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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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第2章 お茶会はじめましょ

 エメネアの案内で皆が通されたのは食堂だ。
 部屋の中央に長テーブルが並べられ、人数分の椅子が用意されている。

「皆様、マ・メール・ロアへようこそ。お好きな席にお座りになって」
 食堂の出入り口と長テーブルを挟んで反対側の真ん中辺りの席に座っていたティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)がエメネアに連れられた環菜を初めとする学生たちの到着に気付き、席を立つと両腕を広げて、促した。
 環菜はティセラの向かいになる席へと、エメネアに案内される。
 学生たちもそれぞれティセラ側、環菜側に分かれていった。
(遂にこの時が来たわね)
 先日、ついに【ティセラ親衛隊】へと入ることが出来たリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)とパートナーのウィンディ・ライジーナ(うぃんでぃ・らいじーな)は、ティセラ側の席へと座りながら、同じ側に座る学生たちの顔を確認した。
 他の親衛隊メンバーやティセラへと賛同する者たちの素性を良く知らないため、警戒してしまう。
「……パラミタで最も怖い女、ベスト1、2だな」
 ティセラの護衛をするために、傍へと向かいながら、仮面を被り正体を隠したトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)はティセラと環菜を交互に見て、小さな声で呟いた。
「怪しいわ! 誰ッ!?」
 素顔を隠していることに、警戒を隠せないリュシエンヌは急いで席を立つと、トライブがティセラへと近付く前に間に割って入った。
「大丈夫ですわ、リュシエンヌさん。その方のことは存じてますから」
 微笑むティセラに、リュシエンヌはトライブの仮面をじっと見ながら、横へと避ける。
「そういうことだ。理由あって仮面は外せねぇが、な」
 トライブが仮面越しに笑いかければ、不満そうにしながらもリュシエンヌは席へと戻っていく。
「手間かけさせた、ありがとな」
「どういたしましてですわ」
 呟くように礼を告げ、トライブはティセラの席の後方に立つ。
「本当、怪しいヤツね。何者なの?」
 席へと戻ってくるリュシエンヌに、ウィンディが訊ねる。
「教えてくれなかったのよ」
 素性が分からないが為に、益々警戒を強めてしまいそうだ。
(ティセラの奴何を考えている……)
 環菜の傍に控えた【クイーン・ヴァンガード特別隊員】の葛葉 翔(くずのは・しょう)は、
ティセラの方を見て思う。
(まあいいさ、俺はクイーン・ヴァンガード隊員として環菜様を護るだけさ)
 軽く首を横に振って、護るべき相手――環菜の様子を見遣った。
 彼女は分かれて、席に着く学生たちの様子を見ているようだ。
(さて、ティセラ側についている人間はどれだけいるのか)
 環菜の視線につられるように、翔もティセラ側へと向かう学生たちの顔を見た。顔を覚えておくために1人1人、視線を向ける。名乗ることがあれば、合わせて名前も覚えておこうと周囲への警戒を忘れないようにしながらも会話に耳を傾けた。
「わたくしからは、わたくしがブレンドした紅茶と、パッフェルが用意してくれたベイクド・チーズケーキを用意しましたわ。お口に合うといいのですけれど……皆様もお菓子やお飲み物を持ってきてくださったのでしたら、どうぞ並べてくださいな」
 ティセラが座っている側の席には、1つ1つ、ベイクド・チーズケーキが並べられている。紅茶もカップにはまだ注がれていないが、傍のティーポットの中にあるのだろう。
 それを確認しながら、給仕を買って出た学生たちが早速、環菜が座る側や全体へ飲み物やお菓子を用意し始めた。
「今回は美味しい茶葉が手に入ったので〜♪」
 楽しそうにそう告げながら、ティーポットからカップへとお茶を注いで回るのは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。
 武装禁止だと聞いてきたミルディアは、他の学生たちが防具で身を固める中、それすらも置いてきていて、まさに身1つといった状態だ。
「最近作ってなかったんですけど、久々に作ってみたんですよ」
 久々に作ったというマドレーヌを添えて、ティーポットの中で十分に蒸らした紅茶を望む者のカップへと注ぎ回る。
「温かい紅茶でもいかがですか?」
 普段の和服とは違い、執事服に身を包んだ侘助も紅茶を勧めて回った。
 どちらにも肩入れしていない侘助は、環菜、ティセラ、エメネアそれぞれの護衛は他の学生に任せて、会場全体へと目を光らせる。
「厨房をお借りします」
 給仕として使ってもらうよう打診した浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は、良い返事を聞くなり、持参の器具と珈琲豆を抱えて食堂の中の厨房部分へと向かった。
 待たせすぎない程度に時間をかけて、淹れていく。沸かした湯が全て珈琲へと変われば、調節用のミルクや砂糖と共に盆に載せて、厨房を出た。
「お待たせしました」
 1人1人に希望を聞いて回り、珈琲を望む学生には、手元のカップへと注いでいく。
「珈琲の苦味は苦手ですー……」
「それならば、別のものを淹れてきます」
 エメネアの言葉に、翡翠は一度厨房に戻る。
 苦味が苦手な人用に、珈琲の蒸らし時間は短めに、湯そのものの温度も少し高めにして淹れなおした。
「これでいかがですか?」
 ミルクと砂糖を添えながら、翡翠はエメネアへ1杯の珈琲を差し出す。
 添えられたミルクと砂糖をたっぷり注いで、エメネアはその珈琲を口へと含む。
「苦味をあまり感じないです。翡翠さんは珈琲を淹れるプロなのですねー」
 微笑むエメネアに、翡翠も喜んだ。
(あわよくばコレを機会に皆が珈琲好きになってくれたらいいな。特にティセラ様とか!)
