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第四章 パッシーを討伐せよ

 船の上。
 完全に、空は夜へと姿を変え、月の光と灯台の光が船を照らしていた。
「ウィルネスト殿、大丈夫でござるか?」
「……話しかけるな」
 ゾンビのように青白い顔をしたウィルネストを、あまり心配そうではない顔で覗き込むナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)
「相変わらず、船に弱いでござるな。それでは、立派な忍びになれぬでござるよ」
「……俺は、忍びになるつもりはねえ……うぷっ」
「やれやれでござる」
 肩をすくめるナーシュ。
「パラミタ内海名産の魚肉ソーセージ、蒲鉾、ハンペン、ちくわ、をご紹介します。旅の思い出に、御一ついかがでしょうか?」
「む、なんでござるか?」
 ナーシュが振り向くと、海女の姿をしたテレサとセレーネが売り子をしていた。
 ナーシュはスタスタと、テレサ達のところへと行く。
「魚肉ソーセージを1本いただきたいでござる」
「ありがとうございまーす」
 ニコニコとテレサが魚肉ソーセージを渡してくれる。代金を払い、ナーシュは再び、ウィルネストのところへ戻る。
「ウィルネスト殿、見てくだされ。こんなにうまそうな魚肉ソーセージでござるぞ」
「……食べ物をみせんな。話もすんな」
「いやあ、うまいでござるな」
 ニヤニヤと見せ付けるように、魚肉ソーセージを食べるナーシュ。
「陸についたら、うぷっ、殺……、うぷ、す……」
「はっはっは。楽しみでござるよ〜」
 カラカラと笑うナーシュ。


「ふっ、アリスよ。今日の収穫はどうだ?」
 クイッと眼鏡を上げる輪廻。
「……ボウズですぅ〜」
 ウルウルと涙を浮かべるアリス。
「ふえぇ〜、このままじゃ白飯月間です〜……」
「安心するのだ。俺には収穫があったぞ」
「ほ、ホントですか?」
「無論だ! これを見ろ!」
 輪廻が出したのは、ブロックの肉の塊だった。
「な、なんですか、この肉?」
「ハサギンだ!」
「ええっ! あの、半魚人のですか? た、食べられるんですか?」
「当たり前だ! 半分は魚だぞ! 今なら食える!! 食の力をあなどるなっ!!」
「そ、それもそうですね。食べましょう」
「うむ。まずは、焼いてみるぞ」
 光条平気の電磁ワイヤー「エレキテル」で、ハサギンの肉を焼き始める輪廻たち。
「む、割と香ばしい匂いがするな」
「しょう油をかけてみましょう」
 さらに、香ばしい匂いが、輪廻たちを包んだ。
「では、いくぞ! ……何かあったら、骨は海に流してくれ」
「はい! 肉は美味しくいただきます」
「……俺は最近、お前の発言が心底、恐ろしく感じる」
「えへへ」
「……」
 輪廻は意を決して、ハサギンの肉を箸で摘まんで口の中に入れる。
「おおっ!」
「ど、どうですか?」
「うまい! 味は、秋刀魚に似ている」
「ホントですか?」
 さっそくアリスも、ハサギンを食べ始める。
 二人の、一足早い晩餐会がはじまった。

 
「リンネちゃん、どう? いた?」
 双眼鏡で海を眺めているリンネの肩に、ポンと手を置いてるるが微笑む。
「むぅー。そう簡単には現れないみたい。でも、リンネちゃんは諦めないもん」
 右手にデジカメ、左手で双眼鏡を持って、海を眺めるリンネ。
「僕もパッシー書くんだもん」
 リンネの隣に、ちょこんと座って、スケッチブックを広げているラピス。
「パッシーやて!」
 後ろから大声が聞こえ、三人が振り向く。
 すると、そこには桜井 雪華(さくらい・せつか)が立っていた。
「パッシーって、あの、でっかい怪獣のことやろ?」
「う、うん。そうだけど……」
 やや、雪華の勢いに飲まれがちなリンネ。
「そんなオモロイもんおるんやったら、一目拝んどかんと」
 雪華はハッとして、ポケットや鞄をガサガサと漁りはじめる。
「くぅ、パッシーが居るんやったら、カメラもってくれば良かった。どないしよう……」
 リンネの持つカメラを見て、雪華はギュッと、リンネの手を握る。
「リンネちゃんやったっけ? どや? 共同取材っちゅう事で!」
「共同取材?」
「そや! リンネちゃんが写真係で、ウチが記事を書いたる」
「うーん。そうだなぁ……、リンネちゃんは、文章を書くのは苦手だからな〜」
「まかせとき! ウチにかかれば、どんな美談も、悲劇も、爆笑の話にしたる!」
 両拳を握り、背中からは炎を燃え上がらせた雪華が高笑いをしている。
「……いや、爆笑はいらないよ?」
 リンネは困ったように頬を掻いた。


