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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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第6章
東の谷


 吊り橋の戦いの後、鋼鉄の獅子は、吊り橋の南側で、何とか隊を立て直した。
 レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)は、思案していた。
 前回、吊り橋の戦いには勝ったものの、それは一時のことであり、レオンハルトの考えるように、
「兵数に劣る上補給も不安定、此方の動きまで知られていた以上、一端戦線を引くしかあるまい」
 その通りであった。尚、吊り橋を挟んで、【鋼鉄の獅子】を中心とした教導団部隊と、ジャレイラ率いる黒羊軍とは対峙しているのであるが、こちら教導団のいる南側には、どれだけかも把握し切れていない敵(前回伏兵として現れた)が残ってもいるのだ。
 レオンハルトは考える。やらねばならないことは多い。
 退路である船着点の奪回、南側の敵の排除、この地の地形として浮かび上がってきている幾つかのポイントを抑えること、それに、李少尉の安否も心配される……レオンハルト、如何にこの戦いの采配を執るか。

 そんな中、一人の新たな人材が浮上していた。



6-01 ラハエル・テイラー

「すみません、これも何かの縁ということで、以降宜しくお願いしますね♪」
 レオンの参謀シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)がにこやかにしかし有無を言わさず語りかける。
「あ、あぁ。オレが、か……」
 レオンと同じ、金の髪が、冷たい東の谷の風に揺れている。だがその髪は短く、すでに多くの訓練を積んでいる兵ではあるが未だ少し何処かに幼さも感じさせる。整った顔立ちの彼は、工兵科所属・士官候補生のラハエル・テイラー(らはえる・ていらー)と言った。
 退路にもあたる東河船着点。もともと、最初の仮陣営のあった場所だ。ここの確保は、最優先事項と言える。レオンハルトの出した指示は、こうだ。
「士気の維持は必要不可欠だ。この寒波では休める場所が要る。
 ラハエル、レーゼ、制圧部隊として仮設陣地を確保せよ」
 その制圧においては、今まですでに多くの戦いを勝ち抜き指揮の経験もあるレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)に戦闘部隊を任せれば、おそらく並の敵相手にはまず間違いないだろう。
 そしてその後の、仮設陣地の設営に適任の人材として、シルヴァが資料の中から選び出したのが、このラハエルだったのだ。
「ああ。よし、任せて下さい、先輩方。やってみます」
「うむ。いい意気であろう」レーゼマンが、ラハエルの肩をぽむと叩く。「だが、やってみますではなく、やってみせます……いゃ、やります、なのだよ! 私達は、必ず、この任務を達成せねばならん。ではラハエル、貴官を、東河船着点制圧部隊……私のレーゼセイバーズ補佐官に任命す」
「レーゼマン、ラハエル。では、頼んだぞ? 期待している」
「はい、必ずやってみせます!」
「おお、そうだラハエル。ではいざ。レーゼセイバーズ、行くぞ」
「レーゼ殿!」「レーゼ殿!」「ラハエル殿!」
「それでは♪ 僕は、吊り橋の方へ行きますんで」
 シルヴァも、ラハエルのことを励ました。



 また、ここにもう一人この人物。
 李少尉ら先鋒の斥候にあたっていた金住 健勝(かなずみ・けんしょう)だ。バンダロハムの一件での懲罰人事として自ら申し出てこの任にあたっていたことになるが、階級としてはレオンハルトら同様少尉の者である。
 (この東の谷への全隊を率いた李少尉は、この戦の折には、(大隊を率いたわけだしせめて)中尉位まで昇進していたことに修正か。(他に、一年目(2019)に部隊を率いていたレーヂエやゾルバルゲラ、ナドセが中尉であり、その後、レーヂエは少佐、ゾルバルゲラ、ソフソ等は大尉に昇進している。))
 *他、少尉から叩き上げの経験豊富な軍人、として中佐の位置にあるのが、ロンデハイネ。(一年目(2019)では、少佐か大尉。何れも、南西分校が第四師団となったときに昇進している。)
 *これに対して、パルボンは私兵持ちの貴族出身者として、最初に中佐の待遇を与えられている。(実際には、存分に財力のある貴族たるパルボンは大佐待遇の筈だったが、南西分校長の階級が大佐であった為。尚、騎凛セイカはそれまで分校長の下で中佐をやっていたが、南西分校長はそのまま本人の希望もあり(病の為とも)南西分校に留まることになったので、師団(長)を任されることになり、一気に少将にされたのである(もしくは、規模としては旅団なので、准将)。
 なので、現在の第四師団の階級は以下の通り。
 師団長(少将もしくは准将) 騎凛セイカ
 ※大佐 南西分校長
 中佐 パルボン、ロンデハイネ
 少佐 レーヂエ
 大尉 ゾルバルゲラ、ソフソ
 中尉、少尉 各部隊長、本陣代表者等)

「金住少尉も、行ってもらえるのか。それは、助かるが……いいのか?」
「敵包囲網の中で座していればいずれやられる……が、守備も大事、であります。
 今、自分は、懲罰人事にあって一兵と見てもらっていいであります。協力して、設営した陣営の防衛にあたりましょう。レオン少尉」
 苦しい状況だ。しかし、三日月湖とは何とか連絡が取れてはいるが、増援までは遣してこないところを見ると、あっちも苦しいのかも知れない。そう金住は思った。
 二人は、頷き合う。



