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灯台に光をともせ!

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第三章 灯台内部の波乱 1

 灯台の中は、昼間だというのに、全く日の光が入らないため薄暗い。
 ヤジロは、静かに滑らかに火術を発動させる。
 ヤジロの魔法は、代々召喚術士の家系で精霊や幻獣の力を借りて術を発現するため、術が動物のように動く場合がある。
 放った火術は、高く舞い上がり灯台内部を見渡せるほど明るさを発している。
「なかなか、調子がいい」
 ヤジロが、手を広げると袖から使い魔のネズミが飛び出してくる。
「ハイちゃん、頼んだぞ」
 ヤジロは使い魔を、一度、軽くモフってから放つ。
 使い魔のハイちゃんは、素早く部屋の隅の方へ走っていく。
「今のは、なんじゃい?」
 イーハブが横に並んで、呟く。
「使い魔のハイちゃんだ。近辺で魔物の目撃情報があるなら灯台の中に居てもおかしくないからな。調べてもらってるんだ」
「なるほどのお」
 感心して、頷くイーハブ。
 ほどなくして、ハイちゃんが戻ってくる。
「じーさん。予感は悪い方で的中だ。中に多数の鱗が生えた化け物がいるらしい」
「ふむ。サハギンじゃな。ま、このメンツなら、大した脅威じゃなかろう」
「結構、数がいるみたいだぜ」
「……ぬ、じゃあ、ワシは少し下がろうかの。先頭は男に任せて、おぬしも、ワシと一緒に下がらんか?」
「へぇ……。俺が男じゃないって、分かったのか?」
「ふん。何十年、スケベをやってると思ってるんじゃ。一目見て、性別くらい判断できるわい」
「……男のケツも触ってたみただが?」
「お主も、まだまだじゃの。見た目が女であれば、ワシは構わんのじゃ」
「ま、俺には関係のないことだ」
「……つれないのう。また、そういうところがソソるんじゃ」
「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってください!」
 ヤジロとイーハブの間に慌てて入ってくる、セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)
「アイリに手を出したら、私が許しませんよ。……一緒に闇の世界を回る仲間になりましょうか? それとも棺桶に……」
「……そ、それは遠慮しておくぞ。もっと、老人をいたわらんかい!」
「ふふふ、冗談ですよ♪」
「いや、殺気を込められて、冗談と言われてものう」
「ユピーナさん、ネイジャスさん、先頭をお願いします。
「おう! いいぞ」
「ま、仕方ないですね」
 ユピーナとネイジャス・ジャスティー(ねいじゃす・じゃすてぃー)が前に出てくる。
「ほっほー。随分と美人ぞろいじゃな。この胸など、たまらんわい」
 イーハブがニュッと手を伸ばし、ユピーナの胸を触る。
 だが、ユピーナ自信満々の笑みを浮かべて、言う。
「触りたければ触るがいい!」
「なにぃ!」
 イーハブがガックリとうなだれ、四つん這いになる。
「それじゃ、ダメじゃよ。『きゃっ!』とか、言って恥ずかしがるもんなんじゃ。男のロマンが解っておらん」
「?」
 ユピーナは、良く解らんと言った顔で、ネイジャスと肩を並べて先頭を歩き出す。
「恥ずかしがる顔が、男心を燃え上がらせるんじゃ!」
 イーハブは、バッと立ち上がり、丁度通りかかったアリアの胸を触る。
「きゃっ!? や、やめてくださ……ふぁ!?」
「これじゃ、これなんじゃー!」
 イーハブの拳の効いた声が、灯台内にこだました。