「フネ、スゴイ」
 キャッキャと喜んでいるのは、とても小さいハサギンだ。
 そのハサギンの頭を撫でるヨル。
「そっか、船、初めてなんだ?」
「フネ、オオキイ、コレナラ、シンパイナイ」
「心配? 何が心配なの?」
「ウミ、コワイヤツ、イル。オオキイ」
「怖いやつ?」
 ヨルが首をかしげる。
「そりゃ、パッシーのことだぜ、きっと」
 そう言って、のっそりと現れたのは、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)だった。
「お前、おもしれぇもん、飼ってんな」
 ジャジラッドがニッと凶暴な笑みを浮かべて、ヨルを見る。
「コワイ、コイツ、コワイ」
 ハサギンがピョンと飛んで、ヨルにしがみ付く。
「大丈夫だよ」
 そう言って、ハサギンの背中を撫でてやる。そして、ジャジラッドに目を向ける。
「パッシーって、あの怪獣の?」
「ああ。そうだぜ。最近、この辺を荒らしまわってんだ。それにしても……」
 ジャジラッドはヨルの胸にしがみ付いている、ハサギンを見る。
「ハサギンの知能は低くて、話ができねえって聞いたんだがな」
「この子は、特別みたいだよ」
「へぇー、なるほどな……」
 ニヤリと笑みを浮かべる、ジャジラッド。


 それは、イーハブがリリィに5回目のセクハラをした時のことだ。
 リリィは顔を引きつらせながらも、穏便にイーハブの攻撃をかわそうと頑張っていた。
 しかし……、ドンと船底をランスを乱暴に突いたカセイノが、イーハブに詰め寄る。
「嫌がってんのも分かんねぇの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「なんじゃ! 老い先短いんじゃから、これくらいのサービスがあってもよかろうが!」
「あん? なに? ここで、人生終わっとく?」
 カセイノのランスがイーハブの喉元に突きつけられそうになった時だった。
 船が大きく、揺れた。
「な、なんですの?」
 リリィが辺りを見回す。
 すると、船の横に大きな影が立ちふさがっているのが見えた。


「パッシーでござるよ!」
 ナーシュが目を輝かせて、パッシーを見あげる。
 全長100メートルぐらいのウミヘビのような姿。赤く光り輝く鋭い目がナーシュを見下ろしていた。
「カッコイイでござる。ぜひ、拙者を背中に乗せて欲しいでござるー」
「やっぱやめようぜ、パクパク食べられるって噂だし……」
 そう言って、ナーシュの服の袖を掴んで、止める井ノ中 ケロ右衛門(いのなか・けろえもん)
「大丈夫でござるよ。パッシー、お手。あ、手無いでござるか」
 するとパッシーは海面に、尾を出し近づけてくる。
「おお! 思いが通じたでござるよ」
「おいおい。『お手』って大きさじゃねえぞ」
 パッシーの尾はすでに、ナーシュより大きい。
「そんな些細なことは関係ないでござるよ」
 パッシーの尾がナーシュに近づき……。
 ナーシュが尾に弾かれて、吹っ飛ぶ。
「だからいわんこっちゃない!」
 ケロ右衛門が頭をフルフルと振る。
「おのれ! 極悪妖怪め! 拙者が成敗するでござる。火遁の術!」
 ナーシュが立ち上がり、火術を放つ。
「うわ、熱ぅ! なにしやがる」
「おっと、間違えて半漁人を攻撃してしまったでござる」
「俺は半漁人じゃねー!」
 ケロ右衛門が憤慨する。

