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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

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秋野 向日葵誘拐事件・ダークサイズ登場の巻

リアクション


#4





 放送局四階のスタジオエリア。
 ここで、空京放送局の様々な番組が作成される。

「ふう〜、やれやれ。やっと掃除も終わりだぜ。今日もロックスター商会、いい仕事したぜ」

 ロックスター商会の仕事でスタジオの掃除に来ていた、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)

「そういえば、今日何か面倒クセェ事件が起こってるんだっけな? ダークサイズだっけ? あそこのリーダー、面白そうな奴だったな。しゃべってみたかったけど、とりあえず仕事も終わっちまったし……」

 と、トライブがうーん、と背伸びをしたところで、スタジオエリアのドアが開き、ダイソウトウを筆頭に、人々がどやどやと入ってくる。

「あれ? 今日って何か収録があるんだっけ?」

 トライブがつぶやいてる間に、各自スタジオブースに入っていく。

「お、あんたが大総統?」
「いかにも、私はダークサイズの大総統、ダイソウトウだ」

(あれ? わりとまともな男? ま、いいや。ついでに営業しとくか)

 トライブは名刺を取り出し。

「俺は便利屋『ロックスター商会』のトライブ・ロックスターってんだ。人手が欲しけりゃ、あなたの街の便利屋さん、ロックスター商会をよろしく」
「ほう。覚えておこう」
「あ、そこのバケツ取ってくんない?」
「うむ」

 ダイソウはすんなりバケツを取り上げ、トライブに渡す。ちょうど名刺と交換する形になる。

「あのよ、部外者だからなんだけど、仕事終わっちまって暇なんだ。見学させてくんない?」

(番組収録なら女の子のパーソナリティも来るよなぁ。ついでにサインもらっときたいぜ)

 トライブのミーハー心を知ってか知らずか、

「かまわんぞ」

と、あっさり承諾。

「今日はダークサイドしか収録しないがな」
「ええー、そうなのかよぉ」

 女子パーソナリティが来ないのを早速知ってしまい、意気消沈するものの、結局見学することにしたトライブ。



「では、いよいよカメラを回しますよ、リュミエール!」

 これまでは他の取材陣に紛れていたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、今こそ本領発揮すべき時だと、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)に指示を出し、カメラを回し始める。

「今回もがんばって生放送でお送りします、エメ・シェーンノートの『プロジェクトN』。今日は秋野向日葵さん誘拐事件の、犯人側の動きを追っています。しかし、なぜか急遽、ダークサイズによる番組製作合戦が開催されることになり、私は空京放送局内のスタジオに来ています」

と、そこにいそいそとブースに向かう鳥羽 寛太(とば・かんた)が通りかかる。エメはすかさず彼にインタビュー。

「失礼。ダークサイズ番組制作合戦、君はどんな番組を作りますか?」

 寛太は、カメラに気づくと怪しい笑みを浮かべ、

「混乱に乗じて放送局を僕が乗っ取るつもりでしたが、まさかこんなチャンスが来るとは思いませんでした。早速『黒い放送局』の称号にかけて、ダークサイド以上に真っ黒な番組を作るつもりですよ。ふふふふふ」
「ほほう。たとえば?」

 エメがさらに突っ込んだ取材をする。

「すでに準備は進んでいましてね。fan fan ringはくろい部のファン。御夜食倶楽部のお姉様がたの個人情報を暴露したり……」

 寛太は妄想をふくらませてニヤニヤする。

「それは黒いですねぇ。でもそれ、放送できるんですか?」
「放送できるかどうかは関係ないんです。楽しければいいんです」

 ある意味寛太の腹は決まっているようだ。

「では、収録に参りましょうか」

 と、ブースのドアノブに手を掛けようとすると、



バンッ



と勢いよくドアが開き、不機嫌な顔の変熊 仮面(へんくま・かめん)が現れた。

「やかましいっ! せっかく俺様の声優デビューのためにサンプルボイスを撮っていたのに、うるさくて集中できないではないか!」
「おや、くま君」
「エメさん、この騒がしいのは何とかならんのかっ」
「ダークサイズの番組収録ですからねぇ」
「何、ダークサイズの! ではあの憎むべきダイソウトウとか言う男もいるのか?」
「ええ、あそこに」

 エメは、明日香の苦くないお茶を飲みながらくつろぐダイソウを指す。
 その姿を見て、変熊はさらに怒りを露わにする。

「ぬうっ、下っ端に働かせて自分は優雅にティータイムとは、何と悪い奴だっ」

 変熊はダイソウを指し、

「ダイソウトウ! 空京放送局の支配を狙っているらしいな。しかしfan fan ringのR嬢を手ごめにさせるわけにはいかんぞ!」

と、妄想全開でダイソウを非難する。

「何者だ」

と問うダイソウの言葉を無視し、変熊はきょろきょろする。

「ところでR嬢はどこだ。今日こそ私の愛を受け取ってもらわねば」
「今日は来ないぞ」

 変熊はガガンと衝撃を受ける。

「な、R嬢は来ないだと……なんたることだ! せっかく光学モザイクで股間を隠し、紳士の嗜みを施したというのにっ」

 変熊は股間の光学モザイクを解除し、

「R嬢がいないならこんなモノはいらんっ。ダイソウトウよ! fan fan ringは俺様が守る!」

 ひらりと舞って、ダイソウ目がけて攻撃を仕掛ける変熊。
 ダイソウは目を閉じ立ち上がる。

「私が最も毛嫌いするもの、それは」

と、目を開いて変熊をにらみ、

「過度の下ネタだっ!」


ドギャアアアッッ!!


