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鏖殺寺院の砦

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02:出発準備〜そして出撃〜

 空母内。
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は山葉涼司のイコンに近づくと乗り込んで整備を始めた。
 正確には、整備という名の細工であるが。
(強化手術を生み出して人を壊した天御柱と蒼空、その校長が楽しそうにしているのが許せないわ、殺すわ! イコン整備は天御柱学院だけ出来て、その中で私ほど優秀(高レベル技術官僚)な技術者はいない。出撃後に思いついたからコリマ校長にも分からないわ)
 彼女は強化手術で姉の天貴 彩華(あまむち・あやか)が壊されたことが非常に許せなかった。
 そのため復讐の機会を狙っていたのだ。
 動力からビームサーベルへのエネルギー伝達系がビームの刃を数回出したら壊れるように【イコン整備】で細工する。
「汚い事実に目をそむけて笑ってる奴らに鉄槌を喰らわせるわ!」
「誰だ! そこで何をやっている!?」
 教官の声がする。
(バレた!?)
「死んでもらうですぅ〜」
 彩華が無邪気に叫びながらアウタナの戦輪を<サイコキネシス>で飛ばし教官の首をはねる。
「ぐあっ……」
 血を激しく吹き飛ばしながら倒れる教官。
「潮時ね……彩華、もどるわよ」
「はーい」
 二人は気配を隠しながら格納庫から離れると、事件の発覚を待ったのであった。
 そして事件が発覚したが、二人が犯人であることを示す証拠はどこにもなく、事件は迷宮入りとなった。

 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は歩兵部隊、機甲部隊、空母艦載機部隊の指揮官と打ち合わせを行っていた。
「通常兵器でイコンと対峙する事は犠牲とリスクが大きいとわ。こちらが敵イコンとやり合っている間に拠点攻略に全力を注いで欲しいの。この中東で、我々アメリカ人は血を流しすぎたわ――もう、戦友達の無言の帰国を見たくはないのよ」
(星条旗が再びこの中東に翻るのね――私は同じ米国人としてあなた達を無事家族の下へ還したい)
 そんな言葉に賛同の声が上がる。
「分かってくれたようで嬉しいわ。それと、砲撃支援用のチャンネルをいただけないかしら? 米軍の地上部隊からの砲撃支援要請にダイレクトで応じられるようにしておくつもり」
 その言葉に、コードが割り当てられる。
 そんなこんなをしていると戦場で相方となる富永 佐那(とみなが・さな)がやってくる。
「あら、佐那さん」
「ローザマリアさん、この服を着ていただきたいんですけども」
 と言って佐那が渡したのは徹夜でローザマリアのサイズにあわせたとある格闘ゲームのキャラクターの衣装。
 ローザマリアは顔に ? マークを浮かべながらも、更衣室でその服を着てみる。
「まあ、素晴らしいですわ」
 ブラダマンテ・アモーネ・クレルモン(ぶらだまんて・あもーねくれるもん)は笑いをかみ殺しながら賞賛の言葉を送る。
「ぷぷぷ。そなたにそこまで似合うとは驚きじゃ」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は笑いを隠さない。
「……お似合いです……」
 全身鎧を纏ったエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)も賛辞を送る。
「うっわー、よくお似合いですよ、ローザマリアさん」
 佐那も賞賛の言葉を送る。
「そ、そうかな……? 露出が多い気もするけど……」
「何言ってるんですか。こんなに抜群なスタイルをしているコスプレをするためだけに生れてきたような人が何を言ってるんですか」
「それはなにか違う気がするぞ? 佐那?」
「違いませんとも違いませんとも。素晴らしく良くお似合いですよ。いいですよねー、この胸。この足。はあう。たまりません」
 恍惚の表情の佐那に怯えるローザマリア。
「き、着替えていいかな? さすがにこの服で戦闘するのはちょっと……」
「もったいないですよー。そう思いますよね、みなさん?」
「そうですわね」
 佐那の言葉にブラダマンテが同意する。
「そうだぞ、ローザマリア」
 グロリアーナも同意する。
「同意です……」
 エシクも同意する。
「ちょと……みんな……」
 一人冷や汗をかくローザマリア。
 と、出撃のアラームが鳴る。
「じゃあ、それで出撃ということで」
 悪魔の一言を送る佐那。
「ううー」
 ローザマリアは仕方なくその上に上着をはおり出撃することになった。だが、そのせいで露出が多い足元が強調されることになるとは考えても見なかった。

