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蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ

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蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ
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リアクション

 SCENE 09

 のぞき部員として、椿 薫(つばき・かおる)は部員仲間のためにも奮戦している。
「こころざし半ばにして倒れたのぞき部のみんなのためにも、思い出作りに勤しむのでござる!」
 首から下げた重そうな一眼レフを、ビシッ、と眼前で構えた。
「スクープはどこでござるか……ポロリポロリっ!? っとと、下心丸出しは乙女たちの警戒心をあおるばかりでござる。ここは爽やかにいかねば」
 すなわち、カメラ片手に撮影係! コソコソのぞき見するのではなく、ファインダー越しに熱視線を浴びせるというわけだ。幸い撮影係として好評を博し、薫はあちこちからお呼びがかかっていた。無論、呼ばれるのを待つだけではなく、積極的に声もかけていく。
「そこのお嬢さん、夏の思い出、写ってみないでござるか?」
 今も、焼きそば片手に歩いていたヴァーナー・ヴォネガットにも声をかけていた。
「え……どうしよう、おにいちゃん?」
 ヴァーナーは黒崎天音を見上げるが、
「いいんじゃないかな、せっかくだから写してもらうといいよ。焼きそばは俺が持っておくから」
「それに、あの……」
 ヴァーナーは背伸びして、天音の口元に顔を寄せた。
「それと、焼きそばのトラップこと『アオノリ』とかいうのが付いてないかな、と心配なのです」
「大丈夫、あれは可愛い子にはつかないのさ」
 あと、美形にもつかないことになっている(?)。
「それじゃ、写すでござるよ。はい、笑って〜」
 ヴァーナーをフィルムに収めると、薫はご協力感謝でござる、と風のように駆け出した。次は去りゆく巨大カメを撮影するつもりだ。
(「今日の犯行こと撮影は女性陣だけにするつもりだったでござるが、やはりカメも撮りたいデバガメ心、でござるよ。ちょっと違うでござるか?」)
 なお、その『カメ太郎』も実はメスなので、『女性陣』に加わるということを薫は知らなかった。
 ……むしろ問題なのは写したばかりのヴァーナーのほうかもしれないのだが、ここで多くは語るまい。

 ヴァーナーと天音が向かうのはウォータースライダー、現在、そこには如月 玲奈(きさらぎ・れいな)の姿がある。
「これが爆速ウォータースライダーか。聞けば、すでに時速102キロ超えを果たした人々があるそうじゃないか。しかし、加速ブースターを使ったらしいのでやや反則だな」
 私は動力を使わない正統派で行こう! と宣言して玲奈が取り出したのはタワーシールドだ。
「そうとも、私には、これがある!」
 つるつるに磨き上げたその表面に、氷術で氷の膜をコーティングする。
「これに乗って滑れば、前人未踏の域に達せるは確実!」
 自分の足も氷術で盾にくっつけ、強制スノボ状態とする。
「さて、行くとするかな……未知の世界へ」
 スライダーに身を躍らせ、管の狭い天井に頭をぶつけないよう身を屈める。
「いざ!」
 玲奈は体重を前方にかけ突入した。
「私の博識と財産管理の知識を使えば重心移動の計算が……できる訳ないな!」
 などと言っている間にみるみる速度が増す。
「はははは、これは……これは!」
 もはや口を開くのも厳しくなってきた。加速! 風圧! 周囲の光景は速度に流されて溶けてしまったかのよう! 速い速い速い速い速すぎる!
「くうっ、しかし!」
 だが射出の瞬間、玲奈は盾を火術で炙って足を切り離したのである。
 そして翔んだ!
「そう、私は鳥になる!!」
 大きく、翔んだ!

 影野陽太は、御神楽環菜の美しさに見とれながら彼女の後について泳ぐ。
 一方でそのお目付役ルミーナ・レバレッジは、風祭 隼人(かざまつり・はやと)にどうしても、とせがまれて、わずかな時間だけ彼と行動を共にしていた。一応もってきた青いワンピース水着に着替え、波の出るプールに浮かぶ。
「ルミーナさん、嬉しいよ。俺のために水着を着てくれたなんてさ」
「ええ……まあ」
「招待されたのにプールに入らないというのは、依頼者のご厚意を無下にすることだしね。それなりにプールに入って楽しんだ方が良いと俺は思うんだ」
「そうですわね」
 ルミーナはおずおずと笑うが、どうにも表情が硬いように隼人には思えた。どうやらさっきから、環菜会長のことが気になって仕方ないようである。
(「お目付役という仕事に責任感があるからだろうな……ルミーナさんらしい」)
 そんな彼女の真面目さを隼人は好ましく思う。けれど、
「仕事を忘れてくれ、とは言わない。けれどこの瞬間だけは、もう少し俺を意識してほしいんだ」
 つぶやいたのだがその言葉はルミーナには届いていないようだ。波に漂いながら上の空である。
「よし、ルミーナさん!」
 サーフボードを取り出し、隼人はその上に乗った。
「さあ、一緒に」
 手を差し伸べて彼女もボード上に上げる。
「風祭様、何を……?」
「サーフィンさ。ほら、波が来るよ」
 失礼にならない程度に手を当ててルミーナの腰を抱き、訪れる波を乗り越えていく。
「ルミーナさん、上手じゃないか。そう、そんな感じでバランスを取るんだ」
「風祭様がお上手だからですわ」
 やがて彼女の口元に、笑みが浮かぶのを隼人は見た。
(「やっぱり可愛いよ、ルミーナさん……」)
 間近で見る彼女の睫毛は、とても長く、美しい。