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天御柱開放祭

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05:祭りだワッショイ其ノ壱 祭りの裏で2
「まて、ヤマバ。私も一緒に行くぞ!」
 朝倉 千歳が慌ててそう名乗りでて追いかけてきた。
「他校の警備にボランティアで参加するなんてなかなかじゃないか。そういう訳で、私も及ばずながら警備に協力させてもらおうと思う」
 ロングの黒髪と黒い瞳を持ち、顔立ちが端正で厳しそうな千歳は、前回の涼司の取り乱した姿が目に焼きついて離れないでいた。
「ヤマバ、明らかに知り合いのはずなのに、ただの同姓同名とか言ってみたり、見ていて痛々しいぞ……」
 千歳かこっそりと耳打ちする
「仕方が無いだろ。じゃないとカノンが混乱する。カノンの記憶の中の俺と今の俺とは違うんだ」
「どう違うというのだ?」
「あとで話す。今はついてこい」
「わかった。そうしよう……」
 千歳は納得できないながらもそう答えるとパートナーのイルマ・レスト(いるま・れすと)とともに歩き出す。
「おかしいですわね。解放祭の見物に来たはずが、どうして学園の警備になってしまうのですか? こんなことならデビットの誘いなんて受けるんじゃありませんでしたわ」
 薄茶色のセミロングの髪と青色の瞳を持ち大人びていて知的な印象を受けるイルマがそうぼやいた。
「イルマ、警備しながら買食いすればいいではないか。どちらにしろデビットは空の上だ」
「それもそうですわね。全く、あのお馬鹿。しかし、元凶はあのメガネですわ。カノンという娘にも正直係わり合いになりたくはありません。何か危険な感じがしますもの」
 イルマは小声で千歳にそう言う。
「涼司くん、待って」
 その声に振り向いてみれば浴衣姿の火村 加夜(ひむら・かや)がいた。
 加夜は青い瞳を持ち、青い髪をアップにしている真面目そうな美少女である。
「おう、加夜か」
 涼司は彼女の存在を認めると足を止めた。
「わたし、涼司くんとカノンさんを見てると心が痛くなる……」
「おまえもか……」
 涼司はややうんざりした様子である。だが加夜がそっと涼司の手を握ってくるとどぎまきとしだした。
「ねえ、涼司くんカノンさんとのお祭りの思い出とかないの?」
 そう尋ねられて涼司は考えこむ。
「ん〜 小学校の頃、風船釣りで水風船を釣ったっけ。それをやったらカノン喜んでたなぁ……」
「じゃあ、同じものプレゼントしてみたら? 涼司くん、あんまり無理しちゃダメですよ。前に守れなかったのを後悔するより、今が大事なんですよ」
「そうだな……」
 涼司は考えこむと、水風船の出店で水風船を二個買って一個をカノンに渡す。
「……ありがとう」
 カノンは微妙に考えこんでから礼を言うと、水風船で遊びはじめた。
「小学校の頃『涼司くん』からお祭りでもらったんだろ?」
「……? なんで知っているの」
「なんでだろうな……」
 涼司はそうごまかした。
「そうそう、涼司くん。バンダースナッチの時のお礼がまだだったね。ありがとう。好きです」
 加夜はそう言うと涼司のほっぺたにキスをした。人に見えないようにこっそりと。
「なっ……」
 涼司は動揺する。
「行きましょう、涼司くん」
 加夜は涼司の腕をとると引っ張っていった。
「……」
 それを見てカノンはなぜか不愉快な気持ちになっていた。

 天御柱学院生徒の榛原 勇(はいばら・ゆう)は特別な手続きをすることもなく警備に回った。
 学院の生徒であることがはっきりしているので身分検査の必要がないのである。
 彼はショートカットの銀髪と黒い瞳を持ちはかなげで弱そうな少年である。しかし校長護衛任務で実戦証明済み(コンバットプロープン)なので警備を頼む方としても安心していた。
「それにしても本当にたくさんの人が来てますねー。これだとスパイがいても気付くのが難しそうです」
 勇は<セキュリティ>を使って警備上問題のあるポイントを看破するとそこに人を呼んで警備をさせる。
「このポイントからは、あっちとそこが死角になりますから、そのポイントにも人をおいてください」
 そう指示する勇にまとわりついてくる子がいる。
