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リアクション
『イントロダクション・不毛の地を行く』
屋根裏の真っ暗闇に、硝子のように儚く澄んだ歌声が響いていた。
月に照らされた砂漠を、ラクダに乗った王子と姫が歩いてゆくとか、そんな内容の歌だ。
ふと暗闇に、日に当たったことのないような、まっ白い手が浮かび上がった。その小指からは、暗闇に押しつぶされたように細い細い光の線が、まっすぐ上へと伸びていた。
ちらちらと漂う埃にさえ、その光の線は頼りなく霞み、時に途切れる。
「――……はぁ」
歌声が途切れた。
微かに湿った溜息が、周囲の埃をゆらりと揺らす。
「一体、どこに隠れてらっしゃるの……? もう、いい加減姿を見せてくださいまし……」
不意に、周囲の空気がざわめきだした。
どこか遠くで、人の話し声と足音が、地鳴りのように響いてくる。
「そろそろ……日が落ちてきたのでしょうか……。眠気が、覚めてまいりました……」
さらりと衣ずれの音を立て、ミラは立ち上がった。
肌より白い、純白の着物の襟を正して、真紅の帯の軌跡を闇の中に引きながら、ミラはゆっくり、歩きだす。
赤い光の浮かぶ左手を、まるで誰かに引かれるように、行く手に向かって伸ばしながら。
屋根裏の暗闇には、また、儚い歌声が響き始めた。
歌の内容とは違い、ラクダにも乗らず、たった一人で、ミラはぽてぽてと歩いていった。
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