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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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●5:花の下で料理をついばむ、これほど幸せなことがあるでしょうか

 それまでひっそりと、大輪の花を咲かせていた一本の桜。それが今は、大勢の生徒たちに囲まれ、賑やかな喧騒の中に包まれていた。
 桜がいつここに根を生やしたのかは、誰の知るところではない。それはもしかしたら、世界樹イルミンスールの贈り物かもしれない。
 自らに住まう者たちを護り、そして育むのがイルミンスールの役目なのだから。

 ふわり、と舞い降りた花弁が、レン・オズワルド(れん・おずわるど)の手にした盃に彩りを添える。一口で盃を干したレンが、アーデルハイトからお酌を受ける。
「これだけの料理が並び、そのどれもが美味。……だが、一番の肴はアイツらだな」
 そう呟くレンのサングラス越しに、この度イルミンスールに転校してきたリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)を歓迎する者たちの姿が映る。
「みんな、肉は好きでござるな? いっぱい食べるでござるー」
「飲み物も用意してあるよ。健康的なものから刺激的なものまで取り揃えてるよ」
 ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)が、今度は無事に中まで火の通った肉を切り分け、城定 英希(じょうじょう・えいき)が赤色の飲み物を前面に押し出しつつ振る舞っていく。
「遅くなっちゃったけど、イルミンスールにようこそ〜」
「はい、どうぞ。欲しいのあったら遠慮なく言ってね」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が歓迎のクラッカーを鳴らし、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)がリースへ料理を取り分け、彼女の前に置く。
「わー、皆さんどうもありがとうございますー。もうさっきからお腹ぺこぺこでしたー」
 皿を受け取ったリースが料理に舌鼓を打ち、その微笑みにつられて皆も思い思いに料理を啄んでいく。
「おい、降ろせ、降ろせよ! スイマセンお願いですから降ろしてください」
「自業自得というものだ。そこでしばらく反省しているといい」
 樹の枝に釣り下げられたウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)の喚きを聞き流して、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が皿の中の料理を賞味する。
 皆、料理を作り上げたという達成感と、美味しい料理を食べられたという満足感に浸っていた。

「若いアイツらが大人の俺達を超えていこうとする。その成長を見守りながら酒を飲む、これほど旨い肴が他にあるというのか?」
「そうじゃのう。まだ雛鳥じゃと思っておったら、いつの間にか大空を自由に舞っておった。あの者たちにはどこにでも羽ばたける翼がある。自らを、そして皆の大空を、護れるだけの力も備わっているはずじゃ」
 アーデルハイトが盃を干し、レンからのお酌を受ける。
「……じゃが、私もまだまだ現役じゃ。煮汁滴る良い女、じゃ」
「……どういう意味だ?」
 どうやらハマってしまったらしい、アーデルハイトのポーズにレンは首を傾げるのであった。

「美味しいですねー。次は何に挑戦しましょうかー」
「……エルシア、それ本気?」
 春巻きを美味しそうに食するエルシア・リュシュベル(えるしあ・りゅしゅべる)の言葉に、高務 野々(たかつかさ・のの)がこれからのことを思って溜息をつく。
「あうあうあう……あ、あんな恐ろしい料理がこの世に存在したなんて……」
「フィア、どうしたの? ……ま、いっか。せっかく作ったからには、食べていかないと勿体無いわよね!」
 未だに身を震わせているフィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)を置いて、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が自ら作った料理の味を確かめていく。
「どうかな、ネラ? オレ、上手く作れてるかな?」
「上手いし美味いわー。お父ちゃん料理のセンスあるわー。ねーさんも早うせんと、ウチが食ってまうで?」
「ん……私はスミレの作ってくれたのだけで十分だよ。……ん、美味しい」
「……うん、良かった、美味しく出来て」
 森崎 駿真(もりさき・しゅんま)の作った飴細工を、茅野 菫(ちの・すみれ)の作ったサンドイッチを、それぞれ呼ばれてきたネラヴィオラが絶賛する。その横で、同じく呼ばれてきたセリシアが、キィル・ヴォルテール(きぃる・う゛ぉるてーる)の出したプリンを味わっていた。
「私のために作ってくれたなんて、嬉しいわ。ありがとう」
「…………お、おう」
 セリシアの微笑みに、キィルは燃え盛る炎のように頬を赤くしていた。
「かー、うめぇ!! ソフィア、おかわり頼む!」
「もう、パパったらあちこちこぼして。頬にお弁当くっつけてますよ♪」
 空になった皿を差し出したラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)に微笑んで、ソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)がラルクの頬についた野菜を取ってあげる。
「はい、あ〜ん♪」
「……どうしてそんなことをする? だからくっつくな離れろと」
「え〜、いいじゃない、ね♪」
 懸命に拒否しようとする月崎 羽純(つきざき・はすみ)だが、遠野 歌菜(とおの・かな)の押しに結局は負け、二人で作った海鮮丼を口にする。
「……うん、美味しい。出来た料理が美味しいと、かかった手間も報われるよな」
 こんがりと焼き上がったグラタン、そしてドリアを前に、和原 樹(なぎはら・いつき)が満足気な笑みをこぼす。パートナーと一緒に料理を囲むその様は、まるで一つの家族のようでもあった。
「う〜ん、甘くてとっっっても美味しい♪」
「それはよかったですね、花梨」
 生チョコを頬張って幸せな表情を浮かべる榊 花梨(さかき・かりん)に頷いて、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)もほんのり色づいたサンドイッチを口にする。
「ママ、キレイに包めたよ! パパ喜んでくれるかな?」
「うん、きっと喜んでくれるよ」
 ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)の手で包装されたクッキーを見遣って、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)がピュリアの頭を撫でてやりながら頷く。

