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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「のどかですぅ〜」
 てくてくと三人でイルミンスールの森の中を歩きながら、メイベル・ポーターはつぶやいた。
「あまりのんびりしすぎてもいけませんが、その噂の人たちはこちらの方にいるのでしょうね」
 新調した野球のバットをごりごりと引きずって道に跡を残しながらフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が言った。
「私たちより強い人たちだといいよね。七不思議にまでされる人たちだもの、凄いんだろうなあ」
 ピクニック気分で、サンドイッチの入ったバスケットを腕に提げ持ちながらセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は楽しそうだ。
 イルミンスール魔法学校の図書室で新たに目にした七不思議の本に載っていた不思議が、つい最近イルミンスールの森に現れたという。これはぜひ会ってみなくてはならないと、メイベル・ポーターたちはわざわざ野球のバットを新調してまで、ここへとやってきたのだった。
 彼女たちの進む後には、三本の跡がスーッとのびている。
「ふふふ、撲殺天使様たちは順調のようですね。早く真犯人が現れないでしょうか。それとも、第一の被害者でしょうか。はー、どきどきする。どちらにしても楽しみです」(V)
 空飛ぶ箒で木立の間を縫うようにして飛びながら、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が、カメラのファインダー越しに密かにメイベル・ポーターたちの姿を捉えつつ言った。動きやすいように、六輪ピックのユニフォームを着ている。
 真実はどこにあるのか。いずれにしても、面白いことに変わりはないはず。だったら、それを記録して公開しなければもったいない。そう考えた浅葱翡翠だったが、さすがに被害者にはなりたくないので充分な距離をとって飛んでいた。
「あ、少し離れすぎましたね。もう少し前に……」
 カメラをのぞいたままスピードをあげようとした浅葱翡翠は、そのまま前方不注意で木の枝のような物にぶつかってしまった。
 ごすっ!!
「いたっ。ひどいですー。ばたんきゅー……」(V)
 そのままのけぞるようにして気を失い、ひゅーと墜落していく。
「いたあーい。今、何かぶつかってきましたー」
 木に突き刺さって休んでいたランちゃんが、悲鳴をあげた。
「そんな所で休んでいるからだよ。早く行こう」
「そうですね、急ぎましょう」
「はーい」
 コンちゃんとメイちゃんにうながされて、ランちゃんは一緒に木の上を飛び渡りながら進んでいった。
 一方、墜落した浅葱翡翠は、空飛ぶ箒の勢いもあってメイベル・ポーターたちの後ろにいきなりぼとりと落ちて大の字にのびていた。
「あらら、大変ですぅ」
 気づいたメイベル・ポーターたちが、足を止めて戻ってくる。
「ふっ。ついに正体を現しましたね」
 木立の陰から、トレンチコートの立てた襟が垣間見え、ちょっとくぐもった声が言った。
「まあ、あなたが七不思議様ですか?」
 のほほんと、フィリッパ・アヴェーヌが訊ねた。
「しっけいな。それはあなたたちではありませんか!」
 逆に犯人呼ばわりされたいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)が、怒って木の陰から飛び出してきた。
「イルミンスールの平和はだごーん様秘密教団が守りましょう! メイベルさんたちが犯人だということは、ダンゴムシでも推理できます。ほら、現にそこに被害者が」
「まだ、叩いてなんかないんだもん」
 セシリア・ライトが、野球のバットの先で浅葱翡翠をつつきながら言った。
「言い逃れはできません。最近起きた連続殴打事件。その犯人があなたたちであるという証拠もちゃんとあるのです。これを見なさい!」
