちを集め始めた所であった。
「申し訳ありません、症状の軽い人は手伝って頂けないでしょうか」
 翡翠の声に、数名のヴァルキリーたちが立ち上がってくれた。彼女たちに再発症の兆しは無いようだった。もっとも、今はまだ、とも言えるのだが。
 皮膚が焼け溶けるような痛みを訴えていた者たちの治療は、ほぼ終えていたが、それと同時に、今度は全身を痙攣させるヴァルキリーたちが現れたのだ。しかも発症者はみな、一度治療した者たちばかりなのである。
「住民の皆さんは、知り合いの方で一度も姿を確認していない方がいないかも確認して下さい。全員で避難しますよ」
「おいおぃ、本当にここを離れるのかよ」
 レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)はヒールをかけながら見上げて言った。
「まだ治療は終わってねえんだぞ」
「すぐに離れるという訳ではありませんが、準備は済ませておかなくてはなりません」
「ん? どういう事だ?」
「皆それぞれに狼を食い止める策を模索している様ですから、我々も直ぐに動けるようにしておく、という事です」
「なるほどな、ん、なら俺はギリギリまで治療を続けるぜ」
「えぇ、お願いします」
 再びにヴァルキリーへと向き直したレイスを見、翡翠は村を見渡すように視線を歩かせた。
 村を離れなければならなくなる、という事は、狼たちが村に迫ってくるという事を意味している。それは狼たちを食い止める事を成せなかった、という事であり、
「そうなれば… 建物などは、諦めるしかありませんね」
 壊れたものは直せば良い。避難させるにあたり、その点は言っておく必要があるのかな、とも。例えそれが、気休めだと分かっていたとしても。