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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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●3:おや、みんなの様子が……?

「……というわけで、料理教室が終わった後にお花見をしようと思うのだが、どうだろうか?」
 エリザベートとアーデルハイトのところへ、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が皆集まってのお花見を提案する。
「それは構いませんけどぉ、イルミンスールにお花見が出来る場所なんてありましたかねぇ?」
 エリザベートが首を傾げて呟く。この間にレンはアーデルハイトに金の杯と日本酒を見せ、酒の持ち込み許可を取り付けていた。もちろん、アーデルハイトが優先的に日本酒を飲めるように計らうのも忘れていない。
「お母さん、私この前散歩している時に見つけましたよ。一本だけですけど、凄い大きいんです。多分、見頃になってると思います」
「そうですかぁ。じゃあちび、彼を案内するですぅ。準備も手伝ってやれですぅ」
「はい、お母さん♪」
「済まないな、よろしく頼む」
 どこか嬉しそうな笑みを見せて、ミーミルがレンをその場所へと案内する。
「……おまえ、結局ちびと呼ぶことにしたんじゃな。いや、ひな祭りの時からそうじゃったか」
 二人の姿が消えた後で、アーデルハイトがエリザベートを茶化すように呟く。
「ちび、と名付けたのは私ですからねぇ。体裁があるとはいえ、私がそう呼ばないのもおかしな話だと思ったんですぅ」
「そうじゃな。ミーミルは日々成長しておる。それでも、ミーミルにとってはおまえが最初の、これからもずっと『母親』なんじゃ。そのことを忘れるでないぞ」
「分かってるですぅ。……でもぉ、私がちび、ちびと呼ぶのはやっぱり抵抗があるですぅ」
「なんじゃおまえ、ミーミルより背が低いからって気にすること――」
「黙るですぅ! それ以上言うと鍋に放り込んでダシにしてやるですぅ!」
「私の身体から出るダシは美味過ぎて、庶民には理解できんのじゃよ♪」
 アーデルハイトがポーズを決めて、自らの美味しさ? をアピールする。
「……………………気持ち悪くなったですぅ。私もミーミルの後を追うですぅ」
 顔を青くしながら、エリザベートがテレポートでミーミルの後を追った。

「難しい料理は料理人に任せて、素人は家庭料理を作るでござる!」
 何故か大層胸を張ってナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)が言い放ち、テーブルの上に置いた肉の塊を指す。
「料理といえば肉を焼いたもの、と拙者の故郷では言うでござる。みんなにも郷土料理を作ってあげるでござる」
 そうしてナーシュが、肉塊をそのまま火にかける。が、用意された火力では表面が焦げるだけで、中まで火が通らない。
「ナーシュ、足りないのは火力、そうだろ?」
 どうしたものかと思案していたところへ、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が良からぬことを持ちかけようとする時の顔でナーシュの肩を叩く。
「そ、そうでござるが……」
 普段の素行をよく知っているナーシュが、訝しげな表情をウィルネストに向ける。
「火力なら俺が詳しい、俺に任せろ」
「そんなこと言われても、色々な意味で危険でござるよ」
 なおも二人の押し問答が続くが、結局ナーシュが折れてウィルネストに任せることになる。

「おっしゃ、任せとけ!
 ファイアーストーム!!

 直後、燃え上がった炎が天井付近まで到達する。ここが吹き抜けでなかったら、瞬く間に大火災になっていたであろう。
「あーすまん、ちょっと火力が強すぎたみたいだ」
「ちょっと、どころじゃないでござるよ!! ……あぁ、せっかく用意した肉が、熱源になってしまったでござる」
 極高温の炎を浴びせられた肉塊は、内部に熱を持ったままぶすぶすと燻っていた。このままではまたいつ火災が発生するか知れたものではない。
「おーいカヤノ、ちょっとこれ冷やすの手伝ってくんねー?」
「はぁ!? あんたバカなの!? そうねバカよね、こんなことするのはバカに決まってるわ!!」
 御丁寧にバカを3回繰り返して、カヤノが発生させた冷気で肉塊を氷塊に変える。
「ううぅ……拙者のとっておきの肉が……」
「一度失敗したくらいで泣くんじゃないわよ。新しい肉持ってきてあげるから、また挑戦しなさいよ」
 友人がちょっかいを出したことを知っているのか、カヤノのナーシュに対する態度には、いつもの刺々しさは影を潜めていた。
「うっし、んじゃ俺は他のところ見てくっかな!」
「あ、こらちょっと待ちなさいよ!」
 気が澄んだらしいウィルネストがその場を立ち去り、後を追ってカヤノが飛び去っていく。しばらくして届けられた新しい肉塊を前に、今度は失敗しないようにと誓うナーシュであった。