 
 灯台内は、各階、ちゃんとした部屋になっていて、昔は寝泊りをしていたことがうかがえる。
 一階は、壊した扉から多少入ってきていた日の光があったが、二階に登ってしまうと完全な闇が部屋を支配する。
 生徒たちの、火術、光術で照らしながら進むが、それでも薄暗い事には変わりはなかった。
 三階も、特に何ごとも無く、四階への階段を登っている最終だった。
 イーハブは、微妙に歩幅を調節しながら、ある女性の後ろをピッタリマークしていた。
 佐倉 留美(さくら・るみ)。超マイクロミニスカをはいていて、そこから伸びるすらりと伸びた脚に釘付けになるイーハブ。
 二階辺りから目をつけ、ミニスカを凝視している。
 だが、どう考えても、その下のにあるはずのモノを確認する事が出来ず、ぱんつはいてない様にしか見えない。
「ワシに対する挑戦状じゃ。受けてぞい」
 イーハブは、瞳の奥に欲望と言う力強い炎を宿し、そして、ついにこの『階段』という絶好の好機の場所にたどり着いた。
 ここは『階段』。そして、留美はイーハブの前を歩いている。
 ゴクリと生唾を飲み込む、イーハブ。
「おっとっと!」
 物凄い、わざとらしい声を上げながら、イーハブは階段で蹴つまづく。
「今じゃ!」
 イーハブはマッハの速度で顔を上げた。
「大丈夫かのう?」
 イーハブのマッハを越える光速の動きで、留美とイーハブの間に滑り込んできたのは、ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)だった。
「ぐぬぅ!」
 胃の奥から、搾り出すような声を出すイーハブ。
「ほれ、危ないのう。手に捕まるんじゃ!」
 ラムールが倒れているイーハブに手を差し伸べる。
「む、ありがとうじゃ」
 ラムールの手を掴み、立ち上がるイーハブ。そして、ノソノソと階段を登り始める。
「こやつ……」
 イーハブは、前を歩いているラムールの背を睨む。
 思考を張り巡らせるイーハブ。
 考えてみれば、ラムールの行動は異常だった。留美に触ろうとした瞬間、「何か探しものでもあるんかのう?」と話かけてくる。
 今のようにスカートを覗こうとした瞬間、間に入られ、「何かいいものでも見えるんかのう?」と注意を促してくる。
「……はっ!」
 イーハブはようやく気づく。
「こやつ、魔人じゃ……」
 そう呟いた瞬間、ラムールがチラリと振り向く。その口元には、僅かに笑みが含まれている。
「ワシを凌ぐ者がいたとは……」
 イーハブはガクリと肩を落とし、隣を抜き去ろうとするアリアのお尻を触る。
「ふ、ふあぁぁー!?」
 アリアの悲鳴が階段に響いた。

 
「おじーさーん。大丈夫?」
「おお。お嬢ちゃんは、優しいのう」
 転んだ、イーハブに微笑を浮かべて手を差し伸べているのは、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だ。
「ピチピチでええのう。健康的なエロさじゃ」
「え? 何か、言った?」
「いや、いや。こっちの話じゃ」
 イーハブはレキの手を握り、立ち上がる。が、足元がふらつき、体勢を崩す。
「おっとっとじゃ」
 イーハブは、よろけた体勢を立て直すために、レキのお尻を掴み、辛うじて転ぶのを拒否する。
「ひゃっ!? え? あ? おじーさん?」
「おおっ、すまんすまん。もう、年のせいかのう。足元がフラついてしもうて……」
「そ、そうだよ……ね? ちゃんと、気をつけなよ。怪我しちゃうから」
「すまんのう。……ふふ」
 イーハブが勝利の笑みを浮かべた時だった。背後から鋭い視線が、自分に刺さるのを感じ、チラリと振り返る。
 目を細めて、イーハブのことをジッと見つめてたのは、モフモフなゆる族のチムチム・リー(ちむちむ・りー)だった。
「こ、こやつ、今のワシの技を見抜いたか……」
 イーハブは額から流れる冷たい汗を拭い、レキと並んで歩く。
「それにしても、後ろに張り付かれるのは、やっかいじゃのう」
 これでは後ろから、お尻に手を伸ばすことができない。「何か、チャンスがあれば……」イーハブが呻く。
 その時だった。不意に、辺りが完全な闇へと落ちた。
「チャンス!」
 漆黒の中で、イーハブの目だけが、ギラリと光った。
 隣のレキに向かって手を伸ばす。
 むにゅ。むにゅ、むにゅ。イーハブは手の平に全神経を集中して、揉みまくる。
「うむ。これじゃ。この、暗闇の中というシチュエーションもいい!」
 この幸福が永遠に続けばいいと思った瞬間だった。
「すまねえな。術の効力が切れたぜ」
 新たに、火術を発動させヤジロが、頬を掻きながら言う。
 同時に、皆の安堵のため息が漏れる。その中で、イーハブだけが舌打ちをした。
「そんなに揉まれると、恥ずかしいアル」
「は?」
 イーハブは、モミモミしていた、自分の手に視線を落とす。
 それは、チムチムのお腹だった。
「ぬおお~」
 イーハブは血の涙を流したのだった。