 
「リンネちゃん、でたよー」
 るるが、パッシーを指差す。
「うん。任せて♪」
 カメラを構えるリンネ。
「うわー、パッシーって、ホント大きいんだねー」
 船の上は、お騒ぎの状態で、るるはほのぼのとつぶやく。
 その横では、すでにラピスが真剣な眼差しで、スケッチを始めている。
「リンネちゃん、今や! パシャッと撮りっ!」
 雪華が、リンネの横で激を飛ばす。
「ちょっと、待って。ピントが……。よし、いくよ!」
 リンネがシャッターを押し、フラッシュがたかれる。
「よし! 撮れ……」
 リンネはカメラ越しの光景に絶句する。
「ふっふっふ。わーっはっはっはっ!」
 リンネのカメラの前に立っているのは、全裸の変熊 仮面(へんくま・かめん)だった。
「ふふ、どうだ。俺様のこの、完璧な肉体美は、そのカメラに収まったのかな?」
「……」
 眉根をピクピクと引きつらせるリンネ。
「む? 近すぎたか? それならば、もう少し下がろう。どうだ? これで全体が映るであろう?」
「ジャマだよ! パッシーが見えないよ!」
 プンプンと怒るラピス。
「ふん。お子様には、この美が理解できんのだ。だが、リンネには分かるだろう? さあ、存分に撮るがいい……って、ぎゃぁ!」
 変態仮面の身体に電撃が流れ、バタリと倒れる。
「取材の邪魔すんなや!」
 雪華が、電気を帯びたハリセンを手に、顔を引きつらせていた。
「ふふ。こんなところにも、美を理解できない者がいたとはな。なんとも、嘆かわしい事だ」
 ゆっくりと起き上がる、変態仮面。
「これ以上、取材の邪魔すんやったら、ウチが相手や!」
「ふん。面白い。俺様もヒーローのはしくれ。小娘などには、負けん!」
 全裸に薔薇学マント、赤いマフラーをはためかせる変態仮面。
「覚悟しいや!」
 ハリセンを持って、変態仮面に向かって走る雪華。

 
「いかん、船が沈められてしまう」
 イーハブが叫ぶ。
「しかし、これでは、焼け石に水であります」
 剛太郎が、銃を乱射するが、弾丸はパッシーの肌を傷つけることはなかった。
「弓も効かないわ」
 ヘイリーの弓も、また効果がない。
 そこに、リンネが走ってくる。
「ねえ、何とかパッシーの動き止められないかな?」
「うむ。船がもたないからのう」
「ううん。写真がブレちゃうから」
「そっちかい!」
 ゲンナリと肩を落とす、イーハブ。
 その時、高らかな笑い声が響く。
「小娘、やるではないか」
 上空から、回転しながら変態仮面が降りてくる。
 スタッと着地すると、口元の血を拭う。
「ふん。そっちこそ!」
 服が多少、ボロボロになっている雪華がやってくる。
「な、なんじゃ、この変態は! ワシは、裸を見るのは女子だけだと決めておる。さっさと失せるんじゃ!」
「全く、ここにも美を理解できんものが……。これではダメだ。俺様がこの世界を正しい方向に導いてみせる! とう!」
 変態仮面は大きくジャンプすると、スタッとパッシーの頭の上に着地する。
「さあ、行くぞ、パッシーよ! 世界を導くために!」
「……兄貴、趣旨変わっとるじゃけん」
 そうつぶやいたのは、体長が数メートルはある巨大リアル熊巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)だった。
「む? そうか?」
 変態仮面が顔を曇らせる。
「じゃき。それじゃ、ヒーローやのうて、大魔王じゃき」
「……危ないところであった」
 変態仮面はパッシーの頭から、降りて、イオマンテを指差す。
「ゆけぃ、イオマンテ!」
「グモォーッ!!」
 イオマンテは、船から降り、パッシーとがっぷり四つに組む。
 巨大なイオマンテを見ながら、リンネが首をひねる。
「てかさ、あの大きさなら、灯台の時に、すぐに頂上に連れていけたんじゃない?」
「そ、それは、そうでありますが……」
 剛太郎が顔を引きつらせて、イオマンテを見る。
「いるんだよねー。空気を読もうとして、かえって読めないヤツがさー」
 リンネが肩をすくめる。
「空気!? そんな透明なもの読めんわ!」
 巨大怪獣決戦を繰り広げているイオマンテが、咆哮した。
 その時だった。パッシーがイオマンテの胴に巻きつき締め上げる。
「グオオー」
 もがき苦しむ、イオマンテ。
「兄者、もう無理! わしただのゆる族じゃけん!」
 ガクリと倒れる、イオマンテ。
「む、やはり、パッシーの方が強いな。ふふ、やはり、貴様こそが俺様の相棒に相応しい……ぎゃあ!」
「あんたは、ややっこしいから、眠っとけや!」
 電力最大で、変態仮面をしばいた雪華は、パンパンと手のホコリを払う。
「さ、取材の続きや!」
「うん」
 リンネがカメラを構える。


