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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

リアクション

人呼んで愛情料理人。マジカルシェフ☆カナ! 見・参♪ 豊美ちゃん、私、魔法少女になりたいです……!」
「はい、いいですよー」
 豊美ちゃんのところに食材を貰いに来た遠野 歌菜(とおの・かな)が、交渉をするつもりで魔法少女な名乗りを挙げると、豊美ちゃんは至極あっさりと認めてしまう。既に酒が入ってるのではないかと疑うくらいのノリの良さだった。
「……じゃなくて! えっと、それもあるけど……とにかく! 食材を分けてくださいな♪ 美味しい海鮮丼にして、お返ししますから!」
「はい、いいですよー。出来上がりを楽しみにしてますねー」
 これまたあっさりとウニとアワビを渡した豊美ちゃんにお礼を言って、歌菜が月崎 羽純(つきざき・はすみ)のところへ戻る。
「結局、魔法少女の名乗りとやらはしてきたのか……」
「うん♪ 私のこと魔法少女って認めてくれたよ。それじゃ、一緒に海鮮丼を作っちゃおう!」
 呆れた様子の羽純を引っ張るように歌菜が準尾を進めながら、羽純の過去を尋ねるべく口を開く。
「羽純くんは昔、料理とかしてた? 好きな食べ物は?」
「……さあ」
 歌菜の質問に、しかし羽純は首を傾げるばかりで答えようとしない。
「もう、羽純くんいつもはぐらかしてばかりだよっ」
「……昔の事は何も覚えていない。だから、答える術がないんだ」
 その言葉に、歌菜の手がぴたっ、と止まる。見上げた歌菜の目に映る羽純は、心なしか淋しそうな素振りのようにも見えた。
「そっか、それでいつもはぐらかしてたんだ。嫌な事聞いてごめんね?」
「……いや、いい」
 視線を逸らした羽純は、またいつものクールな表情に戻る。
「でも、それならそうと言ってくれたらいいのに。羽純くんは言葉が足りないよ」
「言葉が足りない? ……だって、説明するのって面倒だろう?」
「うぅ、それを言われちゃうとどうしようもないけど……でもほら、お互い分かり合えた方が楽しいっていうか――」
「あーもう、細かい事ぁいいんだよ」
 いかにも面倒くさいといった素振りで、羽純が盛り付けていた海鮮丼に醤油を垂らす……どころではなく流し込んでいく。
「そ、そんなに入れちゃダメー!!」
 慌てて海鮮丼を回収した歌菜が別の皿に移し変えている背後で、羽純の口が何度か開いたり閉じたりする。
「……一つだけ、覚えているとすれば――」
「え? 何か言った?」
 呟きかけた羽純が、振り向いた歌菜から逃げるように視線を逸らす。
「――やっぱり止めた。面倒」
「え〜〜〜っ!? 気になる教えてよ〜」
「こ、こら、くっつくな、離れろ」
 縮まったような縮まらないような二人の距離であった。

「ええと、バターと小麦粉は1:1の分量で、弱火……バターが溶けたら小麦粉を炒めて……」
 和原 樹(なぎはら・いつき)がグラタンのレシピとにらめっこしながら、バターでなめらかになった小麦粉の入った鍋に牛乳を、ダマにならないように慎重に入れていく。
「後は焦げないように混ぜ続ける……ふぅ、ずっと火の前に立ってるのって熱いし、腕が疲れるよ」
「樹兄さん、大変そうね。手伝ってあげる」
 ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)がまな板と包丁を用意して、タマネギとマッシュルームを薄切りにし始める。
「ふむ……では我はエビを処理しよう。ヨルム殿、すまんが少し手伝ってもらえないか」
「うむ、心得た」
 活きのいいエビに苦戦を感じたフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が、ヨルム・モリオン(よるむ・もりおん)に声をかけ共にエビの殻剥きに従事する。
「助かるよ……ってショコラちゃん、大丈夫?」
 労いの言葉をかけようとした樹が、涙をこぼすショコラッテを心配する。
「違うの……タマネギが目に沁みたの」
 樹から受け取ったタオルで涙を拭き取って、ショコラッテがタマネギとマッシュルームを切り終えると使ったまな板と包丁を洗い、続いてドリア用の鶏肉を一口サイズに切り始める。
「……これは確かに、樹が苦手にしそうな部類の作業だな」
「だが、悪くない。こうして活気に溢れた中で料理というのも、なかなか得られない経験だ。ミリア、と言ったか? 後でレシピを教えてもらうのもいいかもしれないな」
 未だ動き回るエビと格闘するフォルクスの隣で、料理に興味を覚えたらしいヨルムが大分慣れた手つきでエビを処理していく。
「……うん、大丈夫。失敗してない」
 胡椒で味をととのえられたソースを味見した樹の表情に、満足そうな笑みが浮かぶ。
「樹兄さん、私の方は準備できてるの。フォル兄とヨルム従兄さんは?」
「たった今出来上がったところだ」
 ザルにあけられたタマネギ、マッシュルーム、エビを受け取り、樹がフライパンでそれらを炒めていく。ホワイトソースをとろみが出るまで混ぜ合わせ、前もって茹でたマカロニを加える。
「はい、樹兄さん」
「ありがとう、ショコラちゃん」
 バターの塗られたグラタン皿を置いてもらい、そこへ均等に盛り付けていく。
「後はオーブンで焼くだけ、っと。次はドリアだけど……ふぅ、一休みしようか」
「そうね。お疲れさま、樹兄さん」
 パセリをみじん切りにして用意し終えたショコラッテが、樹を労う。
 オーブンの中で、皆が協力し合って作ったグラタンが、ゆっくりと焼き上がっていく――。

