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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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6-03 メイベルとカオル

 一方、三日月湖から梅琳捜索隊として向かわされたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)ら騎狼分隊の数騎は、騎狼で河を渡り、山あいを伝うことになるため、鋼鉄の獅子らの駐屯地には合流せず直に崖の下へ赴くこととなる。
「騎狼の脚力をもってすれば、そう時間はかからないでしょう」メイベルは、騎狼をぽんぽんとなでながら、進んでいたのだが、その途中、
「はっ。お守りとして持ってきた【オークスバレーの守護神】シャンバランフィギュア(※)に……」(※オークスバレーにて販売価格500G?)
「どうかされましたかな、メイベル殿?」
 前方を行く、ユハラ(ゆはら)が振り向く。
「え、ええ。その……なんかヒビが入っています!???」
「どれどれ。……おお! こ、これは。……もしやシャンバラン(しゃんばらん)の身に何か不吉な事が」
「……シャンバラン、ご無事でしょうか……」
「オークスバレー。久しく戻っていないが、大丈夫でしょうかな。しかし……メイベル殿」ユハラが、じーっと見てくる。「うふふ。気になりますかな、シャンバランのことが?」
「え、ええ。その、その……ああシャンバラン……」
 そんなことがありつつも、メイベルらは、吊り橋の真下へと、進みつつあった。
 梅琳の捜索へ。
「うむ、ここは騎狼部隊の実力を示すにはいい機会だよね。いち早く保護して……」
 騎狼部隊は、本当に様々な局面にて活動している。セシリア・ライト(せしりあ・らいと)の言う通りまさしく「第四師団に騎狼部隊あり!」を示すこととなろう。
「黒羊側の俘虜になれば、人質として使われる心配もありますし」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)もいちばん後方で、注意深く辺りを見渡す。「それから、メイベルはシャンバランのことで頭が一杯のようですけど、黒羊郷に潜入しているイレブンさんやデゼルさんはご無事でしょうか……」騎狼部隊にも色々と悩みの種は多い。
 吊り橋が見えてくると、浅瀬に浮かんでいる黒羊兵、梅琳兵の遺体。少なくない数だ。
 フィリッパは、吊り橋の上を見上げ、
「鋼鉄の獅子と言えど、苦戦は強いられていることでしょう。
 ……あれ、メイベル。誰か、いますね」
 吊り橋のちょうど真下の辺りで、動いている者がある。落下した教導団兵の生存者……いや、それは、やはり梅琳の捜索に下りてきていた、橘 カオル(たちばな・かおる)の一隊であった。
 落下した兵の中には……
「うぁみんな上から落ちてきたから……エグイなぁ」
 マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が、辺りを見渡して呟く。
 生存者はいないようである。
 もしかしたら梅琳も……いや、まさか! そんな……。
 カオルはそう思いつつ、切実な様子で、付近を行ったり来たりしている。「梅琳……梅琳……」
「あ、あっち見ろにゃ。めいべるにゃ」
 ねこが、何か見つけたようだ。
「め、メイリン?! い、いたのか!?」
 カオルは、メイベルと出会った。
「あ。教導団の木刀剣士さん? 」
「あ、えっと、騎狼部隊所属の、百合園のお嬢さまか。ってことは……」
 メイベルは、騎狼部隊から、梅琳の捜索隊としてここへ来た旨を述べる。
「そうか。騎狼部隊が」
 カオルの方も、勿論、この戦地での指揮官たる梅琳を救助するべく、決死隊を組んで崖を下りたことを説明した。何で専門のにゃんこに混じって木刀剣士が……という部分はぼやかしたのだが、
「橘がオレが絶対メイリン助けるゆうてついてきたにゃ」「橘が絶対メイリンゆうたにゃ」「橘メイリンにゃ」
「ちょ、ちょっと待てって。その、……当然だろ?」
「あれ? どうして頬っぺがほの紅くなりましたのですぅ。
 もしかして、木刀剣士さん……」
 メイベルは冷やかすことも忘れなかった。
「……な、何で、皆知ってるんだろ? で、でも噂になるのってちょっと嬉しいかな、てへ」
「橘メイリンって何ですぅ」
「いや、そ、それはにゃんこがっ。にゃんこ、省略し過ぎだろ。(橘メイリンかぁ……へへへへ)」
「橘にやにや笑ってるにゃ。気持ち悪いにゃ、おーえ」
 カオルは刀を振り上げた。
「……。……えへへ。
 あ、ああ。そうだった、オレは、橘カオル。木刀剣士じゃなく、カオルって呼んでくれりゃいいよ。(それに、木刀は燃やされちゃったんで、雅刀にしたんだ。(にゃんこ、「橘、オリ達に本物の刀向けたにゃ!!」「あ、ごめん、ついクセで木刀と間違えて……」))
 で、マリーアね。それに、梅琳の……ごめん、李少尉のパートナー、エレーネにも来てもらってる。皆、ほんとに李少尉を心配してるんだ」
「ええ、よろしくですぅ。こちらは、セシリア・ライトと、フィリッパ。それに、騎狼部隊のユハラさんがお見えになっています。
 一刻も早く、李少尉を救出しましょう。ご無事を祈りつつ……」
「じゃあ、行こうか、メイリン」
「……メイベルですぅ」