「ねーねーお兄ちゃん、聞いて! 美奈ね、お兄ちゃんがだーいすきだから一緒に警備をするの! あたし、えらいでしょ! すごいでしょ!ねーねーねぇー!! (私、お祭りに行きたかったけど我慢したのよ、「いい子」でしょう?)」
 それは乳白金の髪をセミロングにまとめた黒い瞳のかわいくて髪がキレイな少女榛原 美奈(はいばら・みな)だった。
(うん。いい子だよ美奈。だからもっといい子にしてようね。あっちに怪しい人いないか見に行っておいで)
(はーい)
 美奈が走り去って行くと勇は警備担当の生徒に「すみません」とあやまった。
「いえ、かわいい妹さんですね」
「ありがとうございます」
 しかし警備の生徒は気にした様子はなく美奈を褒める。
「それに、いい子です。お兄ちゃん子みたいですね。大切にしてあげてください」
「……はい」
 勇は謝礼金目当てでパラミタ化手術の話に乗ったものの、自分の弱さの所為で結果的に妹を身代わりにしてしまった事を酷く悔いており、その言葉は重い石となって優にのしかかった
「ユウ、ちょっと高い所まで上って様子を見てこようかね、上から見れば気付くこともあるだろうしさ。何か見つけたらユウに「ケイタイデンワ」とかいう物で連絡するよ。おっと、「無線機」があったんだったな。ネズミの姿では使いにくいが、まあ我慢しよう」
 そう言ったのは二足歩行するネズミといったかんじの獣人フエン・ワトア(ふえん・わとあ)だ。
「頼むよフエンさん。それと、美奈も一緒に連れていってください。迷子になるといけない」
「わかったよ。ミナのことは任せたまえ」
「助かります」
 フエンはフンフン頷くと美奈を探しに行った。
「ミナ、ミナ、高いところに行こう。そうすればお祭りがよく見えるぞ」
「ホント? いくいく。フエン、連れてって」
 そうして二人は高所から見張りをすることになった。美奈はときどきイコンの戦闘を見上げては歓声をあげていた。

「さぁっ!天御柱学院 海洋生物学研究会名物、シャチの浜焼きだよっ! 取れたて素材をふんだんに使った海鮮焼きそばが味わえるのは今日だけだ! これを逃すと損するよっ!」
 乳白金の髪をボサボサにした青い瞳の巨漢のバイキングの英霊ラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)は、 銀色のショートヘアと金色の瞳を持ち、毛並みが良くてかわいい少女リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)といっしょに海老・イカ・ホタテなど海鮮たっぷりの塩焼きそばを黙々と手際よく焼きながらパック詰めしお客の呼び込みをしていた。
「涼司、あれ美味しそうだよ」
 美羽がそう言って涼司を元気づけようと焼きそばを買ってくる。
「お、お一つ、300Gになりまぁすっ! ありがとぅございましたぁ!」
「あいよ、まいどありぃ」
 この出店では展示用にイーグリットがおいてあり、それも客を引き寄せる要素になっていた。
 そのイーグリッドの中ではエルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)が空調も使わずに待機していた。
 パイロットスーツは半脱ぎにして袖部分を腰で縛り、タンクトップ一枚で汗だくになりながら耐え忍び、またコクピット内にスポーツ飲料を入れたクーラーボックスを持ち込み熱感応冷却ジェルシートを額に貼り暑さを凌いでいた。
 そのイーグリットは海上迷彩塗装を施されており、シャチの部隊エンブレムが描かれていた。
 エルフリーデがそこまでして何を待っているかといえば、鏖殺寺院のスパイの出没である。いざとなったらイーグリットを使ってスパイを追い込もうという構えなのだ。
「ふー、あつい。でもこれも任務。我慢しなきゃ」
 エルフリーデはひとりコクピット内でそうつぶやいていた。

「此処が、新設校ですか? さすが、人ごみ、すごいですねえ」
 そうつぶやいたのは神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい) だった。彼は天御柱学園に通う双子の弟と瓜二つの容姿を持ち、金髪を後ろで束ね緑の瞳を持ち、美形で優しそううな男性である。ちなみに黒のジャケットと黒のジーンズという装いだ。
 そこにピンクのノースリーブのワンピースを着た黒髪ツインテールで髪の綺麗な美少女が割って入る。
