校長室
【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を
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煙幕が晴れると、皐月の姿はなく、身構えていた学生たちは警戒を残しつつも茶会の席へと戻った。 遥たちが行っている『敵にスイーツを贈る』作戦のカロリー計算も続けられる。 藤次郎正宗はコールだけでは手持ち無沙汰なのか、時折、サスペンダーを引っ張っては離したりしていた。 「質問も出尽くしましたか? そろそろお開きにしましょうか」 時間も良い頃合だと、窓の外を見てティセラが告げる。 確かに日が傾き、空はオレンジ色へと染まろうとしていた。 「それでは、此度のスイーツバトルの結果を発表する!」 お開きの言葉を聞き、藤次郎正宗が声を上げた。 ベアトリクスとかげゆがそれぞれ計算した紙を藤次郎正宗に渡す。 「リーブラのティセラァッ! 865キロカロリーッ! 蒼空学園理事長兼校長兼生徒会長…御神楽ぁっカンナァッ! 435キロカロリーッ! よって、御神楽ぁ勝利ぃぃぃっ!!」 かげゆの計算したものに不安を覚えつつも、藤次郎正宗はそのまま読み上げる。 差を聞くと不安になるかもしれないけれど、遥がティセラにケーキばかりを出し、環菜には黒ウーロン茶ばかりを出していたことを考えれば、おかしくはない……かもしれない。 ベアトリクスによる計算のし直しはしないことにした。 何のバトルだったのか、ティセラと環菜はいまいち理解しないまま、遥たちに拍手を贈る。 「きちんと計算できたね、かげゆ」 「うん」 遥に褒められて、かげゆは微笑んだ。頭や肩の上の猫たちも嬉しそうである。 「最後に、いいかな?」 食堂を出る前に、終夏はティセラへと声を掛けた。終夏へと顔を向けたティセラに向かって、彼女は言葉を続ける。 「古代女王の……その頃の正式な歴史が書かれた本がありそうな場所、分かればでいいから教えてもらえない?」 「5000年前の戦いで大半が消失しているはずですので……存じませんわ」 軽く首を横に振りながら応えるティセラに、終夏は「ありがとう」と告げてから、食堂を出て行く。 茶会が終わると、優希はカメラが盗まれても大丈夫なように、別のメディアにコピーをしようとした。 そこで気付く。 録画した映像を再生してみると、カメラの小さな画面には砂嵐しか映らないのだ。 「要塞そのものが取材禁止区域ということだったんですね……」 記録したことは全て、記録できてなかったのだ。 優希は肩を落とした。 「エメネアは蒼空学園へ連れて帰ります。ティセラ・リーブラ、人を駒の様に扱う貴女の元へは置いておけない」 彼方がティセラへと告げる。 思わぬ言葉にエメネアも顔を上げた。 「エメネアさんさえ良ければ、構いませんわ」 元より学生たちが連れて帰るというなら、連れて帰らせるつもりでいたのだろう。 あっさりと答えられれば、拍子抜けしてしまう彼方であるが、エメネアの手を引くと食堂を出た。 発着所へと向かいながら、トライブはエメネアへと近付く。 「狸娘が。やっぱり、洗脳が解けて無いじゃねぇか」 苦笑いを浮かべるエメネアの耳元へと口を寄せて、こそっと今後について訊ねた。 「一緒に帰ってもいいと言われましたから、帰りますよ。蒼空学園に」 エメネアは笑みながら、そう答える。 「何名か明確にティセラ側についている人間もいましたね、あの中に蒼学の学生はいましたか?」 翔は環菜へと訊ねる。 環菜なら蒼空学園の生徒を全員覚えているだろうと考えてのことだ。 「そうね。思い当たる学生は幾人か……」 ティセラ側に座っていた学生を思い出すかのように、思案顔で環菜は答える。 「そうですか」 翔はこくりと頷いて、環菜を先に飛空挺の中へと促しながら、それへと乗り込んだ。 食堂を退室した皆に紛れていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、光学迷彩を用いて、食堂へ戻っていく。 「ティセラ様」 声を掛ければ、窓辺に居たティセラは振り返り、彼女に気付いた。 「治安維持を司る教導団員などの立場があるためテロを実行した経歴があるティセラ様に表立って協力はできませんが……陰ながら協力いたします」 ティセラの傍により、膝をついて身を低くすると、祥子はそう告げる。 「わたくしに協力を? それは嬉しいですわ」 陰ながらでは信用されないかもしれないと不安に思っていた祥子は、ティセラの返事に嬉しく思う。 膝をついたまま、ティセラの手を取ると、その甲へと誓約の口付けをした。 皆が発着所に向かい、飛空挺へと乗り込む頃、リュシエンヌはパートナーのウィンディの手で、赤いリボンを用いて贈り物のように全身を巻かれていた。 ティセラが残る食堂へとウィンディに連れられて、戻っていく。 「ティセラ」 窓辺に立つティセラに、2人が揃えて、声をかける。 「あら、何か忘れ物でもされました?」 振り返ったティセラがやや驚いたような視線を投げかけたのは、リボンで巻かれたリュシエンヌの姿だ。 「いえ。その……今夜一晩は私を抱き枕にして一緒に寝て欲しいの」 リュシエンヌは意を決して、そう告げる。 「お願いよ、ティセラ」 ウィンディも相手を惑わすような視線を向けながら、共に願い出た。 「本日はお茶会に招いただけですわ」 無情にもティセラの答えは否だった。 「でも、その想いはとても嬉しいですわ。また、別の機会があれば、その時は……ね」 ティセラはウィンディの唇に自らの唇を重ねると、リュシエンヌたちに食堂を出るよう促す。 2人が食堂を出ると、扉は固く閉ざされた。 飛空挺はまた、ツァンダの街郊外へと向かう。 参加者の中に皐月が紛れているのであれば、帰りに飛空挺でも襲撃されかねないと特別隊員たちは環菜の周りを固めていた。 窓のない飛空挺では何処を飛んでいるのか分からず、降下し始める感覚だけが皆に目的地に着いたのだと知せる。 エメネアによって扉が開かれると、ツァンダの街は既に夜闇に包まれていた。 「皆さん、降りましたねー?」 飛空挺に操縦者であるシャムシエル以外残っていないことを確認すれば、扉が外から閉められる。 飛び立つ、その飛空挺を見送ると、環菜を初め、学生たちはそれぞれ帰途へと着くのであった。
▼担当マスター
朝緋あきら
▼マスターコメント
朝緋あきらです。 まずは参加ありがとうございました。 次に、麻雀はさっぱりなので、余興で取り入れましたが……おかしなところがあったら、密やかに笑ってやっといてください。 寄せられた質問、可能な限りお答えいたしました。どうだったでしょうか? また、皆さんの提案を完全に受け入れたわけではないですが、届きはしたかな、と思います。 それでは、またお会いしましょう。