校長室
金の機晶姫、銀の機晶姫【前編】
リアクション公開中!
〜サガシビト〜 ようやく温かな風が吹き始めたヴァシャイリーの、百合園女学院の学校前。 黒い肌に赤い髪の毛がまとわりつくのもいとわず、ルーノ・アレエ(るーの・あれえ)はまっすぐに前を見据えていた。時折翻る、普通よりも長い百合園女学院の制服のすそを押さえながら、大勢集まった仲間の前に立つ。 先日のお茶会でプレゼントされた洋服に身を包んだニーフェ・アレエ(にーふぇ・あれえ)は、其の両腕に姉と作った【イシュベルタ・アルザスの人形】を大事そうに抱えている。 ルーノ・アレエの赤い眼差しには、強い決意が宿っているのを誰もが認めていた。手にしたマイクを握り締めて、彼女は大きく息をすった。 「私の妹、ニーフェ・アレエの機晶石が非常に危険な状態です。彼女の機晶石を探すため、どうか、私と一緒にディフィア村へいっしょに来てください。 そして、エレアノールの遺跡調査を手伝ってほしいのです! この二つはつながっている可能性があり、どうしても両方調べなくてはいけません」 姉がそう高らかに宣言するのを見て、ニーフェ・アレエは眩しそうに目を細める。青い髪を耳にかけて、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は彼女の肩にそっと手を置くとその顔をのぞきこんだ。緑色の瞳は、羨ましそうに姉を見つめていた。 「私が知っていた姉さんは、多分もういません。でも、私は今の姉さんのほうがずっと好きです」 「まだ戻らない、ルーノさんの記憶のことですか?」 「遠い昔の話ですよ……姉さんはとても優秀で、一人で何でもできる人でした。でも今の姉さんはエレアリーゼじゃないし、私もニフレディじゃありません」 「こうして、私たちを頼ってくれるようになって、私もうれしく思います。初めて出逢ったあの日、彼女はずっと遠くを見つめていました。あの歌を歌って、哀しげな顔で」 「でも今は、あんなに強い眼差しで、私たちに語りかけてくれています」 そんな二人に笑顔で語りかけてきたのは、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)だった。遅ればせながらの春風に長い髪をたなびかせて、遺跡の説明をしているルーノ・アレエに視線を向ける。 「ただ、許してください。私には皆に払う報酬がない……」 語尾が弱くなったところで、夜霧 朔(よぎり・さく)がルーノ・アレエのところへと駆け出した。青色の瞳をキッっと釣り上げて、その黒い指を握り締めた。 「ここにいる皆、ルーノさんを助けたくってきたんです! 報酬は、ルーノさんとニーフェさんが笑ってくれるのが一番です!」 夜霧 朔のパートナーである朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、積極的に飛び出していった彼女に少々驚きつつも、自身も力強く頷いた。 「困ったときは、仲間や友達にたった一言伝えるだけでいいんだ。それはもう、学んだんだろ?」 「それに、お礼ならまたお茶会を開いてください!」 今度は満面の笑みを浮かべた夜霧 朔にそういわれて、ルーノ・アレエはうつむくとすぐに顔を上げて、泣きそうな表情で頷いた。ゆっくりと、そして目いっぱい息を吸う。 「お願い、ニーフェや、イシュベルタ、エレアノールを助けたい……手伝ってほしい!」 ルーノ・アレエを知る彼女の友人達は歓声を上げて彼女の願いに答えた。ルーノ・アレエは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐににっこりとした笑みに変えた。そして、今度はニーフェ・アレエがマイクを引き継いだ。 「もう一つお願いがあります! 兄さんの、イシュベルタ・アルザスの捜索です」 その言葉に、ルーノ・アレエが驚きの声を上げる。ニーフェ・アレエはそんな姉に優しげな微笑を向けると、もう一度マイクに向かって口を開いた。 「協力していただいている方から、ヒラニプラ周辺で兄を見かけたという情報を受けました。どうか、お願いします」 ぺこ、っと頭を深々と下げると、また歓声と拍手が沸き起こる。壇上に駆け上がったのは、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)だった。ニーフェ・アレエを強く抱きしめて、にっこりと笑った。 「どうか、私たちにまかせてください」 豊満な胸に埋もれながらも、ニーフェ・アレエはにっこりと微笑を返した。 それぞれ調査に協力すると銘打って集まった仲間達は、各々彼女の助けになれるであろう場所へ向かうための準備を始めていた。 そんな中、緋山 政敏(ひやま・まさとし)がニーフェ・アレエのそばに歩み寄った。 「ニーフェ、頼みがあるんだが……いいか?」 「はい?」 「その人形、貸して貰えないか?」 一瞬深緑色の目を丸くしたニーフェ・アレエに、緋山 政敏は口元をほころばせる。 「アルザスに、お前達の兄さんに渡したいんだ。きっと、奴に渡す。そして、直接話ができるようにする」 安心させるように微笑んだ緋山 政敏の目の向こうがとても真剣なのを読み取って、ニーフェ・アレエは小さく頷いて大事そうに抱えていた袋を差し出す。丁寧にそれを受け取ると、片腕で優しく抱えて緋山 政敏はニーフェ・アレエの頭を撫でた。 「お前達は、お前たちにできることを。俺は、俺にできることをするさ」 「お願いします。きっと、一番逢いたがっているのは姉さんだから」 「とはいえ、もう三度目の遺跡調査かぁ……新鮮味がないかも」 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は口ではそう言いながらも、マッピングして作り上げた地図を楽しげに眺める。その地図は、まだわからないところこそあるものの、イシュベルタ・アルザスに「自分で作れ」といわれたあの日のことを思い出させる。 「遺跡の中探検するのは初めてだね!」 「そうですわね、以前は救護班として皆さんをサポートしていましたから」 ナイトらしい完全防備を調えたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、飛び跳ねる勢いではしゃいでいた。