 
「気をつけて……」
 イーハブを護衛するように歩く、リネン。
「おお。すまんのう、暗くて足元が……、おっとっと」
 イーハブがリネンの方に倒れこみ、胸をモミっとする。
「あ、やっ……やめ……さわっちゃ……あ……っ」
「いいではないか、いいではないか」
 さらに、モミまくるイーハブ。
「……やめ……」
 身を捻るようにして、イーハブの手から逃れようとするが、がっちりと捕まっている。
「やめなさいよ!」
「ぐえっ!」
 横から、怒りの形相でイーハブに鉄拳制裁をしたのは、ヘイリーだった。
「ちょっと! それ以上やったら、殴るわよ!」
「もう、殴っとるじゃろが!」
 イーハブは鼻を抑えているが、指の隙間からボタボタと鼻血が漏れ出している。
「リネン、後ろ行こ、後ろ!」
「……でも、護衛……」
「大丈夫だって、こんなじいさん、殺したって死なないわよ」
 リネンの手を取り、後ろの方に歩いていくヘイリー。
 そんな様子を、後ろでジッと見ていたフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)
 チラリと横を歩いている樹を見る。
「樹、お前も少しこちらへ寄れ。危険だからな」
 フォルクスは、樹の腰に手を回して撫でる。
「何、ご老体のお茶目に便乗してるんだこの変態ー!」
 ゴン、と鈍い音が響き渡る。
「ふふ、……相変わらず、素直でない」
 鼻血を出しながら、ポーズを決めるフォルクス。
 そんなフォルクスを見ながら、ポツリとつぶやく樹。
「嫌いなわけじゃないけどさ……セクハラはやめろっての」
「樹……、今、何か言ったか?」
「な、何でもねーよ。それより、もっとシャキっとしろよ。魔物の目撃情報もあるみたいだし、何があるか分からないんだから真面目にやれよ」
「そう言っているが、何もないだろ。暇だからこそ、我は樹と愛を育もうとしているのではないか」
「……もう、いい」
 樹が歩を早める。
「待て、樹。先に行くな。危ない」
 フェルクスが樹のお尻に手を伸ばす。
「だから、やめろって!」
 そんな二人の様子を見ながら、ふう、とため息をつくセーフェル。
「二人とも相変わらずですね……」
 その時、後ろから悲鳴が聞こえる。
「きゃっ、床に血が落ちてます……。戦闘ですか?」
 アリアの真剣な眼差しを見て、セーフェルは心の中で謝る。
「……違うんです。それは、戦闘とは一番遠い血なんですよ……」
 

 島巡回組 灯台裏側

「まいりましたね……」
 輝寛が、小さくつぶやく。
 灯台の裏側。そこには、人がやっと潜れるほどの穴が開いていた。
「すでに、かなりの数が灯台の内部にいると思われます」
 ナディアが穴の前に、しゃがみこみ、多数の鱗を見て顔をしかめる。
「殿、中に援軍として、すぐに参りましょう」
「うーん」
 鶴姫の言葉に、顔を曇らせる輝寛。
「殿?」
「……すでに侵入されている敵がいるとして、そいつらと戦っている時に、ここから、また入ってきた敵が来るとしたら……」
 鶴姫は、ハッとした表情になる。
「……挟み撃ちになりますね」
「……うん。そういうことになりますね。まずは、他にも島を巡回してる人たちがいましたよね? 何とか合流しないと……」
 困ったように、頭を掻く輝寛。
「心配ありません」
 ナディアが、そう言って立ち上がる。そして、携帯電話を取り出す。
「……携帯番号きいてありますから連絡しますね」
 すぐに電話をかけるナディア。
「い、いつのまに……」
 驚く輝寛。
 長い呼び出し音のすえ、やっと相手が電話に出る。
「もしもし、実はこちらで困ったことがありまして……。え?」
 ナディアは相手の言葉に、身を凍りつかせた。
 と、同時にペタペタと地面を歩く音が遠くから聞こえてくる。
 輝寛と鶴姫が顔を上げると、そこにはサハギンの大群が押し寄せてきていた。
「……まずい状況になりましたね」
 輝寛と鶴姫は武器を構えた。

