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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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6-03 峡谷における出来事(2)

 一方、教導団側にも、いささかの新たな波紋が生じつつあった。
「ちょ、……血迷ったか。宇喜多、裏切るつもり?」
 プリモ温泉では、来るべくナパーム弾に備えて避難訓練を実施しているバート・シュテーベン(ばーと・しゅてーべん)が、同じくプリモパートナーで温泉の守将たる宇喜多 直家(うきた・なおいえ)に教導団の指揮官香取 翔子(かとり・しょうこ)が詰め寄るのを見ていた。
「はっはっは。何。裏切るですと? そのようなつもりは……はっはっは」
 今や、宇喜多にとっては、このプリモ温泉が自分の城。
 彼にとっては、教導団がどうなろうがパートナーがどうなろうが、自分の城たるプリモ温泉を守ることこそが重要なのだった。
 宇喜多は、黒羊軍を撤退させてくれるなら、温泉から教導団でも追い出す準備はある、とパラ実側に持ちかけたのだ。教導団側の関所とも言うべきプリモ温泉を容赦なく攻め落そうとしてくるであろう黒羊の脅威をまず取り除く。
 更に、ナパームの矛先を温泉から、黒羊側に向けてくれるなら、プリモ丸秘の私物も渡す、と交渉を進めていたのだ。
「私たちを追い出す準備があるですって?
 ふふん。……まあ、いいわ。お望み通り、出てってやるわ? 今から、全軍出撃ですからね。
 覚えてなさいよ、宇喜多」
「か、香取さん」
 宇喜多と香取間のやり取りをどきまぎと見守る水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)。彼女も勿論、香取と共に出撃する。
「偵察に出しているクレア・セイクリッド(くれあ・せいくりっど)から連絡が来れば、出陣よ。
 香取隊700に、大岡隊100、……」
「ああ。作戦は了解済み。俺は、俺の全力を尽くすだけだ」
 補給物資を預かる大岡 永谷(おおおか・とと)も、この作戦に参加する。宇喜多・香取間のやり取りにはひとまず触れないようにした方がいいのか……
「はっはっは。おしとやかな水原殿と、可愛い大岡殿に免じ、温泉に避難中の残存兵を徴用し、連れ出すのは、許可しますぞ」
「……くっ、宇喜多め。そのようなこと、そのうちこの指揮官・香取の権限でた易くできるようになるわ。そうすればあなたなど……(辺境のまた辺境の小さな銭湯にでも左遷してあげようかしら? 番台がお似合いよ。……ふん。)
 む。偵察に行ったクレアから連絡が入ったようね?
 ともあれ。これで宇喜多隊100を加え、……全軍900!
 いざ、オークスバレー奪回に向け、出撃っ!!」
「はっはっは。いってらっしゃいませ香取将軍」
 宇喜多はそれなりにひどいことを言ったかもしれないが、交渉次第では、教導団・パラ実にとっての和平につながるかもしれない……どうなるか。
 また、本営のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)も、パートナーのクリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)をしてパラ実本校への交渉を持ちかけることとなる。
「シャンバラ共通の仮想敵国であるエリュシオンとの戦いのためには、教導団とパラ実が対立し続けるのは得策ではありませんわ」
 パラ実新生徒会へ、国頭派に味方する生徒への停戦勧告とキマク召喚を要請……(代償としては、南西分校をパラ実生に開放し、パラ実・教導団の教導運営とすることを提案しているのが、これは本営での会議を通らなければならないだろう)。
 だがいずれにしても、パラ実本校への遣いを出すためにはこの南部の入口、すなわち国頭のいる南西分校を抜けなければならない。
 オークスバレー奪回をかけ、すでに香取は全軍を率い出撃したのである。

 また一方、麻生 優子(あそう・ゆうこ)は本営のクレーメックを通じ、教導団に厳しい視線が注がれている中、パラ実の誘いに乗らずに教導団に協力してくれる生徒には、第四師団として何かお礼をしてはどうか、と提案を持って帰る。
 クレーメック、「うむ。……この状況から、金銭的価値を伴うものは不評を買うな。では、騎凛セイカ先生……騎凛……セイカノート、はどうだろう?」
 このようにして、騎凛セイカノートが配られることになった?
 騎凛セイカノートは、今唯マスターの自費出版であったので、苦しい第四師団の財政事情を圧迫することはなかった。が、ある意味、苦しかった。