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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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1-05 三日月湖の風

 三日月湖に、冷たい風が吹く。
 新しく第四師団の遠征軍に合流した、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)
 彼女も、ひとまず教導団のもとを去ることになる一人だ。
 彼女はここで、これまでの戦いの記録に目を通し、教導団の行いに疑問を抱いていた。
 軍医だった祖父の影響を受けて医学を志している彼女。パートナーとの契約をきっかけに、教導団へ入学したが……。
 ここへ来て最初のうちは、軍医見習らしく、復興支援の中で、分け隔てなく、沢山の人々を治療してきた。それに大忙しだったが、その中で教導団のこの戦いの話を聞いたり、それに過去の戦いを読み返してみるうち……
 色々な疑問が浮かび上がってきた。偽龍雷の一件から、オーク将の死骸を蔑ろにしたという戦い方とか、教導団について起こってきたこれまでの色んなこと。
 教導団、これから本格的な戦いになる黒羊郷、それに周囲の様々な勢力。そして、戦に巻き込まれる民……
 どこからでもない、中立な立場から、この戦いの成り行きを見たいと思った。そして、出来るなら、その真実を記録したいと。
 戦争が行われた後に残される歴史は、勝者の都合のよいように改変される。それは、地球の歴史が物語っている……そう、夜住は思う。
 祖父の形見の医療鞄と、サバイバルナイフを携えて、夜住は立ち上がる。
「行きましょう。デュランダル?」
「……」
 そこには、誰の姿も見えなかったが、ガチャ、ガチャ、と音を立て、歩き出した夜住の少し離れて後ろを、しっかりと付いていく。
 デュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)
 彼女を守る見えない騎士だ。今、その姿と謎は明かされないが、彼女たちのこれからの旅で、見えてくるのかも知れない。



1-06 手紙

 お元気ですか。
 霧島さん。
 砂漠に旅立たれた霧島さんに、この手紙は届くのでしょうか。もちろん、宛て先は書いていません。
 だけど、この季節、三日月湖を渡って砂漠へとんでいくのにゃ、というとびねこさんたちに、この手紙をお願いすることにします。
 とびねこさん、ちゃんと届けてくださるのでしょうか……?

 街は、だんだん復興してきています。

 先日は、オーク戦車に壊されちゃったバンダロハムの床屋さんのお家を、皆で建て直したのですよ。
 そのとき一緒に潰れたオーク戦車の部品を、建物の材料に使ったり……
 それから、炊き出しで、私は料理を作る方ではなく、運ぶ方に回されたりとかですね、……



 霧島さん。お元気ですか。
 またとびねこさんの群れがいらっしゃったので、手紙を届けてもらうようお願いして、こうして手紙を書いています。
 霧島さんがどんな男の人なのか、ちゃんととびねこさんに伝えてありますよ?

 今、バンダロハムの街では、龍の噂話が囁かれています。
 それがちょっと恐いお話なのです……



 霧島さん。
 三日月湖に吹く風は、まだ冷たいです。とびねこさんはどうして、このような寒い時期に、砂漠をわたっていくのでしょうか。
 とびねこさんたちの家は、砂漠のすみっこにあるそうです。
 霧島さんは今、砂漠のどこにいらっしゃるのでしょうか。

 街の復興には、あらかた区切りがついてきました。
 色んな場所で、戦の話が聞こえるようになってきました。
 私も、一番激戦であろうところへ行って、一人でも命を救いたい。
 そう、思っていたら、教導団の方から呼ばれて……救護班に加わってもらいたいと。東の谷へ、行ってきます。霧島さんも、どうかお元気で。

 ――ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)