 島巡回組み 灯台正面

 ローザマリアは、携帯を肩で挟んで話しつつ、スナイパーライフルをサハギンに向かって放つ。
「灯台の扉が破壊されているのよ。今は、灯台内に侵入されないよう、戦闘中なのよ。悪いけど、そっちに向かう事は出来ないわ」
 ナディアからの電話を切り、懐にしまう。そして、改めて周りを見渡す。
 倒しても、倒しても湧き出るように現れるサハギン。
 ため息を吐きつつ、一人……いや、一匹、一匹、ライフルで仕留めていく。
「ジョン! 右側、テレサの支援をお願い」
 ローザマリアは、壊れた扉の前に立ち、援護をしながら全体を見回し、指示を送る。
「くそ、今回はテレサたちに任せようと思ってたのに……」
 ジェンナーロはカルスノウトを振りかざし、テレサを襲っているサハギンを斬る。
「こんな戦闘になると思ってなかったから、これしか持ってきないっての!」
 ジェンナーロは、手に握っているカルスノウトを見る。カルスノウトは、護身用の魔法剣だ。本格的な戦闘には向かない武器だ。
「しかたないであろう! テレサやセレンは、水の中では力を発揮できるが、陸に上がれば話は別なのだよ」
 ライザはルーンの剣で、セレーネを援護するようにサハギンを叩き切る。
「に、しても、これはちとしんどいな」
 ライザが顔を上げると、さらにサハギンの数は増えていっている。
「全く、ゴキブリかよ。こいつら」
 ジェンナーロたちが、仕留めている以上に、サハギンの数は増えていってるように見える。
「ジョン。文句は後からにして。今は灯台内に侵入させないことが重要よ」
「はい、はい。解ってますよ、っと!」
 軽く、肩で息を弾ませながら、ジェンナーロはサハギンの急所を突く。

