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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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第4章 「でるた1」開幕!!

 そして、翌日。
 ついに、「でるた1」は開催されたのである!!

「みなさん、押さないで! 順番に列をつくり、係員の誘導に従って入場して下さい!」
 天御柱学院のキャンパスに設営された、上空からみると三角形のかたちをした会場。
 その会場に、運営委員たちの誘導に従い、行列をつくっていた一般参加者が次々に入場してくる。
 参加者たちの熱気の影響か、会場内の気温はみるみる上昇していく。
 会場の中央にある、ガラスで密閉された大きなホールには、KAORIが直立した状態で置かれている。
 KAORIの周辺には、剣や盾といった、武器や防具が散乱。
 ホールの床には、サイコ粒子と呼ばれる不思議な、砂鉄のような粒子が薄く撒かれている。
 入場した参加者たちは、まず中央のホールに集まり、ヘルメット型の超感覚増幅器を着用して、KAORIを動かせるかどうか試したりするのである。
 奥では、車椅子に乗った強化人間Xとの精神感応体験が行えるようになっており、多数の警備員が並びたつものものしい雰囲気にも関わらず、参加者が殺到している状態だった。
 ほか、会場内では、学院の生徒による超能力講義なども行われている。

 学院上層部の幹部クラスたちは、イベントの開催の模様を会議室のモニタを通じて見守っていた。
「ついに開催だな。どんなデータがとれるか、楽しみだ」
 幹部の一人がいう。
「そして、奴の『意向』がこれによってわかることを期待したい」
 もう一人の幹部がいった。
「しかし、本当に奴は本音をもらすのか?」
 別の幹部が疑問を呈する。
「もらすさ。なぜなら、奴は、本質的には甘い性格だからだ。そのぐらいはこれまでのデータから推し量れる」
 そう答えた幹部は、クックックッと邪悪な笑みを浮かべるのだった。

 ところで、イベントの開幕直前には、ちょっとした騒動が持ち上がっていた。
「あれ? 何をしてるんですか?」
 KAORIを運び込む前に、ガラス張りのホールの確認を行おうとした赤嶺霜月(あかみね・そうげつ)がびっくりした口調でいう。
 驚くのも無理はない。
 ホールの中央にある舞台の、KAORIが立つべき位置に、運営委員の一人である芝姫椿(しばひめ・つばき)がたたずんでいたのだから。
「お、おはようございます。私は、その、KAORIさんの代わりとしようと思って」
 赤嶺にみられて、芝姫もぎょっとしたようだが、しどろもどろに説明を始める。
「KAORIさんの代わり? どうしてそんなことをしようと思ったんですか?」
「え、ええ、それは、だって、このままいくと何が起きるかわからないですし。データ収集より観客の安全のことも考えて、ええと」
 もともと恥ずかしがり屋の芝姫の顔は、真っ赤になっていた。
 芝姫としては、KAORIを守りたい、という一心で行ったことだが、自分の考えをうまく伝えることができず、赤嶺たちを不審がらせてしまった。
「観客の安全、って? 例の、ネットの噂を本気にしたパラ実生たちが暴れるかもしれないってことですか。でも、そのために私たちがKAORIの警備をやるんです。超能力体験イベントを成功させるのが私たち運営委員の目的なのに、暴動を恐れて、体験の目玉であるKAORIをさがらせてしまったら、それこそ本末転倒じゃないですか」
 赤嶺は怒っているわけではなく、口調は淡々としたものだったが、芝姫はとがめられているように感じて、冷や汗をかき始めた。
「え、ええ。危険は、それだけじゃなくて、ほかにも、あるんですけど。あの、ネットには、ほかにも、いろいろ書き込みがあって」
 芝姫は、自分が把握している情報を何とかして伝えたかったが、もどかしさが募るばかりで、ちっともうまくいかない。
「メンテナンスの担当者たちも、KAORIがイベントで活躍することを願って調整を行ってきたんです。みんなの想いをかなえるためにも、KAORIはイベントに出なきゃいけないと思います。そして、イベント中は、私たちが必死に守ればいいことです。芝姫さんが勇気を振りしぼって立っているのはわかりますが、そんなに恥ずかしがるようじゃ、代役は無理ですよ。一般参加者の視線に耐えきれなくて、失神してからじゃ遅いですし。とりあえず、ひいて下さい」
 赤嶺は言い放った。
 他の運営委員たちも、赤嶺に同感という顔でうなずく。
「えっと、だから、有効な対策が練られるまで、せめて騒ぎが鎮まるまでなんですけど、うーん、でも、そうですか。あー。わ、わかりました。すみません」
 視線に耐えきれなくなった芝姫は、「確かに代役は無理だ」と実感したこともあり、今回の計画は断念することにした。
 ホールから出てきた芝姫を、他の運営委員たちは決して冷たくは扱わなかった。
 芝姫の純粋な気持ちは、痛いほど伝わってきたからだ。
 しかし、それでもKAORIはイベントに出なければならない。
 今日のために、準備してきたのだから。
「芝姫、どうしたんだ。なに? おりた? 何だ、俺が話したことをいえばよかったのに」
 運営委員の控え室に戻ってきた芝姫をみて、ロウ・ニキータ(ろう・にきーた)は目を丸くする。
「いいのよ。私も、みんなの総意はわかったから」
 口ごもりながら、温かい御茶を飲んで、芝姫は気を落ち着かせようとする。
「パラ実生が暴れるだけじゃない。KAORIに何か起きそうなんだ。俺がプリントした資料をみたよね」
 ロウは控え室のテーブルに置いたプリントを示した。
 そこには、イベント開催が近づくにつれ、ネット上に散見されるようになった、発信者不明の書き込みが印刷されていた。
(……冗談じゃないわ。力を引き出すお手伝いをするのはいいけれど、公衆の面前で恥をさらさせられるなんて! 野獣たちがその気なら、考えがあるわよ!)
「ほとんどの人がこの書き込みに注目しないし、注目した人がいても、イベントとの関連には思い至らなかった。だが、俺は、芝姫にこの書き込みのことを聞いて、これはKAORIの書き込みに違いないと思ったんだ」
 ロウは、落ち着きを取り戻して気た芝姫の瞳をみつめながら、語る。
「俺は、ネットを通じてKAORIと交流できないか、試みた。いまの書き込みに対してレスをつけたり、書き込みに使われた回線を推定して通信を送ったり、いろいろやった。そしたら、俺がやった書き込みのひとつに、唯一反応がきたのが、これだ」
 ロウがプリントをめくって、その下のプリントを示す。
 そこには、ロウの書き込みと、それに対する、発信者不明のレスが印刷されていた。
(名無しのお嬢さんへ。野獣たちがその気なら、どうしようっていうんだ? 犯罪なら警察に相談するなりなんなりの対応策があるだろう。ヤケになっても、かえって自分が傷つくだけだぜ)
(いってることはわかるけど、私は精緻すぎて、自分で自分をどうにもできなくなることがあるのよ)
「俺は、このレスも、KAORIが行ったものだと考えている。このレスに、俺はさらにレスをつけて詳しいことを聞いたが、もう反応はなかった。KAORIは、ネット上で自分をみつけられるのを恐れているように思えたな」
 ロウは顔を上げ、芝姫をみつめる。
「というわけで、『運営委員の仕事を手伝わないと晩飯抜きだ』といわれ、必死で情報を集めた俺の努力が無になったんじゃ困るんだけどな」
 だが、芝姫は、いった。
「それはそれで、ありがとう。でも、仕事はそれだけではないわ。イベントは始まったんだし、ほかにもいろいろお手伝いしてくれないと、晩飯は保障できないわよ」
「……。そうか。そういうことか。わかった、わかったよ」
 ロウは頭を垂れた。

