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第三章 バニー☆ファイブ、参上!

 護衛組の一行は、ザカコに教えられた道を進んでいった。しかしもちろん、慎重に、である。
「先行して危険がないか確認しますね?」
 クロト・ブラックウイング(くろと・ぶらっくういんぐ)は言った。
 機嫌が悪いのか? と思うほどに無口な男である彼は、プリッツの進行ルートを確保するべく、周囲の状況に人一倍気を払っていた。罠を見つけた際には、後方にいるオルカ・ブラドニク(おるか・ぶらどにく)が手伝ってくれる。
「僕も一緒に手伝うよ〜」
 のんびりと間延びした返事をするオルカとともに、クロトは無事に罠を解除できたらプリッツ達を呼ぶ。
 そうして、彼らは自らが危険に侵されないように、ウサギの後を追いかけていった。
 それにしても、随分と奥まで来たものだ、とクロトは思った。これだけの人数で捜索しても見つからないところを考えると、並大抵のウサギではないような気もしてくる。クロトがそんなことを考えていると、彼の目の前にウサギの耳が垣間見えた。
「あれは……!」
 クロトの声で、護衛組の皆も気づいた。
 見つけた……! 誰もがそう思ったとき、うさ耳がぴょこっと動いた。その付け根にあるは人間の身体。なにやら虫眼鏡を片手にご機嫌な少女は、他にも同じようなうさ耳を生やした仲間とともに迷宮を調べていた。
「うさぎちゃん、煌さん、ピクシー、ディオ、さぁ、調査よ、調査! 未知の地下迷宮に隠された謎をバニー・ファイブが解く! うーん、痺れるわねぇ!」
 ご機嫌な少女――霧島 春美(きりしま・はるみ)は高らかに言った。
 そんな彼女をピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)が呆れた目で見ている。
「ほらほら、そんなこと言ってないで。ここの柱、入ってきたところと様式が違うみたいよ。こういうのを調べるんでしょ? 考古学ならワタシに任せておいて」
「……でもこれ、結構最近の建物みたいですー」
 自慢げなピクシコラに、宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)がのんびりと言った。彼女の横では、松明を掲げる宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)がくすくすと笑っていた。
 ピタリと固まったピクシコラは、ゆっくりと振り向いて凍りつくような笑顔を見せる。あ、まずかったです、と宇佐木は今更ながらに思った。
「こーの、みらびー! そういうのは普通言わないお約束でしょー!」
「す、すみませんですー!」
「ピクシー、うさぎちゃん苛めないのっ!」
「ピクピクが勝手に勘違いしてたんでしょ! みらびを責めないの!」
 宇佐木はピクシコラに追いかけられ、煌と春美がそれを叱咤する。
 そんな光景を見ながら、護衛組の一行は呆然としていた。総じて思うは、誰この人たち……? である。そんな彼女らの姿にいち早く気づいたのは、春美であった。彼女は見知らぬ集団を見て、驚きで目が見開いた。
「あなた達……」
「あ、初めまして。プリッツ・アミュリアと申します」
 集団から抜き出て、プリッツは丁寧に挨拶した。
 その物腰の柔らかさに、ついつい春美は、「あ、こちらこそ」とぎくしゃくしながら答えた。
「あなた方は…?」
 プリッツが言った。彼女の目には、いまだ不信からくる疑惑が渦巻いている。
「私の名前は霧島春美! 人の知らないことを知るのが私の仕事っ!」
 彼女はまるで用意していたかのような決め台詞を口にして、ピクシコラやディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)、宇佐木といった他の面子も紹介した。プリッツは春美のテンションに思わず噴き出してしまいそうになるが、そこはなんとか抑えることができた。彼女は春美たちに笑顔で話しかける。