 そう言うと、いんすますぽに夫がトレンチコートの前を開いて見せた。コートの中から噴き出すようにして、プリントアウトされた写真が紙吹雪のように宙に舞う。そこには、蒼空学園の廊下を血に塗れたバットを持って歩くメイベル・ポーターたちと、怯えるように身を隠す生徒たちの姿が映っていた。
「まあ、写真を撮られていると分かっていましたら、もう少しちゃんと髪をセットしておきましたものを……」
「問題はそこではありません!」
 フィリッパ・アヴェーヌの言葉に、いんすますぽに夫が叫んだ。
「問題は、なぜ、殺戮の場を蒼空学園からイルミンスール魔法学校に移したかです。その動機が今まで謎でした。けれど、今、すべての謎は解けました。そこに倒れている被害者を見てください」
 いんすますぽに夫に言われてメイベル・ポーターたちは浅葱翡翠を見下ろしたが、何か変わったことがあるわけではない。
「さあ、ついに物語が動きました。『波羅蜜多バラエティ、不思議発見』今夜は、『七不思議。恐怖、撲殺する森』をお送りしています」
 どこからわいて出たのか、マイクを持ったガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が大声で叫んだ。カメラを持ったシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が、ガートルード・ハーレックをなめるようにして、いんすますぽに夫にレンズをむける。
「こほん。で、では、推理を御披露しましょう」
 ちょっと緊張して、カメラを意識しながらいんすますぽに夫がしゃべり始めた。
「あなた方は、蒼空学園で騒がしい子供たちを静かにさせるという大義名分の下に、大量撲殺事件を起こしました」
「いいえ、元気のいい子供たちと野球のバットでちょっと遊んであげただけですぅ」
 いんすますぽに夫の言葉に、メイベル・ポーターが素で不思議そうに小首をかしげた。
「嘘を言っても困ります。先ほどの写真が動かぬ証拠です。ああ、なんというなまはげ状態でありましょう」
「本当だ。さすがはとろける半熟の脳細胞のぽに夫さんだ」
 七那 夏菜(ななな・なな)が、落ちていた写真を拾いあげて言った。いつの間にか、騒ぎを聞きつけた者たちが集まり始めて、いんすますぽに夫とメイベル・ポーターたちの周りには、結構なギャラリーができあがっていた。
「うーん、さすがに写真という物的証拠がある以上、なかなか言い逃れはできないですね」
 フォン・アーカム(ふぉん・あーかむ)が、じっくりと写真を確かめながら言った。いちおう記録に残しておこうと、メイベル・ポーターたちをバックにして、証拠写真と共に比較映像をカメラで写しておく。
「そして、それに目をつけたのが、にっくき御神楽 環菜(みかぐら・かんな)です。あなたたちの力に目をつけたあのデコ女は、近づいてきた六輪ピックでの西シャンバラの勝利のために、東シャンバラの主力であるイルミンスール魔法学校の選手に怪我を負わせて弱体化するために、あなたたちを送り込んだに違いありません。イコンプラモの版権を汚い手で独占したあのデコ女のやりそうな手であります」
 ぎりぎりと歯がみしながら、いんすますぽに夫が言った。
「さすが、ぽに夫さんです。あ、あの、もしかすると、理由があるのかもしれないですけど……。で、でも、そういうことするのは、いけないことだと思います……。ああっ、いじめないで……」(V)
 いんすますぽに夫の推理に感服した七那夏菜が、メイベル・ポーターたちに恐る恐る言った。
「いやいや、なんかおかしいだろ。なんでいきなり六輪ピックに話が飛ぶんだよ」
 盲信するにはいんすますぽに夫の推理は大穴だらけじゃないかと、七那 禰子(ななな・ねね)が冷静に突っ込んだ。だいたいにして、イコンプラモデルのくだりからして、思いっきり私怨くさいではないか。
「よろしい、証拠をお見せしましょう。そこの被害者を御覧ください。何を着ていますか?」
「六輪ピックのユニフォームだけど、それが何か?」
 いんすますぽに夫に言われて、七那禰子が答えた。
「それこそが動かぬ証拠。この被害者は、六輪ピックのトップ選手に違いありません」
 自信満々で、いんすますぽに夫が言った。もちろん、ここに浅葱翡翠が倒れているのは偶然の産物であるから、当然裏づけなどはとってはいない。