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11:警備とカノン
 Side―花音―

「花音ちゃん、オラの友達になってくれ〜」
 華花がそういうと、花音はにっこり微笑んで
「いいですよ」
 といった。華花の無邪気さに勝てるものなどいない。
「花音君、涼司君との思い出と言ったらどんなものがあるんだい?」
 それを聞いて花音は少し考え込んだ。好きな男の前でパートナーとはいえほかの男の思い出話などしていいものやら……
「聞かせてほしいな。ねっ!」
「うーん。そうですねえ、私がシャンバラのために契約して欲しいって涼司さんのところに行ったときは、御神楽校長と関わることになるからやだとかわめいてましたよ。かなりトラウマがあるんでしょうね〜」
「そうなんだ」
「ヒャッハ〜。それより花音、あそこのお化け屋敷に行こうぜぇ。こんな連中放っておいてよう」
「自分の目が黒いうちは、花音さんを危険な目に合わせるわけには行きませんねえ」
 何かと隙を見ては花音を連れだそうとする鮪を、ヴィンセントが止める。
「……花華さんはともかく、姐さんは本来の目的を完全に忘れてやしませんかね。
 花華さんが迷子にならないよう気をつけつつ花音さんにも意識を配るってのはなかなかにしんどいですよ。
 という訳でお嬢、すいやせんが最低限の守り、警戒はご自身でお願いします。
 いざとなれば【要人警護】で体張るくらいは出来ますが、なるべくそうなる前に解決したいので。
 ……涼司さんの信頼を裏切るわけにもいかないでしょう?」
 ヴィンセントがそう言うとリカインはむーっと顔をしかめて、それから「わかった」と答えた。
「でもお化け屋敷は面白そうだな。フィスも見に行きたい」
「だめですよ。華花さんが暗所恐怖症なの忘れましたか?」
「ああー。そうだった」
 フィスはがっかりした様子で頭を垂れる。
「そんな事よりそろそろいいんじゃないかぁ。本来の目的に移行しても」
 鮪がそう言うと、花音が本来の目的って何ですか? と尋ねた。
「メガネとカノンのストーキングだよう。あいつらどうもおかしいからな」
「確かにそれはいいですね。じゃあ、行きましょうか。ちょっと涼司さんに電話をかけますね」