「使われるのを黙って見ているのは辛いんだな。ボクにも手伝わせてほしいんだな」
「わー、クマさんすごーい!」
 モップスが力強く生地をこね上げていくのを、ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)が目をキラキラさせて見つめる。
「ほら、ピュリアも頑張らないと。パパにお土産に持って帰るんでしょ?」
「あ、そうだった! ピュリア、美味しいクッキー作ってパパに食べさせてあげるんだ!」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)の言葉で目的を思い出したピュリアが、家で帰りを待っているであろうアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)のことを思いながら、生地を一生懸命こね上げていく。
「もしかして、ハチミツもらっちゃまずかったかな?」
「ううん、モップスはああ言ってるけど、ただ料理がしたかっただけだよ〜。今じゃ立派な趣味になったんだよね、モップス!」
 リンネの問いに、背中を向けたモップスは答えない。無視しているのではなく、図星なのを認めたくないだけである。最初は半ば強制的にやらされていたのだが、どう足掻いても料理番を降りられないことを悟ると、いっそ好きになってしまえと開き直った結果、料理をしているのを見ると自分も参加したくなってしまうほどに料理好きになってしまったのである。人間――モップスはゆる族だが――、適応力次第でどうにでもなるのである。
「あの……私も、ハチミツをいただいてよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ〜。えっと……」
「あ、柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)です。はじめまして、ですわね」
「美鈴ちゃんだね! 美鈴ちゃんは何を作るのかな?」
「ええ、ハチミツ入りの生チョコを。甘いお菓子を所望してる子がいますので」
 微笑みながら示した先では、既に食べる気満々といった様子の榊 花梨(さかき・かりん)が、連れている黒猫のリンと料理を待ちわびていた。
「まだかな〜まだかな〜。美鈴ちゃんにとっっっても甘いお菓子作ってって頼んじゃった♪ 翡翠ちゃんもお菓子作ってくれるけど、甘さ控えめなんだもん」
「そうですね。美鈴がいてくれて助かります」
 花梨の言葉を微笑みで受け流しつつ、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が用意したパンに黒胡椒と粉チ−ズを振って平たく伸ばしていく。
「で、翡翠ちゃんは何作ろうとしてるの?」
「みんなで食べられるものをと思って、サンドイッチを」
 翡翠の手元で、皮を剥かれた里芋が手際よく潰されていく。ブロッコリーと混ぜられたそれをパンに塗り、生ハムを乗せて準備は完了、後はフライパンで火を通すだけである。
「う〜、お菓子も楽しみだけど、サンドイッチも美味しそう〜。楽しみだな〜」
 満面の笑みを見せる花梨を見遣って、美鈴も微笑みを浮かべる。
「あのように楽しみに待たれていると、私としても美味しい物を作ってあげたくなりますわ」
「うんうん、分かるな〜。期待されちゃうと張り切っちゃうよね!」
「よーし、ピュリアも頑張っちゃうよ!」
 頷き合う美鈴とリンネを見遣って、ピュリアも同意するように頷く。そうして頑張ってこね上げた生地を小分けにして、型に詰めてオーブンにかける。
「ママ、上手く焼き上がるかな?」
「大丈夫、きっと綺麗に出来るよ。手作りの料理が美味しいのは、作る人の愛情がたくさんこもっているからなの。ピュリアがパパに食べてもらいたいって、一杯愛情詰めて作ったんだから、とっても美味しいのが出来るよ」
「うん! ピュリア、いーっぱい大好きって気持ち、入れたよ!」
 輝くような笑顔を前に、オーブンに型にはめた生地をセットし終えたモップスが、気落ちしたように呟く。
「……あんな顔を見ていると、何だかボクが惨めに見えてくるんだな。でも今更、純真な気持ちになんてなれないんだな……」
「えっと、あの、元気出してくださいっ。悲しい顔だと、料理まで悲しい味になっちゃいますよ?」
「……ありがとうなんだな」
 朱里の励ましを受けて、モップスが立ち直る。
 ともかく、色々な思いの詰まったクッキーが、オーブンの中で少しずつ膨らんでいく――。

「ふふふ〜、皆さん、楽しそうです〜。見てる私まで、楽しくなってきます〜」
 思い思いに料理を楽しんでいる生徒たちの中で、ミリアも楽しそうに微笑む。
 
 お料理教室は、まだ始まったばかりである。