「あれ、何? 戦闘機で、航空ショー? すごい、大きい〜」
 目をキラキラさせながら見入っているのは黒髪ツインテールで緑色の瞳の髪がキレイな美少女榊 花梨(さかき・かりん)だった。
「花梨、迷子にならないようにね」
「はいーい」
 しかし釈迦に説法というか馬に念仏というか彼女が聞き入れる様子はなかった。
 白の半袖シャツと紺のジーンズので、金色の髪を一本横で束ね赤い瞳を持ち、美形なレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)
「さすが、祭りだけあるな? これは、はぐれたら大変そうだぞ」
 とつぶやくが、花梨には無意味なようである。
「へえ、あれが、人型ロボットか? 量産して実装だと完璧戦争じゃないか? 対立したら」
 レイスはボソリとつぶやく。
 やがて三人は翡翠の弟である神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)に接触するとあいさつを始めた。
「お疲れ様です。これ皆さんで、どうぞ」
 と手作りの冷えたプリンをクーラーボックスから取り出す。
「ありがとう兄さん」
 紫翠がそう答えて花梨を見咎めて尋ねる。
「この子知り合いですか?……こんな偶然もあるんですか」
 それは死に別れた妹と似ていたからだった。
「自分のパートナーですよ。理由は紫翠さんも想像するとおりだと思いますが」
「そうですか…‥」
 紫翠は深く考えることなく頷いた。
「本当に……久し振りです……あれから……何年になるんでしょうか?」
 紫翠がレイスに尋ねる。
「本当に……何年ぶりだろう」
 翡翠とレイスが契約した頃からのことを知っている紫翠に取っては心中穏やかではなかった。
「まあ……時が過ぎるのは早いということですかね」
 紫翠がそう言うとレイスは同意した。
「さすが祭りのせいで、警備人数足りるか? ほとんど、演習に行っているから、手が足りなくないか? これ」
 紫翠のパートナーで黒髪を一本三編にした青い瞳の美形で知的な吸血鬼シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)がそう尋ねる。
「なんとか、西シャンバラの生徒の警備のおかげで足りているようです。それよりも兄さん、東シャンバラの貴方が来たことには何か意味があるんでしょう?」
「そうですね。イコンです。まだ数少ないようですが、軍隊のような感じがします。対立したら、苦労しそうですねえ」
「結局それですか。西シャンバラは東シャンバラを認めることはできません。エリュシオンの傀儡なのですからね」
「それを言うなら東シャンバラは米帝と日帝の傀儡だろう? どっちもどっちさ」
「おふたりとも、兄弟喧嘩はそこまでにしてください。この暑さで熱中症の患者が多数出ているようです」
 それは橘 瑠架(たちばな・るか)のことばで、セミロングの黒髪と赤い瞳を持ち、手が綺麗でかっこよく、一見男性に見える強化人間の女性である。珍しく女子制服姿で足元がスースーすると言って恥ずかしそうである。
「氷と水を大量に持っていく必要があるわね」
 と瑠架は飲料水売り場の店やかき氷売り場の店から氷を強奪すると救護所へとかけ出した。
 そして下着が見えそうになりながらも大胆に進む瑠架に従って翡翠、紫翠とそのパートナーが救護所へ駆け込むと熱中症で倒れた患者が大勢いた。
 瑠架は氷を提供すると即座に手当に入る。氷をビニール袋に入れて氷嚢にし患者の頭に載せる。
「助かりました、神楽坂さん」
 看護の生徒はそう言うと翡翠と紫翠に礼を言う。
「いや、それは」
「瑠架の仕事だよ」
 と謙遜(?)する。
 ひとつには氷の強奪を自分の仕業にされたくないせいもあるのだが、的確な判断を下した瑠架に対する賞賛も含まれていた。
「皆も熱中症には注意しろよ? 自分では思わなくとも水分が奪われているもんだ」
 シェイドがそう言うと他のメンバーは救護班からイオン分補給飲料をもらって口にしていた。
「あ、オレにもよこせ」
 シェイドがそう言うと周りでは笑いが起きたが、彼にもイオン分補給飲料は回ってきたのであった。
 祭りの裏側はこうして進んでいった。今度からは表側にもスポットを浴びせてみよう。
 尤も、そのスポットの熱で熱中症にならねばいいのだが……