 Side―カノン―
「お姉ちゃんじゃないの?」
 その少年は九段 沙酉(くだん・さとり)。銀色の髪を後ろで束ね、青い瞳を持ち小柄で真面目そうである。
「誰よあんた?」
 しかしカノンは警戒心をむき出しにして少年にナタを向けている。
 イルマもライトブレードを構えている。
「お姉ちゃんに用事がるんだ。あっちでさわぎがおこっているよ」
 急に平坦な口調になる。
「こっち、こっち」
 沙酉はカノンの手を引っ張ってかけ出す。
「まて!」
 レオが追う。
「待つのじゃ!」
 イスカが追う。
「待ちなさい!」
 ベアトリーチェが追う。
「待て、カノン!」
 千歳が追いかける。
「待ちなさい!」
 イルマが追いかける。
 だが沙酉は資材をサイコキネシスで崩すと通路を塞ぐ。
「美羽さん、大変です。カノンさんが何者かに連れ去られました」
 ベアトリーチェが無線機で通信を入れる。それは涼司にも聞こえる。
「何だって!? すぐに確保しろ!」
「はい! アルバトロスで空から確保します」
 ベアトリーチェはそう言うと小型飛空艇アルバトロスに乗って宙に浮いた。
「千歳さん、イルマさん、イスカさん、乗ってください」
「わかった。しかしカノンを狙うとはなんと大胆不敵な」
「レオ君は自分の飛空艇でね」
「了解です」
 ベアトリーチェの言葉にレオが頷く。
 そして宙に浮かんだ一行は上空から不審な少年を追い詰める。
 と、カノンに物陰から襲撃があった。
 <ドラゴンアーツ>が襲う。
「ギャン……」
 吹っ飛んで倒れるカノン。
「カノン先輩!」
(同じのをあと3発食らったらやばいわね)
 カノンはそう冷静に分析しながら、「あなたはだぁれ?」と尋ねる。
 その男はボサボサの黒髪と黒い瞳を持ち巨漢で目つきが悪い。
「わしは三道 六黒(みどう・むくろ)我は常に敵を探している。力を持ち、ただ戦を求める強者だ。我と同じ狂人であれば更に望ましい。おぬしはその素質がある」
「私が狂人? 冗談じゃないわぁ」
「カノンさん、伏せて!」
 それはアルバトロスからの射撃だった。六黒を銃弾が襲う。
「ぬう……」
 銃弾を浴びて血を流す六黒。
 レオの小型飛空艇からも銃弾が飛ぶ。
 致命傷には至らないがあと二回攻撃を受ければ死に至るだろう。
「くらえぇ」
 六黒が<吸精幻夜>を放つ。<吸精幻夜>が放った幻の中でカノンが見たものとは……
 目の前に昔の涼司の顔。急ブレーキの音。衝撃。意識を失う自分を空から見下ろしている。
「いや、いや。いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 取り乱すカノン。それは、カノンが一番見たくなかったもの。
「貴様、カノン先輩に何をした!?」
 レオが飛び降りて詰問する。
「なに、幻を見せたまでよ……」
「許さない……指弾絶招・重縁!」
 レオの指弾が飛ぶ。六黒の肩に命中し骨を砕く。
「くっ……今回は挨拶程度だ。さらばだ!」
 光術で目くらましをしてベルフラマントで姿を隠す。
 少年もいつの間にか消えていた。
「ああああああああああっあああああああああががががあが」
 カノンは悶えていた。
「ベアトリーチェさん、アルバトロスでカノン先輩を!」
 レオはカノンの様子を見ながら心配する。
 だが心配するだけで何もできない自分にいらついていた。
 やがてベアトリーチェにカノンは運ばれてゆき、涼司も救護所にたどり着く。
 カノンは大人四人がかりで全身を抑えられ、肩に何かの注射を刺されていた。
 それからしばらくするとカノンは先程までの暴れ方が嘘のようにスヤスヤと眠り始める。
「カノンに何があった……」
 涼司は鬼気迫る表情で尋ねる。
「<吸精幻夜>の幻の影響と思われます。精神的に不安定になっていましたので、精神安定剤を注射しました」
 医官がそう説明する。
「よう山葉……」
 そう言って涼司の元を訪れたのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)。黒いショートカットの髪と茶色の瞳を持ち目つきが優しく顔立ちが端正だ。
「なんだよ」
「強化人間って知ってるか? 地球人をパラミタに無理矢理適応させた種族が居るんだ。強化人間は地球人と契約できるようになるが弊害として精神が不安定になる。なあ、山葉。設楽と契約しろ。それがの娘を救える唯一の道だ。壊れ物を扱うように接して注意を払う事が本当に相手を見ていることになるのか? もっと接近しろ。自分から。だろう、山葉?」
「……うっせー」
 力のない言葉だった。
「コリマ校長が校長室に戻ったようだ。こい、山葉」
「……いやだ」
愚図愚図言ってるんじゃねえ。あの娘を救えるのはお前だけなんだよ。コリマ校長に許可取って来いよ。そうすればお前ももう苦しまなくて済む」
「…………」
 沈黙。

 そして校長室――
(わかった。その件に関しては検討しておこう。御神楽環菜校長と話しておく。蒼空学園への転校も含めて考える。約束しよう)
「わかりました。ありがとうございます」
(辛かろう。だが、その辛さを乗り越えた先に未来がある。心せよ)
「はい」
 そして、演習が終わりを迎えようとしていた。