「私達、実はウサギを探してまして。ご存知ないですか?」
 プリッツがそう言うと、春美は手を打ってはしゃいだ。
「え、そうなの? えーと、うさ耳をはやした私に、バニースタイルのピクシコラ、ピクシコラの帽子の中にショー用の兎が二羽。それにディオは角がはえたウサギ、あと宇佐木家の二人、と、バリエーション豊富に兎がそろってるけど、どれをご所望?」
 彼女はまさに胸を張ってえっへんといった様子であった。
 プリッツは苦笑して困惑していた。そんな彼女を見かねてか、一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)が乗り出してくる。
「いやいや、ちゃいます、ちゃいます。うちらが探してるウサギっちゅうんは、本物のウサギで、しかもプリッツはんのロケット持ちだしおったやつなんですわ。これまた泣ける話でしてなぁ。お母さんの形見の品っちゅうもんで」
 彼女は京都風ののんびりとした口調で言った。果たして本当に京都弁なのかは疑問だが、そこはあしからずといったところだ。
「あらそうなの? それを先に言いなさいよー。任せといて! バニー☆ファイブは困っている人を見つけたらほうっておけないのっ!」
 春美はウインクをしてみせた。
 頼りになるのかならないのかは微妙なところだが、良い人達であるのは間違いないらしい。
「さーて、じゃあ早速――」
 春美はバニー・ファイブの面々を振り返った。そのとき、猛獣の如きうめき声が響き渡った。
「あれは、モンスターやっ!?」
 一乗谷は叫んだ。
 彼女は持っていた光精の指輪をうめき声の方向へ示した。すると、そこに浮かび上がるのは狼の強靭な体躯を持ち合わせた、ベオウルフである。仲間とともにプリッツ達を見据えたモンスター達は、まるで腹を空かせた子供のようによだれを垂らしていた。
「プリッツはん、こっちや」
 一乗谷はプリッツの手を引っ張って後ろへと控えた。
 護衛組のメンバーはそれぞれが戦闘態勢に移る。しかし、そんな護衛組を差し置いて、春美達バニー・ファイブは正義の炎に燃え盛っているようであった。曰く、正義の邪魔をするのは悪徳モンスター、というわけである。
 春美達はそれぞれが跳躍し、モンスターの前にシュタッ! と降り立った。先頭に立つは、ノリノリでポーズをとる煌である。
「強行突破だ! 突っ込め! バニーレッド!!」
 煌は中心で怒声のように叫んだ。
「白き稲妻、おてんば天使、バニーホワイト!」
 続いてポーズをとったのは、春美であった。彼女は可愛らしいポーズを決めながらも、その気合の入った顔でモンスターを見据える。
「あ、あなたの隣に! バニーピンク!」
 照れ焦りながらも、宇佐木はハートを象徴するようなポーズを取った。
「カレー大好き、食いしん坊の憎い奴、バニーイエロー!」
 これまた楽しそうにポーズを取るのは、ディオネアだ。彼女は陽気にきゃっきゃっとはしゃいだ様子である。
「黒きファンタスティックビューティ、バニーブラック」
 最後に名乗ったのは、ピクシコラだった。彼女はまるでクールな戦士を演じるが如き仕草で、ポーズを取った。
 五人の兎達が大集合した。彼女達は、最後に全員でタイミング合わせてポーズを取る。どこからか、キラーン! という効果音が聞こえてきた。もちろん、幻聴だろうが。
「悪のモンスターは許さない! バニー☆ファイブ! ここに参上っ!」
 バニー☆ファイブの五人が声を揃えて吼えた。
 プリッツ達護衛組は、戦闘態勢のままぽかんとした表情を浮かべている。心なしか、目の前のモンスター達も困惑しているようであった。
「行くよー! 我らがバニー☆ファイブの必殺技っ! デッドリークィンテッドアタック!!」
 困惑している間にも、バニー☆ファイブは戦隊物さながらに必殺技名を叫んだ。モンスターはデッドリークィンテッドアタック――要はそれぞれの魔法が乱打されるわけだが――を受けて断末魔の悲鳴を上げた。
 かくして、平和は守られたわけである。
 ……チャン、チャン♪