6-04 アレックスとブロウ

 テング山を黒羊側のカラス兵によって追い出されたテング達は、谷の東寄りの崖の下や山の斜面などに、身を寄せていた。女子供も含めて、200から300ほどにはなろうか。戦闘向きの集団ではないが、知能は高く、武器も使用することはできる。戦いは好まないため、女子供や病弱な者らに危害が及ばないよう、カラスの進撃を受け、ひとまずは退避したのだ。
 梅琳を捜索していたカオルとメイベルは、崖の下で、ここなら黒羊軍の襲撃は受けないだろうと、避難していたテングの女子供や、それを守る少数の兵と会った。
 テングの若者達は、テング山を奪回する機会を窺って、崖の上に陣を張っていると言う。山を挟んだ位置にある鋼鉄の獅子とは連絡は取っていないが、教導団の所属であるという数名の者に出会ったらしい。そして、その中には……
「えっ。じゃあ、梅琳は無事なんだ! よ、よかったぁぁ……!」
 カオルは感嘆し、次の瞬間には安堵で座り込んだ。そう、とにかく梅琳は生きていたのだ。
「カオルさん。よかったですねぇ」
 メイベル、セシリア、フィリッパらもカオルを励ます。
「あっちの影に、教導団の負傷兵も匿われているってことだから、見てくるね。カオル、いつまでもヘタレてるんじゃないんだからね」
 マリーアは、テング兵に案内され、駆けて行った。
「けど……ほんと、あの高さの崖から落ちて、よく無事だったよな」
 ――説明しよう!
「な、なんだこの声は?」「なんですぅ?」
 ――落下中に仮名を名乗ることによって名を持ち、PCスキル「女王の加護」が使えるようになったのだ!!
「だ、誰ですぅ?」
「じゃあ、梅琳は誰かと一緒にいるのか?」
 テングの言うには……
「アレックスとブロウ?」梅琳を守って共にある者の名だ。「誰だ。教導団にそのような者が? 士官候補生にはいなかったような」「私も、聞いたことないですぅ」
「そうだ。それで、梅琳は……
 もう、テング山を攻めに行ってるって??
 げ、元気だな、梅琳……。よし、こうしちゃいられない。行かなきゃ。……ってまた、崖登らなきゃならないんだな? ……」



 アレックスとブロウもまた、テングへの接触を試みていたのだった。
「さてはて、ブロウ。いつまでも居眠りぶっこいてないで、ささっと起きるッス」
「寝てたワケじゃねーよ、アレックス。考え事してたのさあ。
 確かこの辺りにゃあ、テングさんが居る山があった筈よ。このまま戻っても、敵さんの兵士どもに轢き殺されるだけさ。テングさん達に助力乞うっちゅーのもいいんじぇねえかい?」
「ふむ」
「な。ってワケで、俺を下敷きにして助かった李少尉。そろそろ、どいてくれるかい? おっぱいが」
 どんっ。李梅琳はトミーガンを放った。
「だ、誰よ!」
「アレックス、ッス。と、」「ブロウだ。よろしくな」
「だから……」
「ほら、李少尉。テングが来たッス」
「く、……」
 かくして梅琳は、血気に逸る若テングの一勢を率いて、早速テング山を攻め取りにかかったのだった。

 アレックスとブロウ……つまり兵士AとB(一般 兵士(いっぱんの・へいし)一般 騎士(いっぱんの・きし))である。



6-05 テング山の戦い(1)

「ほら少尉、いっちょう活躍しないと校門前が取られちゃうッスよ!
 ファイトーファイトー!」
 襲い来るカラス勢をスプレーショットで巻き込み、体力を削る。
 そこへ、梅琳の幅広の刀がなぎ払いにかかる。テング達も、カラス兵にとどめを刺していく。
「はぁ、はぁ……あまり、NPCをこき使わないでよ! あなた、しかも一般兵士の分際で……」
「PCっスよ! いえ、もちろん、指揮は李少尉頼みッス」
「おい、敵将が出てきたぜ!
 カラス兵には勝てるが将には勝てないと言うのなら、名持ちキャラが三人もいるんだ! 勝てる!!」
「よし、シャープシュータで粘着してやるッス!
 李少尉ッ!! 今ッスよぉお!!!」
「はぁ、はぁ、シャンバラ教導団少尉の、李 梅琳(り・めいりん)!」
「黒羊軍カラス兵団を束ねる、ブラッディマッドモーラ。テング山は渡さん! 死ね!」
 カラスの羽付の黒い槍が、梅琳を襲う。カン、……ガっ。三合程で、梅琳の刀が弾かれる。
「く、しまった……!」
「李少尉、素直にトミーガン使ってりゃいいんス。武将の真似事なんてしてちゃ駄目駄目ッス。第一装備にない武器を使うのはシナリオ違反d(げふん」
「エェィ、この雑兵ども、ちょこまかと!」
 ブンッ。アレックスが下がって、ブロウが出る。トミーガンを構える梅琳。
「ちょ、ちょっと私は雑兵に入ってないわよね?」
 その一瞬の隙を衝いて、カラス将の鋭い槍が梅琳のトミーガンを落とした。
「あっ、しまっ」
 そのまま槍の柄になぎ払われ足を踏み外すと、梅琳はテング山をまっ逆さまに落下していった。
「……」「……」

 ここに、天霊院の隊が向かいつつあった。