イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー

リアクション公開中!

イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー
イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー

リアクション


第12章 散ってゆく生徒たち

 一方で、仮想空間内に突撃した生徒たちと、強化人間Pの機体との闘いは、佳境に入ろうとしていた。
 いくつもの機体が、Pの機体に接近戦を仕掛け、一撃必殺で撃墜を決めようという段階にまできていたのだ。
 だが、本当の地獄は、そこからだった。
 Pの機体は、ひとまわり大きなサイズをいかし、自らの巨体を武器に、接近戦でも有利にたちまわったのである。

「やっとここまできましたが! 玉砕覚悟で突っ込んでいかないと勝てない相手ですね。人海戦術でどんどんいきますか? 私は百合園生で、イコンに乗るのはこのシミュレーションに乗るのがはじめてなんですが、だからといって震えあがっていては負けが確定ですね。仕方ありません!」
 神楽坂有栖(かぐらざか・ありす)は、イーグリットにビームサーベルを構える動きをとらせる。
「特攻ですね。了解しましたわ。わたくしは、お嬢様にどこまでもついていきます!」
 ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)も叫ぶ。
「私は、勝ちます! 勝って、百合園に戻ります! 百合園は、私たち、みんなの帰る場所ですから! いきますよー!」
 ぐいーん
 有栖のイコンが、いまだに弾倉から煙をあげながらも手足を激しく振り回している、Pの機体に急接近する。
 有栖の操作で振るわれたビームサーベルが、敵機の肩を切り裂くかに思えた。
 だが。
 Pの機体は、肩にくいこんだビームサーベルを、片手でつかんで振り払ってしまった!
「死ネ! あの世の百合園に帰るがヨイ!」
 敵機が半身をひねって繰り出した鋼の拳が、有栖のイーグレットにぶち当たる。
「あ、ああああああああ!」
 有栖は悲鳴をあげる。
「お嬢様、しっかり! 墜落しますが、姿勢を制御して、衝撃を和らげないと!」
 ミルフィは、パニックに陥ったパートナーに代わって、煙を上げながら落下し始めたイコンの姿勢制御に努める。
「他の方々! 敵に休む間を与えず、突撃を! わたくしたちは大丈夫です! わたくしは、何があろうとお嬢様を死なせたりはしませんので!」
 ミルフィは、助けの手を差し伸べようかと迷っている味方に、必死の通信を送る。
 戦場では、墜落していく仲間を救出に動く余裕など、ないことが多い。
 矢継ぎ早の特攻をかけなければいけない場面では、なおさらだ。
 墜落した機体は、自己責任で衝撃を和らげ、帰還の可能性を高めるべきなのだ。

「トライブ! どこをみてるんだい? 通信を聞いただろ? 落ちた仲間を助けたいなら、迷わず特攻! 敵を撃墜してゲームリセットにした方が早いんだよ!」
 王城綾瀬(おうじょう・あやせ)が、有栖たちの機体が落ちていく様子をレーダーで観測して何やら考え込み始めたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)に檄を飛ばす。
「うん? ああ、わかってるぜ。短期決戦が一番だな。ただ、俺も、イコンに乗るのはこのシミュレーションがはじめてなんだ。でも、綾瀬、お前もはじめてのはずだが、この状況にかなり適応してるようだな」
「適応してるだなんて、聞こえがよすぎるんだよ! 何だか知らないけどさ、こいつに近づきだしてから、最高にイライラしてるんだ!」
 王城は、すさまじい怒鳴り声をあげ、Pの機体をまっすぐ睨みすえている。
「プレッシャーの影響だろうが、ちょっと過剰じゃないか? まあ、いいさ。俺たちゃ、一蓮托生! 綾瀬がその気なら……いくぜ!」
 トライブは、イーグリットをダッシュさせ、Pの機体に突っ込ませていく。
「ああ、ウザい! あたしの心に触れるな、干渉するな! ウザいんだよ紛い物ふぜいがぁぁぁ!!!」
 王城は半狂乱になってわめき散らしながら、攻撃操作を行う。
 距離を縮めながら、イーグリットが、ビームライフルを敵機に投げつける。
 宙に浮いたライフルは、王城のサイコキネシスによって操作され、敵機の真上で旋回しながら、ビームによる攻撃を乱射する。
 Pの機体がライフルの対応に追われた隙に、王城たちの機体はさらに、ビームサーベルを投げつける。
「ほーら、どこみてんだい? 銃弾を避けてたら、剣の舞いに切り裂かれるよ!」
 王城のサイコキネシスが、ビームサーベルを操って、その切っ先を敵機のコクピットに突き入れようとする。
「あたしの狂気が、殺意が、衝動が! あんたごときに御せるわけがないだろう! 殺す殺す殺す、ぶっ殺す! この不愉快な感覚を、殺意と狂気で塗り潰してやるわ!」
 王城は、文字通りの狂気に駆られて叫び続ける。
 だが、Pの機体はビームライフルを相手にするのをやめると、素早い動きで、宙を舞って襲いくるビームサーベルの柄を自らの掌中におさめてしまう。
 そのまま、巨大なコームラントは、腕を豪快にひと振りして、王城たちの機体を袈裟懸けに切り裂いていた。
「うわっ、やられたか!? とっさに身をひかせたが! おい、綾瀬!?」
 トライブは王城に呼びかける。
 だが、王城は、機体が墜落を始めてもなお、半狂乱の状態でわめき続けていた。
「殺す、殺す、絶対に殺す! あんたの生命が何だっていうんだ? 地獄の底であたしに楯突いたことを後悔しな! さあ、これで終わりだ!」
「綾瀬、しっかりしろ! 姿勢を制御するぜ。くそっ、さっきと同じ通信をみんなに送ってやる! 各機、俺たちに構うな! 特攻を続けろ!」
 Pの機体が、王城がなおも操作していたビームライフルも握り潰すのをみながら、トライブは通信を送り、墜落による最悪の衝撃を何とか回避しようとしていた。

