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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「やっとおっぱい党の党員も二十六名を超えたか。ありがたいことだが、まだまだだな。負けるわけにはいかない!
 目指せ党員一千人。頑張ってもっと党員を勧誘しないと」(V)
 のんびりとイルミンスールの森の中を世界樹にむかって散歩しながら如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、次なる党員勧誘方法を模索していた。
「さあ、お前の胸のサイズを数えるんだもん」
 突然、木の陰から謎の声がした。
「えっ、なんのことだい。俺は男だよ。でも、そうだなあ、ちっぱいもいいけれど、できればたっゆんの方がいろいろと……」
「天誅!!」
 のほほんと答える如月正悟に、ハリセンを持った小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が躍りかかった。
 パシン、パシン、パシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシ!!
「なぜこんな所で撲殺天使が……犯人はちっぱいの……」(V)
 バシッ! バシッ! バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!!
 ちっぱいは、今の小鳥遊美羽にとって禁句である。この間のサプリメント騒ぎでは、自分がたっゆんになれると思っていたのに、あろうことか男にたっゆんを見せつけられて完全に逆上してしまったのだ。今や、たっゆんはちっぱいである彼女にとって殲滅すべき敵であった。そのため、この撲殺事件を隠れ蓑にして、たっゆんな女たちを襲おうと思ったのだが、なぜ最初の獲物が男なのだろうか。
「ふっ、悪は滅びたんだもん」
 鼻息も荒く言うと、小鳥遊美羽はその場を立ち去ろうとした。
「おい、何かあったのか!?」
 物音を聞きつけて、誰かが駆けつけてくる。小鳥遊美羽は急いで姿を隠した。
「どうした、大丈夫か」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は如月正悟の身体をゆさぶってみたが、気を失っていてまったく反応がない。
「やはり、噂の撲殺魔の仕業か。それにしてもむごい。愉快犯と聞いていたんだが、恨みをもった者の犯行か」
 母校で起こっている事件なら放ってはおけないと調査を進めていた本郷涼介であったが、最初に見つけた被害者というか、事件の手がかりがこれであった。
「凶器はと……。おかしいな、撲殺というのは間違いなさそうだが、鈍器で殴られたような外傷は見つからないな。どちらかというと、強烈な往復ビンタを食らって脳震盪を起こしたように見えるが。こんなことなら、治療のできる準備をしてくるんだった」
 ちょっと困ったように、本郷涼介は考え込んだ。治療ができないからといって、このまま被害者をここに放置しておくわけにもいかない。
「誰かを呼んでくるか、世界樹まで運んでいくか……。しかたない、いつも通り決めるとするか」
 そう言うと、本郷涼介は取り出したサイコロを振ろうとしたのだが……。
「おや、なんだ、こんな所に文字が」
 本郷涼介は、如月正悟が気を失う前に書き残したのだろう文字を地面に見つけて、それに顔を近づけた。
「犯人はちっ……ちっ? ちーちーぱっぱ? いや……」
 指で土をなぞった判別しにくい文字に、本郷涼介は頭を悩ませた。
「ちっぱ……、そうか、ちっぱいか! 犯人はちっぱい! ちっぱいだあ!!」
「ううっ……」
 嬉しそうに叫ぶ本郷涼介の声が、徐々に小鳥遊美羽のイライラを高めていった。ついに、それが頂点に達する。
「天誅!!」
 バシッ! バシッ! バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!!
「はあはあはあ……」
 ふと、小鳥遊美羽が地面を見ると 、本郷涼介のダイイングメッセージが。
 ――犯人はちっぱい。
 げしげしげし……。
 小鳥遊美羽はあわててそれを踏み消した。
 
    ★    ★    ★
 
「はっはっはっはっははー。名探偵クロセル・ラインツァート、招来!」
 切り株の上からひょいと飛び降りると、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、一人森の中を歩きだした。
「姿を消したとしても、音までは隠せません。必ず、この俺が撲殺魔の正体を暴いてさしあげます」
 超感覚を使ってピクピクと耳を動かし、周囲の音に注意する。
「いたいた、一人で現場近くを歩く絶好の囮が。よし、しっかりとカメラで七不思議の記録を撮りますよ」
 大胆というかのほほんと森の中を一人歩くクロセル・ラインツァートを見つけて、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がその後をつけていった。
 撲殺魔の正体がはっきりしないのは、その姿を目で見た人間が少ないということだ。それは、被害者がいつも少人数であることに起因している。複数の人間がいれば、誰かがやられても、その現場を目撃しているはずだった。それができないのは、一人ないし二人の被害者が、ほぼ同時に倒されているからだ。
 逆に考えれば、一人でのこのこ森を歩いている者ほど、犯人に狙われやすいと言えた。