「うおう……まだ頭がフラフラするぜ……」
「ごめんなさいベアお兄ちゃん。ツッコミって軽くやるものなんですね。思いっきりやっていいって思ってました」
「……ま、中途半端なツッコミはよくないぜ。だから思いっきりツッコむのは正しいが、力加減は必要だぜ……何か説明すんの難しいぜ」
「あはは……」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の頭を摩りながら謝るミーミル、彼女がツッコミの極意を会得するにはまだ時間がかかりそうである。
「カナタ……みんながこのキノコを食べて、本当に平気だと思うか?」
「アーデルハイトのことじゃ、何を企んでおるか分からんしの」
「なんじゃ、まだ疑っておるのか? じゃから普通に食べる分には問題ないと言っておろう。何せこの私の――」
 いい加減しつこくなってきたアーデルハイトのポーズを、緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)のハリセンが阻止する。
「いつもながら賑やかだねえ……もぐもぐ」
「ちょっとティア、あんた食べ過ぎ! あたいの分も残しなさいよね!」
 喧騒を遠巻きに眺めながら、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)とカヤノのいつものやり取りが繰り返される。ケンカするのも仲良きことかな。
「……うん、何か、愛沢の心が詰まってる感じがする」
「は、ははは恥ずかしい言い方するなよっ」
 愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)の作ったおにぎりを、風森 巽(かぜもり・たつみ)が賞味して感想を漏らす。その後、顔を赤くしたミサにお盆で叩かれたのは言うまでもない。

「約束通り作ってきましたよー。皆さんもどうぞ召し上がってくださいねー」
「フム、この鼻に抜ける例えようのない刺激……素晴らしい」
 クラーク 波音(くらーく・はのん)のところで手巻き寿司の作り方を覚えた豊美ちゃんが、皆に手巻き寿司を振る舞う。皿に盛られた手巻き寿司をさらりと完食した織田 信長(おだ・のぶなが)が、ワサビの爽快感に身悶えしていた。
「私が思う魔法少女は、自身の良心、信義に反してはいけないの。信義貫くため、時には魔法少女同士で戦うこともあるの」
「そうなんですか? そんな、お友達同士なのに……」
「まあ、そうならないことが一番いいんだけどね。……ミーミル、あなたの信義……約束を守り務めを果たす、それは何かしら?」
「私は……私は、お母さんを守りたいです。イルミンスールの皆さんを守りたいです。皆さんが安心して過ごせる場所を、皆さんと一緒に守りたいです」
 ミーミルの言葉に頷いた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、蜂蜜酒を飲み干す。イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)から蜂蜜酒を受け取り、水炊きのほんわかとした湯気が漂う中、口を開く。
「なら、それに従って行動しなさい。信義のために全力で。魔法少女は生まれ持ったモノでなく、心の、魂の在り方に依るものだと思うわ。なろうと思ったその時から、ミーミル、あなたは魔法少女なの。なんのためになるかは、あなた次第よ」
「……はい! 私、今日から魔法少女としてがんばります!」
(う〜ん……やっぱり認めちゃってよかったんでしょうか……?)
 歌菜から受け取った海鮮丼を頂きながら、豊美ちゃんは心に一抹の不安を抱えるのであった。