それをみて和泉 真奈(いずみ・まな)は柔らかく微笑み、改めて今まで集めた資料に目を通す。ロザリンド・セリナを筆頭に、多くの仲間達がそろえた資料は、憶測がなるべく入らないように事実のみが書き出されていた。 「ふぅ」 小さなため息をついたのはソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)だった。使い魔の梟を肩にちょこん、と乗せてディフィア村とヒラニプラ、そしてアトラスの遺跡を含めた地図を眺めていた。 「どうしたんだ? ご主人。困ったことがあれば、俺様が三秒で解決してやるぜ!?」 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が語りかけてきたのかと思って振り向くと、そこにはよく知るパートナーより小さな白熊がいた。 ルーノ・アレエが、先日プレゼントした雪国ベア人形を手で動かしていたのだ。 「あまり、気負わないでください。協力してくれるだけで、私は凄くうれしい」 「ルーノさん……あ、いえ、その……私、あの時は何気なく参加した金葡萄杯でしたが、今思うとあのときにもっといろいろできたのかなぁって思ったんです」 「でも、今からできることもあるだろ」 緋桜 ケイ(ひおう・けい)と悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、遺跡調査の支度を整えた姿で現れた。その後ろには、本物の雪国 ベアもいる。彼らの姿を改めて見回して、ソア・ウェンボリスはにっこりと笑った。短く整えられた金髪が揺れる。 「はい。がんばります!」 「……そうでした、伝えたいことがあったんです。あの遺跡の獣について、思い出せたことがあります」 「記憶は、全部戻ったのかえ?」 「いえ、記憶の情報量が多すぎて、私自身の情報処理能力が追いついていない状態です……少しずつ思い出せたら皆に連絡します」 「で、思い出したことってのはなんだってんだ?」 「はい。あの獣達は、あの遺跡を護るために作られました。そして、彼らは博士達が作ったものではなく、もともとあの遺跡にいたといわれています」 「けど、うろつくの面倒じゃなかったのかな? あんなに大量にいるんだぜ?」 「そうです。自分たちの行き来きが楽になるよう、後からつけた装置があります。ただ、それがどこにあり、どうやってなにが発動するのかは……まだ思い出せません」 「その謎はマジカルホームズにお任せよ!」 ピンクのポニーテールをたなびかせながら、パイプと虫眼鏡を掲げて登場したのは霧島 春美(きりしま・はるみ)とジャッカロープの獣人ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)だった。彼女たちはポーズをきめてにっこりと微笑むと、一枚の紙を差し出した。 「実はね、前に調べたときにおかしなところは見つけてあるんだ」 「おかしなところ?」 「そうだよ。春美とボクたちで力を失った機晶石の山の下に隠された通路を見つけたんだ。そこに、妙な装置が転がってたんだ」 「ただ、あの時はニーフェさんを連れ出して調査は一旦打ち切りになったから、詳しく調べなかったけど……」 「きっとそれは、犬笛装置か何かじゃないかな!?」 黒髪に白いリボンが特徴的な橘 舞(たちばな・まい)の背後で、金髪のシャンバラ人ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が大声を張り上げた。橘 舞はパートナーの迷推理がまた始まってしまった、と小さくため息をつきながら金の髪が流れ落ちている彼女の肩を抑えた。 「ブリジット、とりあえず落ち着いてね」 「だってだって、獣でしょ? ワンコでしょ? 言うこと聞かせるには犬笛でしょう!」 「あ、そっか! ルーノさん! 覚えている限りでいいです。遺跡に住んでいた頃、遺跡から出られたことありますか?」 「え……ええと、いえ。そういわれてみれば、私が『空を見てみたい』と言った時にも……外に出してもらえなかった……いえ、出られなかったと思います」 霧島 春美の言葉に、戸惑いながらルーノ・アレエが答えると角の両端にある耳をたゆん、と揺らしながらディオネア・マスキプラが小首をかしげた。 「春美〜? どういうこと?」 「ううん。まだ情報が足りないから、遺跡に着いたらまたお話しするよ。ワトソン君」 にっこりと笑うホームズの顔を見て、周りの百合園女学院推理研究会の仲間はさらに首を傾げてしまった。 「とにかく、その装置をうまく使えれば、調査はだいぶ楽になるな」 「そうですね! 有効な魔法は雷術ってわかってますけど、沢山使って魔力を使い切ってしまったら大変ですもんね」 「それじゃ、今日も元気に班分けしましょうか?」 リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が緋桜 ケイとソア・ウェンボリスの間に入ってにっこりと笑った。 すでに身支度を整えたメンバーの手には、遺跡の中でも通じる通信機が握られていた。 *ヒラニプラへ調査* 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ) 同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと) ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと) クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ) リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー) ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー) ララ サーズデイ(らら・さーずでい) ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう) 緋山 