 その意味で、クロセル・ラインツァートはザカコ・グーメルにとっては格好の囮であった。撲殺される彼には悪いが、すべての出来事をカメラに収めるには都合がいい。その上で、肝心なところはぼかした物を公表するのだ。真実を知るのは自分一人だけでいいとザカコ・グーメルは考えていた。七不思議は七不思議のままがいい。自分の知識欲さえ満足できれば、それでいいのだ。そのせいで、他の人のロマンまで奪ってしまっては無粋というものである。
 そのころ、不動 煙(ふどう・けむい)不動 冥利(ふどう・みょうり)のコンビも、事件の犯人を探して森をさ迷っていた。
「何も出てこないねえ。せっかく悪い奴らを退治しちゃおうと思ってたのにぃ」
 拍子抜けした不動冥利が、ちょっと八極拳のポーズをとって、いない敵を挑発してみせた。
「危ないよ、冥利ちゃん。本当に撲殺魔が出てきたらどうするのぉ?」
 猫模様の狐の着ぐるみを着た不動煙が、心配そうに不動冥利を諫めた。
「大丈夫だよ。八極拳は強いから、怪しい奴がいたら、ぱぱぱーっとやっつけちゃうんだもん」
「無茶しちゃだめだよ。変なのがいたら、煙にぃに任せてね」
「大丈夫だってえ。怪しいのはすぐに撲殺しちゃうんだからあ」
 ヒュンヒュンとヌンチャクを振り回して、不動冥利が答えた。
 やれやれと、不動煙が溜め息をつく。
 少しして、そんな二組がばったりと森の中で出くわしてしまった。
「なんでしょう、奇妙な生物が。きっと新種のゆる族かもしれませんね。あんなに本をかかえて……。おお、ぽんっ!」
 突然何かを思いついたように、クロセル・ラインツァートは手を叩いた。
「本の角は凄く痛いものです。あれで殴られたらたまりません。だとすれば、殴ると痛い物を持っている怪しい人物、まさに理想の犯人像ではありませんかあ。はっははははははは……」
 自身の推理に酔いしれて、クロセル・ラインツァートが高笑いをあげた。
「怪しい奴が出たよ。仮面で素顔を隠しているなんて、きっと犯罪者なんだもん」
 仮面姿のクロセル・ラインツァートを見た不動冥利がそう決めつけた。
「冥利ちゃんは下がって、不審者はすべて煙にぃが倒すから!」
 そう言うと、不動煙は、前触れもなくクロセル・ラインツァートに突っ込んでいった。
「なんですか、名乗りもしないでいきなり。温厚な俺でも、怒るときは怒りますよ。遠慮は無用、お返しです!」(V)
 さすがにクロセル・ラインツァートが反撃する。
「こいつ変質者のくせに結構強いぞ。冥利ちゃんは早く逃げて」
「やだよ。僕だって戦うもん」
 持っていた教科書でぺしぺしとクロセル・ラインツァートを叩きながら、不動煙が不動冥利にむかって叫んだ。
「ふっ、角に当たらなければ、教科書などどうということは……うぼぁ!」
 不動煙にだけ気をとられていたクロセル・ラインツァートが、ふいをつかれて不動冥利の遠当てを顔面に受けて思わずのけぞった。遠当ての勢いで、つけていた仮面が派手に吹っ飛ばされる。
「あっ、あぶねーとこでした。仮面がなければ即死していたところです」
 すかさず予備の仮面を顔につけて、素顔を晒すこともなくクロセル・ラインツァートが言った。
「ははははは、クロセル・ラインツァート、復活! 痛くも痒くもありません。この傷一つない仮面がその証しです」(V)
 言葉とは裏腹に、ちょっとよれっとしながらクロセル・ラインツァートが言った。その隙を突いて、不動煙が教科書の角で、クロセル・ラインツァートの頭をこっつんこする。
「いってー! もう怒りました。野生着ぐるみ生物だったとしても、もう容赦しません。これで幕引きとしましょう」(V)
 クロセル・ラインツァートが、槍を取り出して叫んだ。
「こ、これは……。謎の着ぐるみ生物と仮面の不審者の戦い……。どこをどうこじつければ、これが七不思議になるんですか……」
 低レベルなほのぼのとした戦いに、カメラを構えたままザカコ・グーメルが絶句した。
「犯人が現れたのはこちらでありますか!」
 ブッシュの中から匍匐前進で現れた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が、巨獣狩りライフルのスコープで周囲を確認しながら叫んだ。
「いや、どうやら子供の喧嘩のようじゃのう。はて、それとも、本当にどちらかが犯人なのかのう」
 大洞剛太郎とは違ってのほほんと茂みの横の小径を歩いてきながら、大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)が言った。
「超じいちゃん、姿が丸見えでは危険であります!」
 大洞剛太郎が、あわてて大洞藤右衛門に注意した。
「大丈夫じゃよ。それより、どちらが犯人じゃろう?」
「どちらも、ものすごく怪しい不審者ではありますが。おーい、あなたたち、喧嘩はやめるであります」
 しっかりと銃口をクロセル・ラインツァートたちにむけたまま、全身をパワードスーツにつつんだ大洞剛太郎が声をかけた。だが、戦いに夢中なクロセル・ラインツァートや不動煙たちは気がつかない。
「よろしい。ならば、制圧するまでであります。行きますよ、超じいちゃん!」
 すっくと立ちあがると、大洞剛太郎は大洞藤右衛門をうながした。
「えーっ。しばらく見ていてはいけんかのう」
 凄く嫌そうに大洞藤右衛門が言った。目の前で戦っているのだから、結果を見てからでも遅くはないし、その方が敵が少なくなって楽になるではないか。何よりも、よけいな危険を冒さないので安全でもある。なにも、馬鹿正直に戦わなくても、世の中には勝利する方法はいくらでもあると年の功が大洞藤右衛門にささやいていた。
「何を言っているでありますか。どちらかが犯人であれば、どちらかが被害者であります。被害者は助けなければいけないであります」
 血気盛んな大洞剛太郎は、そんな大洞藤右衛門の言葉を入れなかった。
「しかたないのう。では、とりあえず、ふんじばってから話を聞くとするかのう」
 軽く顔を見合わせると、二人はクロセル・ラインツァートたちの戦いに介入して混乱に拍車をかけていった。