「トライブさん! くそっ! みんな、超能力も使うんだ! 使えればだけど!」
 如月正悟(きさらぎ・しょうご)はイーグリットの操縦を行いながら、念をこめ、サイコキネシスでPの機体の動きを封じようとする。
 だが、如月の試みが通じるかどうかは、Pの超能力スキルと拮抗しうるかどうかにかかっていた。
「うまくいかないが! エミリア! 動きを止められないか、もう1度やってみる。それで、少しでも隙ができれば、そのときに撃つんだ!
 如月はパートナーに叫んだ。
「わかったわ。正悟、あなたの操縦に全て任せるわ。信じてる!」
 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)も、やや興奮した口調で応答する。
「イコンを使えるのは、天御柱学院の生徒だけではないはず! P、お前を倒さなきゃ、仲間は解放されないんだ!」
 如月は全力でサイコキネシスによる縛りを放ち、敵機の動きに隙が生じることを狙う。
 そして。
「ぎー! 確かに、どこの学校だろうと関係はナイ! みんなヤラレるんだからナ!」
 Pの叫びが如月に聞こえた、そのときに、わずかな隙が生じていたのだ。
 如月のサイコキネシスによるものだったかどうかは、わからない。
 だが、エミリアはそのチャンスを逃さなかった。
「全弾、発射!」
 火器管制を担当するエミリアの操作で、イーグリットのビームライフルによる攻撃が、次々にPの機体にうちこまれる。
「弾倉が空に! これより、突撃です!」
「よし、いくぞ!」
 如月の合図で、トライブは機体にダッシュをかけさせる。
 2人の連携は、見事なものだった。
「くらえ!」
 イーグリットのビームサーベルが振るわれる。
 同時に、Pも叫んでいた。
「たわけガ! よくできました、次はがんばりマショウ! でも次はアリマセン、
死ぬだけデース!」
 Pもまた、機体に思いきった前進をかけ、その巨体を如月たちの機体にぶつけて、サーベルでの攻撃も押しつぶそうとする。
 どごーん!
 すさまじい衝突音が戦場に鳴り響いた。
「うわー!」
 如月たちの機体が、サーベルごと腕を砕かれ、逆さまになって、ぐるぐると回転しながら、地上へと落下していく。

「うーん、さっきから、他学の生徒ばかりやられてるな。お嬢、そろそろ、天御柱学院の我らが勝負を決めてやろうぜ!」
 ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)がいう。
「えっ? ああ、うん。ブースト全開でいこうか。プレッシャーとか、まだ少し感じるし、不安だけど」
 水城綾(みずき・あや)の声には緊張がこもっている。
「そう、特攻だ。プレッシャーの影響があるなら、通信機をオフにしな! そして普段ためこんでることを叫べばいい。心配するな。耳栓をしてるから、思いきりぶちまければいい」
 ウォーレンの助言に、水城はうなずく。
「うん、やってみる。通信機をオフにして、と」
 水城は、ウォーレンとの通信が遮断されたことを確認し、深く息を吸い込んだ。
「あー、もう! いつもいつも、強引な闘い方するんだから! あれじゃ、玉砕フェチの神風オタクだよ! で、何で、整備科に頭下げるのがいつも私なんですかー!」
 まさに心の叫びであった。
 プレッシャーを吹っきった水城は、イーグリットの【ホワイト・ライトニング】にダッシュをかけさせる。
「おお、このスピード! いいぞ!」
 ウォーレンは、猛スピードの移動でコクピットの自分の身体がズタズタになりそうなのを必死でこらえながら、攻撃操作を行う。
 ウォーレンたちのイーグリットが、接近を仕掛けながらビームライフルでの攻撃を連続で行う。
「慣れているから、だから! 特攻で勝利をつかむのには、いちかばちかの博打の要素があるけど、それもわかってるし、慣れてる! だから!」
 敵機は、ビームライフルの攻撃を、巨大な腕を胸の前にかざして受け止め、耐えきろうとしている。
 そこで、ウォーレンたちは、相手の直近まできて、機体にわずかな上昇をかけたかと思うと、ビームサーベルで相手の頭部を切り裂こうとした。
「くらえええええ!」
 ウォーレンは叫ぶ。
「特攻のセオリーはマスターしているナ! だが!」
 Pは、巨大なコームラントの身を大きくひねらせ、ホワイト・ライトニングの攻撃をすんでのところでかわした。
「なに!?」
「オチロ!」
 Pの機体が巨大な手を伸ばし、勢い余って宙を舞うホワイト・ライトニングの足をつかんだかと思うと、地上に向かって思いきり放り投げていた。
「こうやって、撃墜されるのにも慣れている! そうだな、お嬢!」
 ウォーレンは叫んだ。
「だから、整備科に……って、これはシミュレーションだから大丈夫ですよね。うわー!」
 水城は、地上に激突する瞬間の機体制御に最後の神経を使い、後は、失神した。