「ついに他校生もイコンに乗るのかぁ。あたしたちの影が薄くなりそうね」
 葛葉 杏(くずのは・あん)がパートナーの橘 早苗(たちばな・さなえ)に愚痴る。
「薄くはならないと思いますよぅ。ようは誰よりも杏さんが目立てばいいんですよぅ」
 と、その時出撃のアラームが鳴った。
「それじゃ、行こうか?」
「はい」
 そして二人はかけ出した。

「教官、私が撃墜した人のタグはありますか?」
 オリガがそう尋ねる。
「……あるが、どうする気だ?」
「殺した人の名前も知らなければ、いつか殺したことも忘れてしまいそうで……それは余りにも残酷すぎて……ですから……」
「お前の気持ちも分からんでもない。タグはやろう。だが、戦場に立つということは殺す覚悟と殺される覚悟の両方を済ませているということだ。それができないまま戦場に立つのは、戦士への冒涜だぞ」
「……わかっています。ただ、こんな言葉があります。『わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た。見よ、虐げられる人の涙を。彼らを慰める者はない。見よ、虐げる者の手にある力を。彼らを慰める者はない』旧約聖書のコヘレトへの言葉です」
「ふむ……オト・バング・ラフター。これだな。パートナーがエル・バング・ラフター。兄と妹のようだ……」
「そうですか……」
 と、出撃のアラームが鳴った。
「出撃だぞ」
「わたくしは出撃しません。できません……」
「悩むがいい。だが、結果は同じだ」
「わたくしはそうは思いません……」
 教官の言葉に首を振る。
「ならば部屋で待機していろ。出撃するものの邪魔はするな」
「……はい……」
 オリガはそう言うと背を丸めて自室へと戻った。
 
