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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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5-02 記録係の男

 後方の陣地には、義勇軍をして従っている各部族の長、それにある男が呼ばれていた。
 男も義勇軍に属する者の一人で、大きな狼の獣人を連れている。
 男は、各部族の構成や義勇軍の編成を的確にまとめ上げ、軍の記録係として抜き出た才能を示していた。
「うむ。よくまとめ上げたな」
「ジャレイラ様」男は、ジャレイラらの前線での戦いを聞いており、「私の友を怪我させたやつらやもしれません」
 と、怒りを押し殺し悲しそうな表情を見せた。
「……。そうか。教導団のやつらだ。すぐに、我が打ち払ってくれよう」
「ジャレイラ様。私をどうか、前線に。
 この聖戦を記録に残しておきたいのです」
 鋼鉄の獅子。と敵の部隊の名が挙がった。
 やはり……か。
 男は、ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)であった。もちろん、【鋼鉄の獅子】のウォーレン・アルベルタ。
 ウォーレンは、やはり黒羊郷に潜入していた一人であった。
 遠征軍の途中までは、同じ【鋼鉄の獅子】メンバーである、イリーナ、ルカルカらと一緒だったのだ。彼女達は、東の谷を越える途中、一時病に伏せっていた隊長レオンハルトを見つけ、彼を連れて帰還した。一方のウォーレンは、先に巡礼の一行(そこに琳もいたわけだ)と黒羊郷へ向かったルースを助けるべく、獅子のもとを離れたのだった。
 今、その鋼鉄の獅子の皆が、谷の向こう側で、黒羊軍と戦っているのだ。
 皆は、無事だろうか……
 黒羊郷への旅の途中で出会った、清 時尭(せい・ときあき)
 土地の獣人である彼のおかげで、義勇軍に随行することも容易に叶い、また、その後、各部族長らと親交を持ち、話を聞かせてもらうことも叶った。
 そうした清の協力を得、あとは諜報員としての経験を生かし、今のようにジャレイラに近付くところまでいった。(同じく義勇軍に潜伏したルークことルースは、別働し、ジャレイラの光条兵器に関する情報を集めていることになる。)
 更に情報を集め、それを獅子の皆に届ければ、とウォーレンは意を固くした。
 ウォーレンはまた、この、自分にとっての新しい任務の中で、苦い思いもせねばならなかった。
 各部族長は皆、気のいい者達ばかりで、皆が、それぞれの土地のことを思って、戦いに参加していた。
 教導団が、ヒラニプラの領地を侵している。という話はあちこちで聞かれたのだ。
 しかし、軍事をもちこむこと自体を快く思っていない者も多く、そういった者は、黒羊郷にも進軍をやめるのだ。戦争をやめるのだ、と反発していた。そういった部族の中の血気に富む者らが、進軍を無理矢理阻もうとしたことから、軍に囚われてしまったのである。
 ウォーレンが交流を持った一族であった。
 ウォーレンの的確な各部族の配置や編成の記録も役に立って、黒羊軍は損害なく彼らを捕獲することができたわけだ。皮肉なことでそのおかげもあり、ウォーレンはより重用されることとなったのである。



 謀反を起こした一族の長が引き立てられてきている。
「ジャレイラ殿! あなた様は、あなた様は、黒羊郷の神になぞおなりにならないままの方がよかったのだ!」
「何無礼者控えよ!」
 黒羊軍の将校が、剣を突き付ける。
「待て。聞こう」
「黒羊郷は変わった……こんな軍隊など用いるようになって。
 あなた様は、このような軍など使わずとも、わたしども辺境の民の慕う女神であった筈。
 あなた様は、これまでもわたしどもを助けてくださった。その恩は忘れない。だが、今は……」
「……。しかし、教導団の手からヒラニプラを守るには、これまでのような戦い方ではどうにもならなかったのだ」
「戦争など、間違っておる。ヒラニプラを守ると言って、結局多くの民の命を巻き添えにしているではないか」
「もう言うことはないか」
 将が、この下賎めといった目で長を睨み付ける。
 長も相手を睨み返し、唾を吐きかけた。「斬れ!」
 将が剣を振り上げる。
「待て、やめろ」
 将は、長の首を撥ね上げた。