「うう……楽しみにしてたのに、黒焦げになっちゃったです……仕方ないですね、次の人のところへ行ってみましょう」
 ナーシュの背後で、少女が残念そうに呟いて立ち去っていく。

「男が料理すること自体はおかしくないと思っているが、しかしなぜ私が……」
 ぶつぶつと愚痴りながら、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が何故自分が調理台の前に立つことになったのかを思い返す。
 
「……どういうつもりだ、クローディア、ヴァレリア」
 クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)に光条兵器のバズーカを、ヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)に炎術の炎を向けられ、エリオットが嘆息しながら二人に真意を問う。
「貴方、折角の『美形キャラ』なのに浮ついた話が無いっていうのが面白くないのよ……。女の子に騒がれて困るエリオットの姿なんて、滅多に見られるものじゃないしね。そういうわけだから、私の欲望のために大人しく料理をしなさい」
「こないだの『ひな祭り』はドン・キホーテに捕まえてもらったけど、同じ手が2度通用するエリオットじゃないしね。で、他に思いついた手が『コレ』ってわけ。ヴァレリアに従ったのはまあ、面白そうだから」
「…………」
 聞いた自らに猛省を促すかの如く、頭を押さえたエリオットが溜息をついた。

(まったく、どうでもいい理由で……)
 経緯を思い出し、またもや呆れるように溜息をついたエリオットが、気を取り直して持ってきた『種モミ』『光る種モミ』が食用に適しているかを、持てる知識を総動員して鑑定する。
(……ふむ。どちらも使用に問題はないようだな。どうせならこの栄養価100倍と評されているこちらを使ってみるか)
 種籾を仕舞い、光る種籾を型に詰め、その上からハチミツを垂らす。ハチミツが下に溜まらない内に、炎であぶってハチミツを接着剤のように種籾に浸透させれば、米菓子のようなものの完成である。
「流石に手際がいいな。これなら俺にも出来そうだ」
 その様子を隣で見学していたマラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)が、感心したように呟く。
「私のを見るよりも、他の人のを見る方が参考になると思うが?」
「基本を忠実になぞるのが上手いのは、おまえだと思ったからな。どうも俺はその辺りの知識が欠けているようでな。ケイラに料理を習いたいと言ったら、真面目な顔して止められた」
「……ちなみに聞くが、何をしでかしたのだ?」
「ん? パンを焼こうとして、フライパンをオーブンに入れた」
「…………」
 マラッタの言葉に、エリオットが頭を抱えて溜息をつく。基本以前の問題である。
「……まあ、邪魔をしないのであれば好きにしてくれ。……ん?」
 はたと振り返ったエリオットは、自らに向けられる複数の視線に気がつく。『美形のイケメンが料理をしている』という噂を聞きつけて、少女たちがカフェテリアの外から食い入るように見つめていたのだ。
「ねえ、あの人誰かな? どうして料理してるんだろ?」
「いいわよそんなこと、イケメンが料理してるってだけで様になるわぁー」
 そんな声が、賑やかなカフェテリアであっても聞こえてくる。
「概ね予想通りね。もっと近くで騒ぎ立てられるかと思ったけど、これはこれで面白いわ。さあエリオット、貴方はこの状況下でどうするのかしら……?」
「何か、まんざらじゃないって顔してるようにも見えるわね。ちょーっと気に入らないかも」
 少女の熱い視線を受けて、エリオットがひどくやりにくそうにしながらお菓子作りを続けていると――。

「うぉらぁ!
 ファイアーストーム!!

 背後から近づいたウィルネストが、エリオットの流れるような金髪へ放火する。
「熱ーーーーー!!」
「わりぃわりぃ、何かイラッときたからつい、な」
「あんた本当にバカね!! いいから早く消しなさいよ!!」
 追い付いたカヤノが冷気を浴びせ、エリオットは後に残るような火傷を負わずに済むものの、金髪の一部が縮れてしまっていた。
「…………無理やり料理をさせられた挙句、この仕打ち……どうして私だけ……」
「ねえ、あの調子だと何時まで経ってもあのままなんじゃない?」
「……そうね、そろそろ私たちも手伝いましょうか」
 そんなエリオットを流石に哀れに思ったのか、クローディアとヴァレリアは互いに頷いて、エリオットを手伝いに向かったのであった。

「危なかったです……あ、でもこれ甘くて美味しいです♪」
 エリオットの背後で、先程までエリオットが作っていたお菓子を美味しそうに頬張りながら、少女が次の人のところへ向かっていく。