 デッキ

「ブルー小隊、ブルーヘッド、設楽 カノン(したら・かのん)、出る!」
「グッドラック!」
 カタパルトからカノンのイーグリットが発進する。ビームサーベルの代わりにビームマチェットを装備したカラーリングも異なるイーグリットだ。
「ブルー小隊、ブルー1、山葉 涼司、出る!」
「グッドラック!」
 空色にペイントされたイーグリットが出撃する。
 そして朝野 未沙(あさの・みさ)がコールサインブルー2として出る。
「未那ちゃん、ポイントは指示したとおりね」
「りょーかいですぅ」
 未沙がパートナーの、朝野 未那(あさの・みな)に無線で指示を出す。すると輸送機に乗っていた未那が発進指示を出す。未那は輸送部隊のマスコット的な存在になっていた。
 イコン用の補給物資を満載した輸送機が出発し、目標と海岸線の中間に簡易補給陣地を設置した。
「ブルー小隊、ブルー3、平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)行きます!」
 レオが発進する。
 レオは【カノンの騎士】として戦場ではカノンのフォローをするつもりでいた。
「ブルー4、小鳥遊 美羽、出るよ!」
 美羽のイーグリットは金色に塗装されて肩には西シャンバラロイヤルガードのエンブレムが描かれていた。
 彼女もカノンの支援をするつもりでいた。
「ブルー5、山葉 聡出撃する!」
 聡はカミロ・ベックマンとの交戦経験もある熟練度の高い戦士だ。性格の軽さとは反対にその技量には高い信頼をおかれていた。
 他の母艦からもアルファ小隊、イプシロン小隊、ガンマ小隊、デルタ小隊、ベータ小隊その他所属なしの生徒が次々と発信していったが、ここでトラブルが起きた。カタパルトが破損し空母艦載機や他のイコンが出撃できなくなったのである。しかも全ての母艦で。
 これはスパイの仕業と考えられたが犯人を追っている余裕もなくデッキクルーは即座にカタパルトの修理を急いだのだった。
「こちらアルファ1の【バンシー】、玉風 やませ(たまかぜ・やませ)です。あと5分で敵拠点に……えっ? 敵イコンも接近。2分でエンゲージです」
 やませがそう言うと、戦場に緊張感が走った。
「アルファ2の【ヴァイスハイト】、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)、格闘戦を挑む。前に出る!」
 格闘武器を敵も装備していることが認められたが、運用にはこちらの方が慣れている。その上でコームラントには敵を近づけられない。そう考えての前進だった。
 最高速度で航行し接敵する。
「【ヴァイスハイト】、エンゲージ」
 真司はビームライフルで敵を牽制する。
 散開した敵からマシンガンの応射があるが性格な操縦でそれらを回避すると、バルカンで牽制しながら突っ込んでいった。
「あまり無茶はしないでください!」
 パートナーのヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が彼の無茶を責める。
「シュヴァルツ・フリーゲ1のシュメッターリング3の小隊が二個接近中。時差約一分じゃ」
 ノートPC型の魔道書アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)がヴェルリアの席の脇に設置されている。
「3個小隊はさすがにきついな。取り敢えず今のヤツらに少しでも痛手を……」
 真司は敵と互いにバルカンの撃ち合いをしながら衝撃に揺れるコックピットでビームサーベルを取り出そうとしていた。
「援護します!」
 そこにビームライフルが飛んできて敵の攻撃が一瞬止まる。
「助かったぜ、百合園のお姫様!」
 援護をしたのは神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)である。
「こちら【アリスドール】。エンゲージ」
「お嬢様、他の小隊との合流まで撤退することを提案します」
 ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)が有栖にそう提案する」
「でも、【ヴァイスハイト】を援護しないと」
「それもそうですわね」
「【アリスドール】よりアルファ各機へ。【ヴァイスハイト】を援護した後に他の小隊との合流を提案します」
「こちら【バンシー】同意。あと10秒……エンゲージ!」
 そして【バンシー】の攻撃担当の東風谷 白虎(こちや・びゃっこ)はビームライフルを撃つとコームラントの支援射撃を受けながら突撃して頭部バルカンによる牽制をし、ビームライフルで敵の振動剣を持つ手を切り落とす。
「いいか、絶対にバラバラになるんじゃねぇぞ? んでだ、1機1機確実に潰していくぞ!」
 白虎の言葉に各機は了解と答える。
「こちら【ポーラスター】の葛葉 杏このまま支援射撃を続けます!」
 杏は三機のシュメッターリングのうちの一機を狙い撃ちして蒸発させると、前進してからさらに有栖のフォローとしてコームラント用汎用機関銃を発射する。
 ビームが乱舞し敵の統率が乱れる。
 敵は新兵が多いのか練度は以前より高いと思えない。それとも自分たちが上達したのか……
「【ゲイ・ボルグ】の御剣 紫音(みつるぎ・しおん)だ。機関銃で支援する。撤退しろ!」
 紫音が弾幕を張って敵の統率をさらに乱す。
「あら、紫音ちゃん。頑張ってー」
 杏がそう言うと紫音が
「俺は男だ〜!」
 と叫ぶ。
「まあまあ紫音、落ち着きなはれ」
 パートナーの綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が紫音を諭す。
 弾幕の援護の隙に3機のイーグリットは離脱し反転して後退する。コームラントも反転して後退する。
 そして設楽 カノン率いるブルー小隊と合流した。これで11対11。数の上では互角となった。そしてコームラントの支援射撃を受けてイーグリットが前進する。