 ダイソウが声を荒げると同時に、すさまじい波動と共に、勢いよく吹き飛ばされる変熊。

「ぐはあぁ!」
「おおっ、これはすごいものが撮れました」

 吹っ飛ばされた変熊を見て、喜々とするエメ。

「な、何だ今のは……技が見えなかった……」

 ぐったりする変熊。エメはすかさずカメラをダイソウに向け、

「今のは何という技ですか?」
「ん、技?」
「技名を教えて下さい」
「……何かなんとなく……なんとなく攻撃だ。あ、なんとなくアタックだ。えっと、なんとなく……」

 彼には、技に名前を付けるという概念が抜け落ちているらしい。

「あ、決まってないならいいのですが」
「クラッシュだ。『なんとなくクラッシュ』。あ、『なんとなクラッシュ』

 ダイソウは思いつきで適当に名前を変えていく。

「あ、そういう適当な感じなんですか」
「うむ、なんかそういう感じの攻撃だ」

 苦悶の表情を浮かべる変熊。

「なんたる侮辱。俺様がなんとなくやられるとは……」

 リュミエールが変熊に歩み寄り、手を伸ばす。

「大丈夫かい? 変熊君」
「うう……ありがとう」

 変熊がリュミエールの手をつかんだ瞬間、リュミエールはぐいっと変熊の手をひねって後ろ手に回し、ちょうど変熊が四つん這いになる格好に押さえつける。

「な、何をっ!」
「この間は物足りなかったんだ。今度は絶対消えない痕を……君の体に刻んであげるよ」

 リュミエールは不敵な笑みを浮かべ、油性ペンのキャップを取る。

「な、待ちたまえ。落書きの仕返しはこの前しただろう。や、やめろ! 俺様は紳士なのだ、そんなところに落書きは、ひうっ、あぁっ、そこにそんな……ひいぃ〜……」

 リュミエールに無残に落書きを重ねられる変熊。そしてそれを撮影するエメ。

「あぁっ、エメさんに撮られてる!」
「これ、生放送なんだけど、やばいですかねぇ……プロジェクトN、つぶされませんように……」

と言いつつ、エメは変熊の醜態を撮影し続けるのであった。



「ま、まさか……絶対無理って思ってたけど……」
「大きなチャンスがきましたね、透乃ちゃん」

 思いもよらずブースを一つ確保できてしまった、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)

「ドキドキするね……よ、よぉーしっ! 頑張ってみちゃおう! 番組作り!」
「はいっ」

 透乃と陽子が、意気揚々とブースのドアを開けると、そこには一人、いや、一体の影。

「わ! びっくりした! 先約?」
「おかしいですね。私達の前には誰も入らなかったはず……」

 二人の声で振り返ったのは、パラミタ刑事シャンバランこと神代正義のパートナー電子兵機 レコルダー(でんしへいき・れこるだー)

「おや、見つかってしまいましたか。それがしは、空京放送局第二スタジオを運営おられます、レコルダーと申します。有志を募って、放送局の一室を借りているのです。ちなみに無許可です」
「無許可、ですか……ええと、私達、番組を作りたいのでブースを譲っていただけますか?」
「あ、待って陽子ちゃん。私達ラジオに素人だし、手伝ってもらおうよ」

 と、透乃はレコルダーを指さす。

「え? 大丈夫でしょうか……」

 不安げな陽子を見て、レコルダーは二人に向きなおる。

「それはそれがしにとっても、願ったり叶ったりです。それがしがここを無許可で使用していたのを黙ってていただければ、それがしはエンジニアとして、あなたがたをお手伝いすることでしょう」

 レコルダーの交換条件に、透乃もテンションが上がる。

「って言ってるよ! これラッキーだよ、お願いしちゃおう!」
「透乃ちゃんがそう言うなら……」

 透乃はブースの席に陣取り、レコルダーに身を乗り出す。

「じゃあレコルダーちゃん、私達の番組手伝って!」
「どのような番組をお望みでございますか?」
「もっちろん! 私達のアイドルグループ『秋葉原四十八星華』の宣伝番組! って言っても、どうやって活動していくか全然決まってないんだよね……」

 レコルダーの体内で、カタカタと何かを計算する音が聞こえ、

「でしたら、一般の方々がどのようなアイドルを求めているか、お便りから募集していくことにしましょう」

 その答えに透乃は手を合わせて喜ぶ。

「わあ! ドキドキする!」

 陽子はそんな透乃を見守りながら、

(ホントはダークサイズをぼっこぼこにする予定でしたけど……もしかしたら、それよりも大きな収穫を得られたようですね)

と、微笑みが抑えられない。