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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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7-04 南部諸国訪問

 訪れたのは、ディアーヌ・クライトン(でぃあーぬ・くらいとん)なる女性であった。船足の速い小船で遠路来たという。
「初めまして……」
 使者にしては少し引っ込み思案な印象があった。「おう、おう、おう(ぽっ(ぽっ(ぽ」オットーは突っ込んだ。
「……あ、あの。これを……」
「おう、おうおう。それがしに見せてご覧お嬢サン?」
 彼女が持参したのは、東河上流のブトレバへの停戦協定案。
 内容は、ブトレバを使者として訪れたジェンナーロ・ヴェルデ(じぇんなーろ・う゛ぇるで)がすでにブトレバ本国へ持ちかけたものと同内容が書かれている。ディアーヌは、ジェンナーロの名代としてこの地を訪れたのであった。
 彼女は、王子・南臣らに、教導団と連名で、ブトレバに対する停戦(有条件降伏)勧告を行いたいのだという旨を説明した。
 王子の傍に月夜がいることを目に止めると、「樹月刀真は、湖族を停戦に同意するよう説得しているのよ」と話し、働きかけに協力してくれるよう頼み込んだ。
 南臣の代わりにはオットーがいることになる。
「そうなんだ。あなたが、南臣さんの。改めて、よろしくね」
 ディアーヌもすぐに、打ち解けてきた。
「おう、おう♪」「私たち、フラテッロ、だね♪」「おう、おう♪」
 オットーは、はっとした。
「……ほう。ノイエとの諍いを詫びに本営からクレアが来るだと?(ぽっ」
 さて次は、本営からクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)少尉の南部諸国到着であった。
「クレア様」
 ハンスがクレアをエスコートし船から下ろす。
「ふぅ。やっと着いたな。
 こんな船の長旅は始めてのことだった。さすがに、船酔……」
「おう(ぽっ。おう(ぽっ。おう(ぽっ。おうお」
 ハンスが、頬をほの赤く染めてにじり寄ってくる鯉をさっと制止した。クレア配下の兵が銃を手に取り囲む。
「な、何だ。鯉……?」クレアも少々驚く。
「失礼ですが貴方は。クレア様に何か?」
「おうおう。それがし、南部の執政官オットー・ハーマンなんだぜ!!」
「なるほど。……これは、どうも失礼を。
 教導団遠征軍本営より、こちらはクレア・シュミット少尉です。
 それに……」
 ハンスの後ろ、船からぞろぞろと出てきたのは、「ウルレミラ貴族の方々です」。南部王家を立て南部王国の動きがある現在、何もせずにいては時流に乗り遅れる。そう説得して連れてきた。今回は、顔つなぎの意味合いが強い。
 (それから、この南部行きには、三日月湖にて病症にある筈の司令官ロンデハイネも同行した、という記載が文献によって見られる。しかし実際には具体的に彼がこの南部行きでどういう役割を果たしたかは明記されておらず、記述において本営からの代表として活躍しているのは主にクレア・シュミット少尉である。ただ、これに同行した内の一人であるクレーメック少尉のパートナー桐島 麗子(きりしま・れいこ)伝には、彼女が南部に赴いたロンデハイネの身辺警護を行ったことや身の回りの世話をしたことについての詳細が記されており、ロンデハイネ研究における重要な文献の一つとなっている。)
 先、この地を訪れていた外交使節ともクレアは顔を合わせる。
「教導団は、南部王家に臣従するものではない」
 と、クレアはとるべき姿勢を示した。
 臣従とは、南部王家の一部になることとなる。クレアが強調するのはあくまで南部にとって「外」の存在であるということである。
 クレアは、本営代表者として、王子に面会した。クレアは言う。
「王子は"いい王様"になる覚悟がおありか?」
 ならばこそ、教導団は味方するのだ、と。
「いい王様……ただ、戦って敵を追い出すだけでは、なく……?」
「戦争は奇麗事ではない。が、奇麗事なくして戦争すべきではない」
 教導団がいなければ、南部は平和になる、と主張する者もいよう。そうは見えないから、教導団は居座っているのだ。そうクレアは思う。
 南部に平和が訪れたならば、教導団は軍としてこの地を退くとクレアは述べた。そして、よき友人としての関係を築き上げたいものだ、と付け加えたのだった。
 実際に形として、友好条約を結ぶということができればいいかも知れない、とまでクレアは考えていた。
 しかし、ここに聞く現状からしても、王子のまだ自信のない様子からしても、この戦いが終わって後か。
 教導団と、南部王国との友好条約。
 ん? これの存在は……
 クレアは、じーっと見つめてくる鯉を見やる。鯉……「(ぽっ」
 クレアは、きっ、とした目で、オットー……の後ろに居並ぶ南部諸侯らに問うた。
「南部諸国へ今回のようにパラ実が攻め込んだこと。
 パラ実のせいにしようと教導団のせいにしようと構わんが……」
 貴様ら、南部に生きる者として、これを見過ごすのか!
 彼らは、クレアの強い心の叫びを聞いた。
「教導団がいらんというなら、自らの地を自ら守る気概を見せろ」
 クレアは、強い眼差しのまま、言い放った。
「く、……!」
「それほど、黒羊郷が怖かったのじゃ。それは正直に言おう。従わぬ者を攻め滅ぼしておる。
 わしらも各々が南部をひとまとまりにしようと、しとったんじゃぁ!」
「結局、力の秀でた者がおらず、その為にいざこざや争いに発展し分裂したわけだった。
 だが、今我々は力を合わせるべきなのかも知れん、……再び」
 オットーは、はっとした。
「こ、この流れはやばい……! 光一郎〜〜
 おう、おう、おう、おう!」
「再び一つの旗の下に……」