「リンネちゃん、舳先でフラフラしとると危ない、海の藻くずになっちまうぞ」
 イーハブが、リンネの腰に手を回そうとした時だった。
「ぎゃわわわ」
 イーハブは、身体が透けるほどの電流を浴び、倒れる。
「大丈夫か、リンネ・アシュリング」
 ゼロ距離からの雷術「スタンガン」でイーハブを気絶させたのは、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)だった。
「う、うん。ありがと」
「パッシーは危険な生物だ。下がっていたほうがいいだろう」
「ダメ! リンネちゃん、スクープとって有名になるんだから!」
「貴女は十分有名だと思うが、まだ足らんのか……?」
「うん。全然……って、うわっ!」
 大きく、船が揺れる。パッシーが船底を攻撃したようだった。
「どっちにしても、動きを止めないとならないな」
「リンネちゃんも、そうしたいんだけどね……」
「しかし、弓や銃、魔法も効かないとはな、どうしたものか……」
「雷撃だ!」
 そう言って、現れたのはジャジラッドだった。
 その後ろには、小さいハサギンを抱いたヨルの姿もある。
「ふむ……。だが、雷術も試している生徒もいるようだが?」
「そんな、ちんけなもんじゃねえ。もっと、収束した雷撃だ」
 ジャジラッドが目を細める。
「アイツ、ビリビリ、キライ」
 小さいハサギン手足をバタバタさせる。
「きっと、落雷のことを言ってるのだろうが、そんなもの、どうやって……」
 エリオットが思案する。
「中から、攻撃しましょう!」
 そう言って、手を上げたのは神代 明日香(かみしろ・あすか)だった。
「中って? どういうこと?」
 リンネが首を傾げる。
「あれだけ大きいんですよ〜。わざと、飲み込まれればいいんですよ〜」
「そ、そんなのダメだよ!」
「でも、このままだと、船が沈んじゃいますよ〜」
 パッシーは今も、船を攻撃し、グラグラと揺れている。
「それなら、私が行こう」
 エリオットが言うが、明日香はプルプルと首を振る。
「少しでも、小さい人がいく方がいいですよ〜。じゃあ、行ってきまーす」
 明日香は言い終わると同時に、タタタと走り、器用にパッシーの口の中に入っていく。
「肝っ玉が据わったやつだぜ」
 クククと笑う、ジャジラッド。
「大丈夫かな?」
 リンネが心配そうに、パッシーを見上げる。
 ピタリと、パッシーの動きが止まった。今度は、苦しそうにのたうちまわり始める。
「すごい! 効いてる!」
 パチパチと拍手するリンネ。
 だが、再びパッシーの動きが止まる。
 パッシーの喉がビクビクと動く。そして……。
 パッシーは明日香を吐き出した。
「あ〜れ〜」
 目を回した明日香が空中を舞い、そしてポチャンと海に落ちる。
「ダメみたいだな」
 チッと舌打ちするジャジラッド。
「あっぷ、あっぷ、私、泳げません」
 海の中で、もがいている明日香。
「もう、何やってるんだよ」
 リンネが海に飛び込む。
「もうちょっと、頑張って!」
 リンネが明日香に向かって泳ぐ。
 その時、大きな影がリンネを覆った。
「げ、やば!」
 パッシーはリンネを狙っていた。
 パッシーの牙がリンネに襲い掛かる。
 だが、その牙はリンネに届くことはなかった。
 リンネを守ったのは、二つの人影だった。
 リアトリスとベアトリスだった。
「今のうちに、早く!」
「うん。ありがとう!」
 リンネ泳いで、明日香を救い上げる。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございますぅ〜」
 ヒシっと、リンネにしがみ付く明日香。