政敏(ひやま・まさとし) カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど) リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ) トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー) ジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ) 神野 永太(じんの・えいた) 燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで) 伏見 明子(ふしみ・めいこ) フラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ) *ディフィア村へ調査* 五月葉 終夏(さつきば・おりが) ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる) ルクリア・フィレンツァ(るくりあ・ふぃれんつぁ) ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す) エル・ウィンド(える・うぃんど) ホワイト・カラー(ほわいと・からー) 神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす) 早川 呼雪(はやかわ・こゆき) ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって) ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく) シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー) 秋月 葵(あきづき・あおい) エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん) ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな) エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと) 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ) クコ・赤嶺(くこ・あかみね) アイリス・零式(あいりす・ぜろしき) フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと) 影野 陽太(かげの・ようた) エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく) ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ) ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい) 九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ ) マネット・エェル( ・ ) 九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる) 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや) ラグナ アイン(らぐな・あいん) ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい) ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた) 御薗井 響子(みそのい・きょうこ) アンドリュー・カー(あんどりゅー・かー) 葛城 沙耶(かつらぎ・さや) アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ) 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ) プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす) エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ) ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと) ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ) エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん) *エレアノールの遺跡を調査* 第一陣 七瀬 歩(ななせ・あゆむ) 桐生 円(きりゅう・まどか) オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん) ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい) メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー) セシリア・ライト(せしりあ・らいと) フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ) 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい) アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと) 白乃 自由帳(しろの・じゆうちょう) 閃崎 静麻(せんざき・しずま) レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど) 閃崎 魅音(せんざき・みおん) 神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお) 第二陣 ルカルカ・ルー(るかるか・るー) ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく) 夏侯 淵(かこう・えん) エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ) クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや) メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある) 朝霧 垂(あさぎり・しづり) 夜霧 朔(よぎり・さく) 松平 岩造(まつだいら・がんぞう) 第三陣 緋桜 ケイ(ひおう・けい) 悠久ノ カナタ(とわの・かなた) ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす) 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ) 一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ) リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん) 朝野 未沙(あさの・みさ) 朝野 未羅(あさの・みら) 朝野 未那(あさの・みな) 五条 武(ごじょう・たける) イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ) 琳 鳳明(りん・ほうめい) 第四陣 橘 舞(たちばな・まい) ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる) 霧島 春美(きりしま・はるみ) ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら) ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん) 和泉 真奈(いずみ・まな) アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ) 霧雨 透乃(きりさめ・とうの) 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ) 東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん) バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす) ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと) 「ま、こんなところかな。ディフィア村の人たちは現地についてから分かれましょっか。通信に不自由しないでしょうしね」 リーン・リリィーシアが一覧を作ったところで、ニーフェ・アレエのもとにアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が三匹の獣を連れて現れた。彼女の姿を見つけると、ルーノ・アレエも駆け寄って挨拶を交わす。 「お久しぶりです。アシャンテ・グルームエッジ」 「………彼女が、妹か?」 「は、はい! ニーフェ・アレエといいます。姉さんからお話は聞いています……ええと、この子達は?」 「グレッグ、ボア、ゾディス」 そういって、パラミタ虎、パラミタ猪、狼の順に指差しながら言った。どうやらそれぞれが彼らの名前らしい。人一人が乗っても支障がないほどの大きな獣達は、獰猛そうな外見とは裏腹におとなしく挨拶代わりに小さく鳴き声をもらす。それを理解してか、ニーフェ・アレエはしゃがみこむと、順番に彼らの首に腕を巻きつける。 「ご挨拶ですね! よろしくお願いします!」 「……乗っても構わないぞ」 「いいんですか!」 ニーフェ・アレエが大喜びでパラミタ虎のグレッグの背中に飛び乗る。もこもこした毛皮が心地いいのか、何度も何度もその背中をなでている。すると、パラミタ猪のボアや狼のゾディスはうらやむようにグレッグのシマシマの尻尾に鼻をこすりつける。 そこへ神野 永太(じんの・えいた)と燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が姿を現した。その後ろには、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が待っていた。二人に先を譲ると、神野 永太がルーノ・アレエとニーフェ・アレエに向かって、少し照れくさそうな様子で言葉をかける。 「永太とザインはヒラニプラにいってイシュベルタを探しにいく。イシュベルタに、伝えたいことはないか?」 「……逢いたいと、話がしたいと、伝えてほしい」 「わかった。あと、もう一つ。歌を歌ってくれないか?」 「可能なら、私たちで作ったあの歌のほうが良いと思います」 「ザインさんも作詞してくださったあの歌ですね! わかりました」 ニーフェ・アレエがそう答えると、ルーノ・アレエも同じく頷いた。二人の歌声は青空に吸い込まれ、はるか遠くにいる大切な人に届くような気さえした。それらを、燦式鎮護機 ザイエンデはメモリープロジェクターに保存した。浅葱 翡翠は歌い終えた二人に、二つの水筒を差し出す。 「こちらはルーノさん用に砂糖入りのカフェオレ。こちらはニーフェさん用にブラックです。道中、無理せず適度に休憩を取ってくださいね」 「ありがとうございます、翡翠さん。今度は、コーヒーの入れ方を教えてくださいね?」 その言葉に、浅葱 翡翠は笑顔で答えると、自分と同じ目的地へ向かう仲間のところへ戻っていった。 「とにかく、出発しましょ!」 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が声をかけると、一同から大きな声で返事が返ってきた。同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)はうっとりした表情で、いまだ見ぬ機晶石改造技術を夢見て軽やかな足取りで彼女自身の創造主の後を追いかけていった。