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【十二の星の華】双拳の誓い(第5回/全6回) 解放

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【十二の星の華】双拳の誓い(第5回/全6回) 解放

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「それにしても、あなたたちは邪魔ですわね。アルディミアク様のそばに、無粋な男は必要ありませんわ。しっしっ」
 アルディミアク・ミトゥナの周りに群がるむさい男どもにむかってしっしっと手を振りながら、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が言った。
「貴様、四天王であるオレに対していい度胸だぜ」
「そうだ。こいつを誰だと思っている。S級四天王パンツ番長国頭 武尊(くにがみ・たける)だぜ」
 南 鮪(みなみ・まぐろ)が、国頭武尊を指さして言った。
「うむ。わしには意味のない称号であるがな」
 S級だろうがなんだろうが、人に従うつもりはないと織田 信長(おだ・のぶなが)がうなずいた。では、なぜここにいるかについては沈黙を守っている。
「君、その名を口にした者は、二度と口をきけないように口の中にパンケチを突っ込むがいいんだな」
 国頭武尊が凄んだ。
 そのやりとりを離れたところから盗み聞きしていた猫井 又吉(ねこい・またきち)が、たまらずパワードスーツの仲で忍び笑いを漏らした。
「だから、邪魔だって言うのですわ。汚物は消毒されてしまえばいいですのに……」
 近くを歩くアルディミアク・ミトゥナをうっとりと眺めながら、ロザリィヌ・フォン・メルローゼが言った。アルディミアク・ミトゥナの耳許で、彼女たちが闇市で贈ったイヤリングが淡い光を放っている。捨てずに使っていてくれるところに、なんだかアルディミアク・ミトゥナの本質が垣間見えるようで嬉しかった。
「後は、輝睡蓮を口移しで……」
 勝手な妄想に心を弾ませながらロザリィヌ・フォン・メルローゼがつぶやいた。洗脳から目覚めたときに、最初に目にする者が自分であったなら、ムフフの展開が待っているかもしれない。妄想はふくらむばかりだ。
「そうだよ、アーちゃんの気分が悪くなるような顔の人たちが近くにいちゃだめだよ」
 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、まだアルディミアク・ミトゥナの周囲にいる男どもに言った。わけあって、パートナーのレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、ココ・カンパーニュの許へ赴いている。
「あんだと、こらあ。締めるぞ」
 国頭武尊が凄んだ。
「自覚がありますのね」
 さらりと言うロザリィヌ・フォン・メルローゼに、さすがにこらえきれなくなってアルディミアク・ミトゥナが忍び笑いを漏らす。
 なんだか場が和みかけたところへ、前方から麻袋を担いだグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がやってきた。
 何事かと、アルディミアク・ミトゥナの周りにいた者たちが瞬間身構える。
「ん? アルディミアク・ミトゥナか。其方は行くがよい。妾が用があるのはシニストラ・ラウルスなのでな」
 もぞもぞと怪しく蠢く麻袋を担いだまま、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが言った。
「何事だ」
 すぐに、シニストラ・ラウルスがやってくる。
「あんたが、シニストラ・ラウルスであるのだな。リン・ダージを捕まえてきた。検分してくれ。ああ、他の者たちに用はないので、先に進んでほしい。シニストラ・ラウルスをちょっと借りるぞ」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが、早口でまくしたてた。
「時間がおしい、先に行っていろ。ここは俺が処理する」
 そう言うと、シニストラ・ラウルスはアルディミアク・ミトゥナたちを先に行かせた。
「よし、計画通りだわ」
 木陰に身を潜めながら、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はほくそ笑んだ。
「確かめてほしい。なあに、報酬はそれなりで構わぬ」
「どれどれ」
 シニストラ・ラウルスが袋の口を解くように命じると、中からリン・ダージに扮したエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)がコロンと転がり出てきた。厳重に縛られた上に、タオルで猿轡までかまされている。
「ふむ、確かに、ココ・カンパーニュの仲間のようだが」
「であろう。さあ、この者を捕虜としていったん運びだそうではないか。ココ・カンパーニュをおびきだす、いい餌となるであろうからな」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーの言葉に、ほとんど身動きのとれないエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがわざとらしく暴れた。
「こら、静かにしろ」
 シニストラ・ラウルスが、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーに背をむけてエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァを見下ろす。その機を逃さず、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーがさざれ石の短刀を抜いて、背後からシニストラ・ラウルスに迫った。
「おっと、そうはいかないよ」
 うまくシニストラ・ラウルスを石化できるかと思った刹那、死角から打ち込まれた遠当てで、さざれ石の短刀が手から弾き飛ばされた。あっと思う間もなく、振り返ったシニストラ・ラウルスに強烈な一撃をボディに受けてグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーがうずくまる。
「なぜ、分かった」
 デクステラ・サリクスにグルグル巻きに縛られながら、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが言った。
「こんな稚拙な罠にかかるものか。だいたい、匂いが違う。こいつは知らない匂いだ」
 獣人の超感覚は、簡単な変装では欺しきれるものではない。
「面倒だ。そのへんに転がしておけ。それとも、これを使ってやろうか?」
 さざれ石の短刀をグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーの鼻先に突きつけてシニストラ・ラウルスが言った。
「とりあえず、捨ておけ。どうせ仲間が回収に来るのだろう。先を急ぐぞ」
 二人をそのまま放置すると、シニストラ・ラウルスたちはアルディミアク・ミトゥナたちを追いかけていった。
「大失敗だわ」
 ローザマリア・クライツァールが、シニストラ・ラウルスが完全に去って安全になるのを待っていると、縛られて身動きできないでいるエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァのスカートがひとりでにめくれた。
「うー、うー(なんなんだもん、これ!!)」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが唸った。
「これはいい被写体だぜ。またビデオが馬鹿売れだい!」
 光学迷彩で隠れたまま、猫井又吉は嬉々としてビデオカメラを回し続けた。
「エリー、ライザ、大丈夫」
「おっと、人が来たぜ。ここまでか」
 ローザマリア・クライツァールがやってくるのに気づいて、猫井又吉はそそくさとその場を離れていった。
 