「……まずいわ」
 ヘイリーがパッシーを見て、つぶやく。
 リネンが不思議そうにヘイリーを見る。
「町に向かってるわ」
 リネンがパッシーを見ると、確かに船から遠ざかり町の方に向かっている。
「……どうしよう」
「何か、いい手はないかしら。もう、弓も届く距離じゃないし、船よりもパッシーの方が早いわ」
 その時だった。
 天空から、狼の遠吠えが響いた。
 ヘイリーとリネンが同時に空を見上げる。
 そこには翼が生えた狼、翼騎狼がいた。
「来てくれたのね」
 翼騎狼は、ヘイリーたちの前に降り立つ。
 そして、二人は翼騎狼に乗り、空を駆ける。

 翼騎狼に乗り、空からの攻撃は成功といってよかった。
 だが、それはパッシーを町から、再び船の方におびき寄せただけのことだった。
 上空からといえども、弓では、やはりパッシーを傷つけることはできなかった。
「このままじゃ、船がやばいわ」
 皮膚を傷つけることすらできない、そう分かっていても、ヘイリーは弓を引くしかない。
 その時だった。パッシーの背に、キラリと光るものを見つけた。
「何だろう?」
「……槍」
 後ろに乗っているリネンがつぶやく。
「槍? どうして、こんなところに?」
 その答えは意外なところから、出てくる。
「そりゃ、ワシの銛じゃ」
 船の上から叫んだのは、イーハブだった。
「30年前に、やつの背に打ち込んだんじゃ!」
「30年前……」
 ヘイリーはその言葉を聞いて、ひらめく。
「そんだけの時間刺さってるんだから、深いところまで刺さってるのよね」
 ヘイリーは船に向かって叫ぶ。
「雷撃を使える人は、全員、集まって!」


 甲板には、雷術を使える生徒が集まっていた。
 その生徒たちの後ろでは、ミサカ・ウェインレイド(みさか・うぇいんれいど)が、驚きの歌を歌い、パッシーの動きを鈍らせていた。
「るる、雷術使えるもん」
「まあ、それくらいは……」
 エリオットがつぶやき、その隣にはヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)も立っている。
「私も撃てるよ」
 アリアが気合を入れるように、グッと拳を握る。
「成功したら、樹。我に唇を許してくれるのだろうな」
「なんで、そうなるんだよ!」
 フォルクスのつぶやきに、突っ込む樹。
 その隣でため息をつく、セーフェル。
「今日は、魔法、使いすぎだぜ」
「まあ、まあ。私も手伝いますから」
 ふらつくヤジロをそっと支えるセス。
「ここは、ワシの出番じゃな!」
 ラムールは、気合を入れつつも、隣の留美のスカートが風でめくれないように押さえつけている。
「いやー、こんなに早く活躍するとはね」
 英希は水晶を手にしていた。灯台にあった、古いほうの水晶だ。
 だが、手にある水晶の中心には、イナズマのような光が輝いている。
 さっそく水晶に雷術を入れ込んでいたのだ。
「雷遁は、忍者のたしなみでござる!」
 ポーズを決めるナーシュ。
「汚名挽回しますよ〜」
 びしょ濡れの明日香。クシュンと、小さくくしゃみをする。
「おぬし、死にそうな顔してるにゃー」
「最後くらいは、決めないとな……うぷ」
 ほう、と感心するパラミタ 内海と青ざめた顔のウィルネスト。
「よーし! いくよ、みんな♪」
 リンネがみんなの前で号令をかけている。
「いい? タイミングが大事だからね?」
 リンネがスッと腕を上げる。
 そして、振り下ろす。
 生徒の雷術を全て合わせた、巨大な雷が生まれた。
 その収束された雷はパッシーの背に刺さっていた銛へと落ちる。
 銛を伝って、パッシーの身体を電気が突き抜けていく。
「……」
 生徒全員がゴクリと唾を飲み込む。
 ピクリと動く、パッシー。
「う、嘘でしょ!」
 リンネが驚きの声を上げる。
 パッシーはヨロヨロとよろめきながら、海の中へと潜っていく。
 リンネはホッと胸を撫で下ろす。
 と、同時に生徒たちから歓声があがった。