 
 灯台内

 最初に異常に気づいたのは、カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)だった。
 イーハブの度が過ぎたセクハラに、そろそろ我慢の限界が来ようとしていた時だ。
「ん? なんだ?」
 どこからか、ズルズルと何かを引きずるような音が聞こえてきていた。
「……どうしました?」
 振り向いて、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)心配そうな顔をする。
「いやぁ~、何でもねえ。それより、先頭にもう少し急ぐように言ってくれ」
「……わかりましたわ」
 リリィが頷いて、走っていく。
 カセイノは、地面に手を着き、振動を読み取る。
「引きずるっていうより、歩いてる感じだな。ヒレかなにかあるな。それで、引きずってるように感じたんだな」
 そして、カセイノはチッとしたうちする。
「結構な数だぜ、こりゃあ」
 カセイノはスッと立ち上がって、顎に手を当てて思案する。
「大群は、列の中央辺りに迫ってる……。リリィは今、先頭に向かわせたから安全だよな」
 灯台内はさほど広いわけではなく、生徒たちは列をなして先に進んでいる。
 カセイノは今の自分の位置を確認する。まさに、自分が列の中央にいるのだ。
「俺がやるしかねぇよな」
 ランスの柄で肩をポンポンと叩き、後続の生徒たちとイーハブを見る。
「じーさん。遅れてるぞ。走れ!」
「なにを! ワシは、ワシのペースで歩いておるんじゃ。前の奴らが早いだけじゃ」
「……俺って、気が長い方じゃねぇの。早くしねぇと、何するかわかんねぇ」
「わ、分かったわい。……まったく、最近の若いもんは……」
「何人か、じーさんの護衛についてやってくれ」
 カセイノがそう言うと、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が、前に出てくる。
「ま、我が適任であろうな」
 毒島は、そういうとイーハブの襟を掴んで持ち上げ、人を縫うようにして進んでいく。
 アッという間に、毒島とイーハブの姿は見えなくなる。
 ピューと口笛を吹く、カセイノ。
「何か、あったの?」
 後ろの方を歩いていた、ヘイリーがカセイノの前に立つ。
 ヘイリーの横には無表情のリネンが立っている。
「いやぁ。何でもねぇ。先に行ってくれ」
「……そう? じゃあ、行こうか、リネン」
 カセイノは、二人が先に進んだの確認すると、ランスを構える。
 そして、ランスで部屋の壁をぶち抜く。
 壁の向こうである、隣の部屋には、サハギンが潜んでいた。
「先手必勝ってね」
 カセイノは、サハギンにランスを突き立てる。
「さあ、ちゃっちゃと終わらせようぜ」
 ニヤリと笑い、部屋を見回す。
 だが、カセイノの笑みは徐々に引きつっていく。
「……こりゃ、早まったか?」
 部屋にはかなりの数のサハギンが潜んでいたのだ。
「マジかよ……」
 サハギンが一斉に、カセイノに襲い掛かる。
「だぁー、ちょっと待てって!」
 その時だった。襲い掛かるサハギンの額に、矢が突き刺さる。
 ドサリと倒れる、サハギン。
「まあ、こんなことだと思ったわ」
 ヘイリーがため息混じりに息を吐いて、部屋に入ってくる。
「いくよ、リネン!」
 ヘイリーは弓を引き、リネンはコクリと頷き、強化型光条兵器であるルミナスシミターを手に、サハギンに向かう。
「へっ! 足ひっぱんじゃねぇぞ」
 カセイノの顔に、余裕の笑みが戻り、ランスを構えサハギンを突き倒していく。


「……遅いですわ」
 リリィが後方を振り返りながら、心配そうにつぶやく。
「まあ、大丈夫じゃろ」
 ひょうひょうと言ったのは、前列付近に来ていたイーハブだ。
「それよりも、もっと、ワシの護衛に専念してくれんかの?」
 ピタリと身を寄せ、ついでにお尻も触ってくるイーハブ。
「ちょっと変なとこ触らないでくださいませんこと? 減っちゃいますから。減ったら誰かは言いませんけどミスティルテイン騎士団関係者さんみたいになっちゃいますわ。」
「ふん。そんなことにビクビクしてたら、スケベはできんわい」
 ニッと笑うイーハブに、やはり笑顔で応えるリリィ。
 顔は笑顔だが、明らかにこめかみをピクピクさせている。
「……海で手足を落として、コンクリ詰めにして内海に沈めるべきでしたわ」
「……嬢ちゃんは、サラリと怖い事を言うのう。が、そんな時こそ、チャンスじゃ」
 イーハブは、リリィの胸をササッと触る。
「や、辞めてくれませんこと!」
「ひょっひょっひょ。それそれ、もう一回!」
「そこまでだよ、じーさん」
 イーハブの手を掴んだのは、毒島だった。
 毒島は、イーハブの腕を捻り上げ、絶妙のタイミングで足を引っ掛ける。
 倒れるイーハブ。
「な、何すんじゃ!」
「我の前での、セクハラは許さんよ」
「お主らは、ワシの護衛ではなかったのか。ほれ、見ろ。膝がすりむけてしまったじゃろうが」
 イーハブは膝を出して、指差す。よく見ると、かすかに皮がむけている。
「殺す!」
「ぎゃぁ!」
 イーハブの頭にメイスを振り下ろすリリィ。
「な、何するんじゃ!」
「傷を治したんですわ」
 ニコリと微笑んで、イーハブの膝を指差す。膝の擦り剥けていた皮が、完璧に治っている。
「いや、明らかに、膝よりもこっちのほうが、深い傷なのじゃが」
 イーハブはドクドクと頭から血を流している。
「さあ、参りますわ」
 スッと、優美な動きで歩き始めるリリィ。
「目、目が霞んできたわい……」
 ガクリと倒れる、イーハブ。