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リアクション
SCENE 01
空の高みから見下ろせば、半透明の甲羅を背負ったカメのようにも見える。
それがこの複合プール施設、スプラッシュヘブンの全景だ。
六角形の天蓋は特殊フィルムに覆われており、紫外線を大きくシャットアウトする一方で、空の蒼さや雲の白さはまるで減じない。泳ぐには理想的な環境といえるだろう。
数えてみよう、天蓋の下に、どれだけのプールがあるのか。一つ、二つ……巨大なものだけで軽く四つを数え、中規模小規模になるともう数え切れない。しかもその合間には涼しげなカラリングのされたウォータースライダーが走り、色とりどりの屋台が空腹を誘う香を上げているのだ。世界のプールにありそうなものは大抵あり、高さ五十メートル超の飛び込み台といった、普通ありそうにないものまで大抵ある。ウォータースライダーの速度は時速百キロを超え、波の出るプールの高波は、大型台風接近時のそれを再現しているという。とことんやるのがスプラッシュヘブン、まさしくレジャープールの天国、過激アトラクションで興奮しすぎると、本当に天国に行きかねないほどのヘブンリー。
そのスプラッシュヘブンには本日、蒼空学園をはじめとする各校の生徒たちが招待されている。
到着してチケットの半券を手に、のんびりと更衣室に入る生徒も少なくない中、とうに水着姿、いち早くウォータースライダーへの階段を駆け上がる姿があった。
「一番乗りです〜!」
その身を包むは、百合園女学院の公式水着、ややサイズがきついようだがよく似合っている。階段を一段飛ばしで上がりながら、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は振り返った。
「すっごい楽しみだよねネノノ! ね? ね?」
声が弾んでいる。
「レジャープールというのは初めてきましたが、中々楽しそうな所ですね」
ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)の声も明るい。
「でも……」
ウォータースライダーの搭乗口まで辿り着いたところで、ネノノは不審な目を向けて、
「レロシャン、その物々しい装置はなんです?」
「これ? 加速ブースター」
「なるほど加速ブースターですか。プールの必需品でしたね……って! そんなもの持ってきてどうするんです?」
ところがそれにレロシャンは答えず、
「ちょっとそこに寝てくれる?」用のビニールボート上にうつぶせに寝かせた。
「待っててね、準備するから」
「え? ああ、その加速ブースター、ワタシの足につけるために持ってきたのですか。さぞやスピードが出ることでしょうね……いやいやそういうのあまり気乗りしないです。周りの皆さんの迷惑になりそうで
と、ネノノをウォータースライダーすし。ここはこういう所だからだいじょぶって? それ絶対嘘でしょ……」
レロシャンのたくらみに気づいたネノノは抗議の声を上げるのだが、もはや彼女を止めることはできない。
「いやほんとにね、危ないからやめましょうね……? ってなんですかそのガムテープは!?」
問答無用、レロシャンは固定作業を終え、機晶姫のネノノにさらに一工夫。
「あ! ちょっ待っ! 危ない危ない……あーっ! これワタシが制御できないように設定したでしょー!」
「そんなことは、あるよ♪」
「爽やかに言い切らないで下さい! ……あーっ!」
もはやネノノはボートと一体、これをスライダー入口まで運んで設置し、レロシャンは嬉しそうにその上にまたがった。
「カウントダウン開始! 3……2……1……GO!」
しかもそのまま、加速ブースターのスイッチを入れたのである。
轟然、ブースターは炎を吹き、二人を爆走世界に叩き込んだ!
「いっけぇ〜! 『スーパーネノノスライダー ジ・エクストリーム』! あっはっは〜」
「笑い事じゃな……うあああああああああああああああああああ!」
ただでさえ超高速の急流下りが、ブースターによって超々加速と化す!
「凄いすごーい!」
「ぶつかる! ぶつかっ! あひーー!」
速度もさることながら水の勢いが強すぎて、もうネノノの言葉は言葉にならない!
爆発的な音とともに、射出口から二人は飛び出した。
飛び出したレロシャンは、ビニールボート(ネノノ付)に立ち上がり、これををまるでサーフボードのようにして叫ぶのだ。
「レロシャン・インフェルノ〜!」
あまりの勢いに、ボートは水面に着陸できず空を翔ける。
世界は青一色だ。よく晴れた空に美しい水面、爽やかな風……。
太陽がまぶしい――とレロシャンが眼を細めた直後、勢いのつきすぎた二人はプールを軽く飛び越え、ごすっ、と外壁に激突していた。
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