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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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prologue



 不思議に蒼い。一面に夜空が映し出された小部屋のように閉じられた空間に、怪獣のぬいぐるみになったライゼと人形のカナリーが、ふわふわと漂っている。
 幾つもの星が瞬き、かと思えば消えていく。
 どこからか押し寄せる波が、光を浚ってはまた連れて来る。その度に、空間全体がゆらゆらと揺れる。これは? 声にならない誰かの願望や欲望やらの、混ぜ合わさった思念なのか。
 だけど、それも全て……
「あぁ。あらゆるものは、流れさっていってしまう……」
 ピンクのパジャマ姿の騎凛 セイカ(きりん・せいか)が、その不定形の部屋の片隅で、泣いていた。
 徐々に、一度はかき消えそうになっていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)の声が大きくなって、それはいつの間にか騎凛のすぐ耳もとで聞こえていた。
 メイド服の垂の膝枕で眠るセイカ。だが、その二人の映像は曖昧なイマージュに過ぎず、形を定めされないセイカは、意識も、その存在ごと流されかき消えようとしている。
「セイカ、不安か? 怖いか? ……セイカ、自分を信じるな! 俺を信じろ! セイカの信じる゛俺゛を信じろ!」
 どこかへ消えてしまいそうなセイカの手を取り、引き寄せると、強く抱きしめる。
 そうすると、二人はまた、姿を取り戻していた。蒼い闇に溶け込んでしまいそうに、透明なままだ。
 相変わらず、何処とも知れない形の定まらない小部屋の中である。
 天井の辺りに、幻のように暗い不確かな波がゆれて、流れている。(あそこから、戻ってきたのか? だけど、ここは何処だろう?(あれが集合的無意識の波だとすれば、ここは騎凛セイカの個人的な無意識の部屋なのだろうか。)
「うっ……」
 セイカに、意識が少しずつ戻り始める。
「安心して良いよセイカ、側にはいつも俺が居る。決して離れはしないから!」
 頭上を、ふわりとかすめて浮かんでいる、怪獣のぬいぐるみ――ライゼ。垂はパートナーの名前を呼びかけ、その手を掴む。「……垂?」
「――ライゼ! よし、行こうか。セイカ! ライゼ!」
 もう一つ、離れたところで、空間を漂っていた人形……「あ。……あれは、カナリー?」人形のカナリーは、頭上にゆらめく幻の波の中に、ゆっくりのみ込まれていってしまう。
「しまった……!」
 また、部屋が震え始めた。閉じられていた空間が開き始め、流れが強まり出す。波が、近くまで迫ってくる。
「行かなければ……。
 もし、この世界(空間)に意味があると言うのならば、それは流れていく先ではなく、元の方にある筈だ。だから、俺達が向かう先は、゛この世界のいちばん深い場所゛だ!」
 流されないように、しっかりと手を掴んで、押し寄せる波の来る先へ。それは容易なことではなかった。
 様々な邪念や欲望の入り混じった思念や、声にならないような声が、波として押し寄せてくるのだ。(あらゆるものは流されていってしまう……その流れていく先にあるものは、変化や消失なのか。ではその元にあるのは、不変や永遠なのだろうか。変わらぬものはない。それは不安でもあり、安らぎでもあるように思う。その流れの中で、立ち尽くし途方に暮れる、それでも歩いていくしか。そしていつか、流れにのみ込まれ……もしその流れの元にまで遡るのであれば、そこにあるものは?……)
 ……
 次第に、蒼ざめた空間は、赤と緑のツートンカラーの色調に変化してくる。



 黒羊郷の地下湖から、浮かび上がってきた騎凛セイカの体。だが、意識はなく、全く動く様子はない。
「これって教導のキリンきょーかん……? だよなァ?
 死んで……は、ないみたいだけど。
 チッ。一体どうなってんだ? ここは……」
 セイカを湖から抱え上げたのは、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)だった。





【十二星華編】『ヒラニプラ南部戦記〜第1回〜』

◆プロローグ

◆第一部 夢
 1章 夢
 2章 戦地へ

 兵は詭道なり前編

 3章 再起
 4章 決戦、ハルモニア


◆第二部 戦
 5章 ジャレイラ
 6章 東の谷
 7章 水軍(そして黒羊郷へ)
 8章 信徒兵
 9章 王子
 10章 オークスバレー

 兵は詭道なり中編


◆第三部 辿り着く先
 11章 旅行者達
 12章 土下座する男

 兵は詭道なり後編
 
 13章 帰って来る者達
 14章 流れて行く


◆あとがき

※目次《詳細版》は次頁にあります。