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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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6-04 進撃(2)

 香取は、進軍しつつも、パートナーのクレア・セイクリッドとの連絡をまめに取り合った。
「そう。国頭が南西分校から出向いてくる様子はなく、又吉も、防備を固めていると。篭城戦の構えね。
 それから……うん。500程が、南部諸国の方角へ向かった、か。大岡さん」
「ああ、俺たちの役目になりそうだな」
 大岡永谷(おおおか・とと)の隊は、作戦の内で途中、南部諸国の方面へと分かれ、王子の軍に合流する予定であった。
 上手くすれば、進撃中というパラ実勢500の後方を衝く形になる。
「よし。ではこれより、俺の隊は、南部方面へ向かうにあたって、俺の直接率いる部隊と、フィディと福が率いる部隊に、半分に分けよう」
「ほーう」
 ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)が永谷を睨んだ。(……ペットも調教から逃れるためには、手段を選ばなくなりましたね。)
「……。(決して、調教されたくないとか、)」
「ふぅん」
 熊猫 福(くまねこ・はっぴー)も、ちょっと永谷を睨んでみた。
「……。(補給物資が食べ尽くされると危惧している、わけじゃないからな。……たぶんな。)」
「ほーう」「ふぅん」
「……。大岡さん、任せたわ。
 では、私たちの取る作戦は、国頭が出てこないってことだから……」
「オークスバレーの砦の奪回になるわね。香取さん」
「ええ、水原さん。お手の物でしょう?」
「うふ。勿論。
 あのお城のこと、最もよく知っているのは、城を建てた私たちに決まってるでしょ?
 風雲又吉城。いい名前をお付けになったことね。けれど、明日にはもうフォルクレーテ要塞に戻っていることでしょうね。
 ……毒ガス……溺死……うふ♪」
「(…………コワイわね。この子、侮れないわ)」



 香取はまず、オークスバレーに入ると最初に目に入ることになる、砦3を全兵力をもって落とした。そこには、黒羊軍のたった数十の兵士か守りに配備されておらず、まったくた易いことであった。
 そのまま、対岸の砦は無視し、南西分校に直行する動きを見せたところ、橋を渡る教導団を挟撃しようと南岸に伏せっていた兵をおびき出すことになった。
「餌にかかったのは、黒羊か……」
 ともあれ、背後からの攻撃を待っていたとばかりに香取は軍を反転すると、魚鱗の陣にてこれを待ち構え、あっけなく打ち破った。
「又吉を捕縛するつもりであったが、やむを得ない」
 香取隊はすでに数にして、オークスバレーに駐屯する黒羊軍の倍を上回っていた。
 黒羊軍の指揮官マディキチは南岸・北岸の数箇所に伏兵を置いて、渡河してくる香取隊を数箇所で分断し討つつもりであったが、策が破れると、とって返してくる香取隊の勢いに抗しきれず、北岸の砦も明け渡し、風雲又吉城まで兵を撤退した。(黒羊軍残り200。)
 又吉は、ともあれこれを受け入れた。
「ちっ。だから、協力すべしとの要請を出したのに……」
 香取、水原らはそのまま、風雲又吉城へと駒を進めた。
 水原のパートナー、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が報告に来る。
 周囲に目を光らせたところ、敵にもう伏兵はないが、河岸の茂みや木立の全ては、伐採されている、という。
「どうする? カーリー(水原ゆかりの愛称)?」
「これでは、偽装工作は効きませんね」
 中洲に至るまで、とにかく、火攻めを避けるため一切の可燃物は除去されている……
 (国頭・又吉共攻めて来ずで水原の作戦を採用し、香取隊全軍がこちらへ向かったため)数では、互角。だが、相手は、完璧に篭城戦の構えを崩さないらしい。
「では、仕方なし。通気孔へ。例の作戦で」
 しかし、兵が砦に近付こうとしたところ、トラッパーが作動し、このままでは砦に近付こうにも被害を覚悟せねばならないようだ。
 ヒャッハー! ヒャッハー! ヒャッハッ、ハー!!
 風雲又吉城から、不良どもが身を乗り出し、挑発してくる。
「おのれ……!」
「敵も、やりますわね」



6-05 夜霧の決意

「あ、あの……里へは、まだ時間が掛かるのでしょうか?」
 夜霧 朔(よぎり・さく)は、延々歩き続けるハーフオークたちに、問うた。ハーフオークの里へ向かっている。
「……。……」
「えっ? 何……」
 何か、呟いたようにも思う。声も、不鮮明ではっきりとしない。
「……あなた方をお送りした後、私は村や拠点の奪回に戻らねばならないので……」夜霧は、続ける。聞こえているのだろうか。「もう少しで里に着くというのでしたら、私はここで戻ります」
「……。里ヘハ、モウスグ、ダ……」
 聞こえていた。夜霧は、少し、ほっとした。ざ、ざ、とかすかな音を忍ばせ、ハーフオークらは、夢のような霧のような深まる道の奥へ、姿を消していく。
「しばらくしたら、村へ戻ってきてくださいね? 元通りにして待ってますので!」
「……。アア。……アリガトウ……」
 この夢の土地の住人らは、そう言い残すと、最後の三、二人、一人……と、見えなくなっていった。
 この先に、一体どんな場所が? ハーフオークの里、か……。
 しかし、「さて」と、夜霧は、向き直り、道を戻り始めた。戦いに、戻らなければ。



 その頃、南西分校を偵察に向かっているクレア・セイクリッドは、シャケおにぎりをほお張りながら、双眼鏡を手に、国頭を監視続けていた。
 だが、こちらも……
「まったく動く気配がないのだ!
 う〜ん、クレアもやればできる子というのを、翔子に見せたい。のに〜。何か起こらないの?」
 そこへ、夜霧朔が訪れる。
「ワッ。……ビックリした」
 彼女の表情は、深刻であった。
「約束……」
「エ?」
 相手は、相当に厳重な警備態勢をとっている。殺気看破が常にこちらを警戒している。
「約束……守れるかな?」
「エッ。行くの……? 大丈夫?」