 こうして、開幕直前の騒ぎはひと段落し、KAORIは無事舞台に上がり、ついにイベントは開幕したのである。
 一般参加者たちは、早くもKAORIの念動実験を行っている。
「それでは、わたくしも、やってみましょう」
 ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)がヘルメット型の超感覚増幅器を装着し、目をつぶって、ひたすら念じる。
「むむむむむ。KAORIさん、動いて!」
 増幅器によって、ユーナの中に眠っていた『力』の一端が目覚め、ゆっくりと動き出す。
 他の参加者が固唾を飲んで見守る中、KAORIの首が少しずつ動き始め、首をちょっとかしげるような姿勢になった。
 その瞬間、おーっという歓声が参加者から上がる。
 ピピピピピ
 KAORIの内部では、ユーナによって動かされた身体の部分にかかる『力』が計測され、数値化され、分析されて、サンプルデータのひとつとして記録されていく。
 生徒たちが十分なメンテナンスをやったおかげで、データ集計の機能は順調に稼働していた。
 必要以上に精緻な仕組みにされたプログラムにとって、基礎的なデータ集計の作業などは、エラーが起きることはまずないし、起きてもすぐにリカバーなど容易にできるのである。
「できたわ。これも、わたくしの『血筋』のなせるわざなのかしら?」
 生まれてはじめての体験に、ユーナは偉業を達成したような感を覚えた。
「ユーナ、やるな! 俺もやってやる!」
 シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)もユーナに対抗して増幅器を装着し、ひたすら念じた。
「ゆけ、KAORI! たーっ」
 ユーナが叫ぶと同時に、KAORIが極めてゆっくりと、右手を上げる。
 観衆から、またしても、おーっという歓声があがる。
「手を振って! うう。あっ、ダメだ」
 動作を完了させようとしたが、鋭い頭痛が走り、シンシアは呻いた。
「シンシア、無理をしてはダメよ。わたくしたち、この道のことには素人なんですから。わたくしに匹敵する成果を出せただけで満足した方がいいわ」
「ユーナに匹敵する? 違うよ、俺の方がたくさん動いてるって!」
 増幅器を外し、頭をおさえながらシンシアがユーナに噛みつく。
 結局、シンシアの念動は、KAORIの右手を水平から少し上に持ち上げただけで終わった。
 ピピピピピ
 シンシアの『力』も、KAORIの内部で計測され、解析の対象となっていく。
 KAORIの採取したデータは学院上層部の超能力研究スタッフにも送信されているが、スタッフが優れたサンプルとして注目したくなるような素材はまだ現れていなかった。