 その後、一通り注いで回れば、手元の珈琲は底尽きかけていて、お代わりを望む人が出るといけないから、と翡翠はまた厨房へと戻った。
 ティセラの傍で、幸せそうに緑茶素材のプーアル茶を淹れているナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)に、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が近付いた。
「……茶会の口直しにでも」
 告げながら渡すのは、パン屋『猫華』のパンを入れた紙袋だ。
「……」
 ある事から声を失ってしまっているナナリーは無言のまま、紙袋を受け取る。
「……店長からの言伝だ……『無断欠勤はほどほどに、でないと給料差っぴくぞ』……だそうだ」
『分かったわ』
 アシャンテの言葉に、ナナリーはスケッチブックを取り出すと、急ぎ気味に一言書いて見せた。
 それを確認すると、アシャンテは踵を返して、テーブルの反対側へと向かう。
 そうして、席へと座るでもなく、入り口傍の壁に寄りかかった。
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)は持参したショコラティエのチョコをテーブルへと置き、更に花瓶を借りて、バラの花束を生けて、テーブルへと飾る。
(行動とか言動とか、大人っぽいなぁ。オレと年、そう変わらないのに……)
 ヴァンガード特別隊員たちが環菜のすぐ傍を固めてしまっているため、当初の予定よりは離れてしまうけれど、固められた席の近くの席へと座りながら、勧められるお茶や菓子へと手を伸ばしている環菜を見ながら、誠治は思う。
 自分と環菜に、保護結界を貼り、危険が近付いたときに備える。
 誠治のパートナーのヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)は、環菜を挟んで誠治と反対側の位置になる席に座った。
 特別隊員ではないもののクイーン・ヴァンガードの一隊員として、環菜の護衛のために同行した斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)とパートナーのネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)は誠治たち同様、少しばかり離れた席につく。
 邦彦はポケットに入れたさいころセットを今一度確認した。武器ではないため取り上げられなかったそれは、特技の投擲を活かせば、けん制くらいは行えるだろう。何もなければ、己から危害を加えることはないけれど、何かあったときのためにと持ってきたのだ。
 ヴァイシャリーでの舞踏会同様、平穏無事に済むことを望んでいるけれど、敵であるティセラたちの要塞の中だ、邦彦は自然と警戒してしまう。
 一方で、ネルの方はパートナーの邦彦ほど、黙々と仕事熱心に環菜の護衛をしているわけではない。多少の警戒は辺りに向けているけれど、折角の好機だとして、ティセラたちの人柄を確認すべく、積極的に会話に加わっている。
 人伝に聞く彼女たちのことより、実際に自分の目で見て、話を聞いて、それで信用できる人柄なのかを知りたいのだ。
 今までナンパが趣味だった坂下 小川麻呂(さかのしたの・おがわまろ)は本気になれる相手を見つけていた。それがティセラだ。
 本気になってしまった以上、彼は死ぬまでティセラの傍を離れない覚悟で居る。
 此度の茶会も環菜が何を考えているか分からない以上、ティセラへと危害を加えるようなことがあるかもしれない。彼女へ危害は加えさせないと、傍で警戒を怠らないよう待機する。
 本当のところを言うと帯刀しておきたいのだが、非武装だと言われているのだ。ティセラからの信用を得られるまでは彼女が命じることには全て応じるしかないだろう。
「お前の傍に居る事が、オレの最大の忠誠だ」
「ありがとうございますわ」
 告げれば、ティセラは微笑んで、期待していると答えて来る。
 小川麻呂は周囲へ警戒を向けながら、彼女の傍で護衛に回った。
「同席しても良いだろうか?」
 【クイーン・ヴァンガード特別隊員】の樹月 刀真(きづき・とうま)は環菜へと訊ねた。
 護衛として同行してきたが、良い返事がもらえれば、共に茶会を楽しみたい。
「どうぞ」
 環菜の返事に、刀真と月夜は彼女の傍へと座った。
 駆け引きは苦手なため、そういった話になれば環菜に任せて、刀真は出されるお茶や菓子の話で盛り上げようと試みる。
 勿論、殺気看破で周りを警戒するのも忘れない。
「初めまして、ティセラさん。百合園女学院の冬山小夜子と申しますわ」
 ティセラの傍で冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は一礼した。
「本日はティセラさんの護衛をさせていただきますわ。武装を解除しているとはいえ、油断はできません、あなたに敵意を持つ人たちも多いでしょうから」
 学生たちが力を駆使すれば、彼女を殺すことは出来ずとも傷をつけることくらい出来るかもしれない、と小夜子は告げる。
「わたくしの護衛を? あちらではなくて?」
 警備を申し出る小夜子に、ティセラは環菜の方へと視線を向けながら訊ねてくる。
「ティセラさんが舞踏会で仰った軍事国家が、今のシャンバラに必要に思えましたから」
 だから、あなたを支持するのです……と小夜子は答えた。ミルザムのことも悪くないと思うが、今の彼女の思いは、ティセラの方に傾いている。
「そう。ありがとうございます、お願いしますわ」
 小夜子の言葉を聞いて、ティセラは小さく頷くと、彼女が警備することを受け入れた。
 隠れ身や光学迷彩などを使用して、姿を隠して近付く者が居るかもしれないと、小夜子は注意を払う。また、飲み物などへ毒を混入させるような不審な動きはないかとも目を光らせた。