    ★    ★    ★
 
「そういえば、霧の館で幻を見たんだけど、アラザルクって人は姉御のお兄さんなのか?」
 メイコ・雷動が、アルディミアク・ミトゥナに近づいてきて訊ねた。
「いや、そんな者は知らないな」
 振り返りもせずに、アルディミアク・ミトゥナは答えた。いかにも、誤魔化しているという感じがするが、実際、どこまで覚えているのかははっきりしない。
「そうなのかい?」
 聞き返しつつ、メイコ・雷動はちらちらとアルディミアク・ミトゥナのアンクレットを盗み見た。
 幅二センチほどの金の輪で、赤い機晶石が一つついている。装飾の鎖がついてはいるが、アンクレットの輪自体はぴったりと足首のサイズに合っているようだ。これを引き千切るとか、ここで一気に破壊してしまいたいところだが、意外に足元というのは的が小さくて狙いにくい。それに、できる限りアルディミアク・ミトゥナを傷つけないようにと考えると、実際には至難の業だ。それに、常に周囲には人目がある。誰が味方で誰が敵なのか分からない状態では、迂闊に動くことはできなかった。
「そこの人たち、止まってよね!」
 大胆に、カレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディが、アルディミアク・ミトゥナたちの前に立ちはだかった。
「やれやれ、またか」
 シニストラ・ラウルスが溜め息をつく。
「いいかげん面倒だから、さっさと片をつけようか?」
 デクステラ・サリクスが前に進み出た。
「いや、ボクたちは話し合いに来たんだよ。はい、これお土産」
 そう言って、カレン・クレスティアは饅頭の菓子折をさし出した。
「敵意はないから。できれば、話し合いで決着つかないかなあって。戦わなくっても、ゴチメイさんたちと手を結ぶっていう選択肢もあると思うんだ」
 饅頭の箱を配りながら、カレン・クレスティアが言った。
「まさか毒とか、入ってないよねえ」
 デクステラ・サリクスが、クンクンと饅頭の匂いを嗅いでみる。
「殺意は持っていないようだが」
 トライブ・ロックスターが、カレン・クレスティアを調べて言った。ジュレール・リーヴェンディの方は明確な敵意を持ってはいるが、どちらかというとただレールガンを撃ちたいだけだというのは見ただけでもろ分かりだった。
「アルさんの毒味は、このワタシが身を挺していたします。いただきます」(V)
 言うなり、ルイ・フリードが、アルディミアクがもてあまし気味に持っていた饅頭の箱を取りあげて、中身を一つ口に放り込んだ。
「うっ、ううっ……」
 ルイ・フリードが苦しみだす。
「毒が入ってたの、ひどーい」
 ノア・セイブレムが、カレン・クレスティアをきっと睨んだ。
「そんなはずはないもん!?」
 カレン・クレスティアが狼狽する。
「あわてて喉に詰まらせただけみたい」
 白乃自由帳が、水筒の水をルイ・フリードにさし出した。
「えへへへ〜。天災少女のアダ名は、ダテじゃないよ〜」(V)
 思わず照れ笑いをして、カレン・クレスティアがごまかそうとする。
「毒は入ってなかったが、手紙は入っていたようだわ」
 饅頭の下に隠された果たし状を見つけて、アルディミアク・ミトゥナが言った。
「どうせ、罠か、時間稼ぎのダミーだろう。まったく懲りない奴らだ。転がしておけ」
 軽く額に手をあてて、シニストラ・ラウルスが言った。
 
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「おお、また被写体が。今日はついてるぜ。後で武尊に褒めてもらおう」
 光学迷彩で姿を隠したまま、通りかかった猫井又吉が、縛られて転がされているカレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディを見つけて喜んだ。
「ちょっとでも時間稼ぎになったのかしら。はうううー、誰か助けてよねー」(V)
 ごろごろと地面の上を転がりながら、カレン・クレスティアが叫んだ。それを匍匐前進で近づきながら、猫井又吉がビデオカメラで狙う。また、運の悪いことに、今日に限ってカレン・クレスティアはフレイムワンピースだ。
「なんだか嫌な感じがするのである。うー、なんだか無性にレールガンをカレンの足元に撃ち込みたいのだ」
 猫井又吉の邪気を敏感に感じとって、ジュレール・リーヴェンディは、道の端に捨てられた愛用のレールガンの所まで芋虫の要領で這っていこうとした。
「殺気なのだ。わーん」
 なんだか背後に人の気配を感じて、ジュレール・リーヴェンディは気持ち悪くなって叫んだ。