 その頃、救護班では……
「あわわ、カオ君痛そうなんだよ」
 ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)が手当てしているのは、無謀にも、(前回、)敵将ジャレイラ・シェルタン(じゃれいら・しぇるたん)に木刀で挑みかかった橘 カオル(たちばな・かおる)だ。無論、手痛い反撃は被った。
「痛てて……」
 ジャレイラのあの黒い炎のフランベルジュ。切り傷は負っていない。しかし、かすめただけで、黒い斑点のような火傷を負っていた。毒などは受けていないが、熱を帯びて、暫く経っても痛む。
 しかし、そうも言ってられない。カオルとしては、すぐにも、思いを寄せる李 梅琳(り・めいりん)を助けに行きたい。前回、崖から転落してしまった梅琳……あの高さである、生きているのかどうかさえ、わからない……いや、そんな筈はない、きっと。
 ここには、金住がレーゼマン、ラハエルらと出て行く前には彼のパートナー、レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)の姿もあり、ルインと共に負傷兵の治療にあたっていた。
 レジーナは、設備もなく慣れない土地に何ヶ月も滞在していることになるのだからと、風土病にかかる懸念をし衛生状況には気を配った。ヒールやナーシングといったスキルは、治療や回復を効率よく進めることができるわけだが、どういうところに気を回して治療行為を行っていくか、という部分は確かに忘れてはいけないところであろう。
 また、レジーナは、中でもとりわけこの人の容態には、注意した。
 橘カオルの隣のベッド、
「……」
 無言で、気丈にいるが、ひどい打撃を受けた李梅琳のパートナー、エレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)だ。
 ジャレイラの刃に、両手首を落とされてしまっている。
 しかし彼女も、治療を終えればすぐにも、梅琳を探しに行きたいという意志を示している。たとえ、戦えなくても……もし、梅琳が生きていれば、パートナー同士、引き合うことがあるかも知れない。「パートナー同士、引き合うか。……いいなぁ」「カオル?」「あ、マリーア……」
 エレーネは、とても戦える状態ではないものの、体に変調が起きているということはなかった。
「それなら、少尉も今日はお元気だと思います」
 レジーナはそう優しく、エレーネに語りかけた。少尉が、目の前であんなことになってショックだろうけど……健勝さんがもし同じ目にあったら、自分なら気が動転してしまうだろう。
「エレーネさん……」
 やがて、救護にあたっていたレジーナ、ルインも、各々次の任務に向かうことになる。休んでなどいられなかった。
「健勝さん。行くのですね? はい」
 健勝さん、しっかりフォローします。苦しい戦いになるでしょうけど……レジーナは意を固くする。
「あっ。シルヴァ様来たんだよっ。じゃぁ、行こう、かなっ?」
「ああ。行くぜ」「……」
 カオル、そしてエレーネも立ち上がる。
「探索に使えるのは最大30名+エレーネさんです」シルヴァが、計算の上割り出す。「50名は吊り橋の見張りと、伏兵による吊り橋襲撃の警戒、黒羊の部隊編成が予想より早かった場合に橋を落として貰わないとなりませんから」
 救護班は、引き続きロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が引き受ける。
「ええ、お任せください。皆さんも、お気を付けて……」
 シルヴァ、ルイン、カオル、エレーネらは、兵と吊り橋の付近に展開した。カオルとエレーネは、シルヴァの指示した兵数を以て、ここから、落下した李少尉の捜索に向かうつもりだったが、周辺を探ってみても、崖下へ降りるのは至難の業と思われた。そこへ、壊滅したにゃんこ兵の生き残り10が合流してくる。これを決死隊として、崖下へ向かわせることになった。カオル自身も、これに加わる。
「おい橘(注:一応カオルはにゃんこの隊長)大丈夫なのかにゃ。オリ達は、山岳のにゃんこだから、何とかなるケド、お前はむずかしいよ? にゃんこでもこの崖降りるの、必死だにゃ」
「ああ。それでも、オレは」
 梅琳のため……カオルの決意は変わらなかった。
 にゃんこがちょっと冷やかす。「ほ、本気だぜ。オレは!」「惚れてるのにゃー」
 にゃんこは、同じ後軍にいて指揮を執っていた天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)が無事であり、間もなく合流してくるであろうことも伝えた。天霊院は、隊が壊滅した後、周囲を探ってみたという。ここに、谷の勢力テングのことも浮上してくる。
 カオルはにゃんこを伴い崖下へ。
 ルインは、天霊院に会いに行く。
 シルヴァは、そのまま兵と、吊り橋の袂に駐屯した。
 尚、レオンハルト自身は……
 鋼鉄の獅子に組み込まれたパルボン私兵達に、指示を出していた。
「幸い兵が一気に三割減った分、物資に多少余裕はあるが、長期戦が出来る程は無い。
 ルカ、安全確保ついでの現地調達だ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)達。ルカルカは、治療の間に、無傷の兵達の訓練を担当していたのである。
 「連携して基本1vs複数ね。逃げ撃ちはこんな感じで」と易しく手取り足取り指導。でも腰取りは禁止! ――幾人かの兵が笑顔で投げ飛ばされた。「格闘の訓練は、また今度☆」(梅琳兵のLv1→2。)
「伏兵を狩り、相手方の物資を鹵獲する」
 レオン自らも、戦いへ赴く。
「了解ッ☆